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(2日、中国による基本法解釈に反対する人たちの抗議デモ 【11月4日 朝日】)
【香港で高まる「反中国」の大きなうねり】
行政長官選挙の民主化を求めた2014年の大規模デモ「雨傘運動」挫折の後の初めての議会選挙となる9月4日に行われた香港・立法会(議会、定数70)選挙には、香港独立をも主張する若者たちが立候補。
更に、選管が「香港は中国の一部」などと定めた香港基本法を守るとの「確認書」への署名を候補者に迫り、独立などを訴えてきた本土派候補6人の立候補を取り消すなど、異例の展開となり注目を集めました。
従来の民主派支持票が民主派と、より過激な本土派に分散することで、民主派が重要議案を否決できる3分の1を維持することができるか危ぶまれましたが、共倒れを防ぐための民主派側の候補者調整などもあって、結果は親中派が議席を減らして民主派が3分の1を維持。
また、香港中心の立場で独立も選択肢とする「青年新政」ら本土派が3議席、雨傘運動の元リーダーらの政党「香港衆志」の羅冠聡さん(23)の史上最年少当選など自決派も3議席を獲得しました。
****香港民主派、3分の1維持 苦戦一転、立て直す 議会選*****
・・・・今回は行政長官選挙の民主化を求めた2014年の大規模デモ「雨傘運動」の後、初めての立法会選。中国側から提案された選挙制度改革法案を「ニセの普通選挙だ」と批判して跳ね返した民主派は、苦戦していた。
原因は、運動中からくすぶっていた民主派内の路線対立だ。大規模な抗議活動でも中国や香港政府から譲歩を引き出せず、中国との対話路線をとる既存の民主派に若者らが失望。中国からの独立も選択肢とする本土派が支持を広げ、民主派内で票を奪い合う構図になった。
だが、投票日直前、民主派内で支持率が低迷していた6人が「票の分散を防ぐ」として棄権を表明。市民の間にも危機感が広がった。結果的に投票率は前回から約5ポイント上昇し、香港返還以降で最高の58%を記録した。
■反中国、本土派3議席
「香港人の将来について議論していきたい。香港人は主権について議論する言論の自由がある」
当選した本土派「青年新政」の游ケイ禎さん(25)はそう語り、立法会で将来の香港のあり方について議論する意向を示した。
本土派に激しい不快感を示す中国政府の意向を受け、香港政府は今回、なりふり構わぬ措置をとった。選管は、「香港は中国の一部」などと定めた香港基本法を守るとの「確認書」への署名を候補者に迫り、独立などを訴えてきた本土派候補6人の立候補を取り消した。
それでも、3人が当選。若者に広がる「反中国」意識の根深さを印象づけた。
ただ、民主派内にも独立や暴力を容認する本土派への抵抗感は根強く、理念先行で具体的な政策が乏しい本土派が議会でできることも限られる。中国政府の香港マカオ事務弁公室は5日、「選挙を利用して公の場で独立を訴えた組織がある。中国の憲法や基本法に反し、国家の安全に危険を及ぼすものだ」と警告した。
来年3月には香港トップを決める行政長官選挙があり、親中派の梁振英氏が再選されるかが当面の香港の政治課題。同7月には返還20周年も控えており、中国からの締め付けや管理が強まる時期に、民主派が力を発揮できるかが問われる。
■過激主張、背景に閉塞感
倉田徹・立教大法学部准教授(香港政治)の話
過激な主張をする本土派が議席を得た背景には、若者の間に広がる閉塞(へいそく)感が大きい。雨傘運動が挫折し、民主的な普通選挙実現の道筋が描けなくなった。
書店関係者の失踪事件などで「一国二制度」への危機感も高まっている。中国大陸との経済的融合は進んだようにみえるが、実際には中国企業や大陸出身者が優遇され、香港の若者は職探しに苦労している。現実の可能性を閉ざされた悲観や絶望が、実現不可能にみえる「理想」に若者を走らせている。
■政治の混乱続く可能性
蔡子強・香港中文大学高級講師の話
