(新型コロナの判定テストを受けるため、子どもを抱えて順番待ちする女性 (シカゴ市)【4月8日 猪瀬聖氏 YAHOO!ニュース】)
【黒人の命がより危険にさらされている実態】
新型コロナの感染拡大が続くアメリカでは、その犠牲者においても「人種問題」があることが注目されています。
*****米国の新型コロナ犠牲者、黒人が突出 人種問題に飛び火か?*****
新型コロナウイルスの犠牲者数が爆発的に増加している米国で、とりわけ黒人の間に深刻な影響をもたらしている実態が徐々に明らかになり、社会の関心が高まっている。
人種間の格差は、一歩間違えば、米社会のアキレス腱である人種問題に火をつけかねないだけに、トランプ大統領も強い懸念を表明した。
犠牲者の72%が黒人
新型コロナによる死者数が100人を突破したシカゴ市のローリ・ライトフット市長は6日、新型コロナの人種別の感染者数と死者数のデータを公表。
「(人種間の)平等と統合を実現するため、われわれは今すぐ行動を起こさなければならない」と市民に訴えると同時に、黒人の感染者数の増加を抑えるための対策を強化することを約束した。
同市の発表によると、黒人は市の人口の30%を占めるにすぎないが、市内の全感染者数の半分以上を占め、全死者数に対する割合は72%に達した。
人口10万人あたりの感染率や致死率も、白人やヒスパニック系、アジア系に比べて3倍から7倍も高く、黒人の命がより危険にさらされている実態が明らかとなった。
シカゴ市だけではない。ワシントン・ポスト紙のまとめによると、デトロイト市を抱えるミシガン州は死者数がすでに800人を超えているが、その41%が、同州人口の14%にすぎない黒人だ。
また、ニューオリンズ市を中心とするルイジアナ州は、全人口に占める黒人の割合が32%と比較的低いにもかかわらず、死者数全体の70%を黒人が占めている。
トランプ大統領も懸念
各自治体は、新型コロナの感染者数や死者数を毎日のように発表しているが、人種別のデータを公表しているところは少ない。
各地から報告を受けている米疾病対策センター(CDC)も人種別のデータは出しておらず、マイノリティを支持基盤とする民主党の連邦議員や市民団体などは、人種に関する詳細なデータを公表するよう、要求を強めている。
こうした中、トランプ大統領は7日、会見で、新型コロナの犠牲者に黒人が多いとの認識を示した上で、「この問題に全力で取り組んでいく」と強調。人種別のデータを公開していく方針も明らかにした。
黒人の感染率や致死率が他の人種グループと比較して高いことに関し、米メディアは、基礎疾患の有無や、医療保険の未加入問題、過密な住環境、人との接触を避けるのが難しいサービス業に従事している割合の高さなどを理由として挙げているが、それらの根底にあるのは、貧困問題だ。
貧困率は白人の2.4倍
カイザー・ファミリー財団がまとめた人種別貧困率データによると、人口の少ないネイティブ・アメリカン(先住民)を除けば、最も貧困率の高いのは黒人の22%で、最も低い白人の9%に比べ2.4倍も高い。
貧困率は地域によっても大きく異なり、ルイジアナ州やミシシッピ州などでは、黒人の貧困率は30%を超えている。
黒人の貧困率が高いのは、親が貧困のため子どもが十分な教育機会を得られず、貧困が次世代に受け継がれる問題や、居住地域が限られているため周囲の社会環境の影響を受けやすい問題など、これも理由は様々だが、貧困は、個人の健康に大きな影響を及ぼしている。
コロナは、基礎疾患を持っている人のほうが重症化しやすく死亡リスクも高いことがわかっているが、米国では、糖尿病や慢性腎臓病、高血圧の持病を抱える人のリスクがより高いことが、データから徐々に明らかになってきている。
「私が象徴」
これらの基礎疾患の大きな原因が、米国の国民病と言われている肥満だ。実は、この肥満も、人種別で見ると黒人が一番多い。
CDCによると、肥満の中でも最も健康リスクの高い「深刻な肥満」の割合は、黒人の場合、全黒人人口の13.8%。白人の約1.5倍だ。ちなみに、「深刻な肥満」はどれくらい太っているかというと、身長170センチの場合、体重115キロ以上が当てはまる。
貧困層は、日々の食事に十分な注意を払う余裕もなく、安価で高カロリー、高糖質のジャンクフードに頼らざるを得ない。子どものころからこうした食事を続けると、肥満になるリスクが高まる。貧困と肥満は互いに深くかかわっているのだ。
