孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南シナ海に居座る中国船団に比外相「うせやがれ」 海上民兵とは?

2021-05-03 23:10:02 | 東南アジア

(比軍によって提供された写真。中国船がウィットサン礁に停泊している=3月27日【4月24日 CNN】)

 

【フィリピン外相「うせやがれ」】

フィリピンと中国が南シナ海で領有権を争っている海域に中国の200隻を超える大船団が居座っている問題が3月頃から表面化し、フィリピン側は中国に激しく抗議しています。

 

この件に関しては3月31日ブログ“中国の南シナ海船団、タイの難民強制退去 ウソと言うより強引な強弁”でも取り上げましたが、いまだに継続中のようです。

 

なお、上記ブログで“ウソと言うより強引な強弁”と評したのは、批判を無視するような、「力」を誇示することで無理筋を押し通そうとするような中国側の見解です。

 

****中国漁船220隻が南シナ海の紛争海域に =中国「風よけのため」、米国「数カ月ずっと停泊」****

2021年3月24日、米華字メディア・多維新聞は、南シナ海の紛争地域に中国漁船約220隻が停泊している問題でフィリピンを支持した米国に、中国政府が反発したと報じた。


記事によると、フィリピン政府は「牛軛礁(英語名Whitsum Reef)で3月7日に、中国漁船約220隻が停泊し、国防相が中国に帰還するよう呼び掛けた」とし、同国政府が漁船の乗組員について民兵との認識を示した。

 

この情報に対して中国の駐フィリピン大使館は22日、「牛軛礁は中国の南沙諸島の一部。中国漁船はこの海域で長期間操業を行っているが、海洋状況を理由に一部の漁船が牛軛礁で風よけをしていた。これは正常な行動であり、民兵船などではない。根拠のない推測は無益であり、理性的な姿勢を望む」と反論した。

 

一方、米国の駐フィリピン大使館も23日に「中国船がこの数カ月、当該地域に停泊し続けており、天候にかかわらずその数はますます増えている。われわれはアジアで最も古い盟友であるフィリピンとともにある」とする声明を発表するとともに、「中国が海上民兵を用いて他国を恐喝、挑発、威嚇し、地域の平和と安全を破壊している」と非難した。

 

中国大使館は程なくしてツイッターを更新し「米国は南シナ海問題の関係者ではない。当該地域にて対抗をあおり立てる行為は、一部の国の私利にメリットがあるばかりで、当該地域の平和と安定を破壊する」と反発している。【3月24日 レコードチャイナ】

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多数の中国海上民兵船が集結しているのは、南シナ海・南沙諸島を形成するユニオン堆(たい)と呼ばれている環礁群の中で最も大きい環礁(満潮時は水没する暗礁)のウィットサン礁である。

 

この環礁はフィリピン沿岸から200海里以内に位置しており、フィリピン政府によるとフィリピンの排他的経済水域内ということになる。

 

しかし、ウィットサン礁をはじめとするユニオン堆に対しては、フィリピン、中国、ベトナム、台湾がそれぞれ領有権を主張している。【3月25日 北村 淳氏 JBpress】

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以上、3月31日ブログからの再録。今日のニュースが下。

 

中国船団はその後、南沙諸島(スプラトリー諸島)各地に分散しているようですが、立ち去ってはいません。

 

これまで中国とは良好な関係を保ってきたドゥテルテ大統領も「良き友人」(中国)に対して、「軍艦派遣の用意」もあると強い姿勢を見せています。

 

****南シナ海に集結中の中国船団、「軍艦派遣の用意」と比大統領、「石油掘削したらこちらも」****

中国と周辺諸国の領有権争いが続く南シナ海に集結している中国船団に対し、フィリピンのドゥテルテ大統領は軍艦を派遣する用意があると言明した。

 

大統領は「石油や鉱物資源の領有権を主張するため」と説明。「中国が石油を掘削したら、こちらも同じ海域で掘削する」と述べた。


比国軍当局によると、先月から多数の中国船がフィリピンに近い海域に集結。比国家機動部隊は今月中旬の段階で南沙(英語名・スプラトリー)諸島のガベン礁周辺に136隻、ケナン礁周辺に65隻の中国船が集結しているのを確認した。残りはフィリピンの主張する排他的経済水域(EEZ)内の七つの環礁の周辺に停泊していたという。

