孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州議会 中国との包括投資協定批准手続きを停止、その背景

2021-05-23 22:45:26 | 欧州情勢

(【2020年12月30日 日経】)

 

【欧州のアジアシフト、中国牽制】

アメリカが中国への対抗を戦略的に最重視するようになり、日本も対中国包囲網の一翼を担いつつ、同時に中国との経済関係を維持しようとしていることは周知のところ。

 

そうしたなかで、これまで日本にとって欧州諸国というのは文化的あるいは経済的関係が中心で、安全保障の面では地理的に遠く離れていることもあって、あまり強い関係はなかったようにも思われます(昔は日英同盟とか三国同盟といったものもありましたが・・・)

 

しかし、最近、日本・アジアにおいても欧州諸国の影が濃くなっています。

 

****英空母「クイーン・エリザベス」出港 日本にも寄港予定****

日本にも寄港する予定のイギリス海軍の空母クイーン・エリザベスが港を出発しました。(中略)出発前には、エリザベス女王がヘリコプターで空母に降り立ち、艦内を視察しました。

クイーン・エリザベスを中心とした空母打撃群は、22日出発しました。地中海、インド洋、南シナ海などを航行して40か国を訪れる予定で、日本では自衛隊との合同訓練も行われます。

「日本とは軍として、貿易パートナーとして、また価値観の近い国同士として緊密な関係を築きたいです」(イギリス海軍・第一海軍卿 トニー・ラダキン大将)

今回の派遣は、インド太平洋地域での存在感を高めたいイギリスの防衛・外交・貿易政策の一環で、海洋進出を強める中国をけん制する狙いもあると見られます。【5月23日 TBS NEWS】

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****フランス軍、九州の合同訓練参加で中国けん制****

◇「絶対的パートナー」日本と協力
陸上自衛隊とフランス陸軍、米海兵隊は5月11-17日、九州で共同訓練「アーク21」を行った。インド洋や南太平洋に海外領土を持ち、90%以上の排他的経済水域(EEZ)をインド太平洋地域に持つフランスは、中国の海洋進出を警戒。今回の訓練参加には、対中包囲網の強化を示したい思惑があるとみられる。

フランス国防省のグランジャン報道官は時事通信社のインタビューに応じ、台頭する中国を念頭に「インド太平洋地域へのわれわれの関心の強さと日本との協力関係を確認する機会だ」と強調した。

 

日本との関係については、インド太平洋地域における「絶対的に重要なパートナーであり、両国は同じ価値観を共有している」と述べた。【5月23日 時事】

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経済を含めたアジア重視の流れ、台頭する中国への対抗措置・けん制といった背景があるようです。

 

****欧州のアジアシフトは何を意味するか 「対中国」で連携加速、背景には経済的思惑も****

欧州とアジアが距離的に離れていることは言うまでもない。だが、英国やフランス、ドイツなどの欧州主要国は最近、アジアへの接近を加速化させている。

 

インド洋や南太平洋に海外領土を持つ英国やフランスは東アジアにフリゲート艦を展開し、今後はドイツも日本にフリゲート艦を派遣する計画を明らかにしている。また、今年夏にはオランダ海軍もフリゲート艦を派遣し、米国や日本などと合同軍事演習を行うという。

 

なぜ、英国やフランスなどはこのような姿勢を転じているのだろうか。

 

まず、その背景には、中国との関係悪化やバイデン政権の誕生がある。新型コロナウイルスが中国を起源とされることから、感染拡大の震源地となった欧州主要国と明確な発生源解明で積極的に対応しない中国との間で亀裂が深まり、それは各国にワクチンを配給するというワクチン外交競争にも発展している。

 

また、習政権は去年7月に香港国家安全維持法を施行したが、それによって民主派への締め付けが強化され、一国二制度が事実上崩壊状態にある。香港の人権問題を巡っても両者の関係が悪化している。

 

また、トランプ政権時から欧州と中国との間では亀裂が深まっていたが、同盟国・友好国と協力しながら中国へ対抗する戦略を重視するバイデン政権となり、米欧関係の大幅な改善も影響し、欧州の米国への接近は加速化している。

 

インド太平洋構想の基軸となる日米豪印4カ国の枠組み“クアッド”の動きも加速化しており、英国やフランスはクアッドとの協力を強化する意思も鮮明にしており、“クアッドプラス”の様相を呈している。

 

一方、欧州がアジアシフトを鮮明にする背景には経済的な思惑もある。欧州はアジアの潜在的可能性を熟知している。近年、注目を浴びるインド太平洋地域は、世界全体のGDPの60%、世界人口の65%を占めると言われ、今後のインドやASEAN諸国などの経済発展や人口増加を考えれば、これまで以上に世界経済のハブとなることは間違いない。

