孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

新型コロナ  国営医療制度NHSを誇ったイギリスで欧州最悪の死者の予測、医療崩壊の危惧も

2020-04-14 23:24:12 | 疾病・保健衛生

(ロンドンでコロナウイルス患者を収容する病院の近くで学生が掲げたアウトブレイクと闘っている国営医療制度NHSのスタッフを応援する貼り紙【4月13日 朝日】 しかし、帰宅したNHSスタッフにツバを吐きかけたり「病気のスプレッダー」と罵詈雑言を浴びせたりするケースも相次いでいます。)

【新規の死者の9割が欧米】
東京の新規感染者はここ数日“高止まり”状態で、今後増加に転じるのか、逆に沈静に向かうのか・・・気になるところです。

東京が沈静化するば、やや浮き足立った感もある日本社会全体も落ち着きを取り戻して、冷静に新型コロナと向き合うこともできるようになるでしょう。

世界全体の数字は“拡大”が続いています。

****新型コロナ世界の死者約12万人 依然、欧米での被害拡大続く****
米ジョンズ・ホプキンズ大の集計によると、新型コロナウイルス感染症による死者は14日、世界全体で11万9千人超となった。依然として欧米での被害拡大が続いている。感染者は192万人を超えている。

死者は3月20日に1万人を超えて以降、増加のペースが急加速。31日に4万人を上回った後は、1〜2日で1万人以上が増える状態が続いており、今月12日に11万人を超えたばかりだった。
 
WHOの13日付状況報告によると、前日から増えた死者のうち、56%は欧州地域事務所管内(トルコや旧ソ連諸国を含む)、34%は米国と、欧米だけで全体の9割に達している。【4月14日 共同】
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3月20日に1万人を超えて、14日には12万人・・・すさまじいペースです。
そのなかで欧米が死者数の9割。

今は初期段階で、今後感染の中心が欧米以外の途上国に移っていくということでしょうか。
そうなると数字は現在よりもう一桁大きいものになっていくでしょう。最悪のシナリオです。

あるいは、欧米以外では正確な数字が把握されていないだけということでしょうか? 
多少はそういう面もあるかも。ただ、感染者数はともかく、そうそう死者数を隠すこともできないようにも・・・

あるいは、この疾病が、握手やハグ・キスなどの習慣を含めて、欧米に集中しやすい理由があるのでしょうか?
例えば、先月タイを旅行していましたが、店舗の大部分は道路との仕切りがないオープンスタイル。これなら「密閉空間」はできにくいかも・・・と感じましたが、そういうことも影響するのか?あるいは、気候の問題か?

【ピークを越えたようにも見える国があるなかで、先が見えないイギリス 欧州最悪の予測も】
感染の中心となっている欧米でも、これまで一番深刻だったイタリアやスぺインなどでは沈静化の兆しも見え始め、アメリカ・ニューヨークもやや傾向が変わってきたようにも。

そうした情勢を受けて、現在の外出規制などを緩和する議論も各地で出ていますが、一方でイギリスのように未だピークが見えない国、ロシアのように今後更に深刻化しそうな国も。

****英国は「欧州最悪となる恐れも」と政府顧問 死者1万人を超す****
イギリスの新型コロナウイルスによる死者が12日、1万人を超えた。英政府の科学顧問は、イギリスが欧州で最も被害の大きい国になる恐れがあると警告している。

医学研究を支援する英財団ウェルカム・トラスト代表で、英政府科学顧問の1人、サー・ジェレミー・ファラーは、イギリスが「欧州で最悪級の、下手をすると最悪の被害を出す」と、BBC番組」「アンドリュー・マー・ショー」で述べた。

イギリスの新型ウイルスによる病院での死者は12日、737人増え、計1万612人となった。この人数は病院以外での死者を含んでいない。

マット・ハンコック英保健相は、「今日は暗い日となった」と述べた。同時に、国民による外出自粛の努力を歓迎した。

死者が1万人を超えたのは世界で5カ国目で、アメリカ、イタリア、スペイン、フランス、イギリスの順。

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、世界最多のアメリカでは日本時間13日午後3時までに2万2100人超が亡くなっている。

欧州における死者は現在、イタリアが1万9800人以上で最も多い。スペインが1万7000人超で次に多く、1万4000人以上のフランスが続き、4位がイギリスとなっている。

一方、ドイツではフランスの13万3600人超に次ぐ12万7800人超の感染が確認されているが、死者は3000人に達していない。

緊急時に英政府に助言する科学顧問グループ(SAGE)のメンバーであるファラー氏は、ドイツについて、「並外れた」検査規模が入院患者の少なさの要因になっていると述べた。

