孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

日本の「緩い」緊急事態宣言に実効を持たせる「恥の文化」 規制強化に追い込まれたシンガポール・インドネシア

2020-04-07 23:37:30 | 疾病・保健衛生

(緊急事態宣言に関する安倍首相の記者会見を伝える大型モニター=7日午後、大阪・道頓堀【4月7日 47NEWS】)

【「遅さ」「緩さ」を指摘する海外メディア】
東京など7都府県を対象とした緊急事態宣言が発令されたことは周知のとおり。強制力・罰則はなく、海外でとられている「ロックダウン」とは異なるものであることもまた周知のところです。

休業要請など具体的な対応は各都道府県によって異なってきますが、埼玉・千葉・大阪・福岡などが当面休業要請はしないとしているのに対し、東京都は遊技施設や運動施設のほか、大学や専修学校などの文教施設、百貨店やショッピングモールといった商業施設などに休業を要請するとしています。(休業を要請する対象の業種や施設を10日に発表し11日の開始を目指すとのこと)

その中には、学習塾、カラオケボックス、ゲームセンター、居酒屋(通常飲食店は営業時間短縮要請)、理髪店、映画館、図書館なども含まれるようです。

海外メディアも日本の緊急事態宣言に注目していますが、総じてその評価は「遅かった」「強制力・罰則もなく緩すぎる」といったもののようです。

****日本の緊急事態宣言は「見せかけ」 海外メディア****
東京など7都府県を対象とした非常事態宣言の発令が正式に表明されたことについて、海外メディアは欧米の厳格な外出規制などとは異なるとして、実効性を疑問視する報道が相次いだ。
 
7日付フランス紙フィガロは、「日本の緊急事態宣言は、現実には見せかけだけ」と評した。同紙は安倍晋三首相が参院決算委員会で、フランスのようなロックダウン(都市封鎖)はできないと述べたことを紹介し、「日本人は在宅を強制されないし、自粛要請に従わなくても企業は処罰されない」と指摘。自動車や航空産業が集中する名古屋周辺が対象地域に含まれていないことにも触れた。
 
ロイター通信は「日本では自粛要請を無視しても、罰則はない。ロックダウン(都市封鎖)にある多くの他の国の厳格さとは異なるようだ」と指摘。「東京では感染者が急増しており、非常事態宣言の対応は遅すぎる」と問題視する公衆衛生の専門家の見解も紹介した。
 
AP通信は、日本が新型コロナ対策として、大規模な検査の実施よりもクラスター(感染者集団)対策を重視してきたと指摘。その上で、「関連しない感染例が急激に増え、日本が取ってきた戦略は困難さを増している」と言及した。

米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)も「コロナ対策で成功した後、アジアの国々は規制強化に追い込まれた」として、厳しい措置を導入していない日本やシンガポールなどで感染が拡大している様子を説明した。
 
韓国の聯合ニュースは、「安倍首相は緊急事態宣言に消極的だったが、感染者が急増し警告する声が大きくなったのに押され、宣言するに至ったとの分析もある」と報道。「新型コロナウイルス拡散の赤信号がともり、6日になって緊急事態宣言の意思を表明したのは、相当遅い感がある」と指摘した。【4月7日 産経】
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****「措置遅い」「強制力ない」=緊急事態宣言で海外メディア****
新型コロナウイルス感染者急増を受けた日本政府の緊急事態宣言発令について、海外の主要メディアからは、欧米諸国の非常事態宣言などと比べて「大胆な措置を取るのが遅い」「強制力も罰則もない」と厳しい見方が相次いだ。
 
AFP通信は、日本の措置には外出禁止や店舗閉鎖などの強制力はなく、違反者への罰則もないため「欧米での都市封鎖(ロックダウン)とは程遠い」と報道。

英BBC放送(電子版)は、専門家からは発令が遅過ぎるとの声が出ており、「ドイツや米国は、日本が社会的距離確保の措置実施や新型コロナの広範囲な検査実施に失敗したと強く批判している」と伝えた。
 
米CNNテレビ(電子版)も、中国と経済・地理的に関係の深い日本では早い段階で感染者が出ていたのに「世界の他の多くの地域で見られるような大胆な措置を取るのが遅かった」と指摘。集中治療室(ICU)のベッド数や検査数の少なさのほか、人工呼吸器の不足で医療崩壊への懸念が広がっていると報じた。
 
