孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

新型コロナでポピュリズム・分断の政治は変わるのか? 「戦時大統領」トランプ氏の動向

2020-03-24 23:47:20 | アメリカ

(暴落したアメリカ株価 【3月24日 NHK】 株価暴落・大量失業の危機のなかで「戦時大統領」をアピールするトランプ大統領の再選は?)

【新型コロナでポピュリズム台頭・自国第一主義の流れが変わるか?】
新型コロナへの対応は、防疫の面でも、経済的影響の面でも、一国対応では限界があり、国際的協調が必要とされます。ただ、現段階では各国がそれぞれの事情に応じて個々バラバラに対応しているようにも見えます。

国内政治への影響も、各国は防疫に手いっぱいで、まだそれを云々する状況でもありません。

新型コロナの拡大はまだ続いていますので、その政治面における今後の影響を見通すことは現段階では難しいですが、自国第一主義、ポピュリズムの台頭、国内の分断といったこれまでの政治傾向に大きな影響をもたらすことは間違いないでしょう。

****新型コロナはポピュリズムを断ち切るか**** 
新型コロナウイルスの経済的インパクトは劇的だが、世界の政治に対するこのウイルスの影響は、さらに大きいかもしれない。

まず、一部諸国が比較的早期に回復し、他の諸国がより長期的でより深刻な社会的・政治的危機に直面することで、世界のパワーバランスが大きく変化する可能性がある。

しかし今回の危機は、各国の国内政治にも影響しており、この点での変化が、最も長期にわたる影響を及ぼす公算が大きい。 
 
今回のパンデミック(感染症の世界的大流行)が起きるかなり以前から、しばしば独裁的指導者の下で進行したポピュリスト(大衆迎合主義者)的動きが、エスタブリッシュメント(既存勢力)による中道派の政党や思想と対立する状況が、世界各地で生じていた。

1990年代から国際的な中心課題となってきたグローバル化支持の自由貿易政策が、国際通貨基金(IMF)、世界貿易機関(WTO)、欧州連合(EU)などの国際機関とともに、ポピュリストらの主要な標的になってきた。 
 
パンデミックが、技術的専門性と多国間協調主義を支持する新たな動きを誘発するのか、それとも、冷戦後の世界の「新自由主義的秩序(ネオリベラル・オーダー)」などと批判勢力が呼ぶ状況の後退を加速させるのかが、現在問われている。 
 
新型コロナウイルスのような問題に直面する状況下では、既存勢力による政治や国際的政策の立案に立ち戻るべき明確な理由が存在する。パンデミックに伴う医療および経済面の問題は、熟達した指導者や国際協調を必要とする。

感染症の世界的拡大とその経済的影響はどちらも、各国政府が単独で対処できるものではない。1つの国が流行の抑制に成功したとしても、隣国が失敗すれば、再流行が起きる。そして、世界の貿易慣行や金融市場の混乱に対しては、世界経済を立ち直らせるための協調行動が必要になる。 
 
しかし、これまでのところ、新型コロナウイルスは世界の指導者間の協力を促しているようにも、国際機関の尊重を促しているようにも見えない。

パンデミックによって、米中間の溝は広がっている。EUは迅速に動いて、ユーロ圏加盟国の財政赤字に関する規制を解除したものの、欧州の各国政府は現段階ではあまり調整せず、自国の問題への対応にほぼ集中している。

世界保健機関(WHO)は、緊急会合から台湾を除外したり、中国の新型コロナウイルス対応を称賛したりするといった措置のおかげで、中国政府の代弁者のように見えてしまっている。

主要7カ国(G7)も主要20カ国・地域(G20)も目立った役割を果たしておらず、IMFと世界銀行も世界的な対応の最前線には立っていない。主に対応策を取りまとめているのは、各国政府であり、国際機関ではない。 
 
こうした状況は、この前例なき世界的危機の展開に伴って、全く変わる可能性がある。だが、しばらくは現在の流れが続く公算が大きい。

ユーロ圏は一部例外となるものの、国からの融資や救済を求める企業が急激に増えることで、国の政治家の力が高まるだろう。それはまた、外国で発生した災難や危機から自国を守る存在として、有権者が国の指導者に目を向けるのを促すことにもなるだろう。 
 
