(8日、ホワイトハウスの前でトランプ氏の優勢が強まってきたことを喜ぶ支持者ら(Reuters)【11月9日 swissinfo.ch】
【“番狂わせ”というほどの驚きはないトランプ勝利】
注目されたアメリカ大統領選挙は周知のように世論調査などでは劣勢が予想されていたトランプ候補の勝利、それも選挙人獲得数ではかなりの差をつけての勝利でした。
****「隠れトランプ票」番狂わせ招く 世論調査に回答せず****
トランプ氏の大統領選勝利を、米国のメディアや政治専門サイトは予測できなかった。問題発言を繰り返すトランプ氏への支持を公言しにくいことや、大メディアへの不信感から、世論調査に回答しない「隠れトランプ票」の存在が「番狂わせ」を招いた。
ニューヨーク・タイムズ紙は10月下旬、民主党のクリントン氏の勝利確率を9割超とはじいていた。連邦捜査局(FBI)がクリントン氏の私用メール問題の捜査再開を公表した後も8割台としていた。
選挙予測に定評のあるサイト「ファイブ・サーティー・エイト」は、トランプ氏の勝率を最も高く見積もっていたものの、今月5日時点で、クリントン氏の勝率が約65%。トランプ氏の約35%を大きく上回ると予測していた。
メディアなどは世論調査をもとに勝敗を予測していた。しかし、選挙終盤に注目されたのは、「隠れトランプ票」の存在だった。
名前や年齢、職業を語って調査に応じる電話調査には、トランプ支持と言い出せない有権者が多かったとみられる。匿名によるウェブサイトを使った調査は、トランプ氏の支持率が高めに出ていた。米メディアによれば、そのギャップは3~9ポイントだったという。
トランプ氏は選挙戦最終盤に、クリントン氏が優勢と伝えられていたバージニアやウィスコンシン、ミシガンなどに現地入りした。「勝ち目のない州に、なぜトランプ氏がてこ入れを図るのか」などと疑問視する米メディアもあった。
しかし、常に集会には支持者が入りきらず、外まであふれかえっていた。
実際の選挙でも、ウィスコンシンでは勝利を収め、バージニアやミシガンでは大接戦になった。
トランプ陣営は「隠れトランプ票」の感触をつかみ、切り崩せると踏んでいたとみられる。
産業が寂れた地域「ラストベルト」の一つ、オハイオ州トランブル郡のランディ・ロー共和党委員長は「ここは鉄鋼業で、労働組合と民主党が強かった地域。元民主党支持のトランプ支持者が増えているが、周囲の目を気にして公言しない人もいる」と話した。【11月9日 朝日】
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選挙分析や今後のトランプ政権に関する期待・懸念などは、これから山ほどメディアにあふれることでしょうから、今日は個人的な感想だけ。
正直なところ残念です。
ただ、こうした“番狂わせ”になるのでは・・・という不安はありました。
ポリティカル・コレクトネスを無視した露骨なもの言いで、「既成政治への怒り」の感情に火をつけ逆転を狙うトランプ候補を支える、「隠れトランプ票」と言われるような根強い支持が存在することは、8月3日ブログ“アメリカ大統領選挙 白人低所得層の不満・不安を煽り逆転を狙うトランプ氏”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160803でも取り上げたところです。
【人々のネガティブな感情を掻き立てる政治手法】
トランプ氏の政策がどういうものになるのか、発言のたびに内容が変わりますので、よくわかりません。
少なくとも、外交的には「アメリカ第1主義」で“内向き”になりますので、アジアに軸足を移そうとしたオバマ政権とは異なるものになるでしょう。
日本など“同盟国”を“守ってやる”考えもさらさらないようですし、人権とか民主化といった価値観にも興味がなさそうですので、経済的に中国と“ウィン・ウィン”の関係が構築できれば、‟アジアは中国に任せる”といった感じにもなるのかも。
シリアやアフガニスタンはどうするのでしょうか?嫌いなイスラム教徒のためにアメリカが人的・資金的負担をするなどはとんでもない・・・という話になるのでしょうか。
TPPや温暖化対策も無視して、ひたすら「アメリカを再び偉大な国に」するべく励むのでしょうか。
国境に壁を築くのかどうかは知りませんが、マイノリティーや移民らへの配慮は弱まるのでしょう。
オバマケアはご破算にして、銃規制や中絶問題などでも保守的傾向を強めるのでしょうか。(彼自身はリベラルな考えを持っていると共和党保守派からは警戒されていましたが、あまり定見はない人ですので、与党・共和党の意向に沿う流れになるのでしょう)
