(ドイツ・イエナの研究所で開発された新型コロナウイルスの抗体検査のキット【4月15日 朝日】)
【感染者が謝罪する社会】
私自身を含めて日本人は何かあるとすぐに「すいません」と謝る(あるいは、謝罪の言葉を口にする)習慣・文化があります。
(少なくとも日本人同士の人間関係を円滑にしていくうえで)そのこと自体はそんなに悪い話でもないと思ってはいますが、トラブルが起きたときにに「世間をお騒がせして申し訳ありません」というコメントをよく耳にすることに関しては違和感もあります。
重要なのは、自分のしたことが正しいと思うのか、そうでないのかであって、世間を騒がせる云々は関係ないだろうと。
日本人の私ですらそう思うので、外国人には理解しづらいものも多々あるでしょう。
最近の新型コロナに感染した有名人の「謝罪コメント」に関して、日独ハーフでドイツ・ミュンヘン出身、日本歴22年のサンドラ・ヘフェリンさんは次のようにも。
****新型コロナウイルスに感染した人が謝罪をしない方がよいと思う理由****
ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~
(中略)
新型コロナウイルスに感染した人に謝罪を求めるニッポンの社会
そんななか、気になるのは有名人が感染を「謝罪」していることです。例えば4月15日に感染が報じられた石田純一さんの所属事務所は、石田さんがPCR検査を受け陽性だと確認されたことを説明した後、「この度、ご迷惑をお掛けした関係者の皆様には、心よりお詫び申し上げます」と締めくくりました。
またテレビ朝日のアナウンサーの富川悠太さんも、コロナウイルスの感染が明らかになった後に「このような事態を招き、視聴者の皆様、関係者の皆様に大変なご迷惑をおかけしました。申し訳ございません」と謝罪しています。
富川さんは、報道番組の看板キャスターという立場上、同氏は今まで日本はもとより世界のコロナウイルス感染事情について詳しく報道してきました。そういった立場でありながら、自らに症状が出た際には報告が遅れたことは反省すべき点です。
しかしだからといって、コロナウイルスに感染した人が、世間に対して「謝罪」をすることが意味のあることだとは思えません。
なぜ謝罪をすることが問題なのか
新型コロナウイルスに感染した人の謝罪を見てみると、感染を広げた可能性があることや濃厚接触した相手への具体的な謝罪というよりも、「仕事関係者や世間の皆様に迷惑をかけた」といった漠然とした内容のものが目立ちます。
日本には人に迷惑をかけたら世間に対して謝罪をしなければいけない、という暗黙の了解があります。
新型コロナウイルスに関しては「3密を避けるべき」だとされています。しかしこの「3密」を避けてきた人が絶対に感染しないのかというとそうではなく、努力をしていても感染してしまう場合があります。
「新型コロナウイルスにかかった本人に落ち度があるに違いない」と考えてしまうのは尚早です。たとえ注意をしていても、誰でもかかる可能性のある感染症だということを考えると、感染したことを謝るのは妥当ではないと思います。
詳しくは後述しますが、「仕事の穴をあけること」は感染を拡げないためにも当然のことです。そういったことを踏まえると、仕事関連のことで「謝罪」をする必要はないはずなのです。
「コロナウイルスに感染して申し訳ないと思う人は謝罪すればいいじゃないか」という声が聞こえてきそうですが、メディアに出ている影響力のある人達がそろって謝罪をしてしまうと、「コロナウイルスに感染したら、謝るのが常識」だという雰囲気が世間で更に強まってしまうのではないでしょうか。
ドイツではハンドボール選手のJannik Kohlbacher氏やテレビキャスターのJohannes B. Kerner氏などがコロナウイルスへの感染を公表していますが、彼らのコメントには現在の自身の体調やほかの罹患者への気遣いのメッセージは含まれているものの、「謝罪」をした人は皆無です。
休むことに必要以上に罪悪感を持つ日本人
そもそも日本のサラリーマンや俳優が「体が悪い」ということをなかなか言い出せないのは、体育会系的な根性論のせいです。
まず組織や会社が「体調が悪い時に、社員がすぐに言い出せる雰囲気」を作ることが大事です。
