(3月5日、ベトナム中部ダナンに寄港する米原子力空母セオドア・ルーズベルト=ロイター。この後、新型コロナウイルスの集団感染が発覚した)【4月8日 朝日】
【ナイーブで間抜けか、英雄か】
アメリカ海軍長官代行が、新型コロナウイルスの集団感染が発生した空母「セオドア・ルーズベルト」の窮状を訴えた艦長を、その情報がメディアに流れたことに激怒し、解任したことは4月4日ブログ“新型コロナ ひっ迫する米医療現場 解任された米空母艦長 路上に遺棄される遺体 アフリカ食糧難”でも取り上げました。
いささか奇妙な話に思えたのですが、やはりアメリカ国内でも大きく取り上げられることに。
****米空母艦長解任問題でついに大統領が適否判断へ****
コロナウイルス感染危機回避のため乗員緊急退避を直訴したことを理由に、米第七艦隊原子力空母艦長が即刻解任された問題めぐり、米議会のみならず乗員家族、軍関係者などから多くの反論や批判が殺到、ついにトランプ大統領自らが海軍省トップの取った措置の適否について直接裁断に乗り出す事態にまで発展してきた。
問題の発端は、去る3月31日、グアム島に停泊中の空母「セオドア・ルーズベルト」艦長ブレット・クロジア大佐が上官宛てに、艦内にコロナウイルス感染が拡大しつつある憂慮すべき状況を説明した上「乗員たちの身の安全確保のため緊急退避させたい」と直訴、これをサンフランシスコ・クロニクル紙が特報として報じたことだった。
翌4月1日、全米の主要テレビ、新聞でも一斉に後追いで大々的に報じられ、ワシントンの国防総省にも対応策について問い合わせが殺到する事態となった。
そして、2日にはトーマス・モドレー海軍長官代行がいきなり、現場からの事情聴取もすることなく、「クロジア艦長即刻解任」という電撃的発表に及んだ。
ところが、艦長直訴と前後して艦内に残された乗員たちの間から①すでに150~200人近くが感染している②このまま上陸・緊急退避が認められないと艦内は危機的状況になる―といった窮状を訴える匿名通報が相次ぐ一方、「解任」令を受け、ショルダーバッグ一つを肩にかけブリッジを渡って寂しく埠頭に上がり迎えの車で立ち去る艦長の姿や、艦上の船べりに集まった1000人近くの乗員たちが「英雄」との別れを惜しむような表情で「クロジア艦長」の名を何度も歓呼するシーンがユーチューブ動画で配信されて以来、ペンタゴンの措置に対する批判、クロジア艦長への同情論が一気に高まる結果となった。
これまでにネット上で寄せられたツイッター投稿には、以下のようなものがある:
「トランプは無能をさらけ出した海軍長官代行を首にすべきだ。クロジア艦長は直訴状によって多くの乗員たちの生命を救ってくれた」
「トランプは今や多くの人が艦長解任に異議を唱え始めたことを知って、責任を海軍長官に責任転嫁しようとしている。クロジア大佐は正しい行動に出たのだ。海軍はすぐに行動しようとしなかった。そのために多くの乗員たちを生命の危険にさらした」(中略)
一方、全米の軍関係者の間では、退役軍人の呼びかけによる「クロジア艦長復職」を求めるオンラインによる請願運動がスタートした。「Navy Times」の報道によると、賛同者数は過去数日間のうちに急増しつつあり、すでに5日現在、28万5784人の署名が集まっているという。
「ナイーブで間抜け」艦長を糾弾する長官代行
さらに、モドレー海軍長官代行は5日、同空母上官、乗員向けに、ビデオを通じ、艦長解任に至ったいきさつを説明、その中で(艦長が直訴した行為について)「彼はナイーブで間抜け(stupid)だった」と酷評したことから、さらに同代行に対する批判や非難をあおる結果となった。
これに対し、トランプ大統領は直訴問題が浮上した当初、「海軍長官代行の措置は正しかった。艦長は上の人たちに相談すべきだった(注:艦長は直訴状の中で上官の裁可を仰いでいた)」などとして、ペンタゴン・トップの立場を擁護していた。
