(シリア・イドリブ県で、シリアの政権軍を標的にするトルコ軍の自走砲。トルコ国防省プレスサービスが公開した動画の一場面から(2020年2月28日公開)【3月1日 AFP】)
【トルコ軍の報復攻撃】
以前から時折取り上げているようにシリアの反体制派最後の拠点イドリブに対するロシアの支援を受けるシリア政府軍の攻勢に伴い、シリア政府軍、あるいはロシアと反体制派を支援するトルコ軍との軍事衝突の危険が高まっています。
政府軍の空爆でトルコ軍兵士33名が死亡したことに対し、トルコ軍は標的200か所以上を報復攻撃した発表しています。
トルコは2月末までに政府軍のイドリブからの撤退を求めていましたが、自軍への攻撃を受けて、月末まで待つことなく、報復攻撃に踏み出しています。
****トルコ、ロシアと緊張激化 シリア空爆で兵士死亡****
シリア政府軍が同国北西部イドリブ県で実施した空爆でトルコ軍の兵士33人が死亡した事態を受け、トルコとロシアの両首脳は28日、緊急電話会談を行った。
一方、ドナルド・トランプ米大統領は、シリア軍がロシアの支援を受けて行う反体制派拠点攻撃の停止を呼び掛けた。
シリアのバッシャール・アサド政権は、反体制派を最後の拠点から追放することを目指し、イドリブ県で激しい攻勢を展開している。
ホワイトハウスによると、トランプ氏は27日夜に行われた空爆を「非難」し、トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領と共同で、ロシアとシリアに対してイドリブ県での作戦「停止」を呼び掛けた。
トルコは空爆への報復として、無人攻撃機と砲撃でシリア国内の標的200か所以上を攻撃したと発表。さらに、国境を開いて難民らを欧州に流入させると宣言した。これにより多大な影響を受ける恐れがある周辺の欧州各国は、直ちに国境警備を強化した。
ただ、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とエルドアン大統領はいずれも、緊張緩和に前向きな姿勢を示している。ロシア大統領府によると、両大統領は電話会談でこの事態について「深刻な懸念」を表明した。 【2月29日 AFP】
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更に、3月1日にもトルコ軍はシリア政府軍戦闘機2機を撃墜したうえに、ドローン攻撃も。
****トルコがドローン攻撃、シリア軍兵士19人死亡 紛争拡大・移民危機に懸念****
トルコは1日、シリア北西部のイドリブ県にドローン攻撃を実施し、シリア政府軍の兵士19人が死亡した。シリア人権監視団が明らかにした。トルコ・シリア間の緊張は急激に高まっている
同監視団によると、19人の兵士はジャバル・ザーウィヤ地域での軍車列およびマーラトヌマン市付近の基地を狙った攻撃で死亡した。
今回の攻撃は、イドリブ県でのシリア政府軍に対するトルコの攻撃がエスカレートしている中、トルコがシリア軍のSU24戦闘爆撃機2機を撃墜した数時間後に報じられた。
トルコ政府の支援を受けたイスラム主義の武装勢力は、国土全域の支配権を取り戻そうとしているシリア政府にとって最大の障害になっている。
イドリブ県での数週間にわたる戦闘に続いて、シリアが実施したとトルコが非難する先週の空爆で、トルコ軍の兵士34人が死亡したことを受け、トルコはシリア軍に対する全面的な軍事作戦を開始すると発表していた。一方でトルコ政府は、ロシア軍との直接衝突は望んでいないと表明している。
トルコ政府はこの紛争をめぐり欧州にも圧力をかけており、国境を開いてトルコ国内にいる難民を欧州大陸に向かわせている。
ロシアの支援を受けたシリア軍と、北大西洋条約機構加盟国でシリアの反体制派を支援しているトルコとの対立は、紛争拡大への不安と、2015年と同様の欧州移民危機への懸念を引き起こしている。 【3月2日 AFP】
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【5日または6日にロシア・トルコの首脳会談】
シリア・トルコの正規軍どうしの全面的な戦闘の危険も高まっている状況ですが、前回ブログでも書いたように、シリア情勢のカギを握るのはロシア・プーチン大統領です。
表向きは勇ましい発言を行っているトルコ・エルドアン大統領も、ロシアの調停を期待していると思われます。トルコとの軍事的な衝突を望んでいないもは、ロシアお同じです。
****来週の首脳会談開催へ調整=シリア緊迫化でロシアとトルコ****
タス通信によると、ロシアのペスコフ大統領報道官は28日、シリア北西部イドリブ県の情勢悪化を受けて、プーチン大統領とトルコのエルドアン大統領が3月5日か6日にモスクワで首脳会談を開く方向で調整が行われていると明らかにした。(後略)【2月29日 時事】
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ただ、現場の緊張がプーチン大統領やエルドアン大統領の思惑を超えて衝突を引き起こすことも十分に考えられます。
【難民移動黙認で欧州に圧力をかけるトルコ】
一方、国連安保理では欧米諸国がシリア批判を強めていますが、この種の問題では大国の利害(シリア問題の場合はロシア)によって安保理が機能しません。
****トルコと衝突懸念のシリアへ非難相次ぐ…国連安保理が緊急会合****
シリア北西部イドリブ県でトルコ軍とシリア軍の全面衝突の懸念が高まっていることを受け、国連安全保障理事会は28日、緊急会合を開いた。各国が衝突拡大に対する危機感を共有した一方、非難の応酬が繰り広げられた。