 

また、GDP世界ナンバー1の米国、ナンバー2の中国、ナンバー3の日本が集う地域でもあり、今後の新たな国際経済秩序はインド太平洋から生まれ、世界に拡大していく可能性が高い。

 

今後、米中が主導する形で良い意味でも悪い意味でも秩序形成が進められることになるが、その秩序形成に関与していなければ中長期的には利益を共有できず、蚊帳の外に置かれる可能性もあり、欧州はそこを強く警戒している。

 

これまで戦後の国際経済秩序は米国と欧州を中心に北大西洋の両岸で進められ、英国やフランス、ドイツなどが遠方を気にする必要性は低かった。

 

それを警戒しているかのように、英国のトラス国際貿易相は今年1月、日本やオーストラリア、シンガポールなど11カ国が加盟する環太平洋連携協定(TPP)へ近く正式に加盟する方針を明らかにした。域外国がTPPへの加盟手続きを行うのは英国が初めてだが、EUから離脱した英国は新たな経済パートナーや枠組みを模索している。ま

 

た、今年のG7議長国である英国は、中国との関係が冷え込む中、インドとオーストラリア、韓国の3カ国を招待した形で拡大会合を行う意思を明らかにしている。

 

欧州が遠い東アジアへ接近するだけでなく、インドとオーストラリア、韓国の経済主要国を逆に欧州へ接近させる英国の戦略は、英国の本気度を示している。世界経済のハブは欧米からアジアへシフトしている。欧州のアジア接近は今後とも続くだろう。【5月8日 治安太郎氏 まいどなニュース】

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【「民主主義」や「基本的人権」を重視する欧州議会 中国との包括投資協定批准手続きを停止 欧州各国政府の本音とはまた別物】

もっとも、“欧州はアジアの潜在的可能性を熟知している”ということで言えば、その際たるものが中国市場でしょう。

 

日本同様、安全保障や人権等の価値観の面では中国を牽制しつつも、経済的には中国との関係を重視しているというのが欧州各国の本音ではないでしょうか。

 

しかし、そうした各国政府の本音・欧州企業の思惑とは別に、EU内(特に欧州議会)には中国に対する牽制姿勢を強める動きもあって、昨年末に中国とEUの間で合意に達した包括投資協定(CAI)について、欧州議会での批准手続きがストップしています。

 

投資協定は欧州にメリットの大きい協定ですが、アメリカに対抗する関係を構築したい中国側がかなり譲歩する形で昨年末に成立しました。

 

欧州議会は欧州連合理事会と平等に立法権を有し、議員は27加盟国において直接選挙によって選 出されています。

欧州連合理事会は各加盟国の閣僚によって構成される立法機関です。

欧州委員会は各加盟国より 1 名ずつ任命される 27名の委員によって構成されている、EUの行政執行機関です。

欧州理事会は加盟国首脳や 欧州委員会委員長などから成る機関です。

 

****ウイグルを理由に中国との投資協定を凍結したEUの建前と本音****

欧州連合(EU)のドムブロフスキス欧州委員(通商担当)は5月4日、昨年末に中国との間で合意に達した包括投資協定(CAI)について、欧州議会での批准手続きを停止したと発表した。

 

その理由として、ドムブロフスキス欧州委員は双方の関係悪化を挙げている。特にEU側が問題視しているのが、新疆ウイグル自治区における人権抑圧問題である。

 

EUの執行機関である欧州委員会は3月22日、この問題を理由に中国に対して制裁を科した。具体的には、新疆ウイグル自治区での非人道的行為に加担したとされる法人と個人に対して資産の凍結と渡航の制限を課すもので、中国の行動変容を実際に促すことよりも、あくまで象徴的な意味合いの強い措置だったと言える。

 

もちろんこの制裁は、対中圧力を重視する米国と歩調を合わせる必要から実施されたものだが、同時に行政府である欧州理事会がEUの立法府である欧州議会に配慮する観点からも実施されたものであった。言い換えれば、EUにおいて中国への制裁を重視しているのは欧州議会であり、欧州委員会は必ずしも対中圧力の強化に乗り気ではないという事実がある。

 

もともとCAIは、中国よりもEUにメリットが大きい協定である。CAIによって、EUの企業が中国で投資を行う際の自由度が増すためだ。欧州委員会にとって、CAIを批准するためには中国への圧力を重視する欧州議会を懐柔する必要がある。そのジレンマの中で、欧州委員会は中国に対して制裁を科したわけだが、結局のところ批准手続きの停止に追い込まれた。

