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(外遊に出発する安倍晋三首相と昭恵夫人=17日、羽田空港(荻窪佳撮影)【11月17日 産経】)
【外交デビューの相手に安倍首相を選んだ背景は・・・・】
安倍首相がトランプ次期大統領との会談のため渡米しています。
世界で最も影響力のあるポストに就くトランプ次期大統領にとっては、初めての政治指導者との会談、“外交デビュー”であり、選挙中の過激な発言や大きくぶれる発言で、その真意がよくわからないとされていること、更には選挙勝利後は“現実路線”に修正しつつあるとの見方もあって、トランプ次期大統領がどういう発言をするか世界的にも結構注目されているとか。
****安倍首相 トランプ次期大統領とあす会談へ****
安倍総理大臣はアメリカのトランプ次期大統領との初めての会談に臨むため、ニューヨークに向かっています。強固な日米同盟の維持を目指す安倍総理大臣に、日本を含む同盟国との関係見直しにも言及してきたトランプ氏がどう対応するか、注目されています。
安倍総理大臣は17日午前11時すぎ、政府専用機で羽田空港を出発し、ニューヨークに向かっています。ニューヨークでは17日(日本時間18日)、トランプ次期大統領と初めて会談する予定で、安倍総理大臣は羽田空港で「日米同盟は、日本の外交・安全保障の基軸であり、信頼があってはじめて同盟には血が通う。トランプ次期大統領とは、まさに信頼関係を構築していきたい」と述べ、強固な同盟関係の維持を目指す考えを示しました。
大統領選挙のあと、トランプ氏が外国の首脳と直接会談するのは初めてで、上級アドバイザーを務めるキングストン前下院議員は、NHKのインタビューに対し、「トランプ氏が、安倍総理大臣と最初に会談することは、日本との歴史的で重要な関係を示すものだ」と話しています。
一方でトランプ氏は、日本を含むアメリカの同盟国との関係の見直しにも言及し、日本に駐留するアメリカ軍の経費負担の増額などを主張してきました。それだけに安倍総理大臣にトランプ氏がどう対応するか、注目されていて、海外のメディアも「今回の会談はトランプ氏の今後のアジア戦略を知る手がかりとなる」などと伝えています。
トランプ氏 日本をめぐる発言
トランプ氏は選挙中のテレビ討論会などで、日本を名指しして批判するなどして、その発言が波紋を広げていました。特に、「防衛のための公平な費用を負担しなければアメリカが日本を守ることはできない」と繰り返し主張して、在日アメリカ軍の駐留経費の負担を増やすべきだという持論を展開し、ときには日本がすべての経費を負担すべきという考えも示しました。
また、トランプ氏はアメリカのメディアのインタビューで、北朝鮮に対抗するため、日本などが核兵器を保有することを容認する発言をしましたが、その後、立場を変え、事実上、みずからの発言を撤回したものと見られています。
一方、経済政策をめぐっては、TPP=環太平洋パートナーシップ協定について、アメリカから雇用を奪うとして強く批判し、協定から離脱する方針を掲げています。
さらに、日本が輸出や投資の促進のため円の為替レートをドルに対して不正に低く抑えていると述べたほか、「大量の日本車がアメリカに流れ込んでいる」として、日本から輸入する自動車への関税を大幅に引き上げるといった主張を展開したこともあります。
一方で、トランプ氏は安倍総理大臣について、「日本には安倍総理大臣がいる。彼は非常に切れ者だ」と述べて、評価する姿勢を示していました。
トランプ氏 日米同盟をめぐる発言
トランプ氏は選挙中、日米同盟について「日本は対価を払っていない」などとして、在日アメリカ軍に関係する経費などをめぐり、さらなる負担を求めるなどと訴えてきたほか、アメリカの同盟国との関係の全体的な見直しも主張してきました。
この主張について、トランプ氏の複数の政策顧問はこれまでのNHKの取材に対し、アメリカ軍が防衛を担う同盟国との間で分かち合う負担が公平かどうか、検証していくことを意味すると説明しています。そのうえで、日米間の負担が不公平だというトランプ氏の主張にはGDPに占める防衛費の割合がアメリカの3%余りに対し日本はおよそ1%となっていることも影響していると指摘しています。
ただ日本が現在支払っている年間5500億円余りの在日アメリカ軍の関係経費の増額を日本側に求めるかどうかは「検証の結果による」などとして明言を避けています。
一方で、側近の1人とされるフリン元国防情報局長官はことし7月、NHKのインタビューで、日本について、「極めて重要なパートナーで強固な関係を持ち続ける」と述べるなど複数の政策顧問がトランプ氏の政権も日米同盟を重視していく考えを明らかにしています。
また、選挙後、トランプ氏と意見を交わしたオバマ大統領は、トランプ氏が同盟関係の維持に強い関心を表したとしていて、トランプ氏が日本との同盟関係をめぐりどのような姿勢を示すのかが注目されています。【11月17日 NHK】