ところが、大統領は6日になって、コロナ対策ブリーフィングの場で、記者団から空母艦長の要職にあった軍幹部を「間抜け」という下品な言葉で批判したことについて質問が浴びせられ、「海軍長官代行が行った説明全文を読んでいないが、そのような強いラフな表現があったとは聞いている」とした上で、「とにかく艦長解任問題について自分でよく調べてみる。いろんな言い分をうまく収めるのは自分が得意とするところだ」と語り、解任が適正だったかどうかを含め、判断を下すことを明らかにした。
大統領は「問題の二人(長官代行および艦長)ともに良い評判があることも知っている」とも付け加えた。
この発言は、いったんはおさまったと思っていた艦長解任問題が、予想以上に軍関係者や軍属の間で批判が拡大し始めたことから、大統領としても、11月大統領選を意識して、直接事態収拾に乗り出さざるを得なくなったと判断したものとみられる。
このほか、米議会では、多くの上下民主党議員および無所属系議員の間からも、解任問題真相究明と同時に、海軍長官代行の解任を求める動きも出始めている。
大統領は「なるべく早いうちに判断を示す」と約束しているだけに、いったん解任されたクロジア艦長の今後の処遇を含め、関心はさらに高まる一方だ。
なお、クロジア艦長は下船後、コロナウイルス感染テストで陽性と診断され、現在、グアム島内の病院に入院中だ。【4月8日 斎藤 彰氏 WEDGE】
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選挙への影響を気にするトランプ大統領と海軍長官代行との間でどういう話がなされたのかは知りませんが、海軍長官代行は辞任することに。
****米海軍長官代行が辞任 米空母内の新型コロナ感染めぐり****
米国のマーク・エスパー国防長官は、同国海軍の原子力空母「セオドア・ルーズベルト」の艦内で発生した新型コロナウイルス感染の対応をめぐり、トーマス・モドリー米海軍長官代行が7日引責辞任したことを明らかにした。(中略)
海軍で人望の厚かったクロージャー氏をモドリー氏が解任したことについては、罰として重すぎる上、調査開始前に早々に下された決断だとして非難の声が上がっていた。
これに対しモドリー氏は6日、怒りを表明。首都ワシントンから同空母が着港したグアムに飛んで乗組員らに対する演説を強行し、自らの決断を擁護した。その中でモドリー氏は、クロージャー氏の行為は「裏切り」だと非難。「考えが甘すぎるか、頭が悪すぎる」とクロージャー氏を罵倒した上、同氏に対する乗組員らの敬愛の念は誤っていると批判した。
この敬意を欠いた演説について数時間後、ワシントンに戻ったモドリー氏は謝罪したが、ドナルド・トランプ大統領はクロージャー氏解任の正当性に公に疑問を呈し、直接介入する意向を表明した。
エスパー国防長官は陸軍次官を務めるジム・マクファーソン氏を、モドリー海軍長官代行の後任に任命すると発表した。 【4月8日 AFP】
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それにしても、モドリー米海軍長官代行がこれほど怒った背景には、何か表沙汰になっていない事情もあるのかも。
【米艦隊大破】
それはともかく、新型コロナウイルスに脅かされているのは原子力空母「セオドア・ルーズベルト」だけではないようです。
****米原子力空母4隻で新型コロナ感染者 即応態勢に懸念*****
米政治紙ポリティコ(電子版)は7日、西部ワシントン州ブレマートンで出航準備を行っていた米海軍の原子力空母ニミッツの乗組員1人が新型コロナウイルスに感染していることが確認されたと伝えた。
国防当局者が同紙に語ったところでは、乗組員は既に下艦し隔離措置が取られている。また、この乗組員と接触した他の乗組員の特定も急いでいるという。
米原子力空母での新型コロナ感染をめぐっては、3月にフィリピン海で作戦行動をとっていたセオドア・ルーズベルトでこれまでに乗組員150人以上の感染が確認され、3千人近い乗組員が米領グアムで隔離措置を受けている。
