(名古屋出入国在留管理局の施設収容中に死亡したウィシュマ・サンダマリさんの遺影を持つ妹のワヨミさん=16日午後 (葬儀で)あいさつした妹ワヨミさんは「誰が責任を取るのか、私たちも分からない。死亡してから2カ月たつが、なぜ亡くなったのか、答えがない。お姉さんが大好きだった国でこんなことになり、信じられないです」と声を震わせた。【5月16日 共同】)
【入管施設で衰弱死したスリランカ人女性の監視カメラ映像開示で折り合いがつかず廃案へ】
国会で審議が行われていた在留外国人の収容や送還の規則を見直す入管法改正案については、政府は今国会での成立を断念、法案を取り下げて廃案にすることを決めました。
****入管法改正案が廃案へ、「人権侵害」と野党や国内外から批判****
在留外国人の収容や送還の規則を見直す入管法改正案を巡り、野党の反対や国内外の批判を受け、政府は18日、今国会での成立を断念、法案を取り下げて廃案にすることを決めた。
同法案は、難民申請をしている外国人でも強制的に母国に送還されることや、退去命令に従わない人に罰則を設けるなどの点が難民条約違反、人権侵害であるとして弁護士団体や学者など国内外から批判を浴びていた。
入管法に詳しい児玉晃一弁護士は「たくさんの声が集約され、入管法の改悪が阻止された。SNSやネットニュースを通じていろいろな人に声が届き、みんなの声が勝ち取った成果」と述べた。
国会では、法務委員会で野党議員が法案の問題点を指摘、修正協議も行われていた。しかし、入管施設で3月、収容中に死亡したスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(33)に関し、遺族に監視カメラ映像を開示するよう野党が求めたのに対し、出入国在留管理庁がこれを拒否、野党側は法務委員長の解任決議案を提出して与野党間の対立が深まった。
このため与党は18日、今国会での成立を断念することを決めた。ある与党幹部は「国際社会の批判もあり、強行採決はメリットがない」と語った。
昨年8月から不法滞在で名古屋出入国在留管理局に収容されていたウィシュマさんは、今年になって体調を崩し1月下旬から嘔吐を繰り返し吐血もしたが、入院などの措置はとられず3月6日、職員が死亡しているのを発見した。
支援団体と遺族は5月16日午後、名古屋市でウィシュマさんの葬儀を行い、約80人が参列した。支援団体は国会前で断続的に抗議活動を行い、法案の廃案とウィシュマさんの死亡についての真相究明を訴えてきた。
上川陽子法相はウィシュマさんの遺族と18日午後に面会することを明らかにした。
2019年末時点で、全国で収容されていた外国人は1054人。本来、収容所は退去強制令書を発出された人が退去するまでの間一時的に収容される場所だが、実際には1054人のうち約400人が6カ月超収容されていたという実態がある。
国連の「恣意的拘禁作業部会」は20年9月に、日本の入管収容制度における長期収容について、申し立てを行った被収容者2人の事案は国際法に違反し「恣意(しい)的」であるとし、日本政府に意見書を送付し必要な措置をとるよう求めた。
こうした長期収容の問題を改善するために政府は同改正法案を策定したが、内容について理解を得られなかった。【5月18日 ロイター】
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入管施設での長期収容が国際的に問題視されるなかでの「改正案」でしたが、(ほとんど難民申請が認められない日本の現状において)難民申請3回以降であれば母国への強制送還を可能にするといったような内容に問題があること、入管施設での収容者対応に人道上の問題があるように思われることなどについて、これまでもこのブログで取り上げてきました。
4月2日ブログ“国際的にも問題視される日本入管制度の過酷な実態”
4月29日ブログ“国会審議が始まった入管難民法改正案 入管庁の収容者衰弱死に関する「隠蔽」も問題視”
改正案の問題点などに関しては上記ブログと重複しますので、今回はパスします。
政府・自民党も改正案の内容については一定に野党側主張に歩み寄った形でしたが、上記【ロイター】にもあるように、入管施設での不適切な対応で亡くなったのではないかとも指摘されているスリランカ人ウィシュマさんの監視カメラ映像開示で折り合いがつかなかったようです。
4月29日ブログでも取り上げたように、ウィシュマさんの「仮放免」の必要性を指摘した医師の診断内容が中間報告書に記載されていないということで、入管庁側は彼女の衰弱死の経緯を隠蔽しようとしているのではないかとも思われる工作もあり、政府はどうしてもこの問題に触れたくないようです。