一方、ロイター通信は、緊急事態宣言の発令前から、ツイッターで「東京脱出」が話題になっていたと紹介。日本のメディアを引用する形で、別荘地の軽井沢には東京のナンバープレートの車が増えていることを取り上げた。【4月7日 時事】 
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上記のように海外メディアではネガティブ評価のオンパレードですが、安倍首相から「フランスのようなロックダウンはできない」と例示されたフランスは・・・

****宣言に「最小限」「軽い」と仏紙 経済的理由で抵抗と報道****
日本の緊急事態宣言に関し、厳しい外出制限を適用するフランスの新聞は7日付の紙面で「最小限の『緊急事態』」「軽い外出制限」と報道、経済的理由から日本政府は宣言の適用に抵抗してきたとも伝えた。
 
フィガロ紙は「本当のところ『緊急事態』という表現は錯覚させる。本質ではなく程度の変化だ」と指摘。「フランスのようなロックダウン(都市封鎖)はできない」と安倍晋三首相が国会で発言したことにも触れた。レゼコー紙は「少なくとも法的には個人の自由を尊重する伝統から外出禁止を強制できない」と伝えた。
 
リベラシオン紙は「安倍氏はためらい、決めた」との見出しで報道した。【4月7日 共同】
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【中国は日本の「恥の文化」に着目】
一方、さすがに隣国かつ最近関係改善が進んでいる中国は、強制力・罰則を伴わない今回発令を「恥の文化」の視点から見ています。

****日本の緊急事態宣言、国民の「恥の文化」機能に期待―中国紙****
中国紙・環球時報は7日、日本で新型コロナウイルス対応の特別措置法に基づく「緊急事態宣言」が出されることに関連し、専門家から日本人の世間体や外聞といった他人の視線を気にする「恥の文化」が機能することが期待されているとの見方が出ていると伝えた。(中略) 

その上で、中国社会科学院日本研究所の高洪(ガオ・ホン)氏が、「日本の有名な『恥の文化』が機能することが期待される。日本人は他人に迷惑をかけることを恥ずべきこととしている。有事の際には慎重な行動が求められ、ルールに違反した人は大きな社会的圧力に直面することになる」と指摘していることや、中国現代国際関係研究院の劉軍紅(リウ・ジュンホン)氏が、「日本人の国民性から言えば、『処罰』は不要で『警告』だけで『申し訳ない』と感じさせる文化が浸透している。こうした国民性が、感染状況をどの程度改善させるかについてははっきりと言えないが、少なくとも国民は感染症の流行の深刻さについて理解を深め、自身の行動をより抑制するようになるだろう」との見方を示していることを伝えた。【4月7日 レコードチャイナ】
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上記の中国指摘は相当程度にあたっているように思えます。

「恥の文化」と言うかどうかは別として、日本社会にあっては、世間体や外聞、他人に迷惑をかけないという自律が大きく作用し、必ずしも法律や処罰を必要としないのは事実でしょう。

今回、そうした作用がどこまで発揮されるかは不透明ですが、TVニュースを見ると、今夜の各地繁華街からは人気が消えているようです。相当程度に効果を発揮するようにも見えます。

そうした日本社会の特性が、安全で清潔で気配りに満ちた社会をもたらししている、そこに「民度」が現れていると言えばそうですし、逆に、日本社会の「息苦しさ」の根源となっているようにも思えます。(奇妙な「自制」「自粛」よりは、法律で白黒つけてくれた方がスッキリする・・・という思いも、個人的にはときおり感じます)

【「優等生」シンガポールも行動規制に転換】
世界的に見ると、強い行動規制をかけてこなかった国が、より強い措置を取らざるを得なくなったという事例が。

先ずは、冒頭【産経】で、米WSJが「コロナ対策で成功した後、アジアの国々は規制強化に追い込まれた」事例として挙げているシンガポール。

****行動制限へ転換のシンガポール、洗えるマスク配布始まる****
新型コロナウイルスの感染拡大を防ごうと、1家庭に2枚の布マスクが配られることになった日本に対し、1人1枚の布マスクを配ることを決めたシンガポール。5日から地域のコミュニティーセンターなどを通じた配布が始まった。

政府は外出自粛を求めているが、どうしても外に出る必要がある場合はマスクをつけるよう促している。日本以上に厳格な感染ルートの追跡などで感染の封じ込めをめざしてきたシンガポールだが、7日からは大幅な行動制限に踏み込む。(中略)
 
