孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  行動力自慢のモディ首相による突然の高額紙幣使用停止  深刻な大気汚染と水質汚染

2016-11-18 22:19:13 | 南アジア(インド)

(インド東部のコルカタで、500ルピー札と1000ルピー札の預け入れや交換を求めて銀行の外に並ぶ人々(2016年11月10日撮影)【11月13日 AFP】)

政府「みなさんなら国家のためにやり遂げることができる」 国民「もう与党には投票しない」】
多くの途上国も同様でしょうが、インドも政府が把握していない資産や所得、いわゆる“ブラックマネー”が膨大な規模で存在しています。

国民は政府を信用しておらず、納税意識も低く、一方、政府は税収不足で十分な施策もできない・・・大規模な地下経済、ブラックマネーの存在は、途上国が途上国である所以でもあります。

モディ首相は、9月までの4か月間に、これまでの秘匿に対する恩赦を与えることで自発的な申告を促していました。

****インド人の隠し所得は総額1兆円、政府の恩赦で申告相次ぐ****
インドで、ナレンドラ・モディ首相のもと、政府がブラックマネーを撲滅する目的で実施した「税金恩赦(タックス・アムネスティ)」にもとづく国民たちからの申告で、隠し所得の総額が100億ドル(約1兆130億円)近くに上ることが分かった。
 
アルン・ジャイトリー財務相は1日、ニューデリーでの記者会見で、9月30日に終了した4か月間の恩赦期間中に、それまで明かしていなかった資産や所得があるとの申告が6万4275件あり、その総額は6525億ルピー(約9930億円)に上ると明らかにし、「これほど多くの人々が申告したということは、大勢の人たちが税法を順守したいと望んでいることを示している」と述べた。

集計作業が完了すれば、この数字は上方修正される可能性もあると語り、追加の歳入は公共福祉政策に役立つだろうと付け加えた。
 
インドの納税者数は驚くほど少ない。確定申告をする人は全人口13億の2.5%程度だ。主な要因は、組織化されていない産業分野に雇用されている膨大な数の人たちに、現金で報酬が支払われているためだとされてる。【10月2日 AFP】
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この「税金恩赦」による隠し所得探しとどのように連動しているかは知りませんが、モディ政権が今月、突然の高額紙幣の廃止決定という荒療治に出ていること、それによりインド国内で大混乱が起きていることは周知のところです。

****インド首相「高額紙幣、4時間後に無効」 混乱は必至****
インドのモディ首相は8日夜、テレビ演説し、高額紙幣の1千ルピー(約1600円)札と500ルピー(約800円)札を演説の約4時間後から無効にすると突然、発表した。
偽造紙幣や汚職、資金洗浄などの根絶が目的。

旧紙幣は10日以降、銀行などでいったん預金した後で、新紙幣で引き出せるとしているが、混乱は避けられそうにない。
 
新紙幣は2千ルピー札と500ルピー札の2種類。旧紙幣での預け入れは「1週間に2万ルピー(約3万2千円)まで」などと上限が設けられている。地元テレビは、発表の直後から、使用不能になる高額紙幣を現金自動出入機(ATM)で預金してしまおうと、銀行に人々が殺到する様子を伝えている。
 
政府系の病院や鉄道、ガソリンスタンドなどでは例外的に引き続き旧紙幣を使えるとしているが、ニューデリー市内のスタンドは高額紙幣の受け取りを拒否し始めた。
 
モディ氏は偽造紙幣がテロの資金源になり、インフレの原因になっているとして、「一時的に困難はあるが、みなさんなら国家のためにやり遂げることができる」と忍耐を求めた。
 
ただ、中央銀行の当局者は記者会見で「最初の15〜20日は混乱が予想される。とにかく新紙幣を刷り続ける」と、準備が整っていないことを暗に認めている。【11月9日 朝日】
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行動力が自慢のモディ首相の剛腕ぶりはさすがですが、「みなさんなら国家のためにやり遂げることができる」・・・・こんなときだけ持ち上げられても困ります。

“4時間後から無効”になると言われればパニックにもなりますが、銀行での交換は1回4000ルピー、旧紙幣での預け入れは「1週間に2万ルピー(約3万2千円)まで」ということでは、対応も難しいものがあります。当然、銀行は長蛇の列です。

準備が整っておらず「とにかく新紙幣を刷り続ける」とのことですが、新紙幣との交換期間は12月30日までとされています。

“紙幣不足を防ぐため、銀行の交換は1回4000ルピー(4500ルピーとの報道も)、預金の引き出しは1週間2万ルピーに制限。このため手持ちの現金が足りなくなる人が続出し、混乱に乗じて旧紙幣を安く買う闇業者も出始めた。また南部テランガナ州では土地を売って得た現金540万ルピーが無価値になると思い込み、女性(55)が自殺した。”【11月12日 毎日】