黒人のジェローム・アダムス公衆衛生局長官(45)は7日、出演したテレビ番組で、「私自身も高血圧だし、心臓病で1週間、集中治療室に入ったこともあるし、喘息持ちで、糖尿病予備軍でもある。私そのものが、米国の貧しい黒人社会で育った遺産の象徴だ」と語り、新型コロナを終息させるため、国民に協力を呼び掛けた。【4月8日 猪瀬聖氏 YAHOO!ニュース】
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貧困率が高い黒人の場合、食生活などによる基礎疾患保有率が高いことに加え、医療機会の面でも制約があること、更に感染の可能性が高い環境に身をさらさねばならない仕事に就いていることが、新型コロナの犠牲になりやすい理由となっています。
****米の新型コロナ死者、なぜ黒人が多いのか****
(中略)
■新たな傾向
(中略)米公衆衛生協会の理事を務めるジョージス・ベンジャミン医師はAFPの取材に応じ、この問題が社会的な階級とも関連しており、また黒人の多くが感染の可能性が高い環境に身をさらさねばならない仕事に就いていると指摘した。
ベンジャミン氏は黒人に「バス運転手や通勤に公共交通機関を利用する人、また老人ホームで働く人や食料品店で働く人が多い」と述べ、黒人の方が他人と接する機会が多いとの見解を示した。
■構造的偏見
この問題をさらに悪化させているのは、アフリカ系米国人が医療システムで直面している、あからさまで、そして潜在的な偏見だ。
アフリカ系米国人向けの大学として有名なテネシー州ナッシュビルのメハリー医科大学の総長、ジェームズ・ヒルドレス医師は「住んでいるコミュニティーはどこか、そして保険に入っているかどうかで、診察を受ける機会がずっと少なくなってしまう」と指摘する。
また、バージニア大学医療センターの麻酔専門医であるエボニー・ヒルトン氏によると、黒人が治療を求めても症状を信じてもらえなかったり、適切な治療を受けさせてもらえなかったりすることが多いことは、論文などでも裏付けられているという。
人権団体「法の下の公民権を求める弁護士委員会」は今週、アレックス・アザー厚生長官に書簡を送り、「新型コロナウイルス感染症の検査や疾病負担、治療の結果に関する人種・民族の人口統計学的データを毎日発表する」よう求めた。
同委員会は、米疾病対策センターはすでにデータを収集しているが、意図的に公表を控えていると主張している。
一方、罹患率の高い心臓疾患やがんとは違い、新型コロナウイルスのアフリカ系やヒスパニック系への感染拡大は最終的にすべての人に影響を及ぼすことを理由に、先のヒルトン氏は、この問題に取り組みことはすべての米国人に利益になると指摘している。 【4月9日 AFP】
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“7日のホワイトハウスでの定例記者会見で、トランプ大統領と国立アレルギー・感染症研究所の所長、アンソニー・ファウチ医師は、新型コロナウイルスの犠牲者にアフリカ系アメリカ人が多いことについて、「まったく聞き捨てならない。どうしてこのようになっているのか解明していく」と不満をあらわにした。”【4月9日 安倍かすみ氏 YAHOO!ニュース】とのことですが、トランプ大統領が何に不満なのかよくわかりません。
人種によって犠牲者の割合が大きく異なるという問題に不満なのか、それともこの場面で人種問題が取り上げられることに不満なのか・・・
クオモNY州知事もこの問題を憂慮し、ヒスパニックや黒人層には公共交通機関をはじめ、社会に不可欠な仕事に出ている人が多いことを指摘しています。
****感染による死者の割合 ヒスパニック層や黒人層が高い NY ****
(中略)クオモ知事は8日の記者会見で、死者数は今後も増加するおそれがあるとしたうえで、マイノリティー層が大きな影響を受けているという見解を示しました。
それによりますと、ニューヨーク市ではこれまでに亡くなった人の中で、ヒスパニック層が34%と人口に占める割合の29%より高く、黒人層でも28%と人口比の22%より高くなっているということです。
一方、白人層は27%で人口比の32%より低く、アジア系は7%で人口比の14%の半分程度となっています。
クオモ知事は、ヒスパニックや黒人層には公共交通機関をはじめ、社会に不可欠な仕事に出ている人が多いという見方を示し、「毎日、外に仕事に出る以外に選択肢はなく、その結果、ウイルスに身をさらすことになる」と指摘しました。
