(【4月22日 ロイター】スウェーデン・ストックホルムではカフェやレストランは通常営業 保健当局は21日、首都ストックホルムでの感染拡大はピークを過ぎたとの見方を示した)
【ロックダウンなしの緩やかな対応策で、死者数は1765人】
新型コロナ対策は各国で様々、強制力を伴った都市封鎖・外出規制・営業休止等で感染の封じ込めを狙う国、いろんな事情からより緩和な対応を取る国、緩和な対応を取っていたが感染が拡大してより強硬な対応に転換した国・・・等々。
その結果も様々。
そうしたなかで、強制力を伴わない緩和な対応で、今現在のところでは感染爆発にはいたっておらず、集団免疫を獲得して今後感染が抑制される可能性もあるとされているのが北欧スウェーデン。
スウェーデンの感染現況については以下のようにも。
****スウェーデン、首都の感染拡大ピーク過ぎる 抑制策緩和は尚早****
スウェーデン保健当局は21日、首都ストックホルムで新型コロナウイルスの感染拡大はピークを過ぎたとの見方を示した。ただ感染拡大抑制策の緩和は時期尚早とした。
スウェーデンの新型ウイルス感染者数は累計で1万5300人、感染による死者数は1765人。感染者数の約半分が首都ストックホルムでの感染となっているほか、死者数の割合もストックホルムが高い。
保健当局は、ストックホルムの感染拡大は4月15日にピークを付けた可能性があると指摘。ただ減少に向かっているかはまだ裏付けられていないとした。
病院などから集計されたデータに基づくモデルによると、ストックホルムでは人口約100万人のうち約3分の1が5月1日までに新型ウイルスに感染することが示されている。
ただ保健当局者は「3分の2がまだ感染する恐れがあることを忘れてはならない」とした。【4月22日 ロイター】
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【集団免疫を目指す方針への国民理解、「自制心」と「責任感」を重視する国民性】
スウェーデンではロックダウンのような強硬策は取られておらず、自粛を促す対応。
首都、ストックホルムではカフェやレストランは通常営業をしており、多くの人で賑わっています。学校も通常どおり。
結果、人口1千万程度の国で死者1765人・・・日本(人口1億2650万人に対し死者約300人)に比べたら相当なレベルですが、感染爆発したイタリア・スペイン・イギリス・アメリカなどに比べたら落ち着いた状況。
スウェーデンが緩和な対応策をとっていること、結果、比較的落ち着いた状況を維持できていることの背景には、充分な医療体制に加え、集団免疫を目指す方針への国民理解、「自制心」と「責任感」を重視する国民性もあるようです。
****封鎖なし「スウェーデン」異色の緩い対策のワケ 国民の「常識」はコロナと戦えるのか****
新型コロナウイルスの世界中で猛威をふるう中、海外の多くの都市では厳しいロックダウン施策が打ち出されています。そんな中で、他国と全く違う「独自政策」を打ち出してきたのがスウェーデンです。
4月4日付のデンマークのファイナンス紙によると、デンマークが比較的早く閉鎖策を取ったのに対し、隣国のスウェーデンは「都市封鎖はしない」という根本的に異なった策を取りました。実際、スウェーデンでは今もレストランはカフェが通常営業をしていますし、小・中学生は学校に通っています。
飲食店や学校閉鎖する段階にない
もっとも、スウェーデンでもコロナ感染者数と死者数は増え続けています。4月14日時点でコロナ感染による死者数は919人に上り、計1万948人が検査で陽性、重篤者の数は859人となっています。
同紙によると、ステファン・ロヴェーン首相は当初からこのエピデミックは長く続くことが予想され、1000人に上る死者が出ることを覚悟しなければならない、と国民に伝えていました。そして、疫学専門家のアンデシュ・タグネル氏は今も飲食店や学校を閉鎖する段階には達していない、としています。
スウェーデン第2の都市、ヨーテボリに住む知人によると、首都ストックホルム市民がコロナウイルスの影響を最も受けているので、市を離れないようにと要請されている一方、ほかの市町村では自分が通う医療機関地域内であれば、自由に行動ができるそうです。
ただし、スキーリゾートや大学、高校は基本的に閉鎖されています。また、政府は国民に対して基礎疾患のある人との接触を避けるよう求めているほか、70歳以上の国民には自己隔離を勧めています。
さらに、50人以上の会合の禁止、基礎疾患や高齢者向けの買い物を手伝う際は、商品を外に置き、直接の接触を避けるといったこともルール化されているようです。