また、米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)を事実上の母港とするロナルド・レーガン、ワシントン州ピュージェット湾でメンテナンス作業中のカール・ビンソンでもそれぞれ感染者がいたことが判明した。
感染者が出た空母は計4隻となり、中国や北朝鮮の脅威をにらんだインド太平洋地域での米軍の即応態勢をめぐる懸念が一層高まるのは避けられない。【4月8日 SankeiBiz】
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本来であれば、これはアメリカ防衛体制にとって由々しき事態ですが、今はそれどろではない・・・という感も。
****大変貌する新型コロナ禍以降の世界秩序****
米国の空母「セオドア・ルーズベルト」は中国の対艦弾道ミサイルDF-21(東風-21)に攻撃されたわけでもないのに、制御不能となりグアムのふ頭で停泊したままだ。
米空母セオドア・ルーズベルト大破
その原因は、100人以上の乗組員が新型コロナウイルスに感染したからだ。
これが実際の戦争なら、世界主要紙の見出し「米空母セオドア・ルーズベルト大破!!」と報じられたことだろう。
クルーズ船のダイヤモンド・プリンセス内で乗員・乗客の新型コロナウイルス感染が広がったように、空母のみならず戦略・攻撃型原潜を含む艦艇は新型コロナウイルスの“攻撃”には弱いようだ。
新型コロナウイルスの“攻撃”は、今後米陸・海・空軍と海兵隊を蝕むことだろう。
どれほどの戦力ダウンになるかは予測できないが、マーク・エスパー国防長官は米軍の即応能力低下の「懸念はない」と強調してみせた。だが、誰も本当のことは分からない。
新型コロナウイルスは、米軍のみならず中国軍をはじめ世界各国の軍も等しく“攻撃”するだろう。自衛隊も例外ではない。
海賊対処や情報収集任務に当たるP3C哨戒機部隊は、1月下旬から活動しており、4月末にも次の部隊と交代を予定している。
しかし、ジブチ政府は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、3月末、すべての国際線の発着を停止したため、交代部隊がジブチに入国できず、一時的な活動中止に追い込まれる可能性が出てきた。
また、アラビア海などで情報収集任務に当たる「たかなみ」はPCR検査キットも搭載しておらず、感染への懸念が高まっている。
6月上旬に「きりさめ」と交代する予定だが、補給のための寄港時にも下船できず、隊員のストレスもたまっているという。
河野太郎防衛大臣は、状況が悪化した場合に備え、活動の中断も含めて、複数の対応策を検討していることを明らかにした。(後略)【4月8日 福山隆氏 JBpress】
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****仏空母でもウイルス症状、40人経過観察 予定早め帰国へ****
フランスの空母「シャルル・ドゴール」で、一部の乗組員がコロナウイルス感染症の症状を示したことから、派遣先の大西洋から予定を早めて帰国すると、国防省が8日、発表した。
この発表によると、乗組員約40人が経過観察を受けており、症状がある乗組員は隔離されている。重症者はいないという。
同艦の定員は約2000人。イラクとシリアでイスラム過激派組織「イスラム国」と戦う「シャマル作戦」に参加した後、北大西洋条約機構の合同演習の一環で大西洋に配備されていた。
地中海に戻る準備を進めており、当初の予定は今月23日だったという。(後略)【4月8日 AFP】
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新型コロナの攻撃に対し、非常に脆弱なのはアメリカ海軍だけでなく、各国軍隊、そして日本自衛隊の中東での活動も同様のようです。
すべての国が敗戦国となる新型コロナ相手の第3次世界大戦、始まったばかりですが、初戦から苦戦が続いています。