BBCの番組で同氏は、COVID-19(新型ウイルスの感染症)の検査をすることで、感染者を隔離して感染拡大を防げると同時に、病院に態勢を整える時間を与えることになると説明。「間違いなく、学べることはある」と付け加えた。(後略)【4月13日 BBC】
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イギリス政府は当初、かなりの人数が免疫を獲得した集団内では感染が拡大しないという「集団免疫」戦略を取りました。重症化のリスクが最も高い人たちを守りつつ、医療崩壊を防ぐために感染者が一気に急増する事態を防ごうとする「緩和策」です。

しかし、それでは25万人が死亡し、国営医療制度NHSの集中治療能力は完全に破綻するという見通しが出され、ジョンソン首相は3月23日にテレビ演説を行い、国民に外出禁止を要請して方針を転換しました。

しかし、それでも感染拡大の勢いは止まっていません。

イギリスに限った話ではありませんが、実際の死者数は公式発表より更に大きいと思われます。

****英国の新型コロナ死者、公式データより15%多い可能性=統計局****
新型コロナウイルスによる英国の死者は、これまで公式統計で明らかにされているよりも実際には15%多い可能性がある。

英国立統計局(ONS)が14日公表したデータでは、老人ホームなど病院以外のコミュニティーにおける死者数も含まれている。それによるとイングランドとウェールズで4月3日までに死亡した6235人の死亡診断書に「COVID━19(新型コロナウイルス感染症)」と記載されていた。

ONSの統計学者、ニック・ストライプ氏は「イングランドのデータを見ると、国民保健サービス(NHS)による数字よりも15%多い。死因として疑われるケースも含めて死亡診断書に『COVID━19』と記載されているからだ。コミュニティーでの死亡者も含まれている」と語った。

政府が毎日発表するデータには病院での死者数しか反映されていない。

日々公表される公式データによると、英国では12日1600GMT(日本時間13日午前1時)までに累計で1万1329人が検査で陽性反応が出た後に病院で死亡している。
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今後の予測に関しては、更に厳しい見方も。

****英国のコロナ死者、欧州最多の6.6万人となる恐れ 米大学予測****
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)第1波による英国の死者数が、欧州で最多の6万6000人に達する可能性があるとする分析結果が7日、米ワシントン大学の研究チームにより発表された。
 
同大医学部の保健指標評価研究所が行ったモデリングによると、欧州全体での新型コロナウイルスによる死者数は15万1680人前後に達すると予測される。
 
英国の新型コロナウイルスによる死者数は7日、6000人を突破。これはスペイン、イタリア、フランスの死者数を下回っているが、英国のウイルス流行は他の欧州諸国より数日遅れており、死者の増加ペースは現時点で既に他国を上回っている。
 
IHMEの研究チームは、各国と世界の感染者数の集計と、中国、イタリア、韓国、米国の年齢別致死率、各国の集中治療室の病床数などに基づき、国別予想死者数のモデリングを実施。

その結果として、欧州諸国での8月4日までの死者数は上位から順に、英国が他国を大きく引き離す約6万6000人、イタリアが約2万人、スペインが約1万9000人、フランスが約1万5000人となると予想した。
 
IHMEは5日に発表した分析結果で、米国でのパンデミック第1波による死者は8万人以上に達すると予測していた。 【4月8日 AFP】
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こうした状況から、先述のようにイタリア・スペインでは規制緩和の話も出ていますが、イギリスはそういう段階にはないようです。

****英外相、外出禁止緩和せず=死者1万1000人超える―新型コロナ****
ラーブ英外相(首相代行)は13日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大阻止のための外出禁止について「現在の措置にいかなる変更も加わるとは考えていない」と述べ、当面は緩和されないと厳しい見通しを示した。

英紙タイムズによれば、ラーブ氏は少なくとも5月7日まで禁止措置を延長する方針を16日に発表する。
 
政府は先月23日、全土で不要不急の外出を禁止。政府の科学顧問グループが今週、再検討を行うことになっている。会見でラーブ氏は「この戦いに勝利し始めたことを示す前向きな兆候はある」と述べた。しかし「まだ先は長い。(感染拡大の)ピークを過ぎてはいない」と警戒を崩さなかった。
 
保健省によると、英国での感染者は13日現在、9万人に迫り、死者も1万1000人を超えた。【4月14日 時事】
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【現実味を増す医療崩壊の危機】
厳しい状況のなかで、気になる風潮も報じられています。

****「ウイルスを持って帰ってくるな」イギリスでは医療スタッフへ差別的な“虐待”が起きた****
新型コロナウイルスの大流行で日本でも緊急事態宣言が発令された。感染爆発が起きる前に医療現場が機能不全に陥る恐れも十分にある。医師や看護師を守ることができなければ患者の命は救えない。どんな備えと支えが必要か。医療崩壊に瀕する欧州から報告する。

数十人が公の場で虐待された
現在、英国では医療の最前線でウイルスと戦って帰宅したNHS(国民医療サービス)のスタッフにツバを吐きかけたり「病気のスプレッダー」と罵詈雑言を浴びせたりするケースが相次いでいる。近所の人から「ウイルスを持って帰ってくるな」「中国に帰れ」と嫌がらせを受けたスタッフもいる。
 