しかし今回の危機の側面には、この政治的トレンドを押し戻すものがある。すなわち、多くの国々には、この種の衝撃を乗り越えるのに必要とされる資源が不足しているのだ。

パンデミックにより、エジプトやパキスタンといった国々の経済活動が損なわれれば、IMFや世界銀行といった国際的な機関や組織が舞台の中心に戻ってくる公算が大きいだろう。 
 
国際貿易システムはかつてない圧力に直面することになるだろう。WTOは現在のような時代を考慮して形作られていなかった。個々の独立国家が主導する経済回復期には、苦境にある同機関は一層圧力を受けることになるだろう。

貿易をめぐる政治力学の持続的変化の可能性を軽視すべきではない。中国が発生源の新型コロナウイルス、それに続くリセッション(景気後退)とサプライチェーン(供給網)の寸断は、多くの国において、保護主義と自給自足を唱える政治を支持する方向へ有権者を向かわせるかもしれない。

国家の指導者たちが、重要な医療、情報技術、防衛サプライチェーンを確保するため、重要な工業製品、医薬製品を自国で生産するのに必要となる保護主義的政策の経済コストを正当化することになれば、自由貿易の大義は深刻な敗北を喫することになる。 

世界は、今年の米大統領選をこれまでの以上の関心をもって注視することになる。世界で最も知られた反既存勢力のポピュリストであるドナルド・トランプ氏に対する米有権者の審判は、実質的な意味と象徴的な意味の双方で世界の政治に影響をもたらすことだろう。

ジョー・バイデン氏が勝利すれば、米政府の重点は多国間主義、グローバリゼーションというポスト冷戦プログラムの側に再び移ることになる。
 
象徴的な意味において、トランプ氏の敗北は世界中の政治家に対し、ポピュリストの人気が既にピークを打った可能性を示唆するだろう。われわれは、西側の別の地域で見られるような、よりコンセンサス重視の中道派政治・政策への移行を目の当たりにするかもしれない。
 
一方、トランプ氏が勝利した場合、世界に対し、分断をもたらす政治がまだ終わっていないことを示す極めて強いシグナルになるとみられる。トランプ氏の(2016年の)当選は古い国際体制に対して衝撃だった。パンデミック後にトランプ氏が再選されれば、一層大きな意味を持つことになろう。【3月24日 WSJ】
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【「戦時大統領」をアピールするトランプ氏】
上記にもあるように、アメリカ大統領選挙でトランプ氏が再選されるのかどうかが、これまでにも増して注目されるところです。

そのトランプ大統領は、国内感染の拡大という現実を目にして、当初の新型コロナに対する楽観論から一転して「戦時大統領」をアピールして危機を克服する強い指導者のイメージを演出しています。

****トランプ氏「私は戦時大統領」 コロナ楽観論を一転封印****
米国で新型コロナウイルスの感染が広がる中、トランプ大統領が連日のようにホワイトハウスで記者会見に臨んでいる。当初繰り返していた「春にもウイルスは消える」の楽観論から一転、「戦時大統領」を名乗って対策を訴える内容が多い。

背景には、11月の大統領選に向けた選挙集会が開けないなか、メディア露出を通して支持者にアピールする狙いがありそうだ。
 
トランプ氏は20日、今週に入って連日となる会見を開いた。前日に続いて、マラリア用の治療薬が新型コロナウイルスについても効果がある可能性に言及し、「(形勢を逆転する)ゲームチェンジャー」になることへの期待を語った。

ただ、19日の会見では「ほぼすぐに使えるようにする」と見通しを語ったものの、同席した担当部局の幹部は「間違った期待を提供しないことが大事」と述べ、安全性を確認した上での認可には時間がかかると修正した。両日とも、質疑を含め約1時間にわたってCNNなどが中継を続けた。
 
トランプ氏は最近まで、「うつりやすいウイルスだが、我々は素晴らしく制御できている」(15日の会見)などと楽観論を繰り返してきた。選挙集会でも「理論上は4月までに、少し暖かくなればウイルスは奇跡的に消え去るようだ」(2月10日)と述べ、危機対応への政権批判は民主党の「でっち上げ」(同28日)とまで主張していた。
 
ところが、米国内の感染者が一日に1千人規模で積み上がり、株価の急落にも歯止めがかからなくなると、言いぶりも変わった。16日の会見でトランプ氏は初めて感染拡大を制御できていないと認め、落ち着くのは「7月、8月かも」と長期化の可能性にも言及した。
 
