孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

香港  深刻な打撃を受ける中国依存経済 抗議行動は沈静化 終息後は?

2020-03-09 22:36:22 | 東アジア

(人口が密集している香港では、新型コロナウイルスの不安から逃れ、新鮮な空気と運動ができる場所を求めてハイキングに出掛ける人が増えている。(写真は香港の清水湾を見晴らす釣魚翁で写真を撮るハイキング客たち)【3月5日 AFP】 この人々が再び路上の抗議行動に戻ってくるのか?)

【中国一極依存のリスクに直面 支持率一桁の香港政府、一人14万円の「バラマキ」】
内閣府が9日発表した日本の2019年10~12月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動を除いた実質で前期比1.8%減、年率換算では7.1%の大幅減少でした。

世界経済の減速が尾を引き、更に消費税率の引き上げもあったことによるとされていますが、最近そして今後しばらくの新型コロナウイルスによる甚大な影響を考えると、この経済減速傾向はしばらく続きそうな気配です。

そのあたりは世界各国も共通で、中国経済に大きく依存している香港も影響は深刻です。

2003年、SARSで落ち込んだ香港経済は、大陸から観光客を送り込んでもらうことで息を吹き返しましたが、結果として大陸依存を強めることになりました。

そして今、その大陸からの観光客が途絶えることに。

****新型コロナで露呈した「中国人観光客依存」の危険、香港・マカオと台湾の明暗****
新型コロナウイルスで中国人観光客が減少しているが、痛手を被っているのは日本だけではない。中国一極依存を深めているアジアの各地も例外ではないようだ。香港、マカオ、台湾のインバウンドは今、どうなっているのか。

香港も「観光客ゼロ、収入ゼロ」
香港の街を象徴するのは、ビクトリアピークでも女人街でもない。今やどこに行ってもドラッグストアと宝飾品チェーンばかりが目につくが、これこそが中国人観光客誘致にのめり込んだ香港の現在の姿だ。

中国人観光客が欲しがる商品と店づくりを追い求めた結果、香港の街はドラッグストア・コスメチェーンの「莎莎」「卓悦」、宝飾品チェーンの「周生生」「周大福」の商業看板に埋め尽くされてしまった。
 
観光客の8割を中国大陸に依存し続けてきた香港は今、「中国一極依存のリスク」に直面している。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、香港政府は大陸に直通する高速鉄道を止めるなど、大陸との往来を制限した結果、インバウンド事業者は「観光客ゼロ、収入ゼロ」に頭を抱えている。多くの観光バスの運転手が離職を余儀なくされているのも日本と同じだ。
 
振り返れば2019年、「逃亡犯条例」に反対する抗議デモは日を追うごとに過激になり、反中色を帯びるようになると、大陸からの観光客が激減した。

2018年、香港には日本の6倍にのぼる5100万人の中国人観光客が訪れていたが、2019年は4377万人と、前年比で14%も減少した。

「ラーメン屋が立ち退かされ、入ってきたのは中国人客目当てのドラッグストア。家の周辺には10軒以上もあるが、こんな数は必要ない」(旺角在住の香港人)と、市民の反感を買いながらも、店舗を増やしたドラッグストアだが、その化粧品や薬の販売も落ち込んでいる。(中略)
 
2003年、SARS禍で落ち込んだ香港経済は、大陸から観光客を送り込んでもらうことで息を吹き返したが、結果として大陸依存を強めた。

今、香港政府が打ち出した経済対策は、市民1人当たり1万香港ドルの現金支給による内需振興だ。(後略)【3月6日 姫田小夏氏 DIAMONDonline】
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「市民1人当たり1万香港ドルの現金支給」というのは、随分思い切った「バラマキ」のように思えますが、“香港民意研究所が(2月)25日に発表した世論調査によると、林鄭氏の支持率は今月初めから4ポイント下落し9%、不支持率は83%だった。”【2月26日 産経】という最悪の政治状況を何とか打開しようとするものでしょう。

また、“9月にも予定される選挙を控え、立法会(議会)から現金給付を求める圧力が強まっていた。”【2月26日 朝日】といった事情も。

****香港政府、18歳以上の市民に約14万円支給へ 700万人対象****
香港政府は26日、2020年度の予算案を発表し、18歳以上の全市民に一律1万香港ドル(約14万1800円)を支給するための財源(710億香港ドル)を盛り込んだ。

19年6月から続く政府への抗議デモに加え、新型コロナウイルスの影響で経済が大きな打撃を受けていることを受けた措置で、約700万人が対象となる。
 
香港では抗議デモの激化で観光客の約8割を占める中国本土からの来訪者が激減し、小売業や観光業を直撃。経済指標が軒並み悪化し、19年の実質成長率は前年比でマイナス1・2%となった。