インドを観光旅行した際に、南部のトリヴァンドラムの銀行で両替を行ったことがありますが、あまりの非効率ぶり(途中で停電の“おまけ”付き)に、非常に困惑・憤慨した記憶があります。
(今回措置で、私が持っている前回旅行の使い残し紙幣1000ルピー、500ルピー札各1枚も無効となりました。残念)

非効率な銀行職員ではなく、ATMが相手してくれればまだ救われますが、それも難しい状況のようです。

****高額紙幣を廃止のインド、ATM調整には数週間 財務相****
・・・・国内のATMの多くは11日に停止し、サービスを継続していたATMも大勢の人々が利用したため、たちまち現金がなくなった。
 
ジャイトリー財務相は技術的な問題を理由に、ATMが新デザインの500ルピー札と新2000ルピー(約3200円)札を取り扱えるようになるのは数週間後だと説明。首都ニューデリーで記者団に対し、「技術的に調整に約2~3週間かかる。中央制御を切り替え、約20万台の機器を個別に変更する必要がある」と述べ、「新紙幣はサイズが違うので、機器の調整は時間をかけて行われている」と付け加えた。(中略)
 
銀行での長蛇の列と人々の混乱は、政府がなぜ問題を早期に解決しなかったのかと疑問を持つ人々の怒りを招いている。【11月13日 AFP】
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抜き打ちで行うところにブラックマネー対策の意味もあるのでしょうが、これでは市民生活がまわらなくなります。
さすがに、一部で緩和措置がとられたようですが、一般の人々の交換上限は更に引き下げられ、しばらく混乱は続きそうです。

****高額紙幣廃止で混乱のインド、結婚式控えた世帯と農家に特例措置****
高額紙幣の廃止で国民の不満が高まっているインドで17日、政府は、農業従事者と結婚式を控えている世帯に限り、銀行からの現金引き出し額の上限を引き上げるという新たな措置を発表した。
 
先週、流通していた現金の85%を占めていた紙幣を廃止するという衝撃の発表が行われて以来、銀行前には旧紙幣を新紙幣に交換しようという人々が長蛇の列を作っている。

12億人の人口を抱える同国では結婚式シーズンが近づいており、結婚式の予定にも混乱が生じている。(中略)
 
一方、高額紙幣の廃止は農業にも影響を及ぼしている。農家は冬季の種まきシーズンが近づいているにもかかわらず、種や肥料の購入がままならないと訴えている。(中略)
 
同時に、上記に当てはまらない国民にとってはさらなる打撃となる方針も示された。ダス氏(財務次官)は、個人の旧紙幣から新紙幣への交換上限を、これまでの4500ルピー(約7200円)から2000ルピー(約3200円)に引き下げると発表。これは、より多くの人が少なくともいくらかの現金を持てるようにという配慮だと説明している。【11月17日 AFP】
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「銀行口座がないので預金もできない。もう与党には投票しない」(1万ルピーのへそくりを抱える主婦)【11月12日 毎日】という怒りで、政権支持率にも影響しそうです。

なけなしの資金をタンス預金していた庶民はパニック状態ですが、大富豪は少しも困っていないようです。

****娘の結婚式に82億円 高額紙幣廃止で混乱のインド大富豪****
高額紙幣の廃止決定に揺れるインドで16日、鉱山王ガリ・ジャナルダン・レディ氏が、王宮を貸し切り、ブラジルからダンサーを招くなど、7500万ドル(約82億円)をかけて娘の結婚を祝った。
 
インド南部にあるチューダー様式を模したバンガロール宮殿には最大5万人の招待客らが、同日ヒンズー教の儀式で結婚したレディ氏の娘を祝うために集まったとみられている。
 
地元メディアは、政府が脱税対策として高額紙幣の流通を停止した影響で、多くの国民が食料などを買うための現金を求めて困窮している状況下でのレディ氏の浪費を非難した。
 
一方あるレディ氏の関係者は、この浪費について、一人娘の結婚式をみんなの記憶に残してもらいたかったからだと、同氏を擁護した。【11月17日 AFP】
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【「外はまるでガス室だ」「1日にタバコを2箱以上吸うのに等しい」】
毎年、この時期になると中国大都市の深刻な大気汚染が話題になりますが、インドの汚染は中国以上です。