新型コロナウイルスは感染力が強いことから「体調に異変を感じたらすぐに報告しなければいけない」というのはその通りなのですが、今までの日本では「仕事に穴をあけるのはダメな奴」といった体育会系的な考え方が蔓延っていたのですから、すぐに言い出せない人がいても不思議ではありません。(後略)【4月23日 GLOBE+】
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まあ、日本文化の中だけで生活している者からすれば、やや同意しかねる部分もあるかも。
また、私は石田氏にも富川氏にも全く興味がないので、両者の個々の案件で「謝罪すべき」落ち度があったのかどうかは知りません。
ただ、感染した人間がその不注意を世間にお詫びする・・・みたいな雰囲気があるのは感じますし、奇妙なことだ思っています。
後にしてみれば、多少の不注意は誰しもあることで、それをもって病気になった人間が謝らなければならないという雰囲気は奇妙です。
【非感染者があえて感染してまでして「免疫パスポート」を取得しようとする状況に?】
でも、今後は事情が全く変わるかも。
現在は、感染者が謝罪したり、居場所などの個人情報が公開されたりといった肩身の狭い思いをする状況ですが、今後は、逆に未感染者が「すいません。私まだ感染していないものですから・・・」と弁解したり、「未感染者は勝手に出歩かないで!」と差別されたりする状況になるかも。
そのキーワードは「免疫パスポート」
****「出口戦略」としての「免疫パスポート」 検討課題は多いが、それだけに喫緊の対応が必要だ****
2020年4月2日、英国のマット・ハンコック保健相は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する免疫をもつことを証明する証明書(いわゆる「免疫パスポート」)の導入を検討していることを明らかにした。
これは、「コロナ対策 抗体検査を急げ」で紹介した抗体検査であり、英国は4月末までに1日あたり10万人に抗体検査をできるようにする計画だ。
いわば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)からの脱却のための「出口戦略」と言える。英国は4月10日現在、7万人以上の感染者、9000人近い死者を数えているが、すでに「出口戦略」として「免疫パスポート」という方針を明確に打ち出している。
英国の対策
ハンコック保健相が明らかにした英国の対策は主としてつぎのようなものである(4月2日付BBC NEWS)。
①イングランド公衆衛生サービスによって運営されている研究所でSARS-CoV-2を保有しているかどうかをチェックするためのPCR検査を行う、
②PCR検査をより多く実施するために、大学のようなパートナーおよび巨大企業アマゾンやドラッグストアチェーン・ブーツのような民間ビジネスを利用する、
③ウイルスに対する抗体をもったかどうかを検査するための血液検査を導入する、
④感染率と感染の広がりを決定づけるための監視を行う、
⑤巨大医薬品メーカーからの助けを借りて英国の診断産業を構築する――というのがそれである。
①はウイルスの存在を検査するものであり、③は過去に感染した者の抗体の有無を調べるもので、この組み合わせを明確に打ち出しているのが特徴だ。
とくに③の検査をめぐって、ハンコックは、この抗体検査が入院中の患者や医者から国民保健サービスの職員、重要な働き手、最後により多くのコミュニティの人々へと拡大されることになると説明している(4月2日付ガーディアン)。
「免疫パスポート」をめぐる問題点
いわゆる「免疫パスポート」をめぐる問題点として、そもそもこのウイルスに対する免疫に持続性があるかどうかがわかっていない。
「自然活動免疫」と言われる、過去の感染によって獲得した免疫のうち、麻疹、水痘、風疹、ムンプス(おたふく風邪)、百日咳、ポリオ、黄熱、痘瘡については免疫が長期間持続することが知られている。だが、インフルエンザ、赤痢、りん病については持続期間が短い。
このため、せっかく抗体検査で陽性という結果が出ても、その検査対象者がどのくらいの期間、SARS-CoV-2に感染してもCOVID-19を発症しないでいられるかははっきりしないことになる。
実際に「免疫パスポート」を発行・運営することになると、差別が問題になる。まず、どんな人物に対して抗体検査を実施してゆくのかということが課題になる。(中略)
