(新型コロナウイルスのパンデミックをめぐる記者会見中、マスクを目に当てるジャイル・ボルソナロ大統領(2020年3月18日撮影)【3月19日 AFP】)
【南米最大の感染国ブラジル 州政府による外出禁止措置】
新型コロナウイルスの感染は南米でも拡大していますが、最も多い感染者を出しているのがブラジル。
そのブラジルでは、サンパウロ州やリオ州で検疫のための外出禁止措置(クアレンテーナ)が実施されています。
その状況について、現地日系メディアは以下のように報じています。
****新型コロナウイルス=全国の感染者2千人超える=死者は12人増え、46人に=クアレンテーナは全国的規模に*****
新型コロナウイルスの感染者は、24日午後4時現在の保健省発表で2201人、死者は46人(サンパウロ州40人、リオ州6人)となり、最初の感染者確認から28日で感染者数が2千人を超えた。
また、サンパウロ州やリオ州で検疫のための外出禁止措置(クアレンテーナ)を実施しはじめるなど、全国各州の州都で同様の対策をとっている。24日付現地紙、サイトが報じている。(中略)
23日のサンパウロ州での死者は8人で、33歳の男性の他に男性が5人(68、75、76、77、78歳)と、女性が2人(80、88歳)となっている。同州での死者は同日までに30人を数えている。
23日の段階の感染者が745人に達しているサンパウロ州では、サンパウロ市市長による市長令で、20日から、生活に必需のサービスを提供する店や分野を除く商店の営業が禁止されたのを皮切りに、24日からは州内全市でクアレンテーナが始まった。
感染者数が23日の時点で233人となり、23日現在で4人の死者が出ているリオ州でも、24日からクアレンテーナが始まっている。
クアレンテーナのやり方は各自治体によって多少の差があるが、基本、食品を売る店と薬局のような、必需サービス以外の商業活動などを止めることで、不特定多数の人が同じ空間に集まり、直接接触しての感染や飛沫感染などを起こすのを防ぐことが最大の目的だ。
クアレンテーナは、健常者が感染者と接触する機会を減らし、感染の拡大を防ぐために、中国や欧米をはじめ、多くの国で実施されている。
サンパウロ州のクアレンテーナは4月7日までだが、延長の可能性が高く、リオ州は無期限での実施となっている。特に、サンパウロ市やリオ市のように、ファヴェーラに代表される貧困地域でのコミュニティ感染が見られる地域では、急速な拡大が恐れられている。
また、それ以外の各州と連邦直轄区など、ほぼすべての州都でも、20日以降、続々と市内での商業活動の停止などの措置を導入している。
それは、ショッピング・センターの営業を閉鎖するものから、バーやレストランも閉鎖するもの、実施期間も5日間から2週間まで、市の判断によって異なるが、日常の商業活動の機能は全国的にほぼ止まったものとなっている。 【3月25日 ニッケイ新聞】
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【外出禁止措置を「ヒステリー」「焦土作戦」と非難するボルソナロ大統領】
こうした自治体主体の外出禁止措置(クアレンテーナ)などの厳しい対応に反対しているのが、その極右的言動から「ブラジルのトランプ」とも称されるボルソナロ大統領です。
ボルソナロ大統領はかねてより、新型コロナをめぐる国内外の強硬な対応を「ヒステリー」と呼んでおり、会見時にマスクをもてあそぶ姿が話題になったりもしています。
****ブラジル政府にコロナ禍直撃、大統領は平然とマスクもてあそぶ****
ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領は18日、閣僚2人と上院議長が新型コロナウイルス検査で陽性だったと発表する中、記者会見でマスクをもてあそび、新型ウイルスのパンデミック(世界的な大流行)をめぐる対応をまたもや「ヒステリー」と呼んだ。
極右のボルソナロ氏は、これまでも新型ウイルス危機に対するおざなりな対応を批判されてきたが、記者会見中にとんでもないやり方でマスクを使用し、ネット上で嘲笑の的になった。
ボルソナロ氏は会見中、マスクを何度も外したり、耳から垂らしたり、目に当てたりした。これはウイルスに感染してしまう間違った使い方だ。
あるツイッターユーザーは、この場面を収めた動画に「フェースマスクを使わない方法」と名付けた。
ボルソナロ氏は、世界で8700人超が死亡したパンデミックの「重大さ」を認める一方、「ブラジル国民には落ち着いてもらいたい。ヒステリーを起こさせるわけにはいかない」と述べた。【3月19日 AFP】
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そのボルソナロ大統領、今度は対新型コロナ隔離措置を「焦土作戦」とも形容して反対しています。