香港返還以降で、自決や独立が初めて争点になった立法会選挙だった。「一国二制度」で高度な自治が認められているはずなのに、中国や香港の政府が「一国」を押しつけ、市民の強い反感を買った結果だ。
香港生まれの若い世代は、祖父母や親の世代と違って中国への思い入れが薄く、強大になった中国を覇権的だと感じている。本土派の政策はつたなく、独立を支持する市民は多くないが、中国が強硬な政策を続け、香港人の声を無視する限り、政治の混乱が続く可能性がある。【9月6日 朝日】
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【本土派議員宣誓問題の混乱】
“政治の混乱が続く”というのは皆が予測するところでしたが、来年3月の香港トップを決める行政長官選挙を待たず、議会開催入口の「宣誓」をめぐり大揉めの状況となっていることは報道のとおりです。
****香港で大規模デモ、宣誓で反中発言の議員の資格はく奪求める****
2016年10月26日、環球時報によると、香港の立法会前で同日午前、1万人規模の抗議デモが起き、立法会の宣誓時に反中発言をした議員らの議員資格はく奪を求めた。
今月12日、香港の議会に当たる立法会が新たに開会。議員らは規則に従い、「香港は中国の不可分の一部」と定めた香港の憲法に当たる基本法を守ることなどを宣誓したが、一部の新任議員が英語の宣誓文の「China」の部分を広東語の「支那」と発音し、「香港は中国の一部ではない」との垂れ幕を掲げた。これにより梁頌恒(リアン・ソンヘン)氏、游●禎(ヨウ・フイジェン、●は草かんむりに惠)氏は宣誓が無効と判断された。
宣誓文をゆっくり読んだことや宣誓文の漏れや不適切な追加を行ったとしてさらに3人が宣誓無効とみなされ、19日の再宣誓で2人が宣誓を終えたが、1分ほどで読み上げられる文章を12分ほどかけ読み上げた劉小麗(リウ・シャオリー)氏と梁氏と游氏の3人は親中派議員の一斉退場により再宣誓が阻止された。梁氏と游氏は反中発言が目立ったため、批判は2人に集中している。
3氏の再宣誓は当初26日に予定されていたが、立法会の梁君彦(リアン・ジュンイエン)主席は延期を発表。それでも26日には梁氏、游氏に抗議するため1万人余りの人が集まり謝罪と議員資格のはく奪を求めた。同様の動きはネットでも行われすでに110万人の支持を得ている。
一方、梁氏、遊氏の2人は宣誓を終えていないため議会への参加は認められていないが、26日両氏は民主派の協力のもと議会に乱入し、結局議会が中止になってしまった。
両氏は親中派の宣誓阻止や再宣誓を延期させた梁主席に現在の局面を作り上げた責任があり、来週水曜日に予定されている議会でも再宣誓のチャンスを得るべく議会に乱入する可能性を示唆している。【10月27日 Record china】
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“本土派政党「青年新政」の新人議員二人は、英語の宣誓式で「リパブリック・オブ・チャイナ」(中華人民共和国)と読むべきところを「リ・ファッキング・オブ・シナ」と読み上げた。”【「選択」11月号】とのことです。
これに対する親中派などの批判が高まりました。
“北京と香港の交流促進を目的とした非営利団体・香港専業人士(北京)協会は、「中国人であるかどうかは自由であり、嫌なら国籍を変えればいい。だが、先祖や民族を侮辱することには間違っている」と謝罪を求めた。
さらに、大学教授や歴史博物館館長など有識者200人が連名で署名した声明文を発表。声明文では「支那」の表現を厳しく批判し問題となった議員を「思いあがった無知な若者」とし公開謝罪を求めた。”【10月18日 Record china】
まあ、「リ・ファッキング・オブ・シナ」では、怒り狂う人々が少なくないのは想像できます。
日本でも「支那」は現在では差別的ニュアンスが強い言葉ですが、香港でも同様のニュアンスがあるのでしょうか?
11月2日には本土派2氏が再宣誓を求めて議会へ“突入”、負傷者が出る混乱ともなりましたが、再宣誓は認められていません。
香港政府は本土派2氏の宣誓は香港基本法(憲法)に違反し、議員資格を失ったとして司法判断を求めています。
****<香港>議員資格巡り司法審査開始****
香港立法会(議会)で香港独立を志向する「本土派」の政党「青年新政」の2議員の就任宣誓が無効とされた問題で、高等法院(高裁)は3日、2氏の議員資格に関する審理を開いた。香港政府が2氏の宣誓は香港基本法(憲法)に違反し、議員資格を失ったとして司法判断を求めたため。
香港メディアによると、審理では、政府、立法会議長、2氏のそれぞれの側から意見を聞いた。2氏側は「司法が介入すべきではない」などと反発した。意見聴取はこの日で終了し、後日判断が示される。(後略)【11月3日 毎日】
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【前面に乗り出す中国】
更に、梁振英・行政長官は11月1日、本土派議員をめぐる政治的混乱を収拾させるために、基本法の解釈を中国政府に求める可能性を示唆していましたが、実際、4日に中国全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会が香港基本法(憲法に相当)の解釈を行うと発表、混乱収拾というか、本土派処分に中国自身が乗り出す構えです。
****香港議員宣誓で法解釈へ=反中勢力排除狙う―中国****
香港政府は4日、香港独立を視野に入れる反中国勢力「本土派」の立法会(議会)議員2人の就任再宣誓を認めるかどうかに関し、中国全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会が香港基本法(憲法に相当)の解釈を行うと発表した。
中国は独立の主張を容認しない強硬姿勢を示しており、2人の議員資格取り消しにつながる判断が出る公算が大きくなった。
現地メディアによると、全人代常務委は5、6の両日に討議を行い、7日に解釈を採択、公表するという。常務委は基本法の解釈権を持つ。(中略)
香港政府は3日、2人の議員資格剥奪を求めて高等法院(高裁)に申し立てたばかりだが、高裁は常務委の法解釈に従って判断を下すことになる。今回は香港側の要請ではなく、中国側が解釈することを自発的に決めたと報じられている。【11月4日 時事】
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香港各紙が6日、一斉に、「全人代常務委員会が7日に結論を公表する際「処分」も明示する方針を固めたもようだ」と伝えています。2議員の議員資格取り消しにつながる判断が下されるとみられています。
中国が前面に立てば、中国への批判も当然強まります。日和見な私などは「もし、自分が中国の立場だったら、香港世論をことさらに刺激しないしないように、香港自身の手で処分させた方が・・・」とも考えるのですが、中国としては“譲れない一線”に関し断固たる姿勢を示す方針のようです。
【人民解放軍の投入を躊躇はしない中国 「衝突」を待ち望む独立支持派】
議会での議論に入ることなく、入り口段階で失職というのは、本土派議員にとっては「やっちまった」感もあるのでは・・・とも、日和見な私などは考えるのですが、香港独立という“実現不可能にみえる「理想」”を実現するためには「混乱状態」を前提とするしかなく、その意味では、「中国によって議員資格を剥奪される」という状況は、「混乱」にむけた一段階として、案外彼らの望むところかのかも。合法的な議論をしている限り、中国は絶対に香港独立などは認めませんので。
****香港「一国二制度」は 崩壊の瀬戸際****
独立派弾圧で「中国軍」が投入される日
香港が、壊れつつある。
「香港独立」を主張する勢力の台頭が止められない流れになっているからだ。北京の中央政府は香港の独立派を、チベットやウイグルの反政府勢力並みの危険集団と位置づけ、弾圧のために静かに牙を研ぎ始めた。鎮圧に解放軍が投入されるXデーの到来が、にわかに現実味を帯びてきている。
香港人とは、かつては「香港にいる中国人」であった。それがいまや単なる「香港人」に変わろうとしている。そこに香港問題の本質がある。
分水嶺は二〇一四年だった。香港で爆発した雨傘運動。超高層ビルが立ち並ぶ香港島の金融街を数カ月にわたって占拠した若者たちの要求は、結局、何一つ叶えられなかった。
だが、その中で芽生えた一つの思想があった。「香港独立」である。当初は誰もが「夢物語」として笑い飛ばしていたが、今年九月の香港立法会選挙は、そんな甘い見方が覆った瞬間だった。
香港の選挙では、いわゆる親中派である「建制派」や、反対勢力の「民主派」はほとんど議席を伸ばせなかった。活躍が目立ったのが雨傘運動から巣立った「本土派」あるいは「自決派」と呼ばれるグループだ。
票数にして二〇%もの得票を集めたのだから、単なる一過性の跳ね返りと軽視はできない。香港政界はいまや親中派、民主派、本土・自決派の三勢力鼎立の時代に入った。
「衝突」を待ち望む独立勢力
(中略)(本土派)二人に対して、議員資格のはく奪を求める声が上がり、中国のタカ派新聞「環球時報」が「彼らが香港独立を広めようとしているのは明らかであり、これは立法委員としての政治的な限度を超えたもので、議員資格を取り消す法的義務がある」と嚙み付いている。
これは、習近平・国家主席にとって、到底座視できない事態である。
習近平体制の国内政策の特徴は「軟的更軟、硬的更硬」(相手が歩み寄れば優しく接し、相手が歯向かえば厳しく対応する)というもの。ドゥテルテ・フィリピン大統領や一時期の朴槿恵・韓国大統領への歓待ぶり、反対に蔡英文・台湾新政権への冷たい対応などからもその点は明らか。もし香港が本気で独立に向かうのなら、習近平は国家分裂の阻止に人民解放軍の投入を躊躇はしないだろう。
香港の独立勢力もこうした「衝突」を待ち望んでいるフシがある。独立派の活動家たちはこう口をそろえる。「衝突以外に何か選択肢があるのか」。
中国は香港に普通選挙を与える約束を破った。メディアや企業はどんどんチャイナマネーで共産党の「紅」に染まっていく。独立を掲げて街頭に飛び出し、人民解放軍を招き入れ、鎮圧の悲劇によってからしか、新生香港が生まれないと考えるのである
人民解放軍の介入は、決して荒唐無稽な空言ではない。香港の雨傘運動のとき、香港政府は中国の出先機関・中聯弁を通して、北京に解放軍の投入を打診していたと、最近、複数の香港メディアが報じている。
最終的には習近平指導部が投入を却下したとの話も伝わる。当然の判断であろう。解放軍の投入は中国による香港の一国二制度の破綻を意味し、その影響は香港だけにはとどまらない。
だが、不穏な空気を察した人々は、資金や人材、企業の本部を続々と香港からシンガポールに逃避させているとささやかれている。チャイナリスクならぬホンコンリスクがいまや真実味を帯びつつあるからだ。
「港独」のタブー化
香港の一国二制度は「五十年不変」を約束された。二〇四七年の香港返還五十年で住民投票を実施し、香港が中国にとどまるのか、あるいは、別の道を歩むのか、決めるという考えだ。そこで、香港に対して今よりも大きな「自治」を与えることを求めようという主張である。独立に比べて穏健ではあるが、中国がその時点でどう考えるのか、まったく保障がないことがこの現実論の弱点である。(中略)
実際の香港で起きているのは「本土」ではなく「港独」のタブー化である。香港では、いま最も過激なのは、大学生ではなく、高校生や中学生と言われる。各学校では「本土関注組」というグループができ、香港独立の思想をお互いが語り合っている。
そのグループが、今年九月の新学期の開始にあわせてメンバーが各学校でビラを配ったところ、学校側が取り締まりを行い、言論弾圧ではないかと香港社会を大きく騒がせた。「香港独立」を禁止用語にするべきだと、香港の中国寄りの新聞では、そんな社説や論評が溢れる。
香港の知識人たちは、こう話す。
「独立という思想がいいか悪いかは別にして、独立という思想を語る自由を守らなくてもいいと考える香港人がいることが恐ろしい」
香港には、英国以来の「放任主義」の自由という伝統がある。批判も自由。お追従も自由。それが、香港で外国人が国際金融や貿易を安心して営める基礎である。だが、いまの香港は、お追従は自由だが、批判は不自由という状況に追いやられている。
「
高度な自治」という香港の根幹を揺るがす「香港独立」に対する厳格な取り締まり。見えてきた「一国二制度」の崩壊―。香港に降り注ぐ不安の雨は、雨傘運動から二年を経たこれからも当分降りやむことはないだろう。【「選択」 11月号】
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“独立を掲げて街頭に飛び出し、人民解放軍を招き入れ、鎮圧の悲劇によってからしか、新生香港が生まれない”というのは穏やかならざる話ですし、“鎮圧”で何が生まれるのかも疑問です。(中国では、天安門事件鎮圧後、何も生まれていません)
ただ、先述のように、議会で合法的な議論をしている限り、中国は絶対に香港独立などは認めませんので、そうした「混乱」に賭けるという思いは分からないではありません。(生活第一の一般市民からの広い支持は得られませんが)
中国・習近平政権、本土派・・・お互いが一歩も引かず「衝突」やむなしで突き進むことになるのでしょうか。