孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南スーダン PKO失敗で司令官更迭 複雑化する現地情勢 政府軍を相手とする戦闘の可能性も

2016-11-03 22:45:58 | アフリカ

(南スーダンの首都ジュバにある国連の民間人保護施設付近で物を運ぶ避難民の女性と、パトロール中の国連南スーダン派遣団(UNMISS)の兵士ら(2016年10月4日撮影、資料写真)。【11月2日 AFP】)

駆けつけ警護 他国軍は対象とせず
日本政府は、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)の派遣部隊に安全保障関連法に基づく新任務「駆けつけ警護」などを付与する方針です。

ただ、現地情勢が不安定なこともあって、自衛隊の活動範囲を比較的安定しているジュバ周辺に限定するとともに、「施設部隊の自衛隊が他国軍を駆けつけ警護することは想定されない」という運用で、自衛隊員のリスク低減を図ることとしています。

****駆けつけ警護、付与へ 15日閣議決定方針 南スーダンPKO****
政府は、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)の派遣部隊に安全保障関連法に基づく新任務「駆けつけ警護」などを付与する方針を固めた。今月15日に閣議決定する考えを、複数の与党幹部に伝えた。昨年9月の同法成立後、海外での自衛隊任務が拡大する初めてのケースとなる。
 
駆けつけ警護は、離れた場所で武装勢力などに襲われた国連やNGOの要員らを、武器を持って助けに行く任務。政府は、今月20日から現地に出発する次期派遣部隊の陸上自衛隊第9師団(青森市)を中心とした部隊に付与できるか検討してきた。
 
南スーダンPKO派遣部隊への新任務付与をめぐっては、国会審議で野党が「自衛隊員のリスクが高まる」などと批判。今年7月に首都ジュバで大規模戦闘が起きるなどしており、自衛隊を派遣するための「PKO参加5原則」が崩れているなどの指摘も出ている。
 
付与の判断にあたっては、現地の治安情勢と派遣部隊の訓練状況を重視。一方、付与した場合は自衛隊の活動範囲をジュバ周辺に限定するとともに、運用方針案を作成。他国軍を保護するのは基本的に現地政府や国連の歩兵部隊だとして、「施設部隊の自衛隊が他国軍を駆けつけ警護することは想定されない」とするなど、自衛隊員のリスク低減策も盛り込んだ。
 
次期派遣部隊は10月に実動訓練を終了。今月1日に南スーダンでキール大統領らと会談した柴山昌彦首相補佐官(国家安全保障担当)の視察を受け、政府は2日、「南スーダンの地域によっては楽観できない状況ではあるものの、ジュバ市内は比較的落ち着いている様子を改めて確認した」との報告概要をまとめた。
 
こうした状況を踏まえ、政府は付与は可能だと最終判断。複数の与党幹部らに今後の進め方を伝えた。国家安全保障会議や与党内の了承手続きを経て、15日に閣議決定するとしている。【11月3日 朝日】
********************

国連、PKO失敗で司令官更迭 出身国ケニアは反撥し、PKO撤退を表明
南スーダンの「落ち着いている」とは言い難い情勢、PKOによる住民保護の失敗といった現実、それでも、住民保護活動は「危険だから、やらない」では済まされないという個人的思いなどについては、10月12日ブログ“南スーダン 内戦の再燃も懸念される危うい情勢 狙われる外国人 それでも住民保護に必要なPKO”でも取り上げました。

上記ブログでも触れたPKOの失敗事例について、国連としても正式に報告書で失敗を認め、現地軍事司令官(ケニア)を更迭しました。

****南スーダンPKOの軍事司令官を更迭、首都の戦闘で民間人守れず****
国連の潘基文(バン・キムン)事務総長は1日、南スーダンに展開する国連南スーダン派遣団(UNMISS)が、今年7月に首都ジュバで発生した激しい戦闘で民間人を守れなかったとする国連の調査結果がまとまったことを受け、軍事司令官を更迭した。
 
国連の特別調査は、ジュバで7月8日~11日に発生した激しい戦闘において国連のミッションを遂行する上での指導力の欠如が「混乱した、効果のない対応」につながったと結論付けた。
 
特別調査の要約によると、近くのホテルで襲撃された援助職員からの救援要請があったにもかかわらずUNMISSの平和維持部隊は持ち場を放棄して対応しなかったという。

また、中国の部隊は少なくとも2回にわたり任務を放棄し、ネパールの部隊は国連施設内部での略奪を止められなかったとしている。
 
更迭されたのは5月に就任したジョンソン・モゴア・キマニ・オンディエキ軍事司令官(ケニア)。2年以上にわたってUNMISSの事務総長特別代表を務めているエレン・マルグレーテ・ロイ氏 (デンマーク)は11月末に退任する。
 
