(【2017年4月13日 CITY WATCH】 トランプ大統領の専制君主のような言動への批判は今に始まった話でもありませんが・・・)
【14世紀ペスト大流行は欧州に「自由」をもたらした】
新型コロナの世界的感染拡大、特に欧米社会に対する強烈なダメージは、中世ヨーロッパにおけるベスト(黒死病)の大流行への注目を惹起しています。
数字はいろいろあるとは思いますが、当時の世界人口4億5000万人の22%にあたる1億人が死亡したとも推計されています。
大規模な疫病は社会の変質をもたらしますが、14世紀欧州を襲ったペスト大流行は「自由」をもたらすことにもなり、その後のルネサンスや自由経済を生み出すことにもなったようです。
****感染症による社会の変質を考える 東京大学入試問題から****
(中略)感染拡大が続く新型コロナウイルス。緊急事態宣言が出るなど私たちにとっては未曽有の事態となっているが、歴史をひもとくと、世界規模の感染症の流行は何度も起きている。
■ペスト後にめばえた「自由」の数々 受験世界史専門塾代表・ゆげひろのぶさん
14世紀にパンデミックを起こし、黒死病と呼ばれたペスト。大航海時代に欧州とアメリカ大陸で交換されたと言われる天然痘と梅毒。ベンガル地方の風土病が、英国の覇権拡大で世界に伝搬したコレラ。第1次世界大戦の終戦の一因にもなったスペイン風邪……。感染症が大規模に流行するたびに多くの人命が失われました。
一方、感染症は、歴史の教科書に載っている様々な出来事のきっかけにもなっています。
「ペストは近代の陣痛」という言葉があります。ペストの流行が、暗く息苦しい中世から明るく自由な近代への転換をもたらしたという考えです。(中略)
中世の西ヨーロッパは神に対して敬虔(けいけん)でした。ところが人口の3分の1がバタバタと死んでいく。そうすると「神様はいないのでは……」「どうせ死ぬなら好き勝手に」となります。
ペストが猛威を振るった14世紀に出された『十日物語』には、修道院長が露骨に性交を迫る場面があり、近代小説の始まりとされます。ペストは従来の価値観に大きな変化をもたらしました。これがルネサンスです。
次に経済的側面です。同じく中世の西ヨーロッパでは、農村は共同体でした。畑には柵がなく、みんなで働いて、領主に年貢を納めた残りをみんなで分け合いました。
しかしペストによる大量死は極端な労働力不足をもたらします。そこで領主は農民の労働意欲を上げるために、それぞれに土地を貸し出します。
すると農民たちは、麦を植えるか、豆を植えるか、羊を飼うかと、自分で考え行動し、その成果も失敗も自身が受け入れます。これが資本主義、自由経済の始まりです。経済面でもペストは自由をもたらしたのです。
問題から外れてその後の歴史を見ると、特にペストが深刻だったイギリスで資本主義が発展しました。その結果、強国となって、英語と資本主義を世界中に広げました。(中略)
こうした社会の変化はペストに限った話ではありません。コレラは飲み水を介して流行が広がったので、予防のために上下水道の整備が進みました。結核予防のため、空気の通りを良くする大通りなど近代都市のインフラが整備されました。
現代に当てはめれば、新型コロナウイルスによる外出自粛は、テレワークやネット授業を急速に普及させています。新たな感染症の流行は大きな脅威ですが、それがもたらす変化の側面も、私たちは熟考すべきかもしれません。(談)
■新型コロナ、地方分権進むか
(中略)ヒトに感染するコロナウイルスは7種類が報告されている。四つは通常の風邪を引き起こすウイルスで、残る三つが2002~03年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)、12年に出現したMERS(中東呼吸器症候群)、そして今回の新型コロナウイルスだ。
山本(長崎大学熱帯医学研究所)教授は「20年弱で新型が3度というのは異常な出現頻度だ」と言い、「無秩序な開発や地球温暖化による生態系の変化で、ヒトと野生動物の距離が縮まっている。巨大都市化をさらに進めるのか、それとも人口も含めた地方分権をするのか。今後の変化は我々の意識次第だろう」とみる。(後略)【4月15日 朝日】
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【新型コロナが助長するのは強権支配か?】
