
(新たな和平合意について説明を行うため会談したサントス大統領(右)と反対派指導者ウリベ前大統領(左)【11月14日 「音の谷ラテンアメリカニュース」http://blog.livedoor.jp/otonotani/archives/9413202.html】)
【FARCの所有資産を被害者の保障にあてるなどの修正案で合意】
半世紀続く内戦の終結を目指す南米コロンビア政府と左翼ゲリラ・コロンビア革命軍(FARC)の和平合意は、事前の予測に反して(最近、こういうことが多いようですが・・・)国民投票で否決されましたが、サントス大統領のノーベル平和賞受賞という後押しもあって、新たな修正案で合意が得られました。
****コロンビア政府と左翼ゲリラ、和平合意の修正案に署名*****
半世紀続く内戦の終結を目指す南米コロンビア政府と左翼ゲリラ・コロンビア革命軍(FARC)は12日、10月の国民投票で否決された和平合意について、内容を部分的に変更することで一致し、新たな修正案に署名した。
サントス大統領は「今こそ分断ではなく和解する時だ」と国民に支持を求めたが、反発が強かったFARCの政治参加の項目は維持されており、反対派の納得が得られるかは不透明だ。
政府とFARCは9月下旬、和平の最終合意文書に署名。だが、10月2日の国民投票では、FARCの政治参加や元戦闘員の刑の減免を認めた内容への批判から小差で反対が賛成を上回り、キューバの首都ハバナで修正協議が続いていた。
修正案は、罪を犯したFARC元戦闘員らが裁判所の指定地域内で移動を制限されることや、FARCの所有資産を被害者の保障にあてることなどを規定。FARCが政党に生まれ変わった場合に得られる支援額の減少も盛り込まれた。
一方、FARC幹部の政治参加を認めた項目は当初のまま維持された。サントス氏は演説で「和平合意の目的はゲリラが武器を放棄し合法的に政治参加することだ」と理解を求めた。和平合意の反対キャンペーンを繰り広げてきたウリベ前大統領は、内容を検討するまで修正案を決定事項としないよう求めた。
修正案の是非が再び国民投票で問われるかは現時点では不透明だ。今回は議会の承認だけで済ませる可能性も指摘されている。
サントス氏は和平交渉を主導した努力が評価され、今年のノーベル平和賞の受賞が決定。12月10日に授賞式が行われる。(サンパウロ=田村剛)
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【FARCは100億ドル以上の裏金を保有?】
修正案の主な内容は、FARCの所有資産の活用にあるようです。
この問題は以前から指摘されていたものでもあります。
****コロンビア和平を左右する裏金問題****
ゲリラ組織の不正蓄財や支援者の摘発でアメリカも協力することが可能だ
半世紀以上続く内戦を終わらせるためにコロンビア政府と左翼ゲリラ組織、コロンビア革命軍(FARC)が署名した和平合意。その是非を問う国民投票が先月初旬に行われたが、僅差で否決された。
しかし両者とも和平努力を続けることを表明し、フアン・マヌエル・サントス大統領は停戦期限を年末まで延長することを明らかにしている。
否決の主因とみられるのは、ゲリラが内戦中の犯罪を認めれば減刑されることや、FARCが政党に衣替えして議会の議席を無条件に与えられることなどへの国民の不満だ。
だが1つ見逃されている点がある。FARCが外国の銀行に100億ドル以上の資金を蓄えている問題だ。FARCがこれらの不正な資金を使い、ベネズエラのウゴーチャベス前大統領の戦術をまねるのではないかという声もある。
カネで支持を買い、既存の組織を買収し、国民が気付いたときには、イデオロギーで凝り固まった独裁主義勢力によって反対意見は握りっぶされ、富の再分配が強引に推し進められている・・・という事態になるのを恐れているのだ。
「そんなことは起こらない」と、ベネズエラでも言われていたことを忘れてはならない。
FARCの国外資金は、国民投票前に既に議論になっていた。
9月にニユーヨークで講演したサントスは、コロンビアは麻薬カルテルの資金を没収してきた実績があるとし、FARCの違法資金も没収して内戦犠牲者への賠償に充てると警告した。
FARC側も和平合意が可決されたら国外資金の額を公表すると言っていたが、目先だけとみる評論家が多かった。
国外協力者への制裁を
FARCと新たな和平合意を形成して有権者の支持を取り付けるには、コロンビア政府(とアメリカ)は今すぐ、FARCの国外資金の特定と没収に着手する必要がある。
これらは麻薬の密売や人身売買などで得た血塗られたカネだ。FARCが保有する正当な理由はない。没収した資金は内戦犠牲者の賠償だけではなく、FARCの兵士たちの社会復帰にも使ったらいいだろう。それらに税金を充てるよりも間違いなく正しいやり方だ。