2013年12月から戦闘が続いている南スーダンにはUNMISSの1万6000人が展開している。【11月2日 AFP】
*******************

首都ジュバで7月に起きた政府軍と反政府勢力の大規模な戦闘では、国内避難民が暮らすPKO関連施設も襲撃を受け、7月の3日間で保護施設にいた20人以上の避難民を含め、少なくとも73人が死亡しています。

また、7月11日にジュバ近郊の国連施設から約1キロ離れたタレインホテルを80~100人の政府軍兵士とされる集団が襲撃し、地元ジャーナリストを殺害した後、外国の援助団体で働く女性を含む複数の女性を集団でレイプしたとされる事件では、中国とエチオピアの部隊が出動を拒んだとされています。

より具体的内容については、“住民に催涙弾、敵前逃亡、レイプ傍観──国連の失態相次ぐ南スーダン”【8月30日 Newsweek http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/08/post-5741_2.php】などに記されています。

国連の措置に対し、更迭された司令官の出身国ケニアは、“責任の押し付け”と反発、ケニア軍部隊の南スーダンからの引き揚げを表明しています。

****南スーダンPKO ケニアが司令官解任に反発し撤退へ****
・・・・これを受けて、国連のパン・ギムン(潘基文)事務総長は、PKO部隊の指揮命令系統が不適切だったことや市民を守ろうとしない対応が被害につながったと指摘し、現地の国連の部隊を指揮するケニア人の司令官を解任することを決めました。

これに対して、司令官の出身国のケニア政府は2日、声明を出し、「南スーダンのPKOが構造的な機能不全に陥っているにもかかわらず、特定の一個人に責任を押しつけようとしている」などとして強く反発しました。そのうえで、およそ1000人のケニア軍部隊を南スーダンから引き揚げ、今後は南スーダンの和平協議の仲介も行わないと表明しました。

南スーダンのPKOには日本の陸上自衛隊の部隊を含むおよそ1万3000人が参加していますが、南スーダンの平和維持や和平協議に深く関わってきた隣国ケニアが混乱する南スーダンから手を引く事態になれば、PKOの活動に影響を及ぼすおそれもあります。【11月3日 NHK】
***************

南スーダン政府軍と反政府勢力による7月の大規模戦闘を受け、国連安全保障理事会は8月、地域防護部隊の派遣を決定、国連施設に避難中の約20万人に加え、施設外での文民保護にも力を入れることとしています。 

国連施設や市民への攻撃を準備していることがわかれば、政府軍を含むいかなる相手であれ、より積極的な武力行使に踏み切る権限を認めたもので、4千人の追加派遣が予定されています。【11月2日 朝日より】

ただ、追加派遣予定の「地域防護部隊」は、ルワンダ、ケニア、エチオピアの近隣3カ国で構成することが計画されていたはずですので、今回のケニア政府の撤退表明で、この「地域防護部隊」も変更を余儀なくされそうです。
ひいては、避難民・住民保護の強化も遅れそうです。

キール派、マシャール派の双方が末端まで兵士を統率できず、複雑化する状況
現地情勢については、従来から言われていた「キール大統領率いる政府軍とマシャール前第1副大統領率いる反政府勢力」という構図が崩れ、両指導者の統制が充分に取れない状況で、いろんな勢力が武力を行使する事態ともなっているようです。

****<南スーダン>紛争の構図複雑化…新たな武装勢力結成****
治安の悪化が伝えられる南スーダンでは、マシャール前第1副大統領派以外にもさまざまな反政府勢力が入り乱れている状況だ。

ここ数カ月、新たな武装勢力が結成され、正体不明の集団による襲撃事件も発生。紛争の構図が複雑化する一方で、民族間の緊張の高まりによる衝突拡大も懸念される。
 
「平和的な手段だけでなく武力闘争も通じて、正統性がない現政権を引きずり下ろす」
地元紙などによると、「南スーダン民主戦線」を名乗る反政府派が10月31日、新たにキール政権の打倒を宣言した。南部エクアトリア地方の住民らで結成。マシャール派をはじめとした他の武装勢力と共闘していくとする声明を出した。
 
「コブラ派」と呼ばれる武装勢力の元司令官も、配下の兵士らを引き連れて政府軍を離反した。内戦下で主要反政府勢力の一つだったコブラ派を率いたヤウヤウ氏は2014年に和平合意に署名。同氏は現在、キール政権の副国防相を務め、先月現地を視察した稲田朋美防衛相とも会談した。
 