****まるでガス室」インド・デリー首都圏の大気汚染****
インド・デリー首都圏のアルビンド・ケジリワル首相は5日、近年最悪規模の大気汚染に見舞われている同首都圏で1800校が休校したことを受け、「まるでガス室」と述べた。
 
首都ニューデリーはこのところ厚いスモッグに覆われており、この危機を打開すべく地元当局と中央政府が協議している。
 
ケジリワル首相は「この15~20日で汚染はいっそう深刻化しており、外はまるでガス室だ」「現在の汚染の主要因は近隣州での刈り株の焼却だ」と述べた。
 
ニューデリーの大気環境は、ディーゼルエンジンや石炭火力発電所、産業排出物などが大気汚染をもたらす急激な都市化の結果、年を追うごとに悪化している。【11月6日 AFP】
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“ニューヨーク・タイムズ紙によれば、ニューデリーの大気汚染はここ17年で最悪の規模で、人体に及ぼす影響は1日にタバコを2箱以上吸うのに等しい”【11月11日 NATIONAL GEOGRAPHIC】

首都ニューデリーで5日、小学校約1800校が休校を命じられた措置は、10月30日の夜にヒンズー教の光の祝祭「ディワリ」が行われ、これを祝うために数百万発の爆竹に火が付けられ、街がスモッグに覆われたことによるものともされています。【11月5日 AFP】より(そんなに何日も影響が残るものなのでしょうか?)

基本的には“ニューデリーの大気環境は、ディーゼルエンジンや石炭火力発電所、産業排出物などが大気汚染をもたらす急激な都市化の結果、年々、着実に悪化している。他にも同市の大気汚染の原因として、大気粉じん、郊外の農場での刈り株の焼却、都市貧困層が冬に暖を取ったり料理をしたりするときのたき火などが挙げられている。”【11月5日 AFP】という環境悪化がベースにあります。

こちらも、紙幣切り替え並みの断固たる措置が必要なようですが、経済成長重視との兼ね合いでどうでしょうか・・・・。

過剰な火葬、不法投棄、水泥棒、役人の汚職、イスラムとの対立・・・・多くの要因が絡んで「地獄の風景」も
汚染されているのは大気だけでなく、“聖なる河”ガンジスの水質汚染も深刻です。モディ首相はガンジス川浄化を公約していましたが・・・・。

****汚染で死にゆく「ガンジス川****
地球環境にとっての大きな脅威に
インドの大河ガンジス川が瀕死の状態に陥った。深刻な水質汚染に加えて、近年は極度の水不足に陥り、河口のあるバングラデシュでは、海水面上昇が大きな懸念材料だ。

モディ首相は「ガンジス川浄化計画」を打ち出し、日本政府も協力を約束しているが、大河をめぐる各種利権に「水マフィア」が群がり、川を救う作業をいよいよ難しくしている。

汚水の七割が未処理のまま流入
ガンジス川はヒンドゥー教徒にとって「聖なるガンジス」であり、聖地ヴァラナシ(ベナレス)は年中、巡礼者や観光客でにぎわう。「ガンジスで死ぬ」ことは、ヒンドゥー教徒にとって特別な意味を持つとされている。
 
このため、ガンジスは太古から、「死の川」だった。ヴァラナシはもちろん、川沿いの各地に火葬場、葬儀屋がひしめき、「死」はこの川の一大産業だ。
 
ところが昨年一月、ヴァラナシから約四百キロ上流のウナオという村で、異様な事件が起こった。百を超える人間の遺体が、この村の川に漂流してきたりして、たまったのだ。そこに多数のハゲタカ、カラス、野良犬が群がって、「地獄の風景」(地元テレビ)を現出したのである。死臭のすさまじさは、近隣集落に及んだ。
 
地元の人は原因がよくわかっていた。「火葬の費用を出せない人のため、特殊な業者が引き受けて、川に遺棄していた」(同)からで、ここ数年の水不足によって、遺体が流れず、たまってしまったのだ。
このおぞましい事件で、ガンジス川汚染問題は世界中が改めて知るところとなった。
 
インド政府が把握しているだけで、ガンジス川に流れ込む各種の汚水は、三〇%しか処理されていない。七割が未処理だ。
 
糞便性大腸菌は政府の基準の四百四十倍。これに産業廃棄物の大規模な不法投棄が各地で行われるため、川の汚さは並大抵ではない。国連や各種環境団体は、「世界で最も汚染された川の一つ」としているが、ある邦人研究者は「単純比較はできないが、支流のヤムナ川と併せて、世界一汚いだろう」という。(中略)
  
