(マレーシアの人権団体がつくったバナー。ドラえもんが「僕は女性を見下しません!」と叫んでいる【4月2日 海野麻実氏 Newsweek】)
【マレーシア 外出制限でDV増加 「女性はおしとやかにドラえもんの声をまねよ」のアドバイスで炎上】
世界で拡大する新型コロナですが、マレーシア保健省は3月31日、マレーシア国内で新型コロナウイルスの感染者を新たに140人確認したと発表、感染者数は累計で2,766人となっています。
また、同日には感染者6人の死亡を確認し、死者数は計43人。
こうした状況で、マレーシア政府は厳しい活動制限令を実施しており、ジョギング中の日本人が拘束されて話題にもなりました。
****“外出”住民の拘束相次ぐ ジョギングの日本人も一時拘束 マレーシア****
感染拡大防止策として、原則外出を禁止しているマレーシアで、規則を破った住民の拘束が相次いでいる。
28日は、全土で649人が拘束されたほか、ペナンでは29日、69人が裁判所に送致された。
27日は、ジョギング中の日本人も一時拘束されている。【3月29日 FNN PRIME】
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この活動制限令は4月1日から更に強化され、スーパーマーケットなどの営業時間を短縮するほか、タクシーを含む自動車の通行時間も制限されています。なお、食品の買い出しや緊急時の外出は認められているようです。【4月1日 NNA ASIAより】
外出も厳しく制約されている状況で、3月31日ブログ“新型コロナによる自宅での自粛の家庭生活への影響 離婚増加やDV増加のニュースも”でとりあげた、家庭内暴力・DVの増加がマレーシアでも顕著なようです。
女性・家族・社会開発省も事態を憂慮して対応策を発表しましたが、その方向性が間違っており、厳しい批判にさらされることにもなっています。
****女性はドラえもんの声をまねよ、マレーシア女性省の助言に非難殺到****
(中略)マレーシアは多くの国々と同様、新型ウイルスの感染拡大を防ぐため、全国民に自宅待機を命じている。
女性・家族・社会開発省はがフェイスブックへの一連の投稿で、外出制限中に妻がどう振る舞うべきかについて助言した。
すでに削除された投稿では、洗濯物を一緒に干す夫婦のイラストの横に、夫に文句を言うのを控え、アジア各地で人気があるドラえもんの声をまねるよう女性に助言する説明文が添えられていた。
他の投稿では、在宅勤務をする女性に対し、化粧をして、カジュアルな服装ではなくきちんとした服装をするようアドバイスしていた。
これらの投稿を受け、ソーシャルメディアには怒りや不信を示す投稿が殺到。あるユーザーは、「どうして家で着飾ったり化粧したりすることで、新型コロナウイルス感染症を予防できるのか? 教えてくれ、頼む」と投稿した。
女性・家族・社会開発省は謝罪し、投稿が一部の人の気分を害したかもしれないと認めた上で、「今後は注意していく」と述べた。しかし、助言の狙いについては、「在宅勤務の期間中に、良好な家族関係を維持すること」で、他意はないと主張した。
外出制限や雇用不安によるストレスから対立が生じる可能性が増加する中、世界で家庭内暴力の急増が懸念されている。
地元メディアによると、マレーシアでは外出制限が始まった3月18日以降、DV被害者ら弱い立場にある人々向けの国営電話相談サービスへの問い合わせが50%超増加したという。 【4月1日 AFP】AFPBB News
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女性・家族・社会開発省の投稿は、イスラムを国教とするマレーシア国内における女性に対する一般的(特に男性側の)認識程度を示すものでもあるのでしょう。
ただ、どうしてドラえもんがここで出てくるのか?