だが、今回蜂起した元司令官は「一向に合意が履行されない」と決別を主張。政府軍に統合された元コブラ派戦闘員の給与がまともに支払われていないことにも不満をぶちまけており、600%以上とされる超インフレで政府財政が破綻していることも、政権の求心力低下を招いているようだ。
 
13年末からの内戦は、最大民族ディンカ人出身のキール大統領と、2番目のヌエル人出身のマシャール氏の石油などを巡る利権争いを発端に、民族抗争の様相を呈して拡大した。

ただ、キール派、マシャール派の双方が末端まで兵士を統率できておらず、特に反政府派は「各地の武装集団の連合体的な側面が強い」(国連関係者)とされる。
 
7月に発生した首都ジュバでの大規模な市街戦以降、マシャール派部隊の撤退で首都は小康状態にあるが、地方での衝突は拡大。ジュバと隣国ウガンダを結ぶ幹線道路では襲撃事件が続き「正体不明の武装集団」(地元記者)の関与も指摘される。北部マラカル周辺でも先月中旬、戦闘で56人が死亡するなど不安定な情勢が続く。
 
地元記者は、ディンカ人主体の政府軍兵士による略奪などに対し「約60ある他民族の不満が広がっている」と指摘。先月上旬には武装集団の襲撃を受けたディンカ人の市民21人が死亡する事件が発生している。【11月2日 毎日】
******************

政府軍による暴行・略奪
7月11日にタレインホテルを襲ったのは政府軍兵士だったとされているように、“政府軍”による暴行・略奪も頻発しています。

****南スーダン、やまぬ略奪 国連施設も標的、散らばる車両の残骸****
南スーダンの首都ジュバで7月に政府軍と反政府勢力の大規模な戦闘があった際、国連施設も略奪の被害を受けた。朝日新聞記者が現場を訪ねると、略奪は続いていた。
 
国連世界食糧計画(WFP)によると、ジュバ近郊にある食料保管施設が7月の戦闘時に何者かに襲撃され、22万人の1カ月分にあたる約4600トンの食料や車、大型発電機などが略奪された。記者は1日、WFPの担当者らと現場を訪れた。
 
食料保管施設は大規模な戦闘が行われた地域にあった。周囲の民家は爆風で吹き飛び、道の真ん中に、破壊された政府軍のものとみられる装甲車両が放置されていた。
 
施設の入り口は、政府軍とみられる複数の兵士が警備していた。中に入ると、数百メートル四方の敷地内に数十台の国連の四輪駆動車やトラックがあった。すべてが破壊され、残骸となって散らばっていた。エンジンやバッテリーなどはなくなっていた。
 
「写真を撮るな!」。記者がカメラを出そうとすると、WFPの担当者が険しい表情で止めた。40メートルほど離れた一角で、Tシャツ姿の数十人の男たちがバーナーなどで車両を解体し、鉄板や部品を運びだそうとしていた。周囲では自動小銃を持った十数人の政府軍兵士とみられる男たちが警戒している。
 
兵士らしき男たちがこちらに近づこうとした。WFPの担当者は「すぐ撤収する」と慌てて車に乗り込んだ。敷地を出る際、担当者は「写真を撮っていたら、今すぐ消して。検問所で見つかると命に関わる」と記者に忠告した。

ジュバ中心部に戻ると、担当者は「今回の件については何もコメントできない」と述べた。誰が略奪していたのか、警備していたのは政府軍兵士なのかと問うと「答えられない。目にした光景こそが、今のジュバの現実だ」と述べた。
 
7月の食料保管施設の略奪について、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが10月に公表した報告書は「政府軍兵士と市民の両方が、大型の発電機や車の部品、食料や燃料などを、ナイフでテントを切り裂いて運び出していた」とする目撃者の証言を掲載している。
 
一方、南スーダン政府のアテニー大統領報道官は取材に対し、「なぜ市民を守る政府軍の兵士が、市民の食料施設を襲うのか。アムネスティの報告書はうそだ」と否定した。(ジュバ=三浦英之)
*****************

日本を含めたPKO部隊は、場合によっては政府軍を相手にしなければならない事態も想定されます。
(南スーダン政府は当然に政府軍の略奪を否定していますし、国連南スーダン派遣団(UNMISS)のロイ事務総長特別代表は、“部隊が政府軍と衝突する事態は「全く予想していない」”【11月2日 朝日】とのことですが・・・・)