****入管法、遺族迎え野党引かず=自民なお歩み寄り模索****
自民党は17日、衆院で審議中の入管難民法改正案の採決強行を回避するため、立憲民主党など野党側と歩み寄りを探った。
しかし、入管施設収容中に死亡したスリランカ人女性の映像開示に当面応じられないとの立場は崩さず、協議は平行線に終わった。スリランカ人女性の遺族が来日し、死亡経緯の解明を訴える中、立憲は安易な妥協には応じない姿勢を見せており、先行きは不透明だ。
自民党の森山裕国対委員長は17日、立憲の安住淳国対委員長と国会内で会談し、改正案採決への理解を求めた。安住氏はスリランカ人女性の映った監視ビデオの映像について「遺族が日本にいる間に、まず遺族に開示したらどうか」と提起した。
会談後、安住氏は記者団に「1ミリも前進していない」と説明。「真相解明はわが国にとって必要だ。譲るつもりは全くない」と語った。
立憲、共産、社民3党の議員はこれに先立って、スリランカ人女性が収容されていた名古屋市の入管施設を遺族とともに視察。遺族と並んで記者会見した立憲の中川正春元文部科学相は「入管法改正に厳しい態度で臨む」と語った。遺族は18日に国会を傍聴する予定だ。
立憲は先週、ビデオ映像の即時開示を求めるとともに、難民認定審査中でも申請3回目以降なら強制送還できるようにする規定の削除など10項目の修正を要求。自民は修正には大筋で応じる姿勢を示したが、映像開示は受け入れなかった。
これを受け、立憲、共産、社民3党は採決阻止に向け、義家弘介衆院法務委員長(自民)の解任決議案を提出した。解任決議案は18日の衆院本会議で採決される予定。立憲は改正案の採決を阻むため、上川陽子法相の不信任決議案などの提出も検討している。【5月18日 時事】
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結局、映像開示に応じない政府が廃案の選択をしたことは、前出【ロイター】のとおり。
【“外国人といかに共生する社会にしていくのか、拒み続けてゆっくりと衰えていく社会にしていくのか”という議論が必要】
改悪が見送られたことは歓迎すべきことですが、入管施設で何が行われているのか・・・・日本の入管はいわば“ブラックボックス”であることの問題、更には、問題の根底にある“なぜ日本はこんなに難民認定が少ないのか”という問題、そうした基本的な問題は今後も継続して議論していく必要があります。
****日本の外国人制度の根底に“長く定着して欲しくない”という考え方が? 見送られた入管法改正案から考える****
(中略)
■“半永久的に送還できない人が増えてしまう”という危機感か
現行法では、難民申請の手続き中の外国人については本国へ送り返されることはなかったが、それを逆手にとり申請を繰り返す外国人もいたことから、入管施設での収容が長期化する問題が浮上していた。与党はこの点を踏まえ、3回目以降の難民申請者については原則、国へ送り返すことを可能にしようとしていたのだ。
18年にわたって入国管理局に勤務、現在は「未来入管フォーラム」代表を務める木下洋一さんは次のように話す。
「基本的には“オーバーステイ”が発覚すれば強制送還されることになっていて、現時点で約8万人が該当している。ただ、多くの場合はオーバーステイが発覚すれば自分で帰国するし、結婚して家族を持っているような人などに関しては入管の裁量による“在留特別許可“の制度で“正規在留者”として認定されるケースもある。
一方で、約3000人が“帰国すれば迫害される”などとして送還を拒んでいるといわれていて、この人達を入管では“送還忌避者”と呼んでいる。
僕自身は難民の認定業務に直接携わったことはないが、窓口などで申請の受付をしていると、切実な事情を抱えた方もいる一方、申請すれば6カ月後には働くことができるという規定があるので、“難民じゃないけど仕事がしたいから”という方もいらっしゃる。
入管側に言わせると、難民申請をしている限りは送還されない“送還停止効”という制度を使うことによって、半永久的に送還できない人が増えてしまうという危機感があった。そこで回数を決めて送還できるようにしようという発想になっていったのだと思う。
入管法の一番の問題は、役所に巨大な裁量権を与えていることだ。半世紀ぐらい前、ある法務官僚が“外国人は煮て食おうが焼いて食おうが自由だ”と言って国会で問題になったことがあるようだが、現実は本当にフリーハンドで外国人のビザを左右することができるし、それを統制するシステムもない。
非常に慎重な手続きを取る刑事手続きと違って、人を収容、つまり身柄を拘束するのにも裁判所の令状が要らない。主任審査官という入管の職員が発布するだけで、収容から送還に至るまでの司法も第三者機関も全くタッチしない。完全にブラックボックスだ。