仕事に関しては、スウェーデンはもとよりテレワークが根付いていることもあり、半数以上が政府からの指示はなくても自宅で仕事をしているようです。
スウェーデンが他国とは明らかに違う“ソフト”な対策を打ち出してきた背景には、前述のタグネル氏の存在があります。同氏は1995年にエボラが発生したときにザイールに派遣され、そこでの功績を高く評価されました。2009年の豚インフルエンザの際にはスウェーデン人に集団ワクチン接種を行い、たくさんの人命を救いました。(中略)
人口の57%が抗体を持てば状況が変わる
タグネル氏の考えでは、新型コロナウイルスなどの新しい伝染病は短期間に終息するとは考え難いので、常識的な対策を国民が日常的に行うこと以外に対策はありません。もちろんその中で感染者や死者は出ますが、人口の57%の人々が抗体を持てば、重篤化しやすい人々も救いやすくなる、ということです。
タグネル氏が率いるスウェーデン公衆衛生局には、300人の専門家が属しており、政府はその公衆衛生局の専門家たちの指針に準じて政策を練っています。
前述の通り、政府は長期戦になることを覚悟していますが、拡大のペースを抑えることによって、病院に重篤者が殺到する事態を避けようとしています。
前出の知人は、「自分もいずれはコロナウイルスに感染すると思う。でも回復したら、コロナウイルスへの抗体が自分にはできるわけで、抗体をもった人々の数が増えていけば、コロナウイルスは人類の脅威ではなくなる」と話します。現時点では、政府や国民の過半数もこの考え方を支持しているようです。
スウェーデン人の多くが国の方針を支持する理由はもう1つあります。スウェーデン社会では、「自制心」と「責任感」という2つが重要視されており、1人1人が自身に対して、そして社会に対して責任を負うという考え方が浸透しています。
なので、政府の打ち出す政策に対しては、「大人の対応」で臨むことが当たり前だとされています。
スウェーデン人は特に自分の権利を主張する傾向が強く、万一他の国のようにロックダウンなどを押し付けられると、自分らしい生活を送る権利が侵害されたと考える人が多いのです。
また、政府やメディアが発信する情報も透明性が高く、国民はこうした情報をもとに、自らの責任で行動を決めることに誇りを持っています。
政府もこうした国民性を鑑みたうえで、国民の常識に対策を委ねている、と言えます。
一方、ビジネスインサイダーのノルディック版によると、一部の科学者は政府の対応に懸念を示しており、先月末には2300人以上の専門家が政府の方針に異議を唱える公開書簡を発表しています。
欧州ではイギリスが当初、スウェーデンに類似したソフト対策をとっていましたが、感染の急拡大を受けて3月23日にはロックダウンへと方針転換しています。
「命がけの危険なギャンブル」になっている
こうした中、スウェーデンの独自路線には世界が関心を寄せており、例えばアメリカのワシントン・ポスト紙は、4月9日付の「スウェーデンの緩い対策は裏目に出ないのか」と題したコラムを掲載。
「現時点では多くのことは不明だが、複数のデータは(スウェーデンの)自由放任的なコロナ対策は命がけの危険なギャンブルになっていることを示唆している」と書いています。同紙によると、実際スウェーデンの死者数はノルウェーやデンマークといった他の北欧諸国を大きく上回っています。
また同紙は、「政府は、スウェーデンでは欧州南部のような世代をまたいだ交流は盛んには行われないとしており、実際複数世代が同居する家庭は少ない」にもかかわらず、「最もコロナウイルスに対して脆弱である高齢者が犠牲になっている」と書いています。
その背景には、高齢者が自主隔離したところで、彼らの介助をするケアワーカーが感染していれば感染は避けられない構図があるとしています。
現時点では医療崩壊は起きていないようですが、4月13日には、ロヴェーン首相は「もう少し厳しい措置が必要かもしれない」と認めたとする報道も出ています。一方で、感染者の数が落ち着きつつある、という報道もあり、規制を強化するか、国民の常識を信頼するのか、首相としても厳しい決断を迫られているのではないでしょうか。【4月15日 東洋経済ONLINE】
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集団免疫ということに関して言えば、「5月には獲得できる」との指摘もあり、実際、陽性率の低下がみられるようです。