 

欧州議会はなぜ対中圧力を重視するのか

そもそも欧州議会とはどのような組織だろうか。欧州議会は、EU27カ国から直接選挙で選出された700人余りの議員から構成される。加盟国から1人ずつ選出された閣僚から構成される「欧州連合理事会(閣僚理事会)」とともに、EUの立法府を形成している。

 

その欧州議会による同意が、CAIのような国際合意を発効させるためには必要となる。

 

また欧州議会は、欧州委員会を総辞職させる権限も持っている。そのため、欧州委員会としては欧州議会に対して必ずしも強気で出ることができない。

 

そして、欧州議会はいわゆる「民主主義」や「基本的人権」といった欧米流の価値観を極めて重視しており、中国の新疆ウイグル自治区における行為を看過することは当然できない。

 

欧州議会の議員は自国の政党には属さず、自らの主張に近い「会派」に属する。伝統的に欧州議会では中道の右派ないしは左派の会派が重責を担ってきたが、近年では欧州の政治の多様化と同様に、自由主義や民族主義、環境主義など多様な会派が勢力を強めている。そのため、欧州議会の運営も従来に比べるとスムーズにいかなくなってきた。

 

とはいえ「民主主義」や「基本的人権」という価値観は、立場を問わず各政党がほぼ一致して重視する考えだ。2021年1月に、欧州議会が香港での反民主的行為に対して採択した非難決議で賛成が圧倒的多数(賛成597、反対17)だったことからも、欧州議会が会派の立場を問わずに欧米流の価値観を極めて重視している事実が窺い知れる。

 

またEUによる制裁への対抗措置として、中国が欧州議会の議員の資産凍結や渡航禁止を科したことについても、欧州議会は反発を強めていた。多様な会派が勢力を強める過程で意思決定のプロセスが煩雑化している欧州議会だが、欧米と異なる価値観を持つ中国への対応に関しては一丸となっている点に、ある意味での欧州らしさが表れている。

 

平和裏に発効を目指したい欧州委員会の本音

フォンデアライエン欧州委員長やドイツのメルケル首相、フランスのマクロン大統領といったEUの首脳陣からすれば、欧州企業にとってメリットが大きいCAIは是が非でも発効させたいところだ。従来なら暫定発効という手立てをとることも選択肢の中にあり得ただろうが、今そうした対応をすれば欧州議会との間で本格的な対立が生じかねない。

 

フォンデアライエン欧州委員長は中道右派で欧州議会の最大会派である欧州人民党グループ(EPP)や、中道左派で第二位の会派、そしてEPPのパートナーでもある社会民主進歩同盟(S&D)のバックアップを受けることができる。しかしEPPとS&Dの勢力はともに着実に削がれており、多様な会派が勢力を強めていることと裏腹の関係にある。

 

つまるところ、EPPやS&Dの影響力が低下する中で投資協定の暫定発効を強行すれば、欧州委員会を含むEU首脳陣と欧州議会との関係が悪化し、EUの政策運営が停滞することになりかねない。そのためフォンデアライエン欧州委員長などEUの首脳陣には、欧州議会が矛を収めるまで投資協定を凍結するしか選択肢がなかった。

 

それゆえに、CAIの凍結はウイグル自治区における人権抑圧問題を表向きの理由としながらも、その実はEU内部の問題を反映した決定であったという方が正しい理解だろう。(中略)

 

中国はEU首脳陣がCAIを重視していることを十分に理解している。敵に塩を送るとまではいかないまでも、自ら波風を立てないようにしているというのが中国の姿勢ではないか。同時にこうした中国の反応は、CAIの締結を強く望んでいるのがむしろEUであるという実情を浮き彫りしているように見える。

 

二項対立ではないEUと中国の関係

(中略)とはいえ、図らずもCAIの批准手続きの停止が物語ったように、EU内部では中国への対応方針をめぐる相違がある。

 

それは各国レベルでも同様であり、経済面で中国との関係維持を重視するドイツのような国もあれば、中国への敵対心を強めるチェコのような国も存在する。EUと中国の関係は、単純な二項対立構造では捉えきれない。

 

EUと日本が正面から衝突することはまずない。日本は先進国として、基本的には欧米と同じスタンスで行動をともにせざるを得ない。一方で、EUと中国の関係が単純な二項対立ではないことを踏まえて行動しないと、日本だけがはしごを外されてしまうリスクがある。表面上の対立の裏にある力学関係を読み解くための外交分析が必要となる。【5月8日 土田 陽介氏 JB press】

