孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリスのEU離脱は? コロナ禍で欧州最悪のダメージにもなる英 EU側には理念の揺らぎも

2020-04-21 23:17:17 | 欧州情勢

(【4月21日 朝日】 英以外はある程度先が見えてきた感がありますが、英はまだ被害が拡大し、欧州最悪の状況も予測されています。)

【死者数、経済ダメージともに深刻なイギリス】
欧州における新型コロナの感染拡大はさすが多くの国でピークを越えた感があり、規制緩和の動きも出ていること、そのなかにあってイギリスが依然として厳しい状況にあることは、4月14日ブログ“新型コロナ  国営医療制度NHSを誇ったイギリスで欧州最悪の死者の予測、医療崩壊の危惧も”でとりあげたところです。

****英、新型コロナ死者1.65万人超 感染者12.4万人****
英保健省は20日、英国内の新型コロナウイルス感染による死者が19日夕時点で前日から449人増え、1万6509人になったと発表した。

また、感染者数は20日午前時点で12万4743人になった。【4月21日 ロイター】
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死者数については、実際は更に大きいかも・・・という件は前回ブログでも紹介しました。

****英国の新型コロナ死者数、政府発表より40%多い可能性=統計局****
英国立統計局(ONS)の集計によると、英国の新型コロナウイルス感染症による死者の数は、政府が発表した4月10日までの累計数よりも40%以上多い。統計局が21日に明らかにしたデータには、病院以外での死者も含まれているという。(中略)

統計局のデータには介護施設やホスピスでの死者が含まれており、新型コロナの検査で陽性となったかどうかではなく、死亡診断書に新型コロナの記載があるかどうかに基づいている。【4月21日 ロイター】
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英保健省が20日時点の死者数として発表した数字が更に40%増えると、2万3000人を超え、欧州でイタリアに次ぐ多さとなります。(ただ、保健省の数字と英国立統計局の数字のギャップは狭まる傾向にあるとも)

今後に関しては、 “英国のコロナ死者、欧州最多の6.6万人となる恐れ 米大学予測” 【4月8日 AFP】という米ワシントン大学の調査を前回ブログで紹介しました。

こうした厳しい状況を受けて、英政府は16日、先月23日から開始した外出制限を少なくとも3週間延長すると決めています。

経済への影響に関しては、“4─6月期の英経済、30%のマイナス成長もと財務相 タイムズ紙報じる” 【4月13日 ロイター】との報道を前回紹介しましたが、英当局は通年で「マイナス12%」を予測しているとのこと。

****2020年の成長率「マイナス12%」 英当局が予測「失業者200万人以上」****
英予算責任局(OBR)は14日、英国の2020年の実質国内総生産(GDP)成長率について、新型コロナウイルスの感染拡大でマイナス12・8%に陥る可能性があるとの見通しを示した。19年はプラス1・4%だった。英メディアは「300年で最大の経済危機だ」(英紙テレグラフ)などと伝えている。
 
OBRは英国の財政に関する独立分析機関。3月下旬に始まった外出禁止措置が6月まで続くと前提を置いた試算で、この期間に当たる4〜6月期の成長率はマイナス35%を見込んだ。教育分野や飲食業、宿泊業の落ち込みが大きく、失業者は200万人以上増え、失業率が10%に達するとしている。
 
外出禁止措置の解除後は、制約はあるものの徐々に経済活動が再開して回復のスピードは速く、21年の成長率をプラス17・9%と見込む。
 
国際通貨基金(IMF)は、英国の20年の成長率をマイナス6・5%と見込んでいる。【4月15日 毎日】
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【常識的には「移行期間」延長 しかし、「離脱はもはや政治でなく神学の問題」との見方も】
前回ブログの最後で、“こうしている間にも離脱期限が迫っていますが、どうするのでしょうか?”というEU離脱問題に触れましたが、“一応”EU側との協議は継続しているようです。