****「ストックホルムは5月には集団免疫を獲得できる」スウェーデンの専門家の見解****
人口約1033万人の北欧スウェーデンでは、都市封鎖(ロックダウン)によらない独自の戦略により、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を抑制しようと取り組んでいる。そしてこのほど、スウェーデン国内の専門家から「5月には、首都ストックホルムで新型コロナウイルスへの集団免疫を獲得する可能性がある」との見解が示された。
ストックホルム在住者のうち、約2.5%が感染と推定
スウェーデン公衆衛生局の疫学者アンダース・テグネル博士は、ノルウェー放送協会(NRK)の取材に対して、「スウェーデン公衆衛生局の数理モデルによると、ストックホルムでは多くの住民が新型コロナウイルスへの免疫を獲得しつつあり、新型コロナウイルス感染症の流行の抑制に効果をもたらしはじめている」と述べた。
4月6日から12日までの週間レポートによると、ストックホルムでは、陽性率(新型コロナウイルスの感染を調べる検査で陽性と判定された人の割合)が前週前週の35%から14%に低下しており、スウェーデン公衆衛生局は、新型コロナウイルス感染症の流行が抑制されている徴候ではないかとみている。
スウェーデン公衆衛生局では、国民のうち、どれくらいの人が新型コロナウイルスにすでに感染したかを推計するためのサンプル調査に着手している。(後略)【4月21日 Newsweek】
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スウェーデンの緩和な対応が「現段階では」奏功している理由には、次のような指摘も。
“同氏(HSBCグローバル・リサーチのエコノミスト、ジェームズ・ポメロイ氏)はスウェーデンの国としての特徴が新型コロナ危機への対応に寄与している可能性があるとみている。
同国は単身世帯が全体の半分以上を占めるため、ソーシャル・ディスタンスが比較的確保しやすい。欧州で最も在宅勤務が進んでおり、高速インターネット環境が整備されているため労働者の多くはオフィスに居なくても生産性を維持できる。”【4月20日 Bloomberg】
1700名超の死者を出しながらも通常の社会生活が維持され、国民の間に動揺が見られないのは、国民の政府への信頼が非常に高いことがあるようです。
今朝のTVでもスウェーデンの様子をリポートしていましたが、インタビューを受ける人々が口々に「政府を信頼している」と語っているのが特徴的でした。(北朝鮮のような国ではそのように言わざるを得ないということがありますが、スウェーデンですから、その言葉を信用してもいいでしょう)
ただ、「自制心」と「責任感」について言えば、TVで報じられる市民生活はあまりに“普段どおり”で、政府が求めるソーシャルディスタンスが守られているようには見えませんでした。
【浮き足立ち、ヒステリックな日本 あまりに異なるインフルエンザへの対応との落差】
個人的に非常に興味深かったのは、集団免疫に対する理解にしろ、政府への信頼にしろ、国民の間で(高齢者には、自分たちが犠牲にされているとの批判もあるようですが)現状程度の犠牲はやむを得ないとの了解があるように見えることです。
日本も、「自制心」と「責任感」という点ではスウェーデンに引けはとらないでしょう。
また、日本政府もスウェーデン同様に強制力を伴わない緩和な対応を基本としてきました。
結果的に、死者数も諸外国に比べたら非常に少ないレベルを維持しています。
にもかかわらず、政府も国民も浮き足立った、慌てふためいたような様子、自粛・自粛と前のめりになるような雰囲気があり、スウェーデンの“平常どおり”の市民生活とは随分差があります。
その違いの理由は、集団免疫を獲得できるまではある程度の犠牲者が出るのはやむを得ない、自分も感染するかもしれないが回復したら免疫を獲得できる・・・・という「了解」があるか、そうした施策を進める政府を信頼できるかということがあるように思えます。
(免疫がどの程度有効かについては、新しいウイルスのため、確かなところはわからない・・・との考えもあります)
翻って、通常のインフルエンザについてみると、日本だけも毎年インフルエンザで千人単位の方(2018年で3325人)が亡くなります。
特に、高齢者、持病のある方などリスクが高い方で生命の危険があるのも新型コロナと同じです。
こうしたインフルエンザの毎年の流行、毎年の犠牲者については、日本でも特段の「パニック」は起きていません。
「まあ、そういうものだ」ということで済まされています。3千人超が亡くなっても。
どうして「新型コロナ」(現在死者300人程度)だと、そういう対応にはならず、浮き足立った対応、ヒステリックな自粛・予防行動になるのか?