会合では、会合開催を要請した米国や英仏独などから「シリアのアサド政権とその後ろ盾のロシアは軍事攻撃を即刻中止すべきだ」と名指しで批判が出た。
当事国のシリアは「自分の国でテロとの戦いを続けているまでだ」と激しく反発した。トルコは「シリアの子供たちをテロリスト呼ばわりするのは恥ずべきことだ」とアサド政権批判を繰り広げた。【2月29日 読売】
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欧米諸国対シリア・ロシアという対立の構図は従来どおりですが、欧州はシリア難民トルコに人質に取られており、トルコを支援せざるを得ないようなところもあります・
****トルコ、難民越境容認を示唆 EUに圧力****
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は2月29日、大勢の移民や難民がトルコ経由で欧州に越境することを容認する姿勢をにじませ、欧州連合に圧力をかけた。
また、シリア反体制派を支援しているトルコ軍兵士34人が先日空爆で死亡したことについて、シリアのアサド政権は「代償を払うことになるだろう」と警告した。
国際移住機関は同日、ギリシャと接しているトルコの国境地帯に約1万3000人の移民が集まっていると報告した。これに先立ち数千人規模の移民が、国境を挟んで催涙ガスを発射したギリシャ治安部隊に投石する衝突があった。
一方、空爆によりトルコ兵が死亡したことで、シリアでの戦闘拡大と、欧州での新たな難民危機の発生に警戒感が高まった。そのためシリア内戦の対立勢力をそれぞれ支援しているロシアとトルコは協議し、緊張緩和を図った。
ただし、トルコのエルドアン大統領は、移民や難民がトルコを通過して欧州へ向かうことを認める可能性を示唆。主
要都市イスタンブールでの会見で、「きのうわれわれが取った措置は扉の開放だ」と述べた。その上で、2016年にトルコとEUが結んだ協定に言及しつつ「扉は閉鎖しない。EUが約束を守るべきだからだ」と明言した。
この協定ではトルコが難民越境を抑制する見返りに、EUが数十億ユーロ規模の支援を実施することになっている。トルコはすでに360万人のシリア難民を受け入れている。
シリア北西部イドリブ県で2月27日にトルコ軍兵士34人が死亡して以降、エルドアン氏が発言したのは初めて。イドリブはシリア反体制派の最後の拠点で、ロシアが後ろ盾になっているアサド政権軍が奪還に向けて攻勢をかけている。 【3月1日】
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****難民1万人超、ギリシャ国境へ=トルコ大統領「門開いた」―シリア情勢で欧州に圧力****
トルコ西部の対ギリシャ国境に2月28日以降、トルコに滞在するシリア難民ら1万人以上が押し寄せ、強引に越境を図ろうとする動きが出ている。
シリア北西部の情勢悪化でトルコに流入する難民がさらに増える事態が懸念される中、トルコ当局は欧州への移動を促す対応を取り始めたようだ。
トルコのエルドアン大統領は29日の演説で「きのう(ギリシャ側に通じる)国境の門を開いた。(難民ら)1万8000人が越境したと思う。門は閉まらず、この状態が続く」と語った。
国際移住機関(IOM)によると、対ギリシャ国境付近には少なくとも1万3000人が集結。ギリシャは受け入れを拒否しており、難民らは国境地帯で立ち往生を余儀なくされている。【3月1日 時事】
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ギリシャはこうした事態への反発を強め、難民受け入れを停止しています。
*****シリア難民 ギリシャ 異例の受け入れ停止 *****
シリア情勢の緊迫化で、トルコ政府が国内のシリア難民がヨーロッパに向かうことを黙認する姿勢を示したことに隣国ギリシャが強く反発し、難民の受け入れを1か月間停止する異例の措置を発表しました。
国境では押し寄せた難民に対して、警官隊が催涙弾を放つなど強硬な姿勢を打ち出しています。
シリア北西部ではアサド政権とトルコ軍の部隊の戦闘で避難する人が増え、トルコのエルドアン大統領は、すでに国内に抱えているシリア難民がヨーロッパに向かう動きを黙認する姿勢を示しています。
ギリシャ北部のエヴロスとトルコの国境付近には1日1万人以上の難民や移民が集まったということです。
ギリシャ政府は1日夜、緊急の国家安全保障会議を開き、その後の声明で、トルコ政府を強く非難しました。
そして難民を保護する国際条約が適用される状況ではないとして、今後1か月間、難民の受け入れを停止する方針を示しました。
人道主義を掲げるヨーロッパの国が難民の受け入れを明確に拒否するのは異例です。
ギリシャ政府は警官隊を派遣して警備を強化していて、現地からの映像では警官隊が国境に迫る人たちに対して催涙弾などを放って追い返す様子をとらえています。
また東部のレスボス島ではトルコから難民や移民を乗せたボートが到着すると、地元の住民がボートを海に押し返そうとしたり、取材に来たジャーナリストらと小競り合いになったりするなど現地では反発が広がっています。【3月2日 NHK】
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難民問題は欧州にとって、イギリスのEU離脱以上に、EU全体の枠組み、そして欧州各国の政治状況を揺るがす厄介な問題です。