深刻なのは、「免疫パスポート」の保有者と非保有者の差別の問題である。パスポートの発行数が増加するにつれて、非保有者がさまざまな形で排除されかねない。
保有者が街中を闊歩し、飲食店で飲み食いできるのに、非保有者は自宅待機を迫られつづけるような事態になると、非感染者があえて感染してまでして「免疫パスポート」を取得しようとすることにもなりかねないのである。
米国での議論
一刻も早い経済活動の再開をもくろむトランプ政権は早くから「血清検査」という言葉を使って、抗体検査を広範に実施することが注目されてきた(中略)。
米国でも、だれが身体にSARS-CoV-2への抗体をもち免疫を獲得したと証明書を発行するのか、人々はどのように証明書を取得するのか、証明書を取得した者はなにすることが認められるのかなどが検討課題になっている(「ワシントンポスト電子版」4月14日付)。
この記事によれば、SARS-CoV-2に似たSARSウイルス流行後の研究で、生存者は抗体の数が徐々に減ったが、平均2年間無毒化させることのできる抗体が維持されたという。しかし、同じことがSARS-CoV-2で起きるかどうかは不明だ。(中略)
他方で、4月10日付のロイター電や4月11日付「ガーディアン」の報道によれば、韓国当局はPCR検査で陰性となった者のうち91人が再び陽性となったことを明らかにした。彼らが抗体検査も受けていたかどうかはわからないが、免疫ができてもその有効性が長くつづかない可能性もある。(中略)
日本の決定的遅れ
ここで紹介したように「免疫パスポート」に問題点があることは事実だが、国会審議のような透明性の高い場で多くの人々が議論することでそのいくつかは解決できる。そのためには、海外での議論をより多くの国民に知ってもらう必要がある。
4月14日、ようやく医師出身者などの自民党議員有志がSARS-CoV-2の抗体検査を5月に実用化するように求める提言をまとめ、二階俊博幹事長に渡した。臨床試験(治験)を急ぐように訴えた。(中略)
ここで紹介したように、「免疫パスポート」には多くの問題点が含まれている。だからこそ、国民の関心を高めてしっかりと議論してゆくことが必要なのだ。
最新のウイルス予防に熟知しているとは思えない、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議メンバーに任せてはおけないとはっきりと指摘しておきたい。海外に学びながら、日本の実情に合わせた喫緊の対応が心から望まれる。【4月16日 塩原俊彦氏 朝日】
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今は、いかに感染から身を守るかが最大の関心事となっていますが、1年後(あるいは、6か月後)には“非感染者があえて感染してまでして「免疫パスポート」を取得しようとすることにもなりかねない”といった状況に様変わりするかも・・・という話です。
【イタリア 抗体検査をスタート】
例によって、日本政府の動きはスローですが、欧州では上記記事にあるイギリスなどで取り組みが検討されています。
****新型コロナ 英国が経済正常化へ「免疫証明」検討 抗体検査に疑問も****
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、欧州諸国が免疫の有無を調べる抗体検査に相次いで乗り出している。
英国は、経済活動を早期に再開させるため抗体検査で免疫が確認された国民に「免疫証明書」を発行し、外出を許可する計画を検討している。ただ、抗体検査に技術的な課題があり、検査が順調に進まないことが懸念されている。
英国のハンコック保健相は2日、免疫証明書の発行を検討していると発表した。証明書とともに、免疫を獲得していることが一目でわかるリストバンドを提供する構想も明かしたが、まだ実現していない。
英国ではすでに一部の新型コロナの患者を対象に抗体検査を行っており、ハンコック氏は記者会見で、免疫証明書が発行できれば「免疫を得た人を可能な限り通常の生活に戻せる」と強調。
自身も3月下旬に新型コロナに感染し、一時、自主隔離を余儀なくされた同氏は、英BBC放送の番組で「私には免疫が備わっており、再び感染する可能性は低い」と述べた。
