(中東カタールの首都ドーハで、米国との合意の署名式会場に到着したアフガニスタンの旧支配勢力タリバンの代表団(2020年2月29日撮影)【3月2日 AFP】)
【トランプ大統領 電話でタリバン幹部と「よい会談」】
アフガニスタンでの「終わりなき戦争」の終結に向けた第一歩として、アメリカとタリバンが2月22日からの1週間の「暴力の削減」を経て、ドーハにおいて2月29日に和平合意に署名・・・と言う件は、2月29日ブログ“アフガニスタン 「終わりなき戦い」に終わりが・・・アメリカにとっては”でも取り上げました。
****タリバン幹部 米大統領と電話会談 和平合意の着実履行で一致*****
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンは3日夜、幹部がアメリカのトランプ大統領と電話会談を行い、先月署名したアメリカ軍の撤退を含む和平合意について、双方が改めて着実に履行していくことで一致したことを明らかにしました。
タリバンの声明によりますと、ナンバー2のバラダル師が3日夜、トランプ大統領と電話で会談したということです。
この中でバラダル師は、先月29日にカタールのドーハでアフガニスタンに駐留するアメリカ軍の撤退などを含む和平合意に署名したことを高く評価するとしたうえで、アメリカ軍など国際部隊の撤退に向けて双方が改めて着実に合意を履行していくことで一致したとしています。
この会談について、トランプ大統領はワシントンで記者団に対し「タリバンとはよい会談ができた。双方が、暴力を望まないことで一致した」と述べました。
アメリカ同時多発テロ以降、アメリカの大統領がタリバン側と直接話したのはこれが初めてとみられます。
タリバンの声明では、アメリカのポンペイオ国務長官が、ガニ大統領と近く話し合うということで、今月開かれる見通しのアフガニスタン政府とタリバンとの直接対話の実現に向けて調整を進めているということです。
ただ、対話の前提条件となる双方の人質の交換が難航するとみられることから対話が実現するか不透明な情勢です。【3月4日 NHK】
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タリバン幹部とアメリカ大統領が電話で「よい会談」・・・以前は考えられなかったことで、情勢は大きく転換したようです。
【アフガン・ガニ大統領 捕虜解放について「密室で決められたもので、解放の約束はしていない」】
ただ、上記記事の最後にもある人質交換交渉など、現地の状況は不協和音・衝突が目立つ感も。
上記電話会談も、そうした危うい情勢を踏まえて、事態を安定化させる目的があってのものだったのでしょう。
****米・タリバン合意の捕虜交換、アフガン大統領は反発****
米国とアフガニスタンの旧支配勢力タリバンが結んだ和平合意に関し、アフガニスタン政府は1日、米とタリバンの捕虜交換という鍵となる条項に反発した。アフガン政府とタリバンが独立した合意を締結するための交渉は難航が予想される。
先の大統領選挙で再選したが不正疑惑で政治危機に直面しているアシュラフ・ガニ大統領は、米国とタリバンが結んだ合意の中の、多数の捕虜の交換を求める条項を確約しないと言明した。捕虜交換は、タリバン側が数年にわたり要求していた。
合意では、タリバンの捕虜の解放について「米国はこの目標の達成を誓約する」としているが、アフガン政府が実施しない場合には、目標がどのように実現されるのかは不明だ。
ガニ大統領は異例の記者会見を行い、「捕虜5000人を解放するという確約はない」と言明、いかなる解放も「米国の権限内でなく、アフガン政府の権限内にある」と強調した。
捕虜交換は、先月29日にカタールの首都ドーハで米国とタリバンが署名した合意の一部。1年以上に及ぶ双方の交渉で具体化されたこの合意の中で、米国は、タリバンがさまざまな誓約を順守し、アフガン政府との協議を開始するという条件で、アフガンから駐留部隊を14か月以内に完全撤退させる計画を示している。 【3月2日 AFP】
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このあたりは、当事者たるアフガニスタン政府を蚊帳の外に置いて、アメリカとタリバンの間で頭越しに行われた交渉の欠陥というか、そういう経緯へのアフガニスタン政府の反発でしょう。
****タリバン構成員解放「密室で決められた」 アフガン大統領、和平合意内容に苦言****
アフガニスタンのガニ大統領は1日、米国とイスラム原理主義勢力タリバンの和平合意に盛り込まれた政府が拘束しているタリバン構成員5千人の解放について、「密室で決められたもので、解放の約束はしていない」と述べた。
和平合意の陰で埋没している政府の存在感を示すとともに、10日から始まる予定の政府とタリバンの直接対話で主導権を握りたい意図がある。
ガニ氏は首都カブールでの会見で構成員の解放について、「米国ではなく、アフガン政府に権限がある」と強調。解放は前提条件ではなく、タリバンとの対話における「交渉材料」との見方を示した。
また、合意の前提として2月22日から実施された「暴力の削減」措置は「今後も継続される」と話し、恒久的な停戦につながることに期待を示した。
一方、大統領選の結果に反発して独自の政権を作ることを明言しているアブドラ行政長官は、ガニ政権が「和平プロセスを独占している」と批判。ガニ氏が作るタリバンとの交渉チームを認めない可能性があり、内政の混乱が国内での対話の行方に影響を及ぼす可能性もある。【3月2日 産経】