シンガポールでは市民が比較的自由に出歩いていたが、政府は7日から5月4日まで、医療や食料といった生活必需品に関する分野などを除き、ほとんどの企業にオフィスを閉鎖させる計画だ。違反すれば事業停止や罰金などを科す。学校は8日から休校になる。市民の外出は規制しないが、自粛を求めている。(中略)
 
巨額の補償も
同国政府は通勤などのために外出する人が減り、労働者の75%がテレワークか休業になると見込んでいる。レストランなどは持ち帰りの営業のみ認められたが、ホテルは政府の検疫に協力する施設などを除いて休業を迫られた。マリーナ・ベイ・サンズといった名門も、1カ月の休業に入る。
 
一方で6日、休業などによる損失を補償するため、総額約50億シンガポールドル(約3800億円)の追加の経済対策が発表された。

労働者が仕事をなくさないよう、上限はあるものの月給の75%分の補助金を企業に支給するといった施策を盛り込んだ。

個人への現金支給など、発表済みの経済対策も含めたコロナ関連の国の支出は、総額約600億シンガポールドル(約4兆5600億円)。国内総生産の1割を超える規模だ。

「優等生」の方針転換
人口が約570万人のシンガポールでは、6日時点で感染者が1375人、死者は6人。当初は徹底して感染ルートを追跡し、接触者を検査・隔離することで感染の広がりを抑えた。PCR検査以外の簡易検査は「精度が十分ではない」として、地道に感染ルートを追う努力を重ねてきた。

世界保健機関(WHO)も称賛する対応で、テドロス・アダノム事務局長は「政府全体による取り組みの好例」とたたえた。
 
だが、感染者の増加は勢いを増す。10~20人程度にとどまっていた新たな感染者が、3月下旬に50人を突破。感染ルート不明の患者も増えてきた。
 
そこで他人との距離を取ることを求めてきたほか、3月27日からはバーや映画館などの娯楽施設を閉鎖した。
 
しかし感染ルートの分からない患者はさらに増え、4月5日には1日あたりの新規感染者数が100人を超えた。(中略)
 
これまで「優等生」とみられてきた国の、苦渋の方針転換。これまでのシンガポールの対応が称賛されてきたことを踏まえ、翌日の会見で「世界の国々に伝えたいことは」と問われたウォン氏は、こう応じた。「このウイルスは非常に早く広がる。無症状でも広がる。だから、私たちは自分の会う相手が、すでに感染していると考えて行動すべきだ。私たちの誰もが、集団感染を産みかねないのだ」【4月7日 朝日】
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【暴動を恐れるインドネシア・ジョコ政権も規制強化に踏み出す】
もうひとつ、インドネシア。
インドネシアはこれまで、暴動などの治安上の懸念もあって、「お願いベース」から更に踏み込んだ強制力を伴う都市封鎖には踏み切れずにいました。

政府の「ためらい」は日本同様ですが、背景には日本とは異なる暴動などにつながりやすいインドネシア特有の社会心理があるようです。

****インドネシア、首都封鎖を躊躇させる治安悪化の懸念****
コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う死者の数が増え続けているインドネシアで、感染拡大を阻止する効果的な対策として、最も感染者数が多い首都ジャカルタ州の都市封鎖の早急な実施を求める切実な声が高まっている。

強い要望があってもなかなか都市封鎖に踏み切れないジョコ大統領
日本の首都東京でも「東京封鎖」を巡って政府と東京都さらに医療関係者の間で意見や思惑の違いが表面化して「非常事態宣言」や「都市封鎖」といった思い切った対策に踏み出せない状況が続いている。
 
インドネシアの状況もそれに酷似している。医療関係者やジャカルタ州知事がさらに厳しい効果的対策として現在出されている基本的に「自粛などのお願いベースの緊急対応」をさらに一歩進め、強制力を伴ったさらに上の段階となる「都市封鎖」を公然と求める声が大きくなり始めている。
 
ただ、「都市を封鎖する権限は中央政府にあり、地方公共団体が独自にするものではない」との立場を崩さないジョコ・ウィドド大統領は、「都市封鎖」を現状では選択肢として考えていないことをことあるたびに表明している。
 
それでも、こうした政府の封鎖への逡巡を「手緩い対応」として、独断で地方の都市や町村が「事実上の封鎖」に踏み切るケースが増えている。
 
町村の境となる主要道路に地方自治体関係者や住民ボランティアなどが独自にバリケードを築き、立ち入りを厳しく制限。住民に加えて日常必需品や食糧輸送関係者、治安当局者は身分証提示、簡易体温検査と消毒を受けて例外的に立ち入りを許す「独自封鎖」が始まり、その実施地方自治体の数は日に日に増えているのが今のインドネシアの現状だ。
 