翌日から強調し始めたのは、「リーダーシップ」だ。17日は「世間でパンデミックと呼ばれるずっと前から、私はパンデミックであると感じていた」と発言。18日は「私は常に中国ウイルスを深刻に受け止め最初から素晴らしい仕事ぶりだった」とツイートしたうえで、会見では「見えない敵」との「戦争」が続いており、「自分のことを戦時大統領だと捉えている」と述べた。
 
会見を続ける理由の一つは、選挙集会が開けないことだとみられる。トランプ氏は数千人の支持者が参加する集会を好み、その熱気を選挙運動の原動力としてきた。

しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、開催はままならない。そこで、テレビ中継される記者会見を通じて、支持者にアピールする作戦を取り始めたようだ。トランプ氏の支持者たちに影響力が大きい保守系メディアも、歩調を合わせるかのように楽観論から転換した。
 
保守系のフォックスニュースは番組で「最悪でも(被害は)インフルエンザ」(3月6日)、「コロナウイルスを知れば知るほど懸念は小さくなる」(同8日)などと伝えていたが、17日には同じ出演者が「新ウイルスへの免疫はなく未体験のパンデミックだ」と発言。最近の同局では「(トランプ氏ほど)迅速に動いた大統領はいない」(人気ホストのハニティ氏)などとトランプ氏をたたえる場面が多い。
 
ただ、会見でトランプ氏が発する情報が広く米国民に信頼されているとは限らない。公共ラジオNPRの調査(17日公表)では、トランプ氏のコロナウイルスに関する情報を「信用できる」「とても信用できる」と答えたのは37%にとどまり、「あまり信用できない」「全く信用できない」は60%。

18日の会見で記者から「信用度がとても低い」と問われると、トランプ氏は質問を遮り、一方的にしゃべり始めた。【3月21日 朝日】
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トランプ大統領の新型コロナ対応への国民評価については、上記記事はネガティブな側面を取り上げていますが、国民評価が急上昇しているという調査もあるようです。

*****トランプ氏、新型コロナ対応支持が55%に上昇****
米ABCニュースなどが20日に公表した世論調査によると、トランプ大統領の新型コロナウイルスへの対応を支持する人は55%に上り、前週から12ポイント上昇した。危機時の指導者として一定の評価を得たものとみられる。
 
世論調査は18、19両日に行われ、対応について支持が55%、不支持が43%だった。11、12両日の調査では支持43%、不支持54%で、1週間で見方が逆転した。
 
トランプ氏は当初、感染状況について楽観的な見方を繰り返し、対応が後手に回ったと批判されたが、最近は経済対策などに注力する姿勢を打ち出している。「私は戦時下の大統領だ」と語り、国民に結束を促す手法が奏功した模様だ。
 
一方、フランスのテレビ局LCIが報じた世論調査では、マクロン大統領の今月の支持率が2月と比べ13ポイント高い51%となった。仏政府の新型コロナウイルス対策が評価されたとしている。ドイツ公共放送ARDによると、19日公表の世論調査で、65%が独政府の対策を評価していると回答した。【3月22日 読売】
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一般的に、政治指導者にとっては、戦争などの危機的状況はリーダーシップを高め、国民の求心力を強めるうえでは格好の手段でもあります。

上記【読売】の紹介する調査結果は、そうした側面を如実に物語るものでしょう。
あの、自己主張が強い国民性のイタリアですら、危機的状況に際して、国民の多くが政府方針に不満を表すことなく従っています。危機感が強まれば、「この状況を何とかしてほしい」ということで、政府の役割・指導者の指導力への国民の期待が高まります。

【経済優先のトランプ氏 その結果は?】
ただ、トランプ大統領など指導者にとって問題なのは、新型コロナという相手が「未知」のもので、その破壊力がよくわからないことです。

「戦時大統領」として求心力が高まっても、相手が強すぎ、敗色濃厚となれば、逆に「敗戦」の責任を問われることにもなります。

いまのところ、アメリカは新型コロナの勢いに劣勢にまわっています。

“米、新型コロナ感染3.3万人・死者400人に倍増”【3月24日 ロイター】
“米国の1日の死者、100人超 医療現場で募る危機感”【3月24日 CNN】
“NY州の感染者2万人超す 全米の過半、外出制限拡大”【3月24日 共同】
“病院に不可欠な物資、底を突くまで「あと約10日」 米NY市長”【3月23日 AFP】
“NYで移民労働者ら解雇の嵐”【3月24日 産経】