さらに中国が実効支配するスカボロー礁(中国名・黄岩島)の周辺には「海上民兵」を乗せたとみられる艇長約60メートルの漁船が10隻停泊しているのを発見した。その近くでは中国海軍の戦闘艦2隻と中国海警局の公船3隻も確認された。


中国が人工島を造成して占拠している南沙諸島のミスチーフ礁、ファイアリークロス礁、スービ礁の周辺でも、タイプ22紅稗型ミサイル艇のペア(コルベット艦とタグボート)がそれぞれ1組確認され、その日に目撃された中国海軍の船舶は合計6隻となった。


これに対し、比側は韓国から導入した軽攻撃機FA-50PHを中国船団上空に連日出動させ、監視活動を行っている。ロレンザーノ比国防相は「パトロール活動とフィリピン人漁業者の保護のために南シナ海に配置している海軍部隊を増強する」とも明らかにしていた。


ロイター通信などによると、ドゥテルテ大統領は19日、南シナ海をめぐり「争うほどの漁獲量があるとは思えないため現時点で漁業への関心は大きくないが、フィリピンが海底に眠る石油や鉱物資源の採掘を始めるまでには軍艦を派遣し、領有権を主張する」と表明。

 

中国政府との友好関係を維持する意向を改めて示しながらも、「中国が石油掘削を開始したら、われわれとの合意の一部なのかと中国に問うだろう。それが合意の一部でなければ、こちらも同海域で石油を掘削する」とした。

中国船団について、比側は「多数の中国船が集結する状態が続けば、航行の安全と海上における人命の安全が脅かされ、EEZの海洋資源の恩恵に浴すフィリピン国民の排他的権利が阻害される」と非難。

 

外交ルートを通じて中国側に抗議した。中国側は停泊している事実は認めながらも、「大げさに騒ぎ立ているが、何も問題はない」などと反発。「嵐を避けているだけ」と繰り返している。【4月25日 レコードチャイナ】

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もっとも、ドゥテルテ大統領の言動には、「良き友人」中国への配慮も滲んでいるようにも。

 

****フィリピン大統領、南シナ海係争海域の巡視船撤退を拒否****

フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は28日、中国が領有権を主張する南シナ海の係争海域に派遣している、海軍と沿岸警備隊の巡視船を引き揚げるつもりはないと表明するとともに、フィリピンが同海域の主権を有していることに交渉の余地はないと強調した。(中略)

 

フィリピン国内では、ドゥテルテ氏に中国に対し強い態度で挑むよう圧力が高まっている。だが、ドゥテルテ氏は中国と親密な関係を築いており、中国に対峙(たいじ)することに消極的だった。

 

ドゥテルテ氏は28日夜、「良き友人」の中国には、新型コロナウイルスワクチンの無償提供などさまざまな恩があるが、係争海域の領有権については「交渉の余地はない」と述べた。

 

「中国にはこう言いたい。もめ事はごめんだ、戦争も望まない。だが、われわれに去るように言うのなら、ノーだ」

さらに「譲歩の対象にはならないものがある、例えば撤退だ。難しい。理解してほしい。だが、私にも守らなければならない国益がある」と続けた。

 

フィリピン国防省は先に、「中国には、わが国の領海においてフィリピンが何ができるか、何ができないかと口を出す権利はない」としていた。

 

フィリピン沿岸警備隊は、パグアサ島(中国名:中業島)、スカボロー礁北部バタン諸島周辺、さらに南部と東部の海域で演習を実施している。 【4月29日 AFP】

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ドゥテルテ大統領以外のフィリピン側閣僚は、もっとあけすけです。

 

****フィリピン外相、南シナ海係争海域の中国船団に悪態 「うせやがれ」****

南シナ海の係争海域に中国の船団が停泊を続けている問題で、フィリピンのテオドロ・ロクシン外相は3日、ツイッターへの投稿で、「うせやがれ」と悪態をついた。

 

ロクシン氏は「中国、わが友よ、どうすれば丁寧に言えるだろうか。そうだな…さあ、うせやがれ」とツイートした。

 