ペストは「自由」をもたらしましたが、新型コロナ対応では強権的な中国が危機を一応乗り切ったことで「成果」を誇っているのに対し、欧米民主主義国は対応に苦慮している現実もあり、危機対応と言う面で「強権的政治体制」のメリットを示しているという見方もあるかも。
また、感染防止対策としての「市民監視」が強化され、コロナ後の「監視社会」に道を開くことになるかも・・・という不安もあります。
****コロナ危機、ハラリ氏の視座 「敵は心の中の悪魔」****
新型コロナウイルスによる感染症の脅威に世界中がすくんでいる。私たちはどう立ち向かうべきなのか。人類史を問い直し、未来を大胆に読み解く著作で知られるイスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリさんが電話でのインタビューに応じた。今まさに分かれ道にさしかかっている、と言う。(中略)
――ウイルスの感染拡大で、私たちはどのような課題に直面していると考えますか。
「世界は政治の重大局面にあります。ウイルスの脅威に対応するには、さまざまな政治判断が求められるからです。三つの例を挙げてみましょう」
「まず国際的な連帯で危機を乗り切るという選択肢があります。すべての国が情報や医療資源を共有し、互いを経済的に助け合う方法です。他方で、国家的な孤立主義の道を選ぶこともできる。他国と争い、情報共有を拒み、貴重な資源を奪い合う道です。どちらの選択も可能で、政治判断に委ねられています」
「また、ある国はすべての権力を独裁者に与えるかもしれない。独裁者がすでにいる場合もあれば、新たな独裁者が生まれる場合もあります。一方で、別の国では民主的な制度を維持し、権力に対するチェックとバランスを重視する道を選ぶでしょう」(中略)
強さ求める国民、慎重な政府
――独裁と民主主義のうち、どちらが感染症の脅威にうまく対応しているでしょうか。
「日本や韓国、台湾のような東アジアの民主主義は、比較的うまく対処してきました。感染者や死亡者の数は低めに抑えられています。しかし、イタリアや米国は同じ民主主義でも、状況ははるかに悪い」
「独裁体制でも中国は、うまくやっているように見えます。中国がもっと開かれた民主主義の体制であれば、最初の段階で流行を防げたかもしれない。ただ、その後の数カ月を見れば、中国は米国よりもはるかにうまく対処しています。
一方でイランやトルコといった他の独裁や権威主義体制は失敗している。報道の自由がなく、政府が感染拡大の情報をもみ消しているのが原因です」
――どちらの政治体制が望ましいとも言えないわけですか。
「現状では、独裁と民主主義が生む結果の間に明白な差はないようにみえます。しかし、長い目で見ると民主主義の方が危機にうまく対応できるでしょう。理由は二つあります」
「情報を得て自発的に行動できる人間は、警察の取り締まりを受けて動く無知な人間に比べて危機にうまく対処できます。数百万人に手洗いを徹底させたい場合、人々に信頼できる情報を与えて教育する方が、すべてのトイレに警察官とカメラを配置するより簡単でしょう」
「独裁の場合は、誰にも相談をせずに決断し、速く行動することができる。しかし、間違った判断をした場合、独裁者は誤りを認めたがりません。メディアを使って問題を隠し、誤った政策に固執するものです。これに対し、民主主義体制では政府が誤りを認めることがより容易になる。報道の自由と市民の圧力があるからです」(中略)
――市民への監視や管理を強めた中国の手法が成功例とされることは、どう考えますか。
「新技術を使った監視には反対しないし、感染症との闘いには監視も必要です。むしろ、民主的でバランスの取れた方法で監視をすることもできると考えます」
「重要なのは、監視の権限を警察や軍、治安機関に与えないこと。独立した保健機関を設立して監視を担わせ、感染症対策のためだけにデータを保管することが望ましいでしょう。そうすることで、人々からの信頼を得ることができます。たとえばイスラエルでは、警察による監視をすれば、少数派のアラブ人からの信頼を決して得ることができません」
「独裁体制では、監視は一方通行でしかない。中国では、人々がどこに行くのかについて政府は知っていますが、政府の意思決定の経緯について人々は何も知りません。これに対し民主主義には、市民が政府を監視する機能がある。何が起き、誰が判断をして、誰がお金を得ているのかを市民が理解できるなら、それは十分に民主的です」
――日本は私権の制限に慎重で、民主主義を守りながら対応をしています。しかし国民が不安に駆られ、より強い政府を求める声も出ています。