もちろん新型コロナはインフルエンザよりも致死率は高くなります。
“新型コロナウイルスに感染した患者の死亡率は、検出されないこともある症状の軽い患者も含めた場合、約0.66%と推定され、今月上旬に公表されていた推定より低いことが分かった。ただし、インフルエンザの死亡率0.1%に比べるとはるかに高い。”【3月31日 CNN】
インフルエンザより遥かに高率ですが、致死率50%程度と言われたようなエボラ出血熱とは全くレベルが違います。
死者数が膨らんでいる国・地域は、疾病そのものというより、医療崩壊で十分な治療ができない結果死亡者が増大しているように見えます。
そのあたりを考えると、慌てふためいたり、ヒステリックになったりすることなく、一定の犠牲者は当然に出るという前提で「大人の対応」があってもいいのでは・・・とも個人的には思うのですが。(現在の日本の風潮では、こういうことを言ううと、非常識と罵倒されそうであまり言いたくもないのですが。そういう社会の雰囲気が大嫌いです。)
【貧困層にとっては「不確実な感染リスクか、外出規制による確実な飢えの恐怖か」】
こういう「非常識」「認識が足りない」「愛する人を感染から守る思いやりがない」と罵倒されそうなことを言うのは、(休業補償、10万円バラマキなどはあるにしても)強硬な外出制限等の措置の負の側面があまり考慮されていないようにも思えるからです。
以前のブログでも書いたように、外出を自粛しても生活していけるのは恵まれた環境にある人々です。
日本でも、外出規制によって職を失う人、廃業せざるを得ない人もいますし、世界的に見れば、今日・明日の食事にも事欠くという人々が大勢います。
そういう人々にとっては「命か、経済・カネか」の問題ではなく「不確実な感染リスクか、外出規制による確実な飢えの恐怖か」という問題になります。
****「空腹。助けて」車に群がる人々 生活苦に震える貧困層****
新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。世界の感染者は累計で240万人を超え、新興国や途上国でも流行が拡大している。こうした国々で貧しさにあえぐ人たちは、政治の恩恵から漏れる憤りや、感染の危険、生活苦に震えている。
(中略)状況は第2の都市・リオデジャネイロでも同様だ。感染者が出た貧民街に住む主婦マリルセ・マリアさん(38)は「各家屋に最低5人は住んでいる。1人が感染すれば全員にうつる」。
実家では、れんがを積んだ約50平方メートルの2階建てに家族14人が暮らす。消毒用アルコールどころか、せっけんや水道のない家もある。感染拡大を招く「密集」「密接」「密閉」がそろった環境で、感染症の専門家は地元紙に「貧民街で感染が広がれば、致死率は格段に上がる」と指摘する。
ただ、住民の懸念は感染の危険より明日の食事だ。地方政府が出した外出自粛要請で、多くの人が店員や物売りの仕事を失った。都市部では、赤信号で止まった車に人々が「空腹。助けて」と書いた紙を掲げて群がる光景が増えた。
ブラジルの15日時点の感染者は2万8320人、死者も1736人で、いずれも中南米で最多。だが、検査は重症者や医療関係者らにしか行われておらず、複数の研究機関が、実際の感染者は公表数の12~15倍になるとの試算を発表した。(後略)【4月22日 朝日】
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記事はシリア難民やアフリカ諸国の窮状に言及していますが、そのあたりはまた別機会に。