アメリカのオバマ政権はFARCの不正蓄財への協力者を追跡し、制裁を加えるといったことで協力できる。それにはFARCの協力者であり、エルサルバドルの与党ファラブンド・マルティ民族解放戦線(FMLN)の幹部でもあるホセ・ルイス・メリノについて再び調べる必要がある。(中略)
これらが示すように、メリノを調査するという方向性は正しい。しかし、これは単にメリノ一人がどうこうしたという問題ではない。メリノは、FARCによる国外でのマネーロングリングの重要な歯車の1つにすぎないからだ。
コロンビアが真の和平を実現するために、現時点でアメリカができる最大の貢献は、国外で不正の手引きをしたり協力したりしている人物をたたくことだ。
まずは、メリノに制裁を加え、FARCの巨大な金融帝国に蓄えられた隠し財産を没収することから始めればいい。【11月8日号 Newsweek日本版】
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これまでも、サントス大統領はFARCの違法資金を没収して内戦犠牲者への賠償に充てるとしていましたし、FARC側も和平合意が可決されたら国外資金の額を公表すると言っていたとのことですので、今回修正案はそのあたりを正式な合意という形で明確にしたということのようです。
この問題に関しては、上記以上のことは全く知りませんが、“FARCが外国の銀行に100億ドル以上の資金を蓄えている”という金額はどうでしょうか?
“100億ドル”というと1兆円を超す大変な金額です。
こうした話は誇張される傾向にありますし、ここ数年勢力が衰えていたFARCがそんな金額を本当に保有しているのでしょうか?
まあ、一桁少ない金額であったにしても、それが被害者救済や、FARCメンバーの社会復帰に要する費用に充てられるのであれば結構な話かと思います。
【合意案の正式承認を急ぐサントス大統領 今後の道筋は不透明】
ただ、今回のコロンビア政府とFARCの間の合意が正式に承認されるのかは未だ不透明です。
“前回のように国民投票を経ず、議会での承認にかけられる見通しが強い。”【11月14日 毎日】という線で落ち着くなら、承認される見通しが強まります。
ただ、“和平合意への反対運動の旗振り役だった前大統領のウリベ上院議員は12日、サントス大統領と面会し「新和平案の内容は確定されたものではない」と述べた。今後、内容を巡って議会が紛糾する可能性がある。”【同上】とも。
ウリベ前大統領の「新和平案の内容は確定されたものではない」という発言は、“新たな和平合意について反対派と紛争犠牲者たちは分析するための時間が必要であり、また今回の合意が決定的な物ではなく変更可能である必要があると要請しています。”【11月14日 「音の谷ラテンアメリカニュース」】という趣旨のようです。
「大統領は今年のクリスマスまでに和平交渉を終結させたい決意だ」(駐日大使)【11月3日 Record china】との発言もありましたが、“12月10日の授賞式までに新和平案を承認させたいのが政府側の思惑だ”【同上】とのことです。
ノーベル平和賞という晴れ舞台を前に、授賞式までになんとかしたいという思いは十分にわかります。
ただ、急ぎすぎて反対派を硬化させることがないように留意してもらいたいところです。
この重要な段階にあって、サントス大統領の健康問題も表面化しています。
****コロンビア大統領、前立せんがん再発の疑いで今週検査渡米****
コロンビアのフアン・マヌエル・サントス大統領(65)は15日、前立せんがんの再発が疑われるため今週米国で検査を受けると明らかにした。
大統領は記者団に、定期健診で前立腺特異抗原(PSA)のレベルが上がっていたことから、できるだけ早く詳しい検査のため渡米するよう主治医に勧告されたと述べた。PSAは前立腺内に存在するたんぱく質で、前立せんがん患者はしばしばそのレベルが上がる。検査は、ボルティモアのジョンズ・ホプキンス病院で行われる。
大統領は「このことに自身も家族も驚いている。明日出発して17日に検査を受け、18日に帰国する」と述べ、検査結果はできるだけ早く国民に知らせると付け加えた。
大統領は2010年に就任。4年前に国内で前立腺の腫瘍摘出手術を受け、成功している。【11月16日 ロイター】
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大事なく、合意案の正式承認に向けた取り組みに支障がでることがなければいいのですが。
FARC内部にも和平合意に反対する勢力もありますので、合意承認がスムーズに進まないと、そうした勢力による妨害行為も懸念されます。