それでも入管職員に人権感覚がないとか、決してそういうわけではないと思う。私のかつての同僚たちも、みんな優秀な人たちだったし、多かれ少なかれ問題意識は持っていたと思う。しかし公務員である以上、入管法に従うというのが役目だ…」。
■入国の管理をする役所が難民保護も担う現状
政府与党の改正案について立憲民主党の安住淳国対委員長は「対象になっている外国人の方々が3回目には強制的にこの国を出されるんじゃないかという恐怖心を持っている。この恐怖心を持たせたところに、この法案の核心がある」と指摘。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)も「非常に重大な懸念を生じさせる様々な側面がある」との声明を発表。
また、日本在住のクルド出身者たちも先月、改正案への抗議集会を開き、母国に送還されれば“反体制派”として迫害され、命の危険に曝される恐れがあると懸念を示し、「迫害や差別を受けて逃げてきたのに、強制送還されたらどう思いますか?」「本国に帰ったら人生は終わりです」と訴えていた。
木下さんも「特にクルドの人たちに関しては、今まで1人も難民として認められていないという状況があるので、繰り返し申請をしてきたというケースがある。改正案が通ってしまえば、3回以上の申請として本国に送り返される可能性があるということで、大きな恐怖感を覚えていたと思う」と話す。
「日本の難民認定のハードルが非常に高いと言われているのは、命からがら逃げてきた人に対して、“自分は難民だ”ということについての立証を求めるからだ。加えて“個別把握論”といって、“反政府組織に属しているからといって、リーダー的な存在じゃないなら帰国しても迫害の恐れはないのではないか”などと評価しがちなところがあるといわれる。
もちろん日本も難民条約に加盟をしている以上、条約上の難民は保護しなければいけない。ただ、国によって難民認定のシステムには違いがあって、日本には独立した難民審査機関のようなものが存在していない。
だから基本的には入国の管理をする役所であるはずの入管が、難民認定や難民保護の役割も行っているということだ。それが同じ組織で行われていることについては、どうかと思う」。
■“あまり長く定着して欲しくはない”という考え方が?
難民問題について取材を続けるジャーナリストの堀潤氏も「まずその人が難民であるかどうかを調査するための体制を作ってから、どのような人について申請を認めるのか、という議論がされるべきなのに、一足飛びに回数で切って送還するというのは、政府の不作為ではないか」と指摘する。
「“私たちの仲間たちが次々と拘束され殺害されているので日本にやってきた”と説明したトルコ出身の方に対し、“あなたが銃口を向けられたわけではないですよね”と詰問をされたと聞いた。厳しすぎると思う。
あるいは“大学院に所属していました”というシリア出身の方に、“証明はありますか。取り寄せられますか”と言ったというケース。まさに爆撃が行われていて、指導教員が生きているかさえどうかわからないのに」。
作家の乙武洋匡氏は「どうしても、“はいはい、またいつもメンバーが賛成して、またいつものメンバーが反対しているのね”で終わってしまいがちだが、そうではない。一昨年の外国人労働者の受け入れ問題を思い出してみると、自民党は支持者のために“いやいや、外国人を入れるつもりはない”。でも経済界の要請も聞き入れないといけないから“これくらいの期間ならオッケーだ”という、玉虫色の決着をしてしまった。
人口が減っていく中で、外国人といかに共生する社会にしていくのか、拒み続けてゆっくりと衰えていく社会にしていくのか、ちゃんと議論しようよという骨太の議論をしなければならない」と訴えた。
木下さんは「国としては外国からの労働力が欲しいはずだ。しかし日本の移民政策、外国人政策の根底には、“あまり長く定着して欲しくはない”“定着しない人ならウェルカムだ”という考え方があるのではないか。それが技能実習生制度によく表れていると思う。
あれも3年、長くても5年居たら、後は帰ってくださいと、短い期間だけ日本で頑張って働いてください、というような制度の立て付けだ。
難民についても、ずっと長く日本に定着する予定の人に関してなので、厳格な姿勢で臨んでいるという部分があるのかもしれない」との見方を示した。【5月18日 BEMA TIMES】
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乙武洋匡氏が言うように、“人口が減っていく中で、外国人といかに共生する社会にしていくのか、拒み続けてゆっくりと衰えていく社会にしていくのか”という問題でしょう。
“外国人を定着させたくない”という内向き姿勢で、グローバル化した世界で日本は生きていけるのか?という疑問を感じます。