(黄土色が冷戦終結後のNATO加盟国 ロシア・プーチン大統領が苛立つのもわかります。)
【NATOの“ロシアの脅威”に対し、ロシアは“欧米に騙された”】
日本や東・東南アジア諸国が中国との関係に神経を使うように、欧州諸国にとってはロシアとの関係が非常に重要な問題となります。
なかでも、バルト3国やポーランドのように歴史的にロシアとの確執が強い国々では、ウクライナで見られたような“ロシアの脅威”が現実の問題として強く意識されています。
****東欧4か国にNATO多国籍部隊…露は強く反発****
ブリュッセルで開かれた北大西洋条約機構(NATO)の国防相理事会は27日、バルト3国とポーランドに来年から配備するNATO部隊について、計15か国が参加する多国籍部隊とすることを決めた。
当初、米国、英国、ドイツとカナダの4か国が主導する計画だったが、ロシアの脅威に対抗し、フランスやイタリアなど新たに11か国が参加することになった。
ストルテンベルグ事務総長は閉会後の記者会見で「同盟国への攻撃は、NATO全体への攻撃とみなす」と述べ、改めてロシアをけん制した。
NATOは7月の首脳会議で東欧4か国に4000人規模となる4大隊の配備を決定したが、ロシアは強く反発している。
理事会は、難民問題を巡り、NATO艦船が地中海で不法移民の監視活動に従事することなども決めた。【10月28日 読売】
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ただ、“ロシアの脅威”云々はロシア側・プーチン大統領から言わせれば全く逆の話で、冷戦終了時の合意を無視したNATOの東方拡大によってロシアが脅かされており、ロシアの行動はその脅威・約束違反に対応しているだけだ・・・という話にもなります。
確かに、冷戦終了時と現在の状況を見比べれば、ロシア包囲網とも思えるようなEU・NATOの東方拡大が現実化しており、プーチン大統領の苛立ちも根拠がない訳ではありません。(もちろん、クリミアやウクライナ東部のような軍事的手段によるものと、各国の判断によるNATO加盟は異質なものではありますが)
****ゴルバチョフも「だまされた」 NATO東方拡大で元ソ連大統領がプーチンを援護する“ロシア人の心象風景”*****
ウクライナ情勢をめぐり国際社会で孤立するロシアのプーチン大統領(62)を強く支持する人物がいる。元ソ連大統領のミハイル・ゴルバチョフ氏(83)だ。プーチン氏に対し、ロシアを崩壊の危機からから救ったと称賛するゴルバチョフ氏は、プーチン氏同様に北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を「欧米の約束破り」と断ずる。(中略)
「われわれ(ソ連と欧米)は東西ドイツ統合にあたり、旧東ドイツをNATOの勢力圏に入れないことで合意したが、NATOが90年代、東方に拡大を始めたときに、その精神は失われた」。ゴルバチョフ氏は、旧共産主義国家やソ連圏へのNATO加盟の広がりをそう批判する。
東西ドイツ統一時に、ソ連の国家保安委員会(KGB)の一員としてドイツに駐在していたプーチン氏はNATO拡大について、「われわれはだまされた」と繰り返し主張。
ウクライナのクリミア半島併合は、ロシアの艦隊が駐留する同地へのNATO軍の進出を防ぐためだったと言明するなど、NATOこそがウクライナ問題の要因だとする姿勢を崩さない。
「欧米はNATOを東方に拡大させない約束をした」との主張をめぐっては、当時欧米側からロシアに対し、正式な書面での確約はなかったとの見方が有力になっている。
ただ、米誌フォーリン・アフェアーズによると、当時のベーカー米国務長官と西ドイツのコール首相がNATOが勢力圏を広げないことを示唆しつつ、ゴルバチョフ氏に東西ドイツ統一を承認するよう求めていた事実が指摘されている。(後略)【2014年12月12日 産経】
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NATOのバルト3国やポーランドへの部隊配備についても、ロシアは強く反発しています。
****ロシアが東欧の飛び地カリーニングラードに核ミサイル配備?****
NATOにとって極めて憂慮すべき事態だ。ロシアは10月初め、リトアニアとポーランドの間のロシアの飛び地カリーニングラードに、核弾頭搭載可能な弾道ミサイル「イスカンデル」を配備した。
カリーニングラードはバルチック艦隊の母港で、大規模な軍事施設が集中している。
NATOはロシアへの抑止力強化を念頭に、17年以降にポーランドとバルト3国(リトアニア、ラトビア、エストニア)で多国籍軍部隊を展開し、東欧でのミサイル防衛(MD)を強化することを表明していた。ロシアはNATOの決定を安全保障上の脅威とみなし、対抗してイスカンデルを持ち出してきた、というのが大方の見方だ。
