孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ「停戦」 今回衝突でネタニヤフ首相、ハマス双方が「成果」 敗者はガザ地区住民

2021-05-25 23:20:10 | パレスチナ

(パレスチナ自治区ガザ市で、破壊された建物の横を歩くパレスチナ人女性(2021年5月22日撮影)【5月23日 AFP】)

 

【停戦はしたものの、問題は棚上げ】

イスラエルとパレスチナ・ガザ地区を実効支配するハマスの戦闘がエジプトの仲介で「停戦」に至ったことは報道のとおり。

 

停戦によって空爆やロケット弾の脅威からパレスチナ・イスラエルの市民が逃れることができるのは喜ばしいことですが、これで問題が解決した訳でないことはもちろん、改善に向けて一歩踏み出したとすらも言えないことはイスラエルも、パレスチナも、世界中も、皆が承知しています。

 

悪く言えば、次の戦いに向けた準備・休息期間に過ぎないとも。

 

****イスラエルとハマス、停戦に合意 エルサレム問題棚上げ****

武力衝突を続けてきたイスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスなどの武装勢力が21日午前2時(日本時間午前8時)、停戦に入った。

 

11日間にわたる戦闘で多くの市民が犠牲となり、国際社会から停戦を求める声が高まっていた。エジプトなどの仲介が奏功したが、停戦が長く続くか懸念は残る。

 

イスラエルは20日夜、治安閣議で、エジプトが主導した「相互かつ無条件」の停戦案を承認した。ロイター通信によると、ガザ地区を実効支配するハマスの幹部は「イスラエルが合意に従う限り、合意に従う」と述べた。

 

ガザ地区の保健省によると、これまでの死者は子ども65人を含む232人に上る。イスラエル軍は10日夜以降、ガザ地区で空爆を続け、ハマスの地下トンネルなど「軍事拠点」を破壊した。ネタニヤフ首相は21日、「ハマスにひどい損害を与えることができた」と述べた。

 

一方、イスラエル軍によると10日以降、ガザ地区からは4340発のロケット弾が発射された。イスラエル国内ではこれまで12人が死亡した。ハマス側は、停戦を「抵抗運動の成功」とする見方を示している。

 

エジプトは、停戦を監視するために代表団を送ると明らかにしている。

 

米国のバイデン大統領は20日、停戦を受けてホワイトハウスで演説し、米国が今回の軍事衝突をめぐって「強力な外交的関与」を行ったと強調。エジプトの仲介にも感謝を示した。バイデン氏は「米国は、イスラエルが自衛の権利をもつことを強く支持している」と述べたうえで、「ハマスなど、ガザ地区を根拠地とするテロリストグループは何の罪もない市民の命を奪ってきた」とも批判した。

 

今回の衝突は、イスラエル占領下の東エルサレムでパレスチナ人が退去を求められたことや、イスラエル治安当局と衝突したことなどを機に拡大した。

 

ハマスは今月10日、報復としてエルサレムなどに向けてロケット弾を発射し、イスラエルによる空爆へと展開した。

 

今回の停戦条件では、エルサレムをめぐる問題に触れられていない。ロイター通信によると、ハマス幹部は「銃は下ろしていない」としており、停戦が短期で終わる可能性が残っている。【5月21日 朝日】

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今回停戦は、長年のイスラエルとパレスチナの対立の要因とは無関係であるばかりでなく、戦闘のきっかけとなった東エルサレムの当面の問題・状況に言及するものですらありません。

 

停戦後も東エルサレムでイスラエル治安部隊とパレスチナ人の衝突が再燃していることも報じられています。

“イスラエル治安部隊がパレスチナ人と衝突、ガザ停戦後 エルサレムのモスク前”【5月22日 CNN】

 

イスラエル、ハマス双方が、これ以上の本格的戦争に入る考えは今のところなく、犠牲者も多く出ていること、更に、現段階で一定の成果を得たと判断したところからの「停戦」成立です。

 

【ネタニヤフ首相、ハマス双方が「成果」 敗者はガザ地区住民】

イスラエル・ネタニヤフ首相は自身の汚職疑惑で国内政治的に苦しい状況にありましたが、今回戦闘を果敢に遂行したこと求心力を回復し、ネタニヤフ包囲網が崩れる結果ともなっています。

 

****イスラエル首相、求心力回復の兆し****

イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの軍事衝突を受け、イスラエルの政治状況がネタニヤフ首相に有利な情勢に傾いてきた。

 

同氏を首相職から追い落とすために中道・左派勢力との連携を模索していたユダヤ人極右政党の党首が、国内のユダヤ人とアラブ系住民の衝突が深刻化したことで方針を転換し、挙国一致政権の樹立を求め始めたからだ。

 

3月23日の国会(定数120)選挙ではネタニヤフ氏率いる右派政党リクードが第1党となり、まず同氏が連立協議を行ったが過半数の賛同が得られず失敗。続いて第2党の中道「イェシュアティド」のラピド党首が連立協議を進めている最中に、戦闘が始まった。

 

ハマスの越境攻撃を引き金に息を吹き返したのが、治安維持に定評があるネタニヤフ氏だった。

 