****対コロナ隔離措置は「焦土作戦」、ブラジル大統領が非難*****
ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領は24日、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)を封じ込めるための各地の隔離措置を「焦土作戦」と呼び、経済を破綻させるリスクがあると非難した。
歯に衣着せぬ物言いで知られる右派政治家のボルソナロ氏は、サンパウロ州やリオデジャネイロ州が取った非常事態宣言のような措置に対し、人々の雇用を奪う誤った救命措置だと批判した。
ボルソナロ氏は国民に向けた演説で「一部の州や自治体は、交通機関の停止や店舗の閉鎖、一斉の外出禁止といった焦土作戦的な考え方を捨てる必要がある」「われわれは雇用や家計を守らなければならない」と語った。
さらに「もうすぐ事態は収束する。われわれは生きていかねばならないし、普段どおりに戻らねばならない」とも述べた。
この発言の直後、検疫・隔離の実施を求めて抗議するデモが発生。外出禁止令が出ている各地の都市ではボルソナロ氏の演説の放映中から、人々が窓辺で鍋やフライパンを打ち鳴らして抗議した。
ブラジルにおける新型ウイルス流行の中心地となっているサンパウロ州は同日、感染拡大を遅らせるため、部分封鎖を開始した。サンパウロ州の人口は、スペインとほぼ同じ約4600万人。
しかし、「熱帯のトランプ」の異名を取る大胆不敵なボルソナロ氏は、こうした極端な措置は不要だと主張している。
ボルソナロ氏はこれまでも新型ウイルス対策をめぐり、「ちょっとしたインフルエンザ」に「度を越した」反応をしていると述べたり、「ハイリスク群は高齢者なのになぜ休校にするんだ?」などと発言し、たびたび物議を醸してきた。
中南米最大の経済大国であるブラジルでは、新型コロナウイルスによるこれまでの死者は46人、感染が確認されたのは2201人と、同地域最大の被害が出ている。 【3月25日 AFP】
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本家トランプ大統領も当初、ボルソナロ大統領と同じような主張をしていましたが、一転して「戦時大統領」として矢継ぎ早の対策を実施、しかし経済優先の立場化から規制緩和を検討するなど、その対応は揺れていますが、「ブラジルのトランプ」の方は首尾一貫しています。
【大統領:経済破綻すれば「無秩序」に、略奪なども】
現在の世界の常識からすれば、ボルソナロ大統領の言動は「何言ってんだか・・・」ということになりますが、下記のように言われると「なるほどね・・・」と思うところもあります。
****コロナ対策で経済破綻すれば「無秩序」に、ブラジル大統領が警鐘****
ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領は25日、新型コロナウイルスの感染拡大を遅らせるために実施されている封じ込め措置について、無秩序と略奪につながる恐れがあると述べ、民主主義が危険にさらされていると警鐘を鳴らした。
極右のボルソナロ氏は、サンパウロ州やリオデジャネイロ州が取った企業やや学校の閉鎖といった新型コロナ対策について、中南米最大の経済大国であるブラジルの経済を破綻の危険にさらすものだと繰り返し非難してきた。
ボルソナロ氏は、首都ブラジリアにある大統領府の前で報道陣に対し、「企業は何も生産していない。従業員に賃金を支払うこともできない。そして経済が破綻すれば、公務員に給与を支払うこともできなくなる。われわれは無秩序に直面する」と語った。
さらに、「スーパーマーケットの略奪といった事態に陥る恐れがある。そこにはウイルスも残っているだろう。ウイルスに加えて無秩序にも直面することになる」「われわれは何をすべきか? 人々を職場に戻し、高齢者や健康上の問題がある人々を守る。それだけだ」と述べた。
ボルソナロ氏は、「これによってみなさんが堅く守っている『民主主義の規範』が揺らげばどうなるか?」「私がそうはさせない。心配無用だ」とも述べた。
ボルソナロ氏は、新型ウイルスのパンデミック(世界的な大流行)に対する自身の取り組み方を、称賛するドナルド・トランプ米大統領のものになぞらえ、「われわれは同様の方針に従っている」と述べた。 【3月26日 AFP】
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無秩序状態、スーパーマーケットの略奪・・・・日本ではありそうもない状況ですが、世界有数の犯罪大国ブラジルとなると話は別です。
ただでさえ治安維持がままならないブラジルで、経済活動が停止して、その日暮らしの人々が生活の糧を失った場合、暴動・略奪の可能性も現実の問題となります。