気になっていましたが、そのあたりを解説した記事がありました。
****コロナ禍のマレーシアで始まった「ドラえもん大喜利」****
<東南アジアで新型コロナウイルスの感染者が最も多いマレーシア。外出禁止令も出たこの国で、政府の不手際によって日本のドラえもんが思わぬ「炎上」をしている>
思わぬところで「ドラえもん」が炎上している。
舞台は東南アジアのイスラム教国マレーシア。現在、新型コロナウイルスの感染者が東南アジアで最も多く、アジアで初めて国境封鎖が実施され、事実上の外出禁止令が2月中旬から出されている。
今、世界各地で「外出禁止ストレス」によるDV被害が報告され、国連も警鐘を鳴らし始めている中で、マレーシアの政府機関が自宅での夫婦喧嘩や言い合いを少しでも避けるために妻がどう振る舞うべきか、SNSでドラえもんを引き合いにアドバイスを試みた。
しかし、その内容がいささか女性たちの反感を買ってしまったようで――。
マレーシアの女性・家族・社会開発省が3月30日にFacebookやインスタグラムを通じて投稿したのはこんな内容だ。洗濯物を夫とともに干している夫婦のイラストの脇にコメントでこう書いてある。
「『ねえ、あなた。これが洗濯物を干すときに洋服を吊る正しい方法よ』とドラえもんの声を真似て、おしとやかにクスクスとはにかみながら、女性らしく笑いましょう!」
夫への文句は控えめに、妻はユーモラスな言葉やフレーズを使うべきだ、とも書かれている。
(「ドラえもんの声を真似てはにかみながら笑いましょう」とアドバイスをして非難を浴びた投稿(マレーシアの女性・家族・社会開発省のフェイスブックより、現在は削除)
外出制限中の自宅での服装についても、パジャマのような「部屋着」を身に着けることを避け、「あなた自身をいつも通りに仕立てましょう、お化粧をして、きちんとした服装を心がけましょう」などとアドバイス。
さらに、夫に皮肉を言う前に、20秒数えていら立ちを鎮めるのも効果的だとした上で、「ダイニングテーブルや台所、リビングルームは清潔に保つ」ことも奨励した。
あくまでユーモアの一つとしてドラえもんを登場させてみた、言ってみれば悪意のない投稿であったわけだが、女性たちからは性差別・女性蔑視だと非難轟々のコメントが相次いだ。
「どうして、コロナ対策で外出自粛の最中に、家でドレスアップしてお化粧を強いられなければいけないの?教えてください」
「もう2020年です、お願いだから前進してください。女性たちにとってもっと重要な問題にフォーカスしてほしい」
瞬く間に批判の嵐にさらされた女性・家族・社会開発省は謝罪に追い込まれ、投稿をすぐに削除。気分を害された人々に対して今後は注意を払いたいとしたうえで、あくまで「外出禁止令の最中、少しでも平和な家庭環境をどう維持するか」をアドバイスしたかった、と弁明している。
ちなみに、マレーシアでドラえもんは1992年から放映が始まり、今も国民の絶大な人気を誇る。ドラえもんの声はマレー語に吹き替えられ、マレーシア人の女性声優が日本のドラえもんよりもやや高い声で喋っているのが特徴だ。
現在でもマレーシア衛星放送最大手「Astro(アストロ)」グループが毎週放送しており、ドラえもんマレーシア版のフェイスブックオフィシャルサイトでは、ドラえもんが全国各地の商業イベントなどに出演し、子供たちに取り囲まれている様子が随時アップされている。
外出禁止令でたまるうっぷん
人気キャラクターのドラえもんを巻き込んだ騒動は、外出制限下で暇を持て余している国民の間に、皮肉とユーモアを交えて拡散されていった。
真っ赤な口紅とほんのりピンクの頬紅で化粧を施し、綺麗にカールした黄色いカツラを頭にちょこんと乗せたドラえもんが、小さな手鏡で自分の顔を映しながら「今日のお食事は何がいいかしら?」とコメントしているイラストなど、この騒動に乗じたユーモア溢れるドラえもんのコラージュが次々にネット上に登場。#DoraemonRespectsWomenというハッシュタグもツイッターで広がっている。
しかし、笑ってばかりもいられないようで、女性支援団体のマレーシア支部は即座に女性・家族・社会開発省の投稿が不適切であると強く反発。「これらの標語はジェンダーの不公平を加速させるものであり、古き家父長制の概念を永続させかねないものだ」と厳しく指摘した。
この騒動の背景には、外出禁止令が敷かれて2週間が経った今、散歩やジョギング、自由な買い物なども許されない中で、人々のうっぷんが徐々にたまっているという現実がある。
厳しい外出制限下で家庭内の暴力が増えていることは、今や世界中で報告されはじめている深刻な事態だ。マレーシア地元紙によると、国内では外出制限が始まって以降、DVや児童虐待の被害者ホットラインに2000件近くの電話相談(通常時の2倍以上)が掛かっている。
女性への暴力問題に関する国連特別報告者のドゥブラブカ・シモノビッチ氏は、世界各国が外出制限などを呼びかけている環境下で、家庭内暴力が増加する恐れが非常に強いと警告している。(中略)
ドラえもんの「どこでもドア」が本当にあれば、マレーシアでDVに悩む人も減るのだが。【4月2日 海野麻実氏 Newsweek】
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日本人には、ドラえもんと言えば大山のぶ代さんの独特の声のイメージが強いですが、“ドラえもんの声はマレー語に吹き替えられ、マレーシア人の女性声優が日本のドラえもんよりもやや高い声で喋っている”とのことで、きっと愛らしい声なのでしょう。