「政府に断固とした行動を求めることは民主主義に反しません。緊急時には民主主義でも素早く決断して動くことができる。政府からの情報を人々がより信頼できるという利点もある。政府が緊急措置をとるために独裁になる必要はありません」(後略)【4月15日 朝日】
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ユヴァル・ノア・ハラリ氏の議論はグローバリゼーション、国際協力体制などに及んでいきますが、そのあたりはまた別機会に。
「長い目で見ると民主主義の方が危機にうまく対応できる」とする同氏ですが、現実世界では、危機対応で強い指導力が必要・・・と、強権的政府がコロナ対策で「焼け太り」するような事例も目につきます。
****コロナで浮上する政府の権力濫用****
新型コロナウイルスへの対応には強力な指導力が必要である一方、それを悪用した権力の濫用、さらには統治権の全権委任などの独裁化が懸念される。
例えば、ハンガリーの新たな法案では、3月11日に出された非常事態宣言を無期限に延長し(終了は政府の判断による)、この間、政府に政令による新たな立法と既存の法律の停止を認める。更に、パンデミック対策を妨害していると認められる者、および偽りの情報を拡散していると認められる者には刑罰を課すことを可能とするものである。
政府は先例のないパンデミックの脅威に対抗するために必要な措置だと説明しているが、その内容は憲法の枠組みを逸脱するものと見られ、統治の全権をオルバン首相に委ねるものに他ならない。(中略)
ハンガリーのケースとは様相を異にするが、東欧やバルカンにはパンデミックを理由に(あるいは口実に)政府の規制権限を強化する動き、具体的には人々を監視する色彩のある措置を導入しようとの動きがあるようである。
スロバキアでは3月25日、感染した人の動きを追跡し自己隔離の要求に従っているかを確認する目的で通信会社の位置情報に保健当局がアクセスすることを認める法案を議会が可決した。これはシンガポール、韓国、台湾が採用した措置に倣ったものだと当局者は述べている。
ポーランドの首相は自己隔離を求められている人が本当に自宅待機をしているか確認するために「電子的解決策」を導入すること考えていると発言。セルビアの大統領はイタリアの電話番号を持っている人の行動を追跡していると述べた。
エコノミスト誌(3月28日号)の社説‘The state in the time of covid-19’は、パンデミック対策のため西側諸国が外出規制とビジネス閉鎖を行い、経済の下支えのために巨額の資金を投入し、更に韓国とシンガポールの例に倣えば医療と通信のプライバシーすら危うくしかねない状況を観察して、「これは第二次大戦以降で最も劇的な国家権限の拡大である」と書いている。
政府は果敢に行動せねばならない、しかし、危機に際して一旦手にした権限を政府は放棄しようとしないというのが歴史の教訓である。
「危機はより大きな権限と責任を持った永久に大きな国家、そしてそれを賄うに足る税金をもたらす」と社説は警告する。
その上で、社説は、最大の問題は監視(surveillance)の拡散であり、パンデミックが終わった後も監視を利用することの誘惑にかられることだと指摘する。
国民の行動を監視し、医療や行動のデータを収集することはパンデミック対策には有効であるに違いない。しかし、ハンガリーのケースは論外として、危機に際する緊急措置の恒久化を阻止すること、いわば政府の「焼け太り」を阻止すべくそれぞれの国民が注意を怠らないことが求められているのであろう。【4月15日 WEDGE】
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アメリカでは経済活動の再開に向けて強い指導力を発揮したいトランプ大統領と、「大統領は、なんでも思い通りできる国王ではない」とするクオモNY州知事などが対立しています。
****トランプ氏は「国王でない」 経済再開めぐり州知事ら反発****
ドナルド・トランプ米大統領が、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)を受けて停止している米経済活動の再開に向けて、国王に相当する権力を行使しようとしているとの批判を受けている。
再選をかけた11月の大統領選で苦戦が予想される共和党のトランプ氏は、世界最大の規模を誇る米経済をできるだけ早期に再始動させたい意向で、14日にはそのためのタスクフォースが発表される予定。