そうした政策的なものはアメリカ国民の選択ですので、いたしかたないところです。
ただ、個人的にトランプ氏を受け入れがたく感じるのは、差別的・攻撃的言動といった、従来であれば“口にするのは控えるべき”とされていたものを吐き出す政治姿勢が“正直さ”“強さ”と評価され、多くの人々の心の中にある同種の“怒り”“嫌悪感”といったネガティブな感情を掻き立てる・・・そうした在り様です。
オバマ米大統領は9月の「難民サミット」で、国際社会を揺るがす難民危機への対応について「私たちの人間性が問われている」と強調し、支援と協力を訴えました。
(9月21日ブログ“「難民サミット」でオバマ氏「人間性が問われている」 「棲み分け」を主張するアイデンティタリアンhttp://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160921”)
こうした発言を、現実を無視した空虚な言葉遊びに過ぎない・・・と批判するのはたやすいことで、こうした発言を嗤うことが本流ともなっている現在の風潮ですが、私は政治指導者には現実論に埋没するのではなく、“怒り”や“嫌悪感”を煽るのではなく、“希望”“可能性”に訴え、「あるべき姿」を指し示す姿勢を期待します。
****オバマ大統領、国連総会で最後の演説 大衆主義を批判****
バラク・オバマ米大統領は20日、ニューヨークで開かれた国連総会で、任期中最後となる一般討論演説に臨んだ。
その中でオバマ氏は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領や米大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏を念頭に、絶対的指導者や大衆迎合主義者らを痛烈に批判した。
オバマ大統領は、繁栄を目指していく上では、米国をはじめ世界各地で台頭してきている「露骨なポピュリズム」よりも民主主義の方がより良い道筋だという見方を示した。
さらに、米大統領選を念頭に置き、「未来が好むのは強い人物だという人もいる。だが私はこの考え方は間違っていると思う」と述べ、「歴史を振り返れば、力に訴える者らには2つの道筋しか残らないことが分かる。一方は永久弾圧で、これは自国内で衝突をもたらす。もう一方は国外の敵への責任転嫁で、戦争を引き起こしかねない」と説いた。【9月21日 AFP】
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【現実政治の向かう先は?】
しかし、現実の流れはオバマ大統領や私が期待する方向とは逆向きのようです。
もちろん、そうした現実の背景にあるものは一定に理解できます。ただ、だからといって、絶対的指導者や大衆迎合主義者らに流れる風潮を肯定していいものか・・・。いつのまにかダークサイドに堕ちていく危うさがあります。
「隠れトランプ票」・・・・これも奇妙です。トランプ支持を公言できないということは、支持者自身も何か後ろめたいものを感じているからではないでしょうか。それでも、心に潜む理屈ではないネガティブな感情を“民意”として引き出す民主主義というのも、なかなか厄介な制度です。
イギリスのEU離脱を問う国民投票やコロンビアの和平合意を問う国民投票なども、世論調査に明示されない“隠れた”国民心理が結果を左右したようにも思えます。
5月にオーストリアで行われた大統領選挙では、与党が支援する左派候補と極右候補の接戦となり、左派候補が辛うじて勝利しましたが、手続きミスがあったということで12月10日にやり直し選挙が行われます。中東などからの難民流入の制限を主張する極右政党・自由党のホーファー候補(45)が有利な戦いを進めているとも報じられています。
来年5月にはフランス大統領選挙が行われます。極右候補マリーヌ・ルペン氏の“活躍”は・・・・?決選投票では勝てないと言われていますが「隠れルペン票」も多いのでは。マリーヌ・ルペン氏が勝利すればEUは終焉を迎えます。
更に、来年の総選挙が予定されているドイツでは排外的な新興右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が勢力を伸ばしています。
アメリカはトランプ大統領のもとで内向き「アメリカ第1」路線、EUは終焉となれば、世界で跋扈するのは中国・ロシアの強権政治だけです。なんだか嫌な世の中になってきました。