歴代政権はもちろん、汚染の深刻さを知っていた。一九九〇年代のナラシマ・ラオ首相は各地に浄水施設を建設し、二〇〇〇年代後半にはマンモハン・シン首相が対策に取り組んだ。二〇〇九年には、「ガンジス川流域局」が設置されたものの、汚染は拡大し続けた。
 
行動力が自慢のナレンドラ・モディ首相は一昨年の就任後、「私には実績がある」として、向こう五年間で三十億ドルをかけて、国家事業として取り組むことを宣言した。さらに「二〇二〇年までに、ガンジス川に流れ込む水の処理率を一〇〇%にする」という目標を掲げた。
 
実績とは、グジャラート州首相時代に、州最大の都市アーマダバードを流れるサバルマティ川を「浄化した」ことだが、実際には州都の川沿いに木を植えて遊歩道を作った程度で、水質は「浄化した」とはいいがたい水準が続いている。
 
モディ首相は一昨年の訪日時に、日本側に協力を要請した。インドを重要な戦略パートナーと位置づける安倍晋三首相は円借款による協力を約束した。
 
だが、その後はインドの干ばつが加わり、全土で水不足が深刻化(本誌、今年六月号)。ガンジス川は汚物がますます増えたばかりか、水不足にも悩まされるようになり、特に下流のバングラデシュでは、海水面が上昇してベンガル湾の島や沿岸地方が急速に水没するという事態になっている。

浄化を妨げる「水マフィア」
ガンジス川の汚染と水不足を加速させるのは、流域の各地に巣食う「水マフィア」「投棄マフィア」の存在だ。
 
首都デリーに住むジャーナリスト、アマン・セティ氏は、水不足の中で河川や井戸から違法に取水する「水泥棒」の実態を調べた。

彼らは深夜に、トラック二十台ほどの車列で取水場にやってきて、十五分足らずの間に一万リットルほど吸い込んで、闇市場に回すという。「タンクに水を満載すれば、九十ドルくらいになる。デリーの労働者の平均月収は百六十五ドルだから、一カ月働けば相当なもうけだ」と指摘する。
 
水需要はタイトになる一方で、最近はデリーに外国企業が多数進出していることもあり、水の市場はもはや「闇」とさえ言えないほど、公然化している。
 
遺体処理業者が川に投棄することは前述したが、産業廃棄物、生活ゴミの投棄も各地で日常化している。「業者は多額の賄賂で地方官僚を抱き込んでいて、取り締まりを逃れている。

中央政府がどれだけ『浄化』といっても、この『システム』を除去しない限り、きれいな川を取り戻すのは不可能だ」と、インド人記者は指摘する。火葬された人間の灰も、あまりに多量なため、汚染原因の一つになっている。
 
この結果、ガンジス川は飲料用としてはもとより、水浴や洗濯にさえ適さない。インドの「エコノミック・タイムズ」紙は、「川というよりは、汚水路といったほうが適切」と評し、ヒンドゥー教徒が行う聖地ヴァラナシでの沐浴は「もはや生命に危険」とする。
 
事態を複雑にするのは、浄化作業の司令塔であるはずの、ウマ・バルティー水資源相。長い正式な職名には、「ガンジス川再生」も付き、モディ政権の浄化にかける意欲を示している。

この人物は強硬なヒンドゥー教至上主義者で、若い頃から実力行使をいとわなかった女闘士。一九九二年にアヨーディヤで起こったイスラム教寺院の破壊事件にも加わった。この事件以外にも、イスラム教徒への暴力事件で複数の起訴、逮捕状が出ている。

「ガンジス川再生相」としては、「汚染業者の取り締まり」を掲げ、流域の製革業者に高額の「浄化税」を命じた。皮なめしは大量に水を使う仕事で、ガンジス川流域にも古くから製革業が根付いていた。
 
ところが、現在の製革業者はほとんどがイスラム教徒。彼らは「川の浄化は名目で、本当の目的はイスラム教徒迫害だ」と強く反発し、支払いをボイコットするなど中央政府との対決姿勢を強めている。
 
何でも政治問題化、宗教問題化するのは、現代インドの宿命。とはいえ、ガンジス川が死にゆくことは、地球環境にとって大打撃で、もはやインド一国の問題を超えている。一日十二億リットルと推計される汚水は、人類にとって大きな脅威。早急な国際的取り組みが必要だろう。【11月号 選択】
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トイレ問題などと同様に、断固たる意志と息の長い取り組みが必要ですが、地方役人の汚職、更には、記事最後にあるような宗教問題が絡むと難しいものが出てきます。まあ、これもインドのインドたる所以でしょうか。
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