それにしても、“おしとやかにクスクスとはにかみながら、女性らしく笑いましょう”“お化粧をして、きちんとした服装を心がけましょう”・・・まあ、男性の女性への期待と言えば言えなくもありませんが・・・「冗談じゃないわよ!」というのはマレーシア女性も日本女性も同じです。
【フィリピン 「封鎖地区で「問題」を起こす者がいれば射殺すべき」との“ドゥテルテ節”】
冒頭、マレーシアでは活動制限の規則を破った住民の拘束が相次いでいるという記事を取り上げましたが、マレーシアでは拘束ですみますが、これがフィリピンなら・・・
****封鎖中に問題起こす者は「射殺」を、比大統領が発言****
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は1日夜、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)を受けて封鎖されている地区で「問題」を起こす者がいれば射殺すべきだと、治安部隊に指示した。
人口約1億1000万人の同国では、現在およそ半数が隔離下にある。この中には、厳しい移動制限により失業した数百万人の貧困層も含まれている。
ドゥテルテ大統領がこの指示を出した演説の数時間前には、首都マニラで、政府が貧困層への食料支援を怠っていると糾弾する抗議デモを行ったとして、スラムの住民約20人が逮捕されていた。
「警察と軍、そして自治体関係者らに命令する。問題が起きた場合、あるいは人々が争い自分の命が危険にさらされる事態になった場合は、射殺するように」と述べた大統領は、「問題を起こす代わりに、私はお前らを墓に送る」と言い放った。
フィリピンでは、これまでに2311人の感染が確認され、96人の死亡が報告されているが、同国は検査を強化し始めたばかりで、感染者数は増え続ける見通し。
ただアーチー・ガンボア国家警察長官は2日、「恐らく大統領はこの危機的状況を踏まえ、法の適用について改めて強調したまでだろう」との見方を示し、警察官らが問題を起こした市民を実際に射殺することはないと話した。 【4月2日 AFP】
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例によっての「ドゥテルテ節」ではありますが、この厳しい措置の一方で、2千億ペソ(約4200億円)を低所得層に分配する方針も決定しており、「アメとムチ」の両方で国民の不満を抑え込もうという話のようです。
ただ、多少のおカネをもらっても、失業などの埋め合わせには程遠いようにも・・・
フィリピンの感染状況については、以下のようにも。
****フィリピン、死者100人超す=新型コロナ****
フィリピン保健省は2日、新型コロナウイルスに感染した国内の死者数が、前日より11人増えて107人になったと発表した。感染者数は2月末まで3人だったが、3月に入って急増。2日までに累計2633人に達した。【4月2日 時事】
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こうした情勢にドゥテルテ大統領も苛立っているのでしょうが、それ以上に苛立っているのは失業などを強いられた国民です。
外出規制などの厳しい対応は、出口が見えないなかで、国民が受けるダメージをどのようにフォローするのかが重要な問題となります。
【インド 強気のモディ首相 異例の謝罪 失業増加で暴動の懸念も】
インドでも、あの強気のモディ首相が謝罪する状況にもなっています。
****インド、都市封鎖で失業増加 徒歩で帰郷も 首相は謝罪****
インドで新型コロナウイルス対策のため、全土を対象としたロックダウン(都市封鎖)が始まって、1日で1週間が経過した。
人口約13億人の移動を原則禁じる未曾有の大規模封鎖だが、失業者が相次ぐなど混乱も起きている。低迷が続くインド経済への影響も懸念され、モディ政権は難しいかじ取りを迫られている。
「特に貧しい人々に対し、私が過酷な措置を取ったことを謝罪する。だが、ウイルスとの戦いに他の選択肢はない」
モディ首相は3月29日のラジオ放送で封鎖に理解を求めた。強気の発言が多いモディ氏の謝罪は珍しい。
全土封鎖は21日間で25日から実施されている。感染拡大を防ぐため外出を制限し、食料品店や銀行など生活に必要な業種以外の商店の営業を認めていない。鉄道や地下鉄など公共交通機関もほぼ全面停止した。
ただ、多くの産業活動が停止したことから、日雇い労働者らの失業が続出。地元メディアは1億3600万人が職を失うリスクに直面すると見積もる。ツイッターでは「モディ氏が災害を起こした」というキーワードが拡散。昨年5月の総選挙で国政与党インド人民党(BJP)の大勝を呼んだ熱狂は消し飛んだ。
職を失った人が徒歩で故郷を目指す動きが出ており、西部グジャラート州では帰郷の交通手段を求める労働者約500人と警官隊の衝突も起きた。
政府は事態を憂慮し、貧困層支援を軸とする1兆7千億ルピー(約2兆4千億円)の経済対策を発表。8億人を対象に米や麦を配給し、8300万世帯にガス調理用ボンベを提供する。ただ、効果は限定的との見方が強い。
インドはここ数年、景気減速が続き、政府は1月、2019年度の国内総生産(GDP)成長率を前年度比1・8ポイント減の5・0%と予測。11年ぶりの低成長となる見通しだ。
さらに新型コロナが影を落とす可能性が高く、インド紙ヒンズー・ビジネス・ラインは「政府はショックを緩和する方法を早急に見つけなければならない」と警告している。【4月1日 産経】
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“保健当局は効果を強調するが、収入を失った労働者による暴動の懸念も生じている。邦人には帰国の動きが出てきた。”【3月31日 共同】とも