選挙で7議席を獲得した極右政党「イエミナ」のベネット党首は、ネタニヤフ氏と同じく対パレスチナ強硬派の代表格だが、収賄疑惑が浮上したネタニヤフ氏には協力しないとして今回の連立入りを拒んでいた。

 

しかし、ベネット氏は13日、ユダヤ人とアラブ系の住民同士の衝突激化を受けて、右派だけでなく、中道・左派勢力との連立協議も中断すると表明した。

 

イスラエル有力紙ハーレツによると、同氏は、国内の治安回復のためには軍部隊の投入などが欠かせないとして、挙国一致政権の樹立を主張し始めた。

 

左右両派ともにイエミナの協力抜きには連立政権は発足できず、ベネット氏が事実上のキングメーカーだ。しかし左右両派の政策には大きな差があり、ベネット氏が主張する挙国一致政権発足の実現は難しいとの見方が大勢を占める。

 

政権が発足しなければ2019年4月以降で5回目の国会選が行われる公算が大きくなり、ネタニヤフ氏は当面の間、首相にとどまる道が開ける。

 

同氏はユダヤ人右派の支持を集めるためにパレスチナ人の抗議デモに厳しく対処し、ハマスへの攻撃姿勢もしばらく緩めない可能性が高い。【5月15日 産経】

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一方、ハマスもイスラエルと戦えるのは自分らだけだとアピールすることができ、この間全く存在感を示せなかった政治的ライバルの自治政府・ファタハに対し優位な立場に立ったと言えます。

 

****ハマス、戦力向上で支持拡大 議長に対抗、政治力強化か****

パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスはイスラエル軍との戦闘で、ロケット弾の集中発射などで戦力向上を誇示し、パレスチナ全土で支持を広げた。パレスチナ自治政府のアッバス議長に対抗し、政治力強化を狙ったとの見方も浮上している。

 

ハマスは11日間の戦闘で約4300発のロケット弾を発射。イスラエルメディアによると、約50日間で約4600発を発射した2014年の戦闘より頻度が増えた。1日の最大発射数も195発から480発に増加。同時集中発射でイスラエルの対空防衛を困難にし、無人機攻撃も実施した。【5月22日 共同】

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ネタニヤフ首相、ハマス双方が「成果」を得た一方で、住民、特にガザ地区住民は多大な犠牲を強いられています。

 

****荒廃したガザ、生活再建へ 6000人以上が家失う****

パレスチナ自治区ガザ地区では22日、住民たちが生活再建に向けて動き始めた。11日間にわたるイスラエルとの交戦により、貧困にあえぐ同地区では200人以上が死亡、6000人以上が家を失った。

 

AFPの記者によると、エジプトの仲介で停戦が発効して翌日のこの日、ガザ地区では当局がテントやマットレスの配布を開始。パレスチナ通信は、エジプトの停戦監視団が22日にパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長と面会したと報じた。

 

イスラム原理主義組織ハマスが実効支配するガザ地区の再建に目が向けられる中、救助隊はがれきの中の生存者や遺体の捜索を続けた。住民は、自分たちに残されたものを確かめようとしていた。

 

ハマス傘下の保健省によると、ガザ地区では10日以降、イスラエルの攻撃により子ども66人を含む248人が死亡し、負傷者は1900人を超えた。(後略)【5月23日 AFP】

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“ガザの主要なコロナ検査施設が損壊、イスラエル空爆で”【5月20日 CNN】ということで、避難民の劣悪・密集した住環境もあって、今後の新型コロナ感染拡大も懸念されます。

 

世界最速ペースで進むイスラエルのワクチン接種ですが、そのイスラエルが占領するパレスチナでのワクチン接種は進んでいません。

 

【復興のための流入資金・資材を使って武器を生産するハマス】

ただ、ガザ地区再建にあたっては、流入する資金・資材がハマスの戦闘準備のために使われるのではないかとの懸念もあって、厳しい制約がかかります。

 

****ガザ地区の再建、米国などはハマスへの資金流入警戒***

イスラエルや米国など外国政府は、大きな被害を受けたガザ地区について、実効支配するイスラム組織ハマスに資金が流れないように再建する方法を模索している。ガザでは23日、ボランティアなどががれきの撤去作業を行っていた。

 

イスラエル当局は、ガザ再建への取り組みが、ハマスの再武装を助けることにならないようにしたいと考えている。ハマスが過去の武力衝突の復興資金を吸い上げてロケット弾を製造したり、ガザ地区の地下やイスラエルへのトンネルを掘ったりしていると非難している。

 

イスラエル・カッツ財務相は23日、「ハマスを利することがないように人道的危機に対処する方法について、イスラエルは、米国や他の関係国と協力して議論する必要がある」と述べた。

 

地元メディアによると、23日にはトラックの車列がエジプトからガザ地区に入り、食品や医薬品など3000トンを届けた。ガザの保健省がこの物資を受け取ったという。

 

国連によると、ガザ地区では10万人余りが国内避難民となっているほか、1000戸の住宅を含む300棟の建物が破壊された。

 