犠牲者は急増し、市民生活は大きく制約され、経済への影響は甚大となることが予想されています。

この状況で、トランプ大統領は外出規制を緩和し、経済回復を促す方向を検討しているとのこと。

****経済優先のトランプ氏、外出自粛緩和へ 政権内にも異論****
トランプ米大統領は23日の会見で、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、米国民に対する外出自粛などの要請を近く緩和する考えを示した。企業活動を早期に再開させ、経済の回復を目指すためだが、米国内では感染者が爆発的に増えているだけに、政権内でも異論が出ている。
 
トランプ氏は会見で「我々の国に活動停止(シャットダウン)は適していない」と主張し、「(感染拡大の)問題そのものより、治療が悪いものであってはいけない」と強調。感染拡大封じ込めより経済活動を優先する姿勢を打ち出し、現在は15日間にわたって求めている外出自粛や、10人以上のグループで集まることを避けるなどの指針を「そんなに遅くない時期」に見直したいと述べた。
 
トランプ氏はまた、「医療関係者に任せると、シャットダウンを続けるべきだというかもしれない」と語り、医療の専門家は感染拡大防止策を優先させるべきだとしている、と認めた。米国の感染問題で陣頭指揮をとる国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長からも「同意を得ていない」と語った。連日、トランプ氏の会見に同席していたファウチ氏はこの日、欠席した。
 
米ジョンズ・ホプキンス大学システム科学工学センター(CSSE)によると、米国の感染者数は23日夜までに4万3817人に達し、死者数は557人にのぼる。確認された感染者数は約1週間の間で約10倍と爆発的に増えている。米メディアによると、50州中13州で実質的な外出禁止などの措置を取っている。
 
トランプ氏は16日、「米国に対する大統領のコロナウイルス・ガイドライン」を発表。感染拡大を遅らせるため、自宅で仕事や勉強を行う▽10人以上のグループで集まることを避ける▽バーやレストランなどで食事をすることを避ける――などを、米国民に対して15日間にわたって求めた。トランプ氏は当時、感染拡大が7月か8月ごろまで続く可能性を示していた。【3月24日 朝日】
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この流れに抗うような方針が実際にとれるのか、実施した場合にどのような結果につながるのか・・・「戦時大統領」の評価はそのあたりで大きく変わりそうです。

【埋没する民主党・バイデン氏】
一方の民主党・バイデン氏の方は、今のところは新型コロナで埋没した感も。

****米民主バイデン氏、新型コロナで影薄く 資金集めにも影響不可避****
米大統領選の民主党候補指名で優位を固めつつあるバイデン前副大統領は、選挙活動拠点にテレビスタジオを設けて国民に直接語り掛ける戦略を開始したが、新型コロナウイルス危機で今のところ注目を集めるには至っていない。

23日午前にこのスタジオから初めて演説したものの、主要なケーブルネットワークのニュースはニューヨーク州のクオモ知事による新型コロナ会見の内容を伝えた。

ほんの1週間前はバイデン氏とトランプ大統領による11月の大統領選に向けて機運が盛り上がるかに見えていたものの、新型コロナのパンデミック(世界的な大流行)で影が薄くなっている形だ。

対照的に、トランプ大統領は新型コロナに関する日々の会見でメディアに注目されている。

バイデン氏はデラウェア州の自宅から記者や寄付者、アドバイザーとの電話会見を行っているものの、数日間にわたって公開イベントが開かれていないため、テレビからはほとんど姿を消している状態だ。

バイデン氏の支持者でパラマウント・ピクチャーズのトップを務めていたシェリー・ランシング氏は、あらゆる資金集めが一段と困難になるだろうと指摘。新型コロナで人々が慈善的な寄付に目を向けるほか、景気低迷で人々の所得が打撃を受けるためだ。

また、人が集まるイベントを開けないことのデメリットも強調。ランシング氏が自宅で以前に開いた資金集めイベントでは数十人がバイデン氏との写真を撮るために列をなしたとし、「対面の接触に置き換われるものはない」と述べた。【3月24日 ロイター】
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米議会における共和・民主両党の対立については、ニューヨーク州のクオモ知事が「今は共和党だの民主党だの言っている場合ではない。我々はひとつだ!助け合わなければ解決できない!」とアピールしていますが、“米上院の新型コロナ法案、民主党が阻止 採決へ協議継続”【3月23日 ロイター】といった話もあって、当然ながらそう簡単ではないようです。

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