****英EU、離脱後交渉実施で合意 テレビ会議で6月にかけ3回開催****
英国と欧州連合(EU)は15日、英EU離脱後の将来的な関係に関する交渉を3回に分けて実施することで合意したとの共同声明を発表した。6月には進捗状況の確認のため高官級会議を開く。

交渉はテレビ会議で行われ、4月20日、5月11日、6月1日から始まる1週間にわたって行われる。

交渉日程は、EUで英国の離脱協議を担当するバルニエ首席交渉官と英国の離脱交渉担当者デービッド・フロスト氏との会談で合意された。共同声明では「建設的な」会談だったとした。【4月16日 ロイター】
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しかしどう考えても、イギリスにしろ、EUにしろ、経済的ダメージは極めて深刻で、更に双方にとって経済的混乱をもたらすブレグジットに関して今後「建設的な」議論が深まるような状況にはありません。

常識的に考えれば、今年末の移行期間終了を延期する・・・という話になります。

****英国のEU離脱、コロナショックで「移行期間」年単位の延長も****
「リーマンショック級か」といわれていた新型コロナ感染症の経済への影響も、当初の想定を上回り、かつてない規模の打撃を世界経済にもたらすことになりそうだ。

世界経済のシナリオどころか経済のありかたを根底から覆しかねないコロナショックは英国のEU離脱後の世界にどのような影響を与えるのか。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの土田 陽介研究員のレポート「コロナ禍を受けて英国の『移行期間』は年単位の延長か」から抜粋して紹介する。

コロナショックに伴う英景気の悪化は、リーマンショックをはるかに上回る。王立経済社会研究の最新4月時点での試算では、4~6月期の経済成長率のマイナス幅は前期比年率で20%を超える見込み。

過去20年間の実質GDPの前期比成長率を見ると、英国が大幅なマイナス成長を記録した局面は、1990年第2四半期(年率4.1%減)と2008年第4四半期(同8.0%減)の2回ある。特に後者は、いわゆるリーマンショックに伴う景気悪化であるが、今回のコロナショックに伴う景気悪化はそれをはるかに上回るものであることが理解できる。

(中略)こうしたコロナ禍に伴う景気の極端な悪化を受けて、EU離脱後の「移行期間」の取り扱いにも変化が生じると考えられる。

英国は今年1月末で、悲願であった欧州連合(EU)からの離脱を実現した。そして今年の12月末までは、通商環境の激変緩和措置として、通商関係をEU加盟時と同様に保つという「移行期間」を設けることで英欧の双方が合意していた。

仮に年内に締結・発効できたとしても英経済に相応のショックを及ぼすものと考えられる。現在の疲弊した英国経済が、そうしたショックに耐えられるかといえば、かなり厳しいと考えざるを得ない。

交渉の相手となるEUの経済も、英国と同様にコロナウイルスの感染拡大を受けて疲弊しきっている。

感染収束までの道筋が依然として不透明であるなかで、両サイドとも人的リソースを将来の通商交渉のために割く余裕はない。通商政策の自主権回復を重視するジョンソン首相とは言え、今年末の移行期間の打ち止めはかなりハードルが高い。

こうして整理すると、移行期間はなし崩し的に延長となる公算が大きい。感染拡大の収束とその後の景気回復のパスが依然として不透明であるため、移行期間の延長が年単位となる可能性は十分に視野に入る。

もともと難交渉が予想されていた通商交渉であるが、皮肉なことにコロナウイルスの影響を受けて、移行期間の延期という現実的な解が実現する運びとなりつつある。

政府による巨額の経済対策も中銀の支えがないと実現不可能であるなど、マクロ経済政策の運営も非常事態にある。そのため、移行期間の延長が年単位となる可能性は十分あると予想される。【4月21日 ニュースイッチ】
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もっとも、上記は“常識的”な見方であり、ジョンソン首相をはじめとする離脱推進勢力にとっては別の発想もあるようです。

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混乱の中、先月末の世論調査では3分の2が離脱の移行期間について「延長を望む」と回答した。
 