****和平プロセスに反対するFarc分離派による徴兵と恐喝行為をオンブズマンが警告 コロンビア バウペス県*****
コロンビア南西部でFarc分離派が住民たちに行っている敵対行為を防ぐための措置を早急に実行するようオンブズマンが金曜日に当局に要請しています。
現在コロンビア革命軍(Farc)主流派は半世紀以上に及ぶコロンビア国内紛争終結に向けコロンビア政府と再交渉を行っていますが、Farcの一部は和平プロセスに反対し武装闘争継続を主張しています。
「オンブズマン組織の早期警戒システムは、バウペスのFarc分離派による強制徴兵・恐喝と脅迫・対人地雷の設置など住民に対する危険性を警告しています。」とオンブズマン組織は声明を通じて表明しています。(中略)
7月の初め、グアビアレ県とバウペス県バウペス県を拠点とするFarc第1戦線は、Farc主流派からの分離と武装闘争の継続を宣言しています。
しかし紛争専門家たちは、Farc第1戦線の分離と戦闘継続宣言は政治的理由ではなく、経済的理由が主であると分析しています。
和平プロセスに基づく武装解除に応じないゲリラは、Farcから除名するとFarc指導部は発表しています。【11月12日 「音の谷ラテンアメリカニュース」】
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【第2の左翼ゲリラ組織ELNとの交渉は中断】
なお、今年にお入ってからFARCによる誘拐は起きていないようです。ただし、1970年以降でみると、FARCによって誘拐された者は8991人にのぼっているようです。このような膨大な犠牲者の存在が、先の和平合意否決をもたらしています。
****今年最初の7カ月間で121人が誘拐された コロンビア****
コロンビアでは今年最初の7カ月間に121人が誘拐されており、そのうちのほとんどが一般犯罪者によるものであったと誘拐問題を扱うNGO団体パイス リブレが発表しています。
「ほとんどが一般犯罪者によるものです。」と25年前から誘拐・恐喝・強制失踪と戦うNGO団体代表のマリア コンスエロ ハウレグイはAFPの取材で語っています。
1980年以降誘拐を資金源としていた「共産主義ゲリラ組織FarcとELNによる誘拐は減少しています。」と代表は付け加えています。
7月31日現在、109人が一般犯罪者もしくはグループに、11人がELNに、1人が準軍組織を母体とする犯罪組織によって誘拐されています。
過去45年間コロンビアで発生する誘拐事件の中心的存在であったコロンビア革命軍(Farc)による誘拐事件は1件も発生していません。Farcはフアン マヌエル サントス大統領政権と和平合意を結んでいます。
昨年1年間では210人が誘拐されており、内161人が一般犯罪者に、22人がELNに、15人がFarcに、11人は準軍麻薬組織によって誘拐されているとパイス リブレは報告しています。
コロンビア第2の共産主義ゲリラ組織国民解放軍(ELN)は、先週からエクアドルの首都キト市でコロンビア政府と和平交渉を開始する予定でしたが、人質としている元国会議員の解放されなかったために延期されています。
パイス リブレによれば、ELNは少なくとも3人の人質を拘束しています。
1970年以降コロンビアでは3万2733人が誘拐され、そのうちの8991人がFarc、7368人が一般犯罪者、7107人がELNによって誘拐され、5280人が犯人不明となっています。【11月3日 「音の谷ラテンアメリカニュース」】
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FARCに次ぐ武装組織である「民族解放軍(ELN)」との交渉は延期されています。
****第2のゲリラとの交渉延期=「人質解放」の条件満たさず―コロンビア****
コロンビア政府は27日、同国第2の左翼ゲリラ組織、民族解放軍(ELN)と同日に予定されていた和平交渉入りを延期すると発表した。ELNが拘束中の人質を解放していないためで、政府は人質の無事解放が確認され次第、交渉を始める方針。
ELNは「数日中に交渉を開始したい」と声明を出しており、既に人質の解放作業に入っているとみられる。
和平交渉入りは3月に合意されていたが、サントス大統領が「人質が解放されるまで交渉は始めない」と主張したため、停滞。政府とELNは今月10日になって仲介国エクアドルで27日に交渉を開始すると表明していた。【10月28日 時事】
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半年前からELNに拘束されている元国会議員が未だ解放されていないことで、サントス大統領は交渉を中断しており、ELNによるテロ活動も続いています。ELNは服役中の幹部2名の恩赦を求めているようです。