国連人道問題調整事務所とイスラエルの医療関係者によると、11日間の武力衝突で、ガザ地区では242人、イスラエルでが12人がそれぞれ死亡した。【5月24日 WSJ】

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そもそも、天井のない監獄とも評される厳しい制約が課されているガザ地区にあって、ハマスは連日何百発も発射するロケット弾をどうやって入手しているのか? 不思議なところでもありますが、下記記事によれば、イランの支援で現地生産しているとのこと。ロケット弾燃料は塩とヒマシ油から作っているとも。

 

そうしたこともあって、イスラエル側の流入資材チェックが厳しくなり、結果、ガザの復興はいつになっても進まないということにもなります。復興が進まない状況で、また次の戦闘が・・・。

 

****ハマスのロケット弾、イラン支援で「ガザ製」****

イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスは、21日から停戦することで合意したが、過去10日にわたるイスラエルとの衝突で、ハマスは過去最大級の集中攻撃を仕掛けた。発射したロケット弾は4000発を超え、イスラエルの対空防衛システム「アイアンドーム」による探知回避を狙った爆撃ドローン(無人攻撃機)も投入した。

 

こうした猛攻が可能になった背景には、武器製造でイランが相当な技術支援を行うとともに、現地におけるハマスの製造能力が向上していることがある。イスラエル国防幹部やアナリストが明らかにした。

 

イスラエル軍幹部は、ここ数日にガザにある数十カ所のミサイル製造拠点を空爆で破壊したと述べている。だが、なお数千単位のロケット弾が残っており、衝突が収まれば、ハマスは製造を再開する技術的な能力を備えていると推測している。

 

イスラエルは、ガザ地区への兵器密輸を一段と効果的に阻止できるようになっている。一方で、イランもロケット弾の設計やノウハウ提供など、ハマスを手助けする方策を見いだしており、パイプやヒマシ油など一般に広く出回っている原料や、イスラエルから打ち込まれた武器の残骸を利用して武器に改造しているものもある。

 

イスラエルのエフライム・スネフ元副国防相は「設計はイランだが、製造は現地のものだ」と指摘する。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は20日、ガザの武装勢力による攻撃を背後で中心になって手助けしているとしてイランを批判。その上で「イランの支援がなければ、武装勢力の組織は2週間以内に崩壊する」と述べた。

 

イランとパレスチナの武装勢力は、双方の連携を隠していない。ハマスやパレスチナ・イスラム聖戦機構の幹部はイランとの軍事協力を誇示。イラン国営テレビによると、イランの精鋭部隊「コッズ部隊」のエスマイル・カアニ司令官は、ハマスの指導者イスマーイール・ハニーヤ政治局長に電話かけ、激励した。

 

イランの国連大使、ハマス軍組織のスポークスマンはコメントの要請に応じていない。

 

イスラエル当局によると、ハマスが発射したロケット弾でイスラエル市民の生命を脅かすとみられるものについては、アイアンドームが9割を迎撃したと話している。(中略)

 

イスラエルがガザとの境界を厳重に警備しているため、パレスチナの武装勢力は現地で入手できる原料で武器を製造している。ドローンには繊維ガラス、ロケット弾には工業用金属パイプ、ロケット燃料には塩とヒマシ油を使っているという。イスラエル軍幹部が明らかにした。

 

ハマスはこれまで、2014年の衝突でイスラエルが打ち込んだ兵器の残骸を使って新たなロケット弾を製造していると誇示している。

 

ハマスはまた、アラビア語で隕石(いんせき)を意味する「シェハブ」と呼ばれる新型ドローンも動画で公表している。

 

シェハブは、イランが支援するイエメンのフーシ派が使っている設計を踏襲しているようだ。翼幅は8フィート(約2.4メートル)と比較的小型で、標的への自爆型ドローン兵器としてはハマスの中では最先端のものだ。

 

ドローンの映像によると、ハマスは中国製のエンジンや50ドル程度の全地球測位システム(GPS)など商業部品を使って兵器を製造しているとみられている。

 

ただ、ハマスのドローンがイスラエルのアイアンドームの検知を逃れるところまでは達していない。イスラエル軍幹部によると、アイアンドームは新たな脅威であるドローンに対応できるよう改良され、今回の衝突開始から少なくとも3機のドローンを撃ち落とした。【5月21日 WSJ】

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いずれにしても、先述のようにネタニヤフ首相、ハマスが今回戦闘で「成果」を得たことで、今後とも両者を軸にした構図が続くことが想像されます。

 

イスラエルの方は右派ネタニヤフ首相でなくても、パレスチナに対する厳しい姿勢はあまり変わらないとも言われます。ただ、人が変われば政策・対応の転機にもなりますが、当分それもなさそう。

 

問題はパレスチナ側。自治政府アッバス議長は選挙での勝算が見込めないため選挙を延期していますが、今回戦闘でハマス人気が更に高まったかも。

 

仮に選挙が実施されて、自治政府でハマスが主導的位置を得るところとなれば、ネタニヤフ首相対ハマス主導の自治政府という形で、パレスチナ和平の進展は現在以上に難しいものになることが危惧されます。

 

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