そうした状況の中でも感染者数、死者数は増加の一途をたどっている。それでも、政府部内で検討が始まった「都市封鎖に関する一定のルール作り」は一向に進展せず、現状を打開するためになんら有効な感染拡大防止策を打ち出せないジョコ・ウィドド大統領。都市封鎖に二の足を踏み続ける大統領の心中にあるものは何なのだろうか。

フィリピンの事態が示す懸念払拭できず
フィリピンのドゥテルテ大統領は4月1日、外出自粛、夜間外出禁止などのマニラ首都圏封鎖、地方都市封鎖の措置に違反する人々、政府の措置への不満から騒ぎを起こした人々に対し警察や軍兵士が「射殺」を含む厳しい措置で対処するよう求めた。(中略)
 
こうした「都市封鎖」や「夜間外出禁止令」という強制力を伴った感染拡大防止策を打ち出しても違反者が後を絶たないのがフィリピンの実情でもある。(中略)

このように「都市封鎖」による治安の悪化や違反者が続出することが、実はジョコ・ウィドド大統領がジャカルタの封鎖に躊躇している最大の原因と見られている。

鍵はインドネシア人の遵法精神
フィリピンの例が示すように、「都市封鎖」の正否については人々のコンプライアンス(法令順守)、つまり遵法精神が食糧・医療などのライフラインの確保と同様に重要なカギを握る。
 
人口約1000万都市とされるジャカルタ首都圏を封鎖した場合、その日暮らしで生計をたてる貧困層、低所得労働者、さらに失業者などが「生活物資」や「食料品」の不足を理由に商店襲撃や略奪といった行為に出て、それが暴動などの社会不安に発展する可能性が高いとみられている。(中略)

もう一つの懸念はインドネシア人特有の集団心理にあるとの指摘がある。(中略)一人ひとりのインドネシア人、特に多数派のジャワ人は、普段は穏やかで物事を荒げない調和と妥協を重んじる性格である。しかし群衆として抗議やデモなどの団体行動となると、一種の集団心理から小さなきっかけからでも「手が付けられないほど凶暴になり暴れる」ともよく言われる。
 
1998年のジャカルタ暴動やその後に各地で散発した反政府デモや集会、民族差別に根差す抗議活動など、インドネシアの社会はしばしば統制不能に陥り騒乱状態になることがある。(中略)

群衆の中に紛れ込んだ治安部隊要員や金銭で雇われた不良分子などが意図的に起爆剤となって、インドネシア人の特別な心理を悪用して、騒乱状態を創出するケースもある。
 
遵法精神の裏側に潜む、こうした特徴的な心理の存在も、ジャワ人であるジョコ・ウィドド大統領が「首都封鎖」をためらう一因と見られているのだ。(後略)【4月4日 大塚 智彦氏 JBpress】
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そのインドネシア・ジョコ大統領も感染拡大には抗しきれず、より強硬な措置に踏み出したようです。

****インドネシア政府、首都のコロナ制限措置拡大要請を承認****
インドネシア政府は7日、国内の新型コロナウイルス流行の中心地となっている首都ジャカルタの当局から受けていた制限措置拡大要請を承認した。

ジョコ大統領はこれまで、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)政策を通じた感染拡大阻止に注力しており、多くの国で採用されている厳しいロックダウン(都市封鎖)措置には否定的だ。

テラワン保健相は7日、ジャカルタ政府が今後2週間にわたって幅広い社会的な制限措置を取るのを認める中央政府令に署名。ロイターがこれを確認した。措置には宗教イベントや社会文化活動などの制限、学校や職場の閉鎖が含まれている。

ジャカルタでは既に、今月19日まで効力がある非常事態宣言を受け、学校が閉鎖されているほか、一部の制限措置が実施されている。ただ、大半が任意の措置となっており、ジャカルタのアニス州知事はより厳しい対応を求めていた。

公式統計によると、インドネシアの新型コロナ感染者は2491人、死亡者は209人。しかし検査が進んでおらず、ジャカルタで葬儀が増えていることを示すデータもあり、実態はさらに深刻な可能性がある。【4月7日 ロイター】
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なお、死者数については、首都ジャカルタ特別州のアニス知事が、埋葬数の急増などから判断して、国の公表する死者数に疑義を呈しています。

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