英国が免疫証明書の発行を検討するのは、一刻も早く経済を回復させたいからだ。英政府は感染率が十分に下がっていないとして、先月23日から開始した外出制限を最低でも5月上旬まで延長することを決めた。
英予算責任局は4〜6月期の実質国内総生産(GDP)成長率が前期比マイナス35%になる可能性があるとしており、英政府は抗体が確認できた人から外出制限を解除して経済を活性化させたい考えだ。
ドイツも免疫証明書の発行を検討している。5月には約1万5千人の抗体検査を実施する見通しだ。イタリアも北部ロンバルディア州で抗体検査を開始する。
ただ、抗体検査の精度には課題があり、その有効性を疑問視する声もある。
英紙フィナンシャル・タイムズによると、英政府は抗体測定キットを1750万個購入したが、どれも精度が低く、実用化に適さないと判断された。
感染症の専門家によると、正確性が低いキットが出回っており、新型コロナに感染したことがないのにも関わらず、抗体があるとの結果が出る例が報告されている。
検査の精度が上がるまで時間を要するとみられ、英メディアは英国民が広く検査を受けられるようになるには数カ月かかる可能性があると指摘した。
また、免疫学を研究する英エディンバラ大のエレノー・ライリー教授は英紙デーリー・ミラーに対し、抗体を獲得しても新型コロナの再感染を確実に防げるかどうかは分からないと指摘し、証明書は国民に「誤った安心感を与える」と危機感をあらわにした。
免疫証明書の発行で格差が広がることも懸念されている。米法学者のヘンリー・グリーリー氏は米メディアに、免疫証明書を出せば、持っている人だけが交通機関の利用や旅行などが許される社会になると予測し、「(証明書を持たない人にとって)差別にあたる」との見解を示した。
■抗体検査
血液を採取して、新型コロナウイルスの感染を防ぐ役割を持つ「抗体」と呼ばれるタンパク質が存在するかどうかを調べる検査。血液中に抗体が確認できれば、新型コロナの感染後に一定の免疫を持っていることがわかる。鼻や喉の粘膜からウイルスの遺伝子を探す「PCR検査」に比べ、時間がかからないと期待されている。【4月23日 産経】
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イタリアは、実際に動き始めているようです。
****イタリア北部で抗体検査開始 感染死者、2万5千人超に*****
新型コロナウイルスによる甚大な被害が出ているイタリア北部ロンバルディア州で23日、感染歴の有無を調べる抗体検査が始まった。今月下旬から全土で順次実施される見通し。
地元メディアが報じた。政府は22日、新型コロナに感染した死者が前日から437人増え2万5085人になったと発表した。世界最多の米国に次いで死者が多い。
抗体検査はまず医師や看護師ら医療従事者から始め、一般市民にも広げる方針。ロンバルディア州では1日に約2万件が実施されるようになる見込み。イタリアでは陽性かどうかを診断するウイルス検査が1日4万〜6万件程度行われている。【4月23日 共同】
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感染者と未感染者の立場を逆転させる「免疫パスポート」で世の中がどのように変わるのか、とても興味深いですね。
地域にどれくらい感染が広がり、免疫を得ている人がいるかを確認する疫学調査に用いるための抗体検査は日本でも動きは報じられています。
****月内にも抗体検査実施 数千人対象、保有率調査―新型コロナの感染実態把握・厚労省****
新型コロナウイルスの感染歴を調べる抗体検査について、厚生労働省が月内にも実施する方向で準備を進めていることが22日、分かった。同ウイルスは感染者の約8割が無症状か軽症とされ、抗体保有率を調べることで感染者全体の推計や流行状況の把握につなげる。
同省などによると、検査は数千人を無作為に抽出して実施する見通し。今年度補正予算案に関連経費約2億円を盛り込んでいる。(後略)【4月22日 時事】
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また、菅義偉官房長官は23日の記者会見で、献血された血液を用いて抗体検査の検査キットの性能評価を実施していることを明らかにし「現時点で性能の評価は不確実な段階であり、結果について献血者には知らせない」とも。