ワルシャワも射程内
射程距離が500キロのイスカンデルは、ポーランドの首都ワルシャワ、リトアニアの首都ビリニュス、ラトビアの首都リガまで届く。改良で最大射程が700キロに延びた新型になると、ドイツの首都ベルリンも射程に収める。
NATOがさらに懸念するのは、イスカンデルは通常弾頭の他に、射程が500キロ以下の核ミサイルや核弾頭などの「戦術核」を搭載できる点だ。イスカンデルの配備は1987年に米ソが署名した「中距離核戦力全廃条約」違反の恐れがあるが、ロシアは気に留める素振りもない。
実際に核弾頭が搭載されているかどうかは明らかになっていないが、ロシアは過去にもMD防衛システムを配備する周辺国に対して核攻撃の可能性をちらつかせて脅した経緯があり、今回もまた脅しである可能性は払拭できない。
ロシア政府は、イスカンデル配備は一時的なもので軍事演習の一環と説明した。確かに似たようなことは以前もあったが、今回は配備の規模が大きい。NATO加盟国は、ロシアがいよいよカリーニングラードに核兵器を実戦配備するのではないかと警戒を強めている。
エストニアのリホ・テラス国防軍司令官は、ロシアの動きについて「(ロシアが)バルト海沿岸での支配力を強化し、軍備を増強する」計画の一環だとみる。
これは根拠のない空論ではない。カリーニングラードは長年バルト海の東岸でロシアが進めるA2/AD(接近阻止・領域拒否)戦略の要衝として機能しており、イスカンデルには大規模な軍事部隊や軍事基地、都市などに命中する精度がある。
NATO加盟国はイスカンデル配備を激しく批判した。だがNATOがミサイル発射の脅威にどう対抗するのかは不明だ。仮に新たな抑止策が可能になっても、NATOとロシアの対立が一層高まることは避けられそうにない。【11月7日 Newsweek】
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【東欧・旧ソ連諸国にはロシア回帰も “トランプ現象”の側面も】
こうしたNATO対ロシアのせめぎあいの一方で、東欧諸国や旧ソ連諸国にあってはロシアとの関係が強く、EUを通した西側への接近に対する“揺り戻し”とも思えるようなロシアとの関係修復の動きも見られます。
東欧ブルガリアの大統領選挙では、親ロシアの中道左派野党・社会党が推すルーメン・ラデフ前空軍司令官(53)が当選を確実にしています。
****敗戦濃厚で首相が辞任表明 ブルガリア大統領選****
ブルガリアで13日、大統領選の決選投票が行われた。野党社会党が推す元空軍司令官ルメン・ラデフ氏(53)が複数の出口調査で支持率58%を獲得。与党が推すツェツカ・ツァチェワ議会議長(58)を大きくリードし、当選が濃厚になった。ボリソフ首相は公式結果の発表を待たず辞任を表明した。
ブルガリアでは大統領に政治の実権はないが、中道右派の与党「欧州発展のためのブルガリア市民」(GERB)を率いるボリソフ氏が首相辞任に追い込まれたことで、政治の不安定化が避けられなくなった。
ラデフ氏は欧州統合を支持するものの、経済の結びつきが強く、エネルギーを依存するロシアともバランスのとれた関係が必要と主張。EUの対ロシア経済政策にも批判的で、親欧米路線で同国との関係を冷却化させたボリソフ政権を批判した。
ブルガリアは2007年に欧州連合(EU)に加盟したが、経済停滞が続く。
6日の第1回投票では人気のテレビ番組司会者の署名運動で選挙改革をめぐる国民投票が実現した。投票率も50%を超え、圧倒的多数が改革に賛成。投票総数が直前の総選挙以上という成立条件にわずかに届かなかったが、政治への不満の強さを見せつけた。
大統領選ではボリソフ氏が与党候補が敗れた場合の辞任を事前に公言しており、政権に不満を持つ層の投票意欲に火をつけた可能性もある。【11月14日 朝日】
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また、旧ソ連のモルドバでも、親EU路線を進めてきた現政権に対し、ロシアとの関係改善を訴える社会党のイーゴリ・ドドン氏(41)が勝利しています。
****モルドバ大統領選、親ロ派ドドン氏勝利 内閣は親欧路線****
旧ソ連のモルドバで13日、大統領選(任期4年)の決選投票があり、ロシアとの関係改善を訴える社会党のイーゴリ・ドドン氏(41)が小差で勝利した。フィリプ首相が率いる内閣は親欧州連合(EU)路線を進めており、国内の緊張が高まる可能性がある。
ドドン氏は勝利演説で「EUとの統合を求める人、ロシアと接近したい人、すべての人のための大統領になる」と述べた。一方でロシアメディアに対して、大統領就任後、親欧派が多数を占める議会の解散を検討する考えを示した。