さらに2月以降は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため中国本土との人の往来を規制。市民も外出を控えているため景気悪化に拍車がかかっている。陳茂波財政官は26日、現金給付について「地域の消費を刺激し、市民の経済的負担を軽減するため」と説明した。
 
予算案は1391億香港ドル(約1兆9700億円)の赤字で、積立金を取り崩して補う。陳氏は「財政赤字は今後5年は続く」との見通しを示した。【2月26日 毎日】
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効果のほどはわかりませんが、14万円もらえば一定に消費刺激効果はあるでしょう。潤沢な積立金がある香港だからできる措置でもあります。巨額債務残高を抱える日本では・・・・。

なお、2020年度の予算案では“昨年から続く反政府デモの抑え込みを強化するためとして、警察予算を前年の当初予算案より約25%増と大幅に増やした。民主派は「今回の予算案の中で最大の勝者は警察だ」として反発を強めている。”とのことで、抗議デモ封じ込めの姿勢は変わらないようです。

【コロナで沈静化した抗議デモ 火種は残る】
その抗議デモの方は、さすがに新型コロナウイルスの問題があって沈静化していましたが、先日、久しぶりに実施されたようです。

****香港デモ115人逮捕 新型コロナ、防疫対策に不満****
香港で二月二十九日夜から三月一日にかけて、新型コロナウイルスの感染拡大後では最大規模となる政府への抗議活動があり、香港警察は一日、デモ参加者のうち十五~五十四歳の百十五人を逮捕したと発表した。香港メディアが報じた。
 
「逃亡犯条例」改正案をきっかけに昨年六月から続く反政府デモは、新型コロナウイルスの感染拡大で下火となっていた。

感染者の増加に伴い政府の防疫対策に対する不満が募り、市民の怒りに再び火が付いた形だ。

一方、米中貿易摩擦、デモ、新型肺炎の三重苦で香港経済が落ち込む中、政府は「経済的損失」を理由にデモ収束を図る構えだ。
 
昨年八月三十一日の大規模デモから半年になるのに合わせて、市民らが二十九日夜、インターネットの呼びかけに応じて九竜地区に参集。一部が警官に火炎瓶やれんがを投げ、警官は催涙ガスで応戦した。一日には数十人の市民が新型コロナウイルスの感染者を診察する病院前で火炎瓶を投げた。
 
香港政府の陳茂波(ちんもは)財政官は一日のテレビのインタビューで「反政府デモが続けば香港のビジネス環境に対する外国人投資家の信頼を失う」とデモ隊に警告した。(後略)【3月3日 東京】
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上記のような散発的抗議行動はあるにしても、基本的には、今のところ抗議行動は沈静化しており、香港・台湾戦略の失敗、新型コロナウイルス感染の蔓延と痛手続きの習近平政権にとっては、数少ない朗報でしょう。

ただ、香港市民の怒り・不満が解消した訳でもありませんので、新型コロナが沈静化すれば再び・・・ということも考えられます。

****新型ウイルスで打撃受けた香港デモ、収束するも住民の怒りは今もやまず****
新型コロナウイルスは、香港の民主派によるデモの終結という思いがけない贈り物を中国政府に手渡した――だが、香港の高校生であるサムさんのようなデモ参加者は、再び路上へと戻る前に英気を養うチャンスと捉えている。
 
逮捕される恐れがあるため本名を名乗るのは断ったサムさんは、「私たちの多く、特に最前線に立つ人々は、少しだけ休息が必要だ」と話す。
 
人々が機動隊と衝突を繰り広げ、傘を盾代わりにして壁となり、催涙ガスから身をかわしていた数か月の後、サムさんは今、小さなアパートで身をかがめ、学校の宿題やビデオゲームをしながら過ごしている。

「この休みがあって初めて、自分がどれほど(精神的に)参っていたかに気付いた」「とは言ってもこれまでと同じように、路上に戻って闘い続ける意欲がある」
 
気がめいるような年明けを迎えるはずだった中国政府および香港に駐在する幹部たちにとって、7か月間に及んだ大規模デモの終結という思わぬ幸運に恵まれた。
 
中国中部で新型コロナウイルスが現れ始めた頃、香港の活動家が疲弊して逮捕者が大幅に増加する一方で、抗議デモは弱まっていった。
 
さらにウイルスが流行して人々が人ごみを避けるようになり、デモは終幕を迎えることになった。
 
だが今も住民の怒りが渦巻く香港では、香港政府トップの林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官や中国政府のいずれもが数年にわたって怒りに火を注いでいた問題に取り組めておらず、ウイルスの流行が衰えを見せたならば、再び容易に政情不安に陥ると予想する声も多い。