「戦闘が起きても市民を守れないPKO部隊はいる意味がない」といった現地住民の国連PKOに対する不満・不信も高まっています。【11月1日 朝日より】

日本の自衛隊は施設部隊ですが、危機に瀕した住民にとって、施設部隊か戦闘部隊かの区別はありません。
また、武器を手にして現地にいる兵士としては、虐殺・暴行を目の前にして、人間として行うべきこともあります。

誰かが行うべき住民保護活動であれば、日本としてもこれに参加する責務があると考えますが、事態はPKOで制御可能なレベルなのかどうかの検討も必要とされる状況にもなりつつあります。また、国連として必要される追加措置を速やかにとり、事態を安定化させる方向にもっていく必要があります。

PKO派遣国の偏り
ところで、現在のPKOに人員を派遣している国は、南スーダンも含めて、いわゆる途上国が中心となっています。

****ランキング最上位の諸国****
・・・・ところで、この(国連PKOに軍事要員及び警察要員を派遣している国の)ランキングで常に最上位を占める国々をご存じですか。バングラデシュ、パキスタン、インドといった南アジアの諸国です。

2012年3月末時点のランキングにおいても、バングラデシュが1位で10,245名、2位がパキスタンの9,401名、3位がインドの8,134名となっています。実にこの3ヶ国で、全世界に展開している国連PKO軍事・文民警察要員の28%を占めていることがわかります。(中略)

その次に国連PKOに部隊を派遣している国としては、エチオピアやナイジェリアといったアフリカ諸国やエジプト、ヨルダンといった中東諸国が多く、その後南米諸国や東南アジア諸国もランキングに顔を出しています。【2012年4月13日 志茂 雅子氏 「内閣府」HP】
*********************

****2003年以降の主要要員派遣国の変容****
・・・軍事・警察要員数及びミッション総予算といった量的規模からみると、国連PKOが持続的に拡大するようになったのは1999年以降のことです。
 
1999年以降の国連PKOの持続的拡大の背景で、国連加盟国間の政治関係上、重要な変化は、2003年以降、主要要員派遣国が南アジアとアフリカの途上国で占められるようになった点です。

2003年以前の国連PKO主要軍事・警察要員派遣国は比較的に西側先進国で占められていました。冷戦期の国連PKOの主要要員派遣国はオーストラリア、オーストリア、カナダ、デンマーク、フィンランド、アイルランド、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデン等の西側先進諸国が中心でした。
 
なお冷戦期の国連PKOでは、安保理常任5理事国( P5)は要員を派遣しないことが原則とされていました。P5の構成は中国、フランス、イギリス、アメリカ、ロシアです。冷戦期に国連PKOが展開された紛争案件ではP5が直接的な紛争当事者であった場合があり、また大国の関与がミッションの中立性を害するとの懸念がありました。

(中略)しかしP5の中から上位10位の主要要員派遣国の中に入ったのは、2006年にフランスが第10位(1,988名)であった以降はみられず、また西側先進国が上位10位以内に入った事例は基本的に2003年以降あまりみられなくなりました。
 
2000年8月のブラヒミ報告でも指摘されたように、西側先進国は北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)等の地域機構の枠組みを通じた要員派遣に重点を置くようになりました。

またP5の場合、国連PKOに対しては、イギリス軍部隊のシエラレオネ国連ミッション(UNAMSIL)との共同オペレーション、またはフランス軍部隊の国連コートジボワール活動(UNOCI)への支援等、国連の指揮権に入ることなく、国連部隊と並行して展開する自国部隊が国連PKOミッションと協力する形態がみられるようになりました。
 
このような中で、2003年以降、南アジア・アフリカ諸国が西側先進国に代わって国連PKO軍事・警察要員派遣国上位10位を占めるようになりました。

さらに、軍事・警察要員の総数自体、約10万名規模までに増加する傾向にあり、要員を派遣する加盟国の数も増加し国連193加盟国中100か国以上が要員貢献を行っている状態になっています。

また軍事・警察要員の死傷者は2003年以降、100名を超えようになってきました。1999年以降の国連PKOでは「強靭な(Robust)」実力行使(武器使用)権限が付される傾向がありますが、国内紛争への国連PKOの介入について、積極的な先進国(北)と消極的な途上国(南)という従来から指摘されてきた二極対立からは説明できない政治潮流がみられるようになりました。

つまり、「強靭な」実力行使権限を持った国連PKOが、それに消極的といわれる途上国が多く派遣する軍事・警察要員によって大規模に展開されるようになったのです。【2014年5月16日  都築 正泰氏 「内閣府」HP】
*********************

途上国にとってPKO派遣は外貨稼ぎの手段となっているとも言われますが、こうしたPKO参加国の偏りも現在のPKOが十分に機能していない原因のひとつのように思えます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする