孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  新型コロナウイルス対策を“追い風”に、「中国切り離し」を進める蔡英文政権

2020-03-07 22:57:15 | 東アジア

(指定の薬局で政府支給のマスクを受け取る。5日からは1枚多くなった。【3月5日 田中美帆氏 YAHOO!ニュース】)

【政権支持率 前月比11.8ポイント増】
新型コロナウイルス対策に追われる世界各国、(日本を含め)その多くは後手に回っている、充分な対応が出来ていない・・・と国内的には不評ですが、今のところ効果的な対応を行っていると国内評価が高いのが台湾とシンガポール。

今日はその台湾の話題。

“台湾の衛生福利部疾病管理署(疾病対策センター)によると、台湾の確定感染者数は40人、死者は1人(3月1日現在)。これは、発生源となった中国大陸はもとより、日本や韓国での感染者数と比べても驚くほど少ない。今のところ、台湾政府の防疫措置が功を奏していると言えるだろう。”【3月7日 高橋正成氏 東洋経済ONLINE】

発生源である中国とのつながりを考えると、まさに“驚くほど少ない”数字です。
蔡英文政権の支持率も大幅に上昇しているとか。

****台湾コロナ対策、奏功 2月に小中高休校/マスクは配給制 「先手」市民に安心感****
新型コロナウイルスの感染拡大に備え、台湾が打ち出してきた対策が注目を集めている。小中高校は2月にいち早く休校し、すでに再開。マスクの配給制は市民に好評で、増産も順調に進む。過去の経験が生かされており、政権の支持率も押し上げた。

日本では3月から小中高校の一斉休校が始まったが、台湾は2週間の休校を終え2月25日に再開した。
 
台湾の学校は元々、春節に合わせて1月下旬から2月10日まで冬休みだった。台湾当局の新型肺炎対策本部は2月2日、冬休みの2週間延長を告知。企業などに保護者の休暇取得を認めるよう求めた。
 
各学校ではこの休校期間を使い、授業再開に向けた準備を進めた。台北市最大の敦化小(児童2580人)では各学級で使う180個の体温計を確保し、非常時のマスクも備蓄した。

再開時のルールも事前に保護者と確認。児童は起床した時と学校に到着した時、朝の授業が始まる時の計3回体温を測り、37・5度を超すと休むことにした。
 
対策本部は、感染者が1人確認されたら学級閉鎖、2人目が確認されると学校全体を休校にする方針を公表。柯文賢校長は「事前に対応策を共有し、学校も保護者も落ち着いて再開を迎えられた」と語る。
 
マスクの配給制も、市民に安心をもたらしている。
 
1月下旬、マスク不足で値段がつり上がると、蔡英文(ツァイインウェン)総統は緊急記者会見を開き、「供給を確保する。慌てないでほしい」と市民に呼びかけ、当局がマスクを買い取って安価で配給する制度を始めた。
 
台湾に約6千店ある指定薬局で健康保険カードを示し、1週間に1人が2枚を10台湾ドル(約36円)で買えるようにした。業者に製造機械を買い与え、軍人も動員するなどしてマスクの生産量を増やし、今月5日以降は、大人は1週間3枚、子供は5枚買えるようになった。今後さらに増やす。
 
台北市内の薬局でマスクを購入した范健祐さん(56)は、「数はまだ少ないが確実に買えて値段も安い。だれにとっても公平な仕組みだ」と評価する。
 
薬局ごとにマスクの在庫を確認できる仕組みも用意された。IT担当の閣僚で天才的なプログラマーとされる唐鳳氏が当局が管理するリアルタイムの在庫データを公開。民間の有志が地図データとつなげ、市民がスマートフォンで閲覧できるようになっている。

 ■SARS経験いきる
マスク市場の管理など先手の対応ができたのは、2002~03年に流行し、台湾でも計37人(関連死を含め計73人)が死亡した重症急性呼吸器症候群(SARS)の苦い経験がある。台湾はその後、伝染病予防法などを大幅改正した。
 
蔡氏は当時、中台関係を所管する責任者として対策に関わり、副総統の陳建仁氏は公衆衛生の専門家で当時は衛生部門のトップだった。
 
SARS後に拡充された担当機関の疾病管制署(CDC)は、2月初旬には中国籍の人の入境を原則的に止めるなど強い措置を打ち出してきた。
 
台湾でも6日までに計45人(うち1人死亡)の感染が確認されているが、爆発的な拡大は抑え込んでいる。2月下旬の世論調査で、蔡氏の支持率は68・5%(前月比11・8ポイント増)に急上昇した。【3月7日 朝日】
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中国との往来を遮断するというのは、中国に対する独自路線を掲げる蔡英文政権にとっては必然の選択でしょうし、そうせずに中国からの「もらい病」が蔓延したら政権にとって致命的な打撃となります。

結果、今のところは「大成功」のようです。“蔡政権の防疫対策について75・3%が「80点以上」と評価している。” 【2月25日 朝日】とも。

もっとも、“現状の蔡政権の対応を支持している世論だが、将来の感染の広がりについては、今後数カ月で「厳しくなる」が39・8%、「厳しくはない」が46・3%で見方は分かれている。”【同上】

【中国経済依存からの脱却へ向けて】
先述のように、中国との往来を遮断するというのは、中国に対する独自路線を掲げる蔡英文政権にとっては必然の選択ですが、その結果、台湾の独自路線・「中国デカップリング(切り離し)」が強化・認知されるという“追い風”にもなっています。

****蔡英文は忖度なし、新型コロナで中国切り離しを加速****
新型コロナウイルス肺炎(以下「新型肺炎」)は香港、台湾の「反中世論」に決定的な影響を与えることとなった。特に台湾は、新型肺炎を理由に着々と「中国デカップリング(切り離し)」を進め、蔡英文政権の支持率上昇につながっている。
 
新型肺炎がアウトブレイクする以前、香港では「反送中デモ」から始まった「復光香港 時代革命」運動が高まりを見せていた。香港区議選挙では民主派が圧勝、親中派議員が軒並み落選する結果となり、習近平政権をうろたえさせた。

また香港デモの影響で、台湾有権者は「一国二制度による中台統一」シナリオに対して強い反感を持つようになり、1月11日の台湾総統選挙では反中路線を掲げる現職の蔡英文候補が圧勝、立法院(議会)の民進党が過半数を維持する結果となった。
 
この台湾総統選は、米中対立が激化する中で、国際社会の再構築の行方を左右する重要な選挙の1つとみられていたが、この選挙後、さらに台湾や香港の中国離反を後押ししているのが新型肺炎だ。
 
台湾総統選が行われた1月11日、武漢ではすでに新型肺炎がアウトブレイクしていた。だが、その日は湖北省の人民代表会議・政治協商会議(両会)の開幕日であり、政治イベントに集中するため湖北省当局はその後1週間、感染増を隠蔽し続けた。
 
台湾総統選はさほど新型肺炎の影響を受けずに行われたが、「習近平の敗北」ともいうべき形で終わり、習近平政権として新たな対台湾政策を打ち出さねばならないタイミングで、新型肺炎が武漢から全国に蔓延。対台湾、対香港政策どころか、内政対応で手いっぱいの状況に陥った。
 
香港、台湾世論は、新型肺炎を理由にますます中国の脅威を強く認識するようになった。例えば台湾の衛星ニュースチャンネル、年代新聞台は、報道番組で「中国という病人が全世界に災いをもたらす」とタイトルを付けた新型肺炎特集を組むまでに、はっきりと反中キャンペーンに舵を切っている。

徹底的な対策を次々に打ち出した蔡英文
蔡英文政権にとって幸運だったのは、この新型肺炎の水際作戦を建前に、台湾の“実質独立”“国際社会における国家承認”のための道筋の整備を進められたことだ。
 
まず中国大陸との各種往来をいったん絶った。また、中国の意向を汲んで台湾の出席を拒み続けてきたWHOに対して、「台湾人の健康と命の安全」という人道上の問題として訴えることで国際会議への台湾のオブザーバー参加を認めさせた。

この背景には、隠蔽により国際社会に新型コロナウイルスの拡散を許した習近平政権や、習近平政権の要請を受けたWHOのテドロス事務局長が緊急事態宣言を見送ったことなどに対して不信感、不満感を募らせる諸外国の圧力もあった。
 
蔡英文政権の新型肺炎対策の素早さは国際社会からも注目された。1月早々に専門家を交えた緊急対応会議を開き、2月2日から空港などの検疫体制を強化。(中略)

1月23日には蘇貞昌行政院長の「マスク輸出制限指示」があり、2月6日にはマスク購入実名制度を導入し、オンラインマップでマスク在庫状況を公開した。さらには政府補填による民間企業へのマスク増産指示、医療機関への優先的配布といったと素早い対応で、各国で起きているマスクの買い占めによる不足や高額転売問題を回避した。

マスク輸出制限などは、一部台湾人の間から「台湾政府は自分たちのことしか考えていない」と批判の声があがったが、結果的に大きな効果があった。
 
一方、日本では医療現場ですらマスク不足が起こり、また中国人転売屋による買い占めやマスク価格つり上げ問題が起きた。地方自治体や民間企業が争うように中国にマスクを寄付したこともマスク不足を招いた。

この背景には、習近平国賓訪日の成功を願い、日中関係改善ムードを盛り上げたい日本政府や地方政府、財界の思惑が働いていたようだ。だが、結果的に「日本のマスク不足は中国のせい」という反中感情がむしろ高まったかに見える。

高まる反中感情、国民党も親中路線から脱却
台湾がこれほど果断な政策を打ち出せたのは、蔡英文政権がここにきて台湾の親中派財界や大陸世論に一切忖度しなくてよいほど、台湾社会の反中感情が高まったせいもある。
 
蔡英文政権が再選後に初めて受けた海外メディアBBCのインタビューで、台湾について「すでに独立している」と発言したことから想像できるように、蔡英文政権2期目のテーマは台湾の国際社会における国家承認の推進だ。

こうした方向性は中国側から武力恫喝と経済制裁を伴う強い圧力を受けると想像されていた。武力に関しては、中国側もなかなか実際の行動はとらないとしても、台湾と中国の長年の経済緊密化のせいで、中国からの経済制裁はかなり台湾経済に強い打撃を与えると予想されていた。
 
だが幸か不幸か、新型肺炎という突然の疫病蔓延で、台湾だけでなく世界各国で中国との人的交流、物流の制限が否応なくかけられることになった。

2月10日は中国が全国の工場再稼働を宣言した日だが、台湾はこれに合わせて、中国との直行便を北京、上海など5空港をのぞき全面一時停止措置をとり、海運交通なども大幅に制限をかけた。

中国に工場をもつ台湾企業社員や、中国工場で働く台湾人労働者に足止めを食らわせた格好だ。台湾企業としては早々に中国に戻って工場を再稼働させたいところだろうが、「両岸の人民に感染を拡大させていいのか」と問われればイエスとは言えずにいる。
 
武漢封鎖当初、武漢市に残っていた1140人余りの台湾人の帰国問題も、2月3日に第1チャーター便で戻った247人の中に感染者が出たことから、台湾政府としては受け入れが整っていないとして、依然900人が台湾に戻れないままだ。
 
こういう対応を蔡英文の「冷血」と批判する声もあるが、世論全体としては目下は経済悪化よりも感染拡大による生命・健康の危機感の方が大きく、台湾経済から中国をデカップリングすることへの抵抗は少ない。
 
一方、総統選挙の動きの中で、完全に中国共産党の代理政党に落ちぶれていることが発覚した国民党は、親中路線からの脱却を図ろうとしている。

中国共産党の言いなりだった呉敦義が選挙惨敗の責任をとって党主席を辞任したあと、元台北市長の郝竜斌と立法委員の江啓臣が主席の座を争うことになったが、ともに台湾ファースト、脱中国イメージを訴えている。
 
親中派イメージの強い鴻海集団(フォックスコン)創始者の実業家、郭台銘は、旧暦の年末の宴会の席で「2020年は米国を目指す」として、米国への投資を強化する姿勢を打ち出している。
 
台湾次期副総統の頼清徳が2月上旬に訪米し、トランプ大統領も出席する朝食会に招待されるなど破格の待遇を受けているが、これを米台FTA(自由貿易協定)のステップとみる向きもある。

もしこの方向性で進むならば、台湾の中国経済依存からの脱却は比較的スムーズにいくかもしれない。米中5Gハイテク通信覇権の対立のはざまで踏み絵を迫られている半導体製造ファウンドリ最大手のTSMC(台湾セミコンダクター)が、こうした台湾の政治・経済と世論の脱中国の動きの中でどう舵を切るかも注目されることだろう。

日本が先にデカップリングされる?
台湾では2月中旬、初の死亡例が出て以降、北部医療機関を中心に院内感染と思われる状況も発生し、予断を許さない状況が続いている。

だが、台湾の主計総処によれば、新型肺炎のマイナス影響を補うために600億新台湾ドルの特別予算を計上したことで、なんとか経済成長率2%のラインは維持できそうだとしている。