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トランプ次期大統領が、上記にもあるようなTPP問題や在日米軍の関係経費増額等の問題、あるいは対中国戦略・アジア戦略に関してどこまで踏み込んだ発言をするかは知る由もありませんが、おそらく基本線は“日米同盟の重要性を双方が確認し合う”という結果になり、安倍首相としても“日本の外交・安全保障の基軸は今後も維持される”という成果を携えての帰国となるのでしょう。(長期的なアメリカの対アジア戦略がどうなるのかは別として)
トランプ氏の「日本嫌いは本音」であり、安保・経済ともに極めて「厳しい」ものになる(グレン・フクシマ元米通商代表部日本担当部長)【11月12日 Record china】という見方もありますが、少なくとも外交デビューでそれをあらわにすることはないでしょう。
外交デビューの相手が日本の安倍首相となった経緯は全く知りません。
日米関係は日本の外交・安全保障の基軸ですから、安倍首相の素早い果敢な決断でしょうか。
それを受けたトランプ氏側については、「トランプ氏が、安倍総理大臣と最初に会談することは、日本との歴史的で重要な関係を示すものだ」とのことですが、多分、「安倍首相なら選挙中の移民やイスラム教徒、あるいは女性に関する発言を問題視することもなかろう」という判断もあってのことでしょう。
同じ“同盟国”にあっても、メルケル首相やオランド大統領ではそうはいきません。
また、メイ首相のように厄介な問題も抱えていません。ネタニヤフ首相のように国際的に物議を醸すこともありません。“安パイ”と見られた・・・とも言えます。
【「ワンマンタイプの大統領や首相に好かれる」安倍首相】
この両者は“気が合う”のでは・・・との見方があります。私もそのように感じます。
****<安倍首相>与党幹部「トランプ氏と案外気が合うかも」****
◇17日にニューヨークで行う予定の直接会談の行方に注目
安倍晋三首相が17日にニューヨークで行う予定のトランプ次期大統領との直接会談の行方が注目されている。外交手腕が未知数のトランプ氏との関係構築が焦点だが、首相自身は以前に「ワンマンタイプの大統領や首相に好かれる」と周囲に漏らしており、与党幹部は「2人は案外気が合うかもしれない」との見方を示す。
安倍首相は14日の参院TPP特別委員会で、トランプ氏との会談について「日米同盟、経済関係の重要性について話したい」と意欲を示した。
10日の2人の電話協議では、首相の祝意にトランプ氏が「首相の業績を高く評価している」と応じた。17日の会談設定もこの電話協議で決まっており、政府関係者は「2人は非常にうまくいっている」と話す。
安倍首相はロシアのプーチン大統領やトルコのエルドアン大統領らと親しく、政府・与党には「トランプ氏も首相と相性がいいタイプではないか」との観測がある。【11月14日 毎日】
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「ワンマンタイプの大統領や首相に好かれる」・・・・これをどう評価すべきか。
“気が合う”ロシアのプーチン大統領やトルコのエルドアン大統領は、欧米的には“強権支配者”と批判されることが多い政治家です。
そして今回のトランプ次期大統領。
「ワンマンタイプの大統領や首相に好かれる」のは、多分にその政治姿勢に共通するものがあるからなのでしょう。
今後は、祖父の岸信介元首相とアイゼンハワー大統領の関係にならって、“ゴルフ外交”でトランプ氏と信頼関係を構築していく手筈とか。
****安倍首相、「ゴルフ外交」でトランプ氏懐柔 互いの「趣味」で信頼関係を構築へ****
次期米国大統領であるドナルド・トランプ氏が、米紙ニューヨーク・タイムズに激怒した。同紙が「(日本などに)核兵器を持つべきだと勧めた」と紹介したことを全面否定したのだ。
報道への抗議とともに、「暴言王」からの方向修正を図っているとみられ、17日の安倍晋三首相との会談が注目される。(中略)トランプ氏によるツイッターへの書き込みは、これへの抗議とともに、大統領就任を前に「現実路線」に転換する意図もあるとみられる。
トランプ氏の真意を探るためにも、安倍首相と17日、ニューヨークで行なうトップ会談が世界の注目を集めそうだ。
安倍首相も14日、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の承認案などを審議する参院特別委員会で、「貿易や安全保障を含め、さまざまな課題について率直に意見交換したい。突っ込んだ話をしながら信頼関係を作りたい」と語った。
日米関係者も動き出した。安倍首相とトランプ氏の距離を縮めるため、将来の「ゴルフ外交」について調整を始めたという。安倍首相とトランプ氏はともにゴルフが趣味であり、双方とも実現に向けて前向きだという。