3月にフィリピンの排他的経済水域内で数百隻からなる中国船団が目撃されて以降、フィリピンと中国の間では緊張が高まっている。

 

中国は資源豊富な南シナ海のほぼ全域について領有権を主張しており、フィリピン政府が再三要求している船団の引き揚げを拒否。フィリピン側は海域のパトロールを強化している。

 

ロクシン氏はツイッター上でたびたび強い言葉を使用しているが、今回の暴言も「通常の上品な外交辞令では、何も成すことはできない」と正当化。さらに、中国を「友人になりたいと思っているハンサムなやつの気を、無理に引こうとしている醜い愚かなやつ」に例えた。 【5月3日 AFP】

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「うせやがれ」というのは、いかにも「悪態」といったところですが、【毎日】では「出ていけ」という表現になっており、かなりニュアンスに差もあります。どのように翻訳するかは、国際問題につきまとう微妙な問題です。

 

なお、そういう「悪態」と言える表現を使うのは、中国向けと言うより、国内世論向けパフォーマンスでしょう。

 

【「小さな青い男たち」海上民兵】

南シナ海に展開している中国側の船団は通常漁船と海軍艦船の中間的な存在でもある海上民兵と思われます。

 

「民兵」というと様々な形態がありますが、中国の海上民兵に関しては以下のようにも。

 

 ****防衛駐在官の見た中国(その13) -海上民兵と中国の漁民-****

(中略)端的に言えば、海上民兵は漁民や港湾労働者等海事関係者そのものであり、彼らの大半は中国の沿岸部で生活している普通のおじさんやお兄さんたちである。「海上民兵が漁民を装う」というのは大きな誤解であり、漁船に乗った「海上民兵は漁民そのもの」である。

 

さらに付け加えると、海上民兵はれっきとした中華人民共和国の正規軍人であり素性の怪しい戦闘集団というのも大きな間違いである。

 

海上民兵は中国の正規軍

海上民兵とは、主として沿岸部や港湾、海上等を活動の舞台とする民兵の通称である。(中略)民兵は人民解放軍や武装警察と同様に「中国軍」の一部として、中国における軍事の最高意思決定機関である中央軍事委員会のコントロールの下に活動する。換言すれば民兵としての行為(公務)は中国という国家の行為と同視しうる。

   

民兵が人民解放軍と大きく異なる点は、組織の構成員が現役将兵であるか否かである。(中略)端的に言うと普段は他に職業を有し、必要に応じて軍人として活動するいわゆる「パートタイム将兵」である。24時間、365日軍人として訓練し任務に従事している人民解放軍現役部隊の将兵とはこの点が異なっている。(後略)【2014年12月8日 海上自衛隊幹部学校HP】

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“中国の沿岸部で生活している普通のおじさんやお兄さんたちである”とは言っても、もともとそういう漁民自体が「中国政府や党ですら手に負えない」荒くれものというか、無法者というか・・・そういう存在のようです。

 

そういう者をなんとか軍のコントロール下に置いて、軍の任務に当たらせているの海上民兵という存在です。

 

ロシアが2014年にウクライナからクリミア半島を併合する前、記章を付けない緑の軍服をまとってクリミアに潜入していた兵士を「小さな緑の男たち」と呼んでいますが、それに倣って中国・海上民兵は「小さな青い男たち」とも。 中国政府は正式にはその存在は認めていません。

 

****南シナ海に群がる「海上民兵」、中国政府は存在すら認めず<上>****

彼らは中国の「小さな青い男たち」と呼ばれている。中国政府の統制下にある海上民兵とされ、アナリストによると、その規模は船舶数百隻および船員数千人に上る可能性がある。

 

中国は彼らの存在を認めておらず、質問を受けた際は「いわゆる海上民兵」と表現している。

しかし欧米の専門家によれば、こうしたいわゆる海上民兵は、南シナ海以遠で領有権を主張しようとする中国の試みの不可欠な一部をなす。

 

青く塗装された船舶や船員(人民解放軍による資金提供や統率を受けているとされる)は、領有権争いのある礁や島の周辺に迅速に大規模展開できるため、彼らに対抗すれば軍事衝突を引き起こすのはほぼ必至だ。