うまく今の危機を乗り越えれば、対新型肺炎対応で自信深めた蔡英文が5月20日に2期目の就任式で行う演説で、台湾の国家観について踏み込んだ発言をする可能性もある。それは新たな国際秩序の再構築のプロセスの始まりにつながるかもしれない。
 
こうした台湾の動きと対照的なのが、日本の中国政府への忖度からくる新型肺炎対応の鈍さだろう。(中略)

中国の新型肺炎の新たな感染者が減少傾向に入り、中国の新型肺炎対策専門家チームのリーダーである鐘南山が4月下旬にも基本的に抑制できるという楽観を示す中、上海や北京は、むしろ日本の感染蔓延を警戒して、日本からの渡航者に対し2週間隔離する行動制限措置をとりはじめた。

WHOは韓国、イタリア、イランと並べて日本も「最も懸念される国」と名指ししている。米国も日本からの渡航制限を視野に入れ始めており、うかうかすると中国よりも先に日本がデカップリングされかねない。【3月5日 福島 香織氏 JBpress】
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そのつながりの深さを考慮すれば、台湾経済から中国をデカップリングすることが、そうそう順調に進むかどうかについては大いに疑問もありますが、今のところは“追い風”です。

【米下院、TAIPEI法案を可決】
アメリカとの関係も順調です。

****米下院、TAIPEI法案を可決 台湾と断交する国の拡大阻止****
米下院本会議は4日、中国の圧力に屈して台湾と断交する国が拡大するのを防ぐことを目的とした「台湾同盟国際保護強化イニシアチブ法案(通称・TAIPEI法案)」を全会一致で可決した。
 
法案は米政府に対し、台湾を支持する国との関係を強化する一方、台湾と断交するなどした国に対しては経済支援の削減などの措置をとることを求めた。先に上院で可決された同様の法案と細部の文言などを調整した後、トランプ大統領が署名すれば成立する。
 
法案はまた、米大統領に対し、中国共産党体制からの「現在および将来の脅威」に対抗するため台湾に武器を供与することや、2018年3月に成立した台湾旅行法に基づき、米政府高官の台湾訪問を求めた。
 
台湾が国際機関に加盟したりオブザーバー資格で参加したりできるよう、米大統領が国際社会に働きかけることも促した。米台が自由貿易協定(FTA)を締結するよう求める条項も盛り込まれた。
 
法案はさらに、米国に加え日本やインド、オーストラリアが台湾と非公式関係を結んでいることが台湾の経済力強化と国際的立場の維持に重要な貢献を果たしていると指摘した。
 
中国の習近平体制は、台湾の蔡英文政権を国際的に孤立させようと、台湾と関係のある国に対する外交圧力を強化している。台湾を自国の不可分の領土と位置付けており、法案への反発は必至だ。【3月5日 産経】
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中国側の反応については“中国外務省の趙立堅報道官は5日の記者会見で、「法案は一つの中国原則などに深刻に違反している」と強く反発したうえで「中国は断固として反対する」と述べた。” 【3月5日 産経】とのこと。

もっとも、アメリカに過度に期待するのも危険なところが。
トランプ政権の定見のなさは言うまでもなく、米議会にしても、念頭にあるのは中国との大国同士のパワーゲーム。台湾問題はしょせん1枚のカードに過ぎず、状況によっては簡単に捨てられることも。

【国民党も新たな道を模索】
一方の国民党も、中国ベッタリではないしているようです。

****台湾・国民党主席に江啓臣氏 対中方針が課題****
台湾の野党、中国国民党の主席(党首)補選は7日、投開票され、党中堅の立法委員(国会議員に相当)、江啓臣(こうけいしん)氏(48)が当選を確実にした。補選は党のベテラン、●(=赤におおざと)(かく)龍斌(りゅうひん)前副主席(67)との一騎打ちで、同氏が敗北を認めた。
 
江氏は、国民党政権下で中台双方の当局が「一つの中国」について確認したとされる「1992年コンセンサス(合意)」を「時代遅れ」と批判し見直しを主張。「親中派」の印象が払拭できず1月の総統・立法委員選で大敗したことに危機感を覚えた党員の支持を得た。

一方、対中方針の見直し次第では2005年以降、「第3次国共合作」と称された中国共産党との良好な関係を維持できるかは不透明になる。
 
任期は呉敦義(ごとんぎ)前主席の残り任期の2021年8月まで。【3月7日 産経】
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