****世界で最も危険な50都市ランキング****
2017年、ラテンアメリカはメキシコのCitizens' Council for Public Securityが毎年発表する世界で最も危険な都市ランキングに、依然として多くの都市がランクインするという不名誉な結果となった。
ランキングに掲載された50都市のうち、42がラテンアメリカの都市。ブラジルは17、メキシコは12、ベネズエラは5、コロンビアは3、ホンジュラスは2、エルサルバドル、グアテマラ、ジャマイカはそれぞれ1つがランクインした。
ラテンアメリカでの暴力は、大部分が麻薬密売と組織犯罪にかかわるもの。メキシコではここ数カ月、犯罪組織が分裂し、多くの血が流れている。状況は、政情不安、貧困、景気低迷からさらに悪化。汚職、警察による不正なども犯罪を助長している。
ランキングは人口30万人以上の都市が対象。紛争地域や調査不可能な都市の殺人件数は含まれていない。そのため、いくつかの都市はランキングに現れていない。また、一部、不完全なデータに基づいて殺人発生率を推定した都市もある。(後略)【2018年3月13日 BUSINESS INSIDER】
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****ブラジル、治安やや改善=昨年の殺人、11%減-NGO****
ブラジルのNGO「ブラジル治安フォーラム」は10日、2018年に同国で殺害された人の数が前年に比べ10.8%減少し、5万7341人となったと発表した。強盗件数も14.1%減の147万5978件。景気回復に伴い、治安が多少改善したことが浮かび上がった。
フォーラムのデリマ代表は治安悪化傾向に歯止めがかかったことを歓迎しながらも、「殺人は14年レベルまで減ったにすぎない。継続的に(件数を)減らす努力を怠ってはならない」と強調。政府に一層の治安対策強化を促した。
フォーラムによると、殺人発生率は人口10万人当たり27.5人。最悪レベルだった前年の30.8人は下回ったが、治安悪化が深刻なメキシコの23.1人と比べても依然として高水準で推移している。16年の日本の発生率は0.28人(世界銀行)だった。【2019年9月11日 時事】
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殺人発生率でみると、日本の約100倍、強盗などでは更に大きな開きがあります。
経済・市民生活の強制的停止の痛みは、真っ先にその日暮らしの貧困層を直撃します。失業者も急増します。
ブラジルのような犯罪が常態化した国で経済活動が止まると何がおきても不思議ではありません。
アメリカでも、治安悪化を懸念する人々が銃購入に殺到しています。
****米、新型コロナで銃の購入者急増 治安悪化を懸念****
新型コロナウイルスの流行が拡大する米国で、治安悪化を心配した人々が銃と弾薬を買いだめし、銃の売り上げが過去2週間にわたり急増している。
オクラホマ州タルサの銃販売店を経営する男性はAFPの取材に対し、「売り上げが約800%増えた」と説明。購入者の大半は初めて銃を所持する人々で、あるものは何でも買っていったと語った。
多数の感染者が出ているワシントン州で銃販売店では、開店の1時間前から並ぶ客もいるという。経営者の女性は、いつもなら客入りの良い日で20〜25丁が売れるが、「きょうは150丁ぐらい売れそうだ」と話した。
女性によると、ショットガンとその弾薬、さらに拳銃用の弾薬が全国的に品薄になっている。女性の店でも客の大半が初購入者で、性別や年齢、さらには黒人やアジア人、インド人、ヒスパニックといった人種にかかわらず、「誰もが銃を買い求めている」という。
ユタ州に本社を置く銃メーカーで、主に半自動小銃AR15を製造しているデルタ・チーム・タクティカルのマーケティングディレクター、ジョーダン・マコーミック氏によれば、同社は需要に応えるために休みなしに製造を続けている。
同氏は、封鎖措置を導入する州が増える中、銃販売店の休業が相次ぐのではないかという懸念が販売を後押ししていると説明。「多くの人は自衛したいと考えている」と語った。
「失業状態が続けば、略奪が起こるかもしれない。人々は、自分や財産、家族を守る力を持ちたいと思っている」(マコーミック氏) 【3月26日 AFP】
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もっとも、戒厳令下のように軍・警察が街中に展開するような状況になれば、犯罪も普段より少なくなるのかも。
よくわからないところが多々ありますが、ブラジルのような国にあっては、日本とは異なる配慮も必要になるのかも。
非常事態宣言のもとでの外出禁止や経済活動停止の影響を受ける貧困層や失業者に、生きていけるような対策がとれれば問題も大きくならないのでしょうが、ブラジルでそれができるかどうか?