中央選挙管理委員会によると、開票率99・8%の段階で、ドドン氏は52・4%を得た。親欧派「行動と連帯」のマイア・サンドゥ氏(44)は47・6%だった。
欧州最貧国と言われるモルドバは、2014年にEUとの間で連合協定を結ぶなど、欧州への統合を進めてきた。しかし昨年、国内の主力銀行3行から10億ドル(約1050億円)が消える事件が起き、反政府運動が激化。最高裁の決定で、20年ぶりに直接投票による大統領選が行われた。
ドドン氏は反政府運動に加わり、EUとの連合協定の見直しやロシアとの経済協力の推進を主張。ロシアがウクライナから一方的に併合したクリミア半島について「事実上、ロシアに帰属している」と述べるなど、政治的にもプーチン政権に近い立場だ。
モルドバ国内にあって政府の統治を受け入れずに独立を主張、ロシア軍が駐留している「沿ドニエストル共和国」の問題についてドドン氏は、モルドバを連邦国家とし、沿ドニエストルに大きな自治権を与える考えを語っている。
モルドバでは議会と内閣が政策決定で大きな力を持つが、直接選挙が行われたことで、大統領の影響力も強まると見られる。【11月14日 朝日】
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“モルドバでは議会と内閣が政策決定で大きな力を持つ”ということで、直ちにロシア回帰路線への転向や、沿ドニエストル問題での動きがある訳ではないようです。
経済停滞が続き、選挙改革が求められているブルガリア、欧州最貧国から抜け出せず、資金消失疑惑で揺れるモルドバ・・・いずれも単にロシアとの関係を改善する云々だけではなく、国民の“既成政治への怒り”が噴き出す「トランプ現象」とも思われます。
【年末から来年にかけて注目の選挙が続く欧州 枠組み変更の可能性も】
欧州では、既成政治の枠組みが大きく変更される可能性もある選挙がこれから続きます。
オーストリアでは12月4日の“やり直し選挙”で、「南部の国境に壁を作って移民を入れない。人々の安全を守るのが、大統領の仕事だ!」と主張する極右政党のノルベルト・ホーファー氏が大統領を狙います。かなり有力視されています。オーストリアの大統領には儀礼的な役割しかありませんが、「流れ」という意味で注目さます。
イタリアでは同じ12月4日、レンツィ首相が自身の進退を懸けて、上院改革などの憲法改正に関する国民投票に臨みますが、世論調査では否決されるとの見方が多いとか。そうなると、2017年にも前倒し選挙が実施されると予想され、EUに懐疑的な最大野党「五つ星運動」がどこまで伸びるかが注目されます。
フランスでは来年4~5月に大統領選挙が行われます。注目は、ここでも極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン氏。
ルペン氏は来年4月の大統領選の第1回投票に勝利するものの、5月の決選投票で敗れるとみられていましたが・・・・「トランプ勝利」の再現もあるのではと、にわかにざわつき始めています。
****仏極右ルペン国民戦線党首、「トランプ氏」のような勝利望む****
フランス極右政党・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首は13日、英BBC放送の番組に出演し、米大統領選でのドナルド・トランプ氏の勝利はエリート層に対する人民の勝利だと語った。その上で、フランス国民も来年、こうした動きに続いて、自身を大統領に選んでくれることを望むと述べた。
BBCの「アンドリュー・マー・ショウ」のインタビューに答えた。トランプ氏の勝利により、自身が勝利する可能性が高まったかとの質問に対し、ルペン氏は「トランプ氏は、かつて不可能とされていたこと可能にした」と称賛。「フランスでも、国民に帰すべきものをエリート層が分け合っているような状況を、国民が覆すことを望む」と、述べた。
世論調査によると、ルペン党首は来年4月の大統領選の第1回投票に勝利するものの、5月の決選投票で敗れるとみられている。【11月14日 ロイター】
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EUに批判的なルペン氏がもし勝利することになれば、EUはここで終焉です。なお、ルペン氏の「国民戦線」はロシアから資金提供を受ける関係です。
フランスでルペン氏の攻勢を退けても、EUの中核ドイツで8~10月に総選挙が予定されています。
難民問題で国民の不満が高まるメルケル首相が踏みとどまれるか、昨年の一部の州議会選挙で躍進した排外的新興政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」が初めて連邦議会で議席を獲得して躍進するのか・・・非常に注目されます。
一連の選挙結果次第で、欧州の枠組みも、ロシアとの関係も大きく変動する可能性があります。