 

海上民兵とみられる集団が注目を集めたのは先月。南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島にあるフィリピン領ウィットサン礁の周辺に、中国漁船200隻以上が集結した。

国際戦略研究所(IISS)シンガポール支部のアナリストは、中国によるこれ程の規模の活動は見たことがないと話す。(中略)

 

中国海上民兵はどのように機能するのか

中国政府の否定にもかかわらず、欧米関係者の見方では、米国防総省が人民軍海上民兵(PAFMM)と呼ぶ集団に関して曖昧(あいまい)な点はほとんどない。

 

米太平洋軍統合情報センターの元作戦責任者、カール・シュスター氏はCNNの取材に、「人民軍海上民兵は漁をしているわけではない」と指摘。「彼らは船に自動兵器を搭載して船体を強化しており、至近距離では非常に危険な存在となる。また最高時速は18~22ノット(時速32~40キロ)に上り、世界の漁船の9割より速い」と説明した。(中略)

 

米海軍と海兵隊、沿岸警備隊のトップによる昨年12月の報告書では、「海上民兵は『他国の主権を転覆し、違法な主張を強制』する目的で中国政府によって利用されている」と指摘した。

 

この問題に関する米国有数の専門家、コナー・ケネディー氏とアンドリュー・エリクソン氏も2017年、海軍戦争学校のために書いた文章で、「こうした民兵は中国軍の重要な一員であり、中国が言うところの『人民軍システム』の一部をなす」と説明した。

 

そのうえで、海上民兵は「国家によって組織、育成、統制される部隊であり、中国政府の支援を受けた活動を行うため、軍の直接の指揮系統に入っている」とした。(中略)

 

海上民兵の目的は?

欧米の専門家によると、中国は海上民兵や非正規海軍の概念により、人民解放軍本体を投入せずに膨大な数の領有権を主張することが可能になる。

 

エリクソン氏やマーティンソン氏が言及するようなリーダー役の船舶は比較的少数かもしれないが、ウィットサン礁で見られるように、彼らは数百隻規模の船団を率いることができる。

 

米ランド研究所の防衛アナリスト、デレク・グロスマン氏は昨年、「こうした典型的な『グレーゾーン』の活動の目的は、大量の漁船で敵を圧倒することで『戦わずして勝つ』ことにある」と指摘した。

 

フィリピン大学海洋問題研究所のジェイ・バトンバカル所長は米公共ラジオ(NPR)とのインタビューで、「彼らは今、単に漁船を展開するだけで実質的にウィットサン礁を占領している」と説明。

 

「実は中国の戦略の目的はそこにある。こうした徐々にエスカレートする動きを通じ、南シナ海全域で実効支配と優位性を確立する狙いだ」と述べた。

 

戦術的観点からすると、漁船は数百個の障害物が並んでいる形となり、米海軍のような敵は迂回(うかい)を余儀なくされる可能性がある。これに対抗するために米海軍が一度に派遣できる駆逐艦は数隻にとどまる公算が大きい。

つまり、数の上では中国が断然有利となる。

 

ジョンズ・ホプキンス大学のシュシアン・ルオ氏とコロンビア大学のジョナサン・パンター氏は今年、米陸軍のミリタリー・レビュー誌で、「漁船は低コストなため、常に数で軍艦を上回ることになる」と述べた。

 

従って、海上民兵の指揮下に入れば、非武装の本当の漁船でさえ実質的に軍隊として機能しうる。

 

戦略的観点からは、両氏は「こうした船舶に対抗するのは危険だ」と指摘する。とりわけ、南シナ海で領有権を主張するものの、中国に立ち向かう軍事力を持たない東南アジア諸国にとっては危険性が高い。

 

「相対的に弱い国家の場合、中国漁船が政府とつながっている可能性を意識して、中国中央政府の反応を誘発しかねない行動に出るのを躊躇(ちゅうちょ)するかもしれない」(両氏)

 

中国はこれらの漁船は軍艦ではないとしているため、外国の海軍や沿岸警備隊が行動に出た場合、中国の民間人に対する攻撃に当たると主張することも可能だ。【4月24日 CNN】

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