だが、ジョンソン政権はあくまでも延長を求めない方針。ロンドン大のティム・ベイル教授(政治学)は「強硬派にとって、離脱はもはや政治でなく神学の問題だ。延長問題を(EU離脱という)信仰への試練だととらえている」とした。【4月21日 朝日】
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“離脱はもはや政治でなく神学の問題”となると、もはや常識が入り込む余地はありません。

【独自路線で傷を広げるイギリス】
今回のコロナ禍に関しても、英政府がEU側との協調をうまく行っていれば犠牲はもっと小さくて済んだかも・・・という面があります。

****揺らぐ欧州:上 独自路線、対応遅れた英****
新型コロナウイルスの感染拡大が著しい欧州各国が対策を苦慮している。中でも、欧州連合(EU)から離脱した英国は、独自の対応を目指して出遅れ、死者の急増に直面している。
 
フォーミュラ1(F1)チームが人工呼吸器づくりに参画――。英国各メディアは3月下旬、自国の対コロナ作戦を華々しく伝えた。

モータースポーツの花形F1に参加する自動車メーカーや家電大手ダイソンといった英国の代表的企業が医療を支援する計画だ。ジョンソン首相自身が3月中旬に主要企業を電話会議で招集し、要請した。
 
EUは当時、人工呼吸器を加盟国で共同購入する枠組みづくりを進めていた。だが、英国は独自開発の道を選んだ。「もはやEU加盟国ではないから」(英首相官邸報道官)との理由だ。目標は3万台。だが、4月中旬にようやく完成したのはわずか40台だ。
 
英国の初期対応はずさんだった。英国は1月末にEUを脱退したが、今年末までは移行期間にあたり、共同購入に参加する資格がある。実際、EU側は2月以降、英国に参加を促したという。

英BBCなどによると、EUからの招待メールは保健省の若手職員に届いたまま放置され、気づいた時には入札が終わっていた。野党議員は「政府は人命よりもEU離脱を優先させた」と批判。政府も「将来の調達の枠組みには参加を検討する」と修正に追われた。(後略)【4月21日 朝日】
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【EU側では「協調」の理念に揺らぎ 募るEUへの不信感】
もっとも、相手方、EU側の動揺も深刻です。
単に経済的ダメージというだけでなく、今回のコロナ禍ではEUが掲げる協調体制という理念に対する疑問が表面化しています。

****(コロナ危機と世界)揺らぐ欧州:上 連携不足、理念より自国優先 各国で輸出禁止や国境審査**** 

英国が離脱した欧州連合(EU)も新型コロナウイルスの脅威を前にその連帯が崩れ始めている。「国境間の人や物の移動は自由」「一つの経済圏として互いに支え合う」といったEUの理念自体がいま揺らいでいる。

「当初、イタリアが助けの手を必要としていた時、あまりに多くの国にその準備ができていなかった。心からおわびする」
 
EUの行政トップ、フォンデアライエン欧州委員長は今月16日の欧州議会で異例の謝罪をした。
 
2月下旬にイタリア北部で集団感染が発覚して以来、感染の波は瞬く間に国境を越え、欧州全域に広がった。欧州が一体となって取り組むべき危機に、加盟国がとったのは「自国優先」だった。

フォンデアライエン氏は「欧州が互いのために必要な時に、あまりにも多くの国が自国のことだけを考えた」と連携不足を認めてきた。
 
感染者が爆発的に増えたイタリアやスペインは、不足するマスクや人工呼吸器などの支援を、EUに求めた。

だが主要国のドイツは当初、マスクなどの輸出を禁止。イタリアに隣接するフランスやオーストリアも、国境審査を導入した。国境をまたぐ高速道路には検査待ちのトラックの長い列ができ、医療機器などの輸送に大きな影響が出た。
 
公衆衛生の分野でEUは加盟国に対し、大きな権限を持っていない。被害を過小評価していたことも重なった。なすすべを見つけられず、やっとEUが医療物資の共同購入の仕組みを立ち上げたのは、3月中旬になってからだった。
 