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アメリカもアフガニスタン政府との相談なしに捕虜解放を確約することもないと思いますが、アメリカとアフガニスタン政府の間で事前にどういう話がなされていたのかは知りません。
上記記事最後にある、ガニ大統領とアブドラ行政長官の対立も、今後予定されているタリバンとアフガニスタン政府の交渉の実現を困難にするものです。
【タリバン側 政府軍への攻撃再開を表明し、実際に攻撃】
タリバン側は、アフガニスタン政府の対応に対し、アフガニスタン政府軍への攻撃再開を表明して圧力をかけています。ただ、米軍など国際治安支援部隊は攻撃対象にしないとして、和平合意枠組みは維持する姿勢です。
****タリバン、アフガニスタン政府軍への攻撃再開を表明****
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンは2日、政府軍に対する攻撃を再開すると表明した。タリバンは、同国での戦争終結を目指すアメリカと2日前に合意に署名したばかりだった。
タリバンの広報担当は、政府が拘束しているタリバンの捕虜約5000人を解放しない限り、政府との和平交渉には臨まないと述べた。
同時に、政府軍への攻撃を再開すると表明。アフガニスタンに駐留する国際治安支援部隊は攻撃対象にしないとした。(中略)
「解放なしに協議なし」
タリバンのザビフラ・ムジャヒド広報担当はロイター通信に、「アフガニスタン内の協議に臨む準備は万端だが、我々の捕虜5000人の解放を待っている」と述べた。
また、「もし我々の捕虜5000人、この人数には100人や200人の違いがあるかもしれないが、彼らが解放されなければ、アフガニスタンでの協議はない」と話した。
アフガニスタンで拘束されているタリバン捕虜は約1万人いるとみられている。
BBCのシカンダー・カーマニ記者は、タリバンが実際に攻撃を再開するか、それとも捕虜解放に向けて政府に圧力をかけているのかは不透明だと伝えた。
アメリカの反応
アフガニスタン駐留米軍のスコット・ミラー司令官は、「我々は義務に対してとても真剣だ。タリバンにも彼らの義務に真剣に臨むよう期待する」とコメント。
「アメリカが何を望むかは非常に明快だ。暴力行為がわずかしかない状態が続かなくてはならない」と述べた。
アフガニスタンには現在、米軍1万2000人が駐留している。
ドナルド・トランプ米大統領は2月29日、5月までに米兵5000人を撤退させる考えを示し、近くタリバン指導者と会談すると表明した。
トランプ氏はまた、米軍が敵対する武装勢力を「千人単位で」殺してきたとし、「その仕事を他の誰かがすべき時だ。それはタリバンかもしれないし、周辺国かもしれない」と述べた。
マイク・ポンペオ米国務長官は米CBSの番組で、アフガニスタン政府とタリバンの交渉について、近日中に始まることを望むと述べた。【3月3日 BBC】
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アフガニスタン政府とタリバンの交渉は近日中に始まるどころか、タリバン側の発表のように、実際に政府軍への攻撃が始まっています。
****タリバン、アフガン各地で政府軍基地を十数回攻撃****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンは3日、同国内にある政府軍の複数の基地に対し、10回超の攻撃を実施した。
米国とタリバンが先月29日にカタールの首都ドーハで締結した和平合意によると、アフガン国内の内部者間の交渉は今月10日に始まる予定だが、捕虜交換をめぐる対立により、この交渉が進展するかどうか疑問視する声も出ている。
匿名を条件にAFPの取材に応じた国防省関係者によると、政府軍部隊に対する夜間の攻撃が、全国34州のうち13州で発生。
政府の発表では、同国南部のカンダハル州で発生した攻撃の一つで、兵士2人が死亡したという。
また首都カブールに近いロガール州の州知事室の発表によると、同州で発生した攻撃では治安部隊に所属する5人が死亡。これは国防省が公式発表した死者数には含まれていない。 【3月4日 AFP】AFPBB News
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【米軍 「防衛的な攻撃」とするタリバン空爆】
こうしたタリバンの攻勢に対し、政府軍を支援する米軍も空爆で応酬しており、和平合意の今後が危ぶまれています。
****タリバン戦闘員らを空爆、米軍発表****
米軍は4日、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンによる南部ヘルマンド州の軍事基地への攻撃を受け、タリバン戦闘員らに対する空爆を行った。米軍の報道官が明らかにした。米軍によるタリバンへの攻撃は11日ぶり。
アフガニスタン駐留米軍の報道官はツイッターで、検問所を攻撃していたヘルマンド州ナフレサラジ地区のタリバン戦闘員らに対する空爆を行ったと発表。「今回の空爆は、タリバンによる攻撃を中断させるための防衛的な攻撃」だと説明している。 【3月4日 AFP】
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“防衛的な攻撃”・・・・タリバン側がそれで納得するのか?
冒頭のトランプ大統領とタリバン幹部の電話による「よい会談」はこういう情勢の中で行われたものであり、今後米軍兵士に被害が及ぶ攻撃がなされれば、米軍のスムーズな撤退も難しくなります。