『トランプの真実』(実業之日本社)によると、トランプ氏はゴルフについて、以下のように語っている。
「ゴルフはビジネスのためのスポーツだ。私はランチを食べながらでは絶対にまとまらなかった取引をゴルフのコースでまとめたことがある」「ゴルフのコースには仲間意識がある。お互いのことをよく知り、パートナーになる」
日米外交史を振り返ると、両国トップはさまざまな方法で人間関係を深め、信頼関係を構築している。
安倍首相の祖父、岸信介氏は首相時代の1957年に訪米した際、ドワイト・アイゼンハワー大統領とゴルフを楽しみ、一気に親密さを増した。この人間関係が、60年の日米安全保障条約改定につながった。(中略)
安倍−トランプ会談が注目されるが、安倍首相は以前から、ロシアのプーチン大統領や、トルコのエルドアン大統領、フィリピンのドゥテルテ大統領など、こわもてで鳴らす各国首脳らと人間関係を築くのが、不思議とうまかった。
官邸周辺は「各国首脳は当然、国益を背負って外交をしている。だが、最終的には人間と人間の信頼関係を築けるかどうかだ。安倍首相が、プーチン氏やエルドアン氏らと個人的関係を深められたのは、一緒にいて笑顔になれる、安倍首相の柔和な人間性というしかない」と語る。
安倍首相は「ゴルフ外交」で、トランプ氏と打ち解けられるのか。
実は、安倍首相とトランプ氏のラウンドは、岸、アイゼンハワー両氏が絆(きずな)を強めた、ワシントン郊外のバーニング・ツリー・カントリークラブが候補に挙がっているという。
政治評論家の浅川博忠氏は「岸、アイゼンハワー両氏のゴルフ外交は、日米安保改定と、その後の安定した日米関係の礎となった。安倍首相は祖父の岸氏を尊敬しており、回顧録などを読んで、その形跡も参考にしたのではないか。安倍、トランプ両氏のゴルフ外交も、今後の日米関係を深化させる、いい機会になってほしい」と語っている。【11月16日 夕刊フジ】
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何度も繰り返すように、日米関係は日本の外交・安全保障の基軸ですから、日米首脳の信頼関係が強化されることは日本にとって極めて重要なことです。
それはそうとして、ロシアのプーチン大統領やトルコのエルドアン大統領、フィリピンのドゥテルテ大統領、そしてトランプ次期大統領・・・こうした政治家と“気が合う”のが“安倍首相の柔和な人間性”の問題なのか、本来問題とすべきことを指摘しないこと、安倍首相自身も大したことと考えていないことによるものなのか・・・個人的には、非常に気になります。
【「将来への不安が立ちこめている」日本の「新常態」】
もともと日本外交は非常に実利的な面があります。
よく、中国が相手国の非民主的強権支配や非人道的施策を問題とせず、内政不干渉を名目にカネをばらまいている・・・との評価がありますが、日本もかつてもミャンマー・軍事政権やスリランカへの対応、タイ軍事政権への対応などにおいては、かなり中国の実利主義に近いものがあります。
私個人は、安倍首相の「ワンマンタイプの大統領や首相に好かれる」政治資質は嫌いです。
ただ、それは安倍首相の問題というよりは、彼をして首相ならしめ、絶大な支持を続けている日本国民の判断です。
自民党は議会内で圧倒的な多数を形成し、内閣支持率は5割前後を維持しており、国民は安倍首相を強く支持しています。彼の政治資質を嫌う私のような見方は少数派です。
更に言えば、そうした流れは今後更に強まりそうです。
*****深い分断、きしむ民主主義****
・・・米大統領選をテーマに新潟県立大学が9月、日本の首都圏で500人を対象に実施した。
もし可能なら「どちらの候補に投票しますか」という問いに、6割強が「クリントン」と答え「トランプ」は1割弱。
だが、15歳から29歳までの男性では、支持はどちらも4割弱で拮抗(きっこう)した。
同大学の猪口孝学長は「将来への不安が立ちこめているのだろう」と見る。「これを『新常態』として直視しなければ」(後略)【11月13日 朝日】
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普遍的価値観と見られていたものが欺瞞的なポリティカル・コレクトネスとして蔑視され、自国の国益という形でむき出しの本音・感情が当然のこととして語られる・・・悲しい「新常態」に思えるのですが。
なお、“気が合う”かどうかは別にしても、トランプ氏は“ビジネスマン”であり、ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席は“ビジネスパートナー”として関係が強化されるでしょう。
今回の安倍首相との会談で日米関係の重要性が確認されるにしても、そうしたアメリカとロシア・中国の関係が強化されるなかで日本がどういう立ち位置で臨むか・・・という問題が今後次第にあきらかになってくるのではないでしょうか。