すでに同月上旬の段階で、予想をはるかに上回るペースでの感染の広がりに、EUが「連帯」すれば対応できるとの雰囲気は薄れていた。

フランスのマクロン大統領は当初、「ウイルスはパスポートを持たない。自国(第一)主義に引きこもってはいけない」としていた。だが仏国内で感染が拡大し始めると、あっさりと方針を撤回。同月中旬に国境管理を復活させ、EU域外からの往来を制限することまで自ら提案した。
 
自国優先の動きは、EUに懐疑的な右派勢力を勢いづかせている。仏の右翼政党「国民連合」のルペン党首は「今まで正反対のことを主張してきたマクロン氏をどうして信頼できるのか。愛国的経済政策をするというなら、徹底しないといけない」と揺さぶりをかける。
 
呼応するように、世論の保守化も目立つ。仏の調査会社オピニオンウェーが4月に行った世論調査によると、「EUではなく各国が国境管理をすべきだ」とする人も、仏で74%、独で63%に上った。

 ■財政支援で対立、EUへ不信感
EUの連帯は、経済的な打撃を受けた加盟国に対する救済策をめぐっても、試練に立たされている。
 
2万人以上の死者が出ているイタリアは3月、全土での「封鎖」と、食料品など生活必需品以外のすべての生産活動を停止した。その影響で、経済がストップしたままだ。国際通貨基金(IMF)は、今年の経済成長は戦後最悪のマイナス9・1%にまで落ち込むと予測している。
 
コンテ首相は、議会の承認がいらない「政令」を出す形で、500億ユーロ(約5・9兆円)規模の経済対策を打ち出した。経済活動の再開に向けた運転資金の融資や、休業補償などのメニューが並ぶが、財政基盤はもともと弱い。EUからの財政支援を当て込んでいるのが実情だ。
 
その原資として考えられているのが、EUが債券を発行し、苦境に陥った国に資金を回す「EU共同債(コロナ債)」だ。イタリアやスペインなど南欧の国を中心に9カ国が提案した。加盟国間で分担して債務を保証することで、被害の大きい国の負担をできるだけ少なくする考えだ。
 
だが、この方法にはドイツやオランダが反対の声を上げる。オランダのフックストラ財務相は「長い目で見て、欧州にもオランダにも助けにならない」と主張。財政が豊かな国の税金が、そうでない国に直接的に使われる可能性があり、国民の理解が得られないとの意見が根強い。
 
代わりに議論されているのが、「欧州安定メカニズム(ESM)」という既存の基金を使う方法だ。2009年に巨額の財政赤字が発覚したギリシャなどが融資を受けた実例もある。
 
だがESMは、厳しい緊縮財政策と引き換えの「借金」となる。今回は申請の条件が緩められる見込みだが、国の財政がEUの監視下に置かれることへの抵抗感は大きい。
 
ギリシャは当時、新規投資がストップして失業者があふれる事態に苦しんだ。特に南欧の国々にとっては、ギリシャの二の舞いになることは避けたいとの思いが強い。
 
EU各国首脳は23日にテレビ会議を開き、打開策の模索を続ける。一方で、経済支援がいつ届くのかも見通せない状況で、国民のEUに対する信頼は急速に失われつつある。イタリアのテレビ局が4月中旬に行った世論調査では、「EUを信頼できない」と答えた人は66%に上った。
 
パリ政治学院のドミニク・レニエ教授は「EUは比較的早く経済支援策を打ち出したが、一部の国には連帯が不十分だと映った。今回の危機を経てEUがこのままでいることはできず、公衆衛生や経済支援で統合を深めないと、EU不信が強まって解体に向かいかねない」と警鐘を鳴らす。【4月21日 朝日】
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経済的ダメージは時間が経過すればある程度回復します。
しかし、理念への懐疑は時間がたっても自動的には回復しません。逆に深まることも。

イギリスとEU、満身創痍の両者の協議が今後「建設的」に進むのか?

 

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