しかし米経済の屋台骨であるカリフォルニアとニューヨークの両州(いずれも州知事は民主党所属)は、トランプ氏に主導権を渡すことを拒み、独自の再開計画を発表しようとしている。
トランプ氏は13日の定例記者会見で「米大統領の権力は完全だ」と述べ、自身が州知事の決定を覆して再開日程を決定できると主張し、物議を醸した。
ニューヨーク州のアンドルー・クオモ知事は米CNNテレビに対し、「この国にいるのはトランプ国王ではなく、トランプ大統領だ」と反論。「彼が私の州の人々の公衆衛生を危険にさらす形での再開を命じたとしても、私は従わない」と表明した。
大統領選で民主党候補としてトランプ氏と対決する見通しのジョー・バイデン前副大統領も論争に加わり、自分は「米国王の地位に立候補しているわけではない」とツイッターに書き込んだ。 【4月15日 AFP】
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【国民が強制措置とその補償を国家に求める「依存」の指摘も】
一方、所得補償など、国民が国家に過度に依存する傾向を危ぶむ声も。
****新型コロナで肥大化する国家の危険度****
この2ヵ月間、世間の話題は新型コロナウイルスのことばかり。苦しいときの神頼みではないが、国家や政府に強制措置を取ってもらいたい。だが自分に何か強制するなら、損害の補償はしてもらいたい・・・こんな声が聞こえてくる。
そうした要求に押されて、先進諸国の政府は(日本を除き)市民の外出を取り締まり、金融市場への下支えなどで肥大する一方だ。
これがどのくらい後戻り不能で、専制政治への種をまいてしまったのか、検証してみたい。
まず民主主義。近代民主主義の中心地である欧州では、コロナヘの対応はまちまちで、ハンガリーのオルバン政権のように悪乗りして無期限の非常大権を手にした例もある。
だが西欧諸国では、今は警官が市民の外出を取り締まっても、いずれ民主主義体制に戻るだろう。いくつかの革命も経て、民主主義は彼らの精神に染み込んでいる。
問題はアメリカだ。秋の大統領選を見据えて、コロナ対策も政争の種になっている。民主党が予備選の一時停止を迫られたなか、トランプ大統領はコロナ問題についてと称して毎日長丁場の記者会見を実施。政敵や外国を非難して、選挙運動に使う始末だ。
コロナ問題が長引けば、トランプは再び非常事態を宣言して大統領選を延期し、無期延命を図りかねない。
そして中国は性懲りもなく、「ウチは政府が強権を振るったからコロナを退治できた」と強弁し、途上国に専制政治を薦めている。
こうしたなかで、日本も含め民主主義を維持できる国々は団結を強めるべきだ。例えばOECDのハイレペル会合を開き、各国の民主主義の状況を毎年レビューし、途上国に対しては上から目線ではなく、親身の支援を表明することなどができよう。
個人補償へのルール作りが必要
もう1つ気に掛かるのは、経済活動に対する政府と中央銀行の限りない関与増大だ。(中略)
アメリカでは一般市民でも金融資産、特に年金積立の多くを株式で保有するため、トランプにとって株価の維持と引き上げは再選に不可欠。国家が金融市場をのみ込み、バラマキの道具に使っているとも言える。
翻って日本でも、長期国債の約47%は日銀が保有し、上場投資信託(ETF)も日銀が現行から2倍となる年12兆円を買い上げる構えでいる。
さらに国家は、個人の所得補償に大々的に乗り出した。この数年先進国では、ロボットに職を奪われる労働者に対する国家による所得保障の是非が議論されてきたが、コロナで収入を失った人たちへの補償という形で、未来が一歩早く実現してしまった。
これは、台風や大地震で所得や財産を失った人たちにも国家補償を行うという発想にもつながる。日本経済の生産力と貯蓄の規模を考えれば可能性はある。
だが、「補償」の肥大化による国家資本主義が勤労意欲や経済効率を損なえば有害だ。災害時の個人補償については、その可能性とルール作りを進めるべきだし、個々の審査を迅速化するにはマイナンバーの普及などを通じて国民の所得をガラス張りにし、デジタル化することが不可欠になる。
コロナに打ちひしがれてはいけない。だが、政府への過度の依存も問題だ。官民のバランスを保ちながら、次の疫病を見据えた対策を整備する必要があろう。【4月21日号 河東哲夫氏 Newsweek日本語版】
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