■「まだ終わっていない」
嶺南大学に所属する専門家、袁瑋熙氏は、「政府は、抗議デモがやんだと思っているかもしれない。だが、一連の抗議活動の視点に立てば、非常に根本的な要求の一部がまだ満たされておらず、人々の怒りが消え去っていないがゆえに、まだ終わっていない」と指摘する。
 
新型ウイルスへの対応をめぐって林鄭長官率いる政権は、新たに多くの支持者をほとんど勝ち得ることはできず、支持率は過去最低の水準のままだ。
 
同長官が当初、中国本土との境界の閉鎖にした二の足を踏んだことについては、政界における親中派の僚友たちからも批判の声が相次いだ。また、2003年に死者を出した重症急性呼吸器症候群の流行を経験していたにもかかわらず、十分な数のマスクを政府が備蓄できていなかったことについても、怒りの声が上がった。
 
香港で新型ウイルスの感染者が確認されて以降に発生した主要な抗議デモは、感染が疑われる人を隔離して検疫を行う臨時施設に反対する地元住民の集会、および中国本土との境界の封鎖を要求したデモの2度のみだ。(中略)

「双方(の出来事)とも、政府への深い不信感から発している」とし、林鄭長官の政権が「現実から遊離し、住民の声に耳を傾けるのを欲しない」との印象を与えていると話した。

■新たな戦略
その一方で、新型コロナウイルスの流行により、暴力沙汰を伴った路上での集会に代わるものとして、民主派デモの支持者らはすでに検討されていた新たな戦術─労働者の示威行為─の感触を得た。

「完全自由市場」の殿堂である香港では、労働運動は無力で、香港最大の労働組合は頑強な親中派の第一線を張る。
だが抗議デモで多くの人が逮捕されたことを受け、民主派の労働組合員数は急増。
 
先月には、新たに結成された医療関係者の労組の組合員が多数、中国本土との境界の閉鎖を求めて1週間にわたりストライキを実施した。政府はその後、本土との境界をほぼ閉鎖したものの、示威行動に屈したとの見方については否定した。
 
しかし、暴力沙汰が消え去ったからといって、中国政府が譲歩しようとしていることを示唆するものほとんどない。
 
中国政府の香港政策を担当する香港マカオ事務弁公室には、強硬派の当局者2人が配置された。うち一人は、中国本土におけるキリスト教取り締まりの急先鋒として知られている。
 
習近平中国国家主席はまた、争点と化して抗議行動を招いた、愛国教育と扇動を取り締まる条例の香港への導入に対して支持を示唆。
 
また専門家の多くは、新型ウイルスの流行が、最善のシナリオでは4月もしくは5月に抑え込まれると予想しており、そうなれば林鄭長官と中国政府とっては一安心となる。
 
だがそれは、ちょうど抗議運動が始まってから1年を迎える6月に合わせて、抗議活動を解き放つことにもなり得る。
 
サムさんは、「一連の抗議デモが香港を根本的に変えてしまった」と指摘。「近いうちに消え去ってしまうことはない」と語った。 【3月7日 AFP】AFPBB News
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もっとも、半年近い沈静期間、経済的ダメージの深刻化は、抗議行動再開にとっては高いハードルにはなるでしょう。香港政府あるいは中国政府の何らかの施策が、香港市民の怒りを掻き立てる起爆剤となれば別ですが。

一方で、下記のようなニュースも。

****香港で爆弾押収、17人逮捕****
香港メディアによると、香港警察は7日から8日にかけて市内22カ所を家宅捜索し、手製爆弾3個と計2・6トンの化学品を押収、21歳から53歳までの17人を逮捕した。
 
警察は、1月下旬から2月上旬にかけて出入境施設など3カ所で起きた爆弾事件の捜査を進めていた。香港では爆弾関連事件の摘発が増えており、警察トップの●(=登におおざと)炳強警務処長は「テロに近づきつつある」として警戒を強化している。【3月9日 産経】
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爆弾闘争のような過激化は、一般市民を抗議行動から遠ざけるだけでしょう。

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