NHSスタッフの中には移民も多く、数十人が公の場で虐待されたという。イングランド主任看護師のルース・メイ氏はNHSのスタッフにユニフォームやID(身分証明書)を身に着けて通勤しないよう指示するとともにこう呼びかけた。

「私たちの命を救うために通勤していることを知りながら危害を加えようとするなんて本当に恐ろしいことだ。断じて許せない。看護師も助産師のチームもみな一生懸命働いている。どうか温かく接して」
 
こうした虐待はどうか少数であってほしい。英国の医療制度は原則無料、税金と国民保険料で運営されている。英国の誇りであり、市民の命を守る最後の砦である。

「医療従事者を拍手で激励しよう」
毎週木曜日午後8時、“対ウイルス戦争”の最前線に立つNHSの医師や看護師、スタッフを激励するため、英国中の市民がバルコニーや窓、玄関から拍手と声援を送っている。そしてNHSを支えるボランティアに75万人以上が志願した。(中略)

NHSのスタッフを拍手で激励する運動は、ロンドンで暮らすオランダ人女性のアナマリー・プラスさんの「外出禁止になり、ご近所さんとも顔を合わせなくなった。みんなで安全距離を保ちながら一緒に外に出て医療従事者を励まそう」という呼びかけで瞬く間に広がった。【4月10日 文春オンライン】
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「ウイルスを持って帰ってくるな」云々は座視できない暴言ですが、ただ、現実問題として医療関係者の間で感染が拡大している事実もあって、「医療崩壊」の引き金にもなる危険性があります。

****検査受けた医療従事者、3分の1が陽性判定 英****
 英国の国営医療制度「国民保健サービス(NHS)」の医療従事者を対象に実施されている新型コロナウイルス感染の検査で3分の1が陽性反応を示したことが分かった。

検査対象となっているのは「主要な医療従事者」とその家族。英政府が13日に発表したデータによると、検査を受けた1万6888人のうち、5733人の感染が確認されている。

医療現場で防護具が不足しているとの懸念が広がるなか、当局がNHSスタッフと家族の検査を強化するよう求める声が高まっている。

ハンコック保健相はこれまでに政府の計画として、まず自身や同居者に症状のあるスタッフから検査すると表明。最終的には症状にかかわらず、全員の検査を実施するとの方針を示している。【4月14日 CNN】
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医療従事者の3分の1が感染・・・・言葉を失う数字です。医療崩壊の現実味が一段と増す数字であり、その先には“(死者数が)欧州で最多の6万6000人”という悲惨な数字もちらつきます。

イギリスが世界に誇ってきた国営医療制度「国民保健サービス(NHS)」については、新型コロナ以前から深刻な問題が指摘されていました。

“英国の医療は、NHSと呼ばれる「国営医療制度」が主体だ。財源は税金であり、英国に居住していれば外国人であっても、患者は基本的に無料で医療が受けられる。(歯科治療は除く)しかし、NHSは慢性的な資金不足に苦しみ、近年の緊縮財政で、更に予算は削られる一方だ。資金難から人件費も削られ、手術を必要とする患者が長期間待たされるなど、深刻な事態に陥っている。”【2018年10月17日 伏見 香名子氏 日経ビジネス「EU離脱で英国の魂である医療制度が崩壊も」】

こうしたNHSの“劣化”の問題が現在の窮状に関係しているのかも。

【深刻な経済への打撃 EU離脱をどうするのか?】
当然ながら、経済への打撃も深刻です。

****4─6月期の英経済、30%のマイナス成長もと財務相 タイムズ紙報じる****
英タイムズ紙は、スナク財務相が他の閣僚に対し、4─6月期の国内総生産(GDP)は20─30%のマイナス成長になるとの認識を示したと報じた。

10人の閣僚が5月にも外出禁止措置を緩和すべきと主張しているという。閣僚名は報じられていない。

同紙によると、閣僚の1人は「ロックダウンによって一段の打撃を被る事態にならないようにすることが重要だ。ロックダウンはさらに3週間を予定しているが、その後は解除を開始すべきだ」と発言した。【4月13日 ロイター】
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“底が抜けて”死者数が欧州で最多の6万6000人といった状況になれば、こんな数字では済まなくなります。

つい2,3か月前までのEU離脱の問題など吹き飛んでしまいます。
こうしている間にも離脱期限が迫っていますが、どうするのでしょうか?
さすがにEU側も、しゃくし定規に期限を切って、合意もないまま「出ていけ」とは言わないでしょうが・・・。

新型コロナの影響を考慮して、EU離脱の話はいったん棚上げにするという道もあるように思いますが、コロナから復帰したジョンソン首相がどう考えるのか・・・。

 

コメント
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