そして今後、人種によって感染率や致死率に差が出ている原因を分析し、対策を急ぐ考えを示しました。
大都市シカゴがあり、感染拡大が深刻な中西部のイリノイ州や南部ルイジアナ州では、黒人層の死亡率が高くなっていて、トランプ大統領も原因究明と対策に取り組む考えを示しています。【4月9日 NHK】
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【「コロナ失業」においても人種間の格差】
ヒスパニックや黒人層は新型コロナへの感染リスクが高いだけでなく、「コロナ失業」の痛手を受けやすい立場にもあります。
****アメリカ、数百万人規模の「コロナ失業」で最も痛手を受けるのは、若者とマイノリティ****
失業リスクの高い職業
米国では、何百万人もの人々が今後数カ月の間に職を失う可能性が高まっています。しかし、その痛みは平等ではありません。最も失業のリスクが高いのは、有色人種の人々と若年労働者です。
新型コロナウイルスの蔓延を阻止するべく、米国経済が広範に「シャットダウン」されています。このため、経済活動が回復し始めるであろう2020年下期に入るまでの数カ月間で、失業率は30%にまで達する可能性があると、セントルイス連邦準備銀行の総裁、James Bullard(ジェームズ・ブラー)が予測しています。
ムーディーズ・アナリティクスのチーフエコノミスト、Mark Zandi(マーク・ザンディ)は、2,700万人以上が従事する5つの産業を、最も雇用の危機にさらされている産業と見なしています。その産業とは、レジャー・接客業(1,690万人)、運輸業(570万人)、雇用サービス業(370万人)、鉱業(66.2万人)、旅行手配業(22.2万人)です。
最も影響を受ける人種
Quartzは、米国国勢調査データを用い、業界データと労働者の人口統計を掘り下げ、コロナウイルスがもたらす不況で最も打撃を受ける可能性が高いのは誰なのかを調査しました。
ブルッキングス研究所の研究者は、どの地域が最も被害を受けやすいかを調査し、ネバダ州ラスベガスとフロリダ州オーランドが特に被害を受けやすいと明らかにしています。
分析は、この不況が有色人種にとって特に厳しいものになることを示唆しています。上記の影響を受けている産業で働く人口のうち、ヒスパニック系以外の白人は約12.5%であるのに対し、ヒスパニック系は17.6%、黒人は16.8%です。
内訳として、レジャー・接客業においては、ヒスパニック系の雇用が大きな割合を占めており、運輸業では黒人労働者の割合が高くなっています。
また、若年労働者がこれらの産業で働く可能性が高いことも示唆されています。上記の5つの産業のいずれかに従事している労働者のうち、18~29歳が20%以上を占めるのに対し、40代は12%未満です。レジャー産業においては、労働者の実に5分の2以上が18〜29歳なのです。
男女比でみると、女性よりも男性の方がリスクの高い職種に就く可能性がわずかに高く、15%対13.2%という比率です。これは、運輸業で働く労働者の77%が男性であることに起因します。特に黒人男性に多い仕事で、黒人以外の男性の2倍の確率で、この業界で働いているのです。
米国はマイノリティを救えるのか
有色人種の人々は、2009年のリーマンショックの際にも不釣り合いなまでに苦しめられました。データによれば、今回の不況もまた、今後数カ月の間、彼ら労働者とその家族にとって苛烈な重荷となる可能性が高まっています。
現在、米国の議員は、ウイルスの拡散によって停止した経済を復活させるための、救済策を議論しています。
歴史から学び、アメリカ社会で最も立場の弱い人々が取り残されていないようにするチャンスはまだ残されているのです。【3月24日 Yusuke Konishi氏 QUARTZ】
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ジョンソン英首相が感染したように、「病は人を選ばない」「病は平等」とも言われますが、全体としてみると、特定の者に大きな犠牲を強いる傾向があり、むしろ「病は不平等のリトマス紙」と言うべきでしょう。
(参考:3月22日ブログ“新型コロナは「不平等のリトマス紙」 弱い立場の人々へのケアが社会全体のリスクを軽減”)