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欧州議会は、中国との投資協定の批准手続き再開の条件として、中国に欧州の議員や外交官を標的にした報復制裁の撤回を求めています。 しかし、これは欧州側の中国に対するウイグル問題を背景にした制裁措置への報復装置であり、欧州側の対中国制裁を残したまま中国だけ報復制裁を止めろというのは、中国としてはのめない条件でしょう。

 

****欧州議会、中国に対EU制裁撤回要求へ 投資協定批准の条件に****

 欧州連合(EU)欧州議会は、中国との投資協定の批准手続きが停止している問題について、再開の条件として、中国に欧州の議員や外交官を標的にした報復制裁の撤回を求める決議案を20日に承認する見通し。決議案の原案をロイターが閲覧した。

中国は3月に対EU制裁を発動。EUと英米、カナダが、中国が新疆ウイグル自治区で少数民族ウイグル族に重大な人権侵害を行っているとして、中国政府当局者に対する制裁措置を発表したのに対抗した。

EUの議員らは、EUの対中制裁は国連条約に記されている人権の侵害に対応しているが、中国の制裁は国際法に基づいていないと主張している。中国側は人権侵害を否定している。

欧州議会が承認する見通しの決議案の原案には、中国との投資協定の批准手続きは「中国の制裁が発動中というもっともな理由で凍結されている」と記してある。

その上で、中国に制裁の撤回を要求。「EUと中国は通常どおりの関係を維持できなくなる可能性がある」と警告した。

決議案に法的拘束力はないが、加盟国にとっては政治的に重要な意味がある。採決は20日に予定されている。【5月20日 ロイター】

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前出【JB press】では中国側対応について“自ら波風を立てないようにしている”とありましたが、さすがに苛立ちを隠せない様子も。下記はCRI(中国国際放送)の論評です。

 

****【CRI時評】中欧投資協定を政治カード化は賢明な選択に非ず****

欧州議会は現地時間20日午後、中国・EU投資協定を批准する前に、欧州連合(EU)への報復制裁を解除するよう中国に求める動議を採決した。諸外国は、欧州議会が7年間の交渉を経て合意に達した中国・EU投資協定が「凍結した」と見ている。

中国はなぜ欧州に報復制裁を科したのか。原因は今年3月、欧州側が新疆関連のデマに基づいて中国側の関係する個人と団体に単独制裁を実施し、中国の内政に干渉し、国際法と国際関係の基本ルールに違反したことにある。中国側の対抗措置は自国の利益を守るために必要であり、欧州側の制裁に対抗する上で必要な当たり前の反応でもある。

欧州議会が中国側に報復制裁の撤廃を要求することは、中国が中傷・攻撃されても抵抗するなと言うのに等しく、このような要求は「荒唐無稽」以外に形容できる言葉がない。中国・EU投資協定の批准・発効を阻止することで、中国に恐怖感を与えられるかといえば、そうではない。中国側が何度も強調しているように、「中国・EU投資協定はバランス、互恵ウィンウィンを旨とする協定であり、欧州が中国に与える恩恵ではない」。

中国・EU投資協定の採択阻止で、最もやきもきしているのは多くの欧州企業だ。過去20年間、欧州企業の中国への投資は1460億ユーロに達し、収益はかなり大きい。14億人の消費者を擁する大きな中国市場は今もどんどん成長し、開放が続いている。欧州議会の妨害は、間違いなく欧州企業の得た利益を奪う行為だ。また、回復が待たれる世界経済にも悪影響をもたらす。

中国側は自国の利益を守ることを前提に、終始誠意を持って中国・EU協力を促進し、ウィンウィンの実現に努めてきた。EU側は是非を明らかにし、デマに基づく対抗制裁を停止し、各方面の利益に合致する理性的選択をすべきだ。(【5月22日 レコードチャイナ】

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****中国、EUの投資協定批准凍結に「EUは反省を」と反発 再考求める****

中国外務省の趙立堅(ちょう・りつけん)報道官は21日の記者会見で、欧州連合(EU)と中国が合意した投資協定の批准手続きの凍結を明記する決議を欧州議会が採択したことに対し「責任は中国側にはなく、EU側が真剣に反省することを望む」と反発した。

 

趙氏は「EUは中国内政への干渉を直ちに停止すべきだ」と強調。その上で、投資協定について「バランスがとれていて、互いに利益がある」と述べた。経済的なメリットを強調し、EU側に措置について再考するよう求めた形だ。【5月21日 産経】

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なお、EUは安全保障面で中国を牽制する流れで、インドとの関係強化を図っています。

“EUとインド、FTA交渉を再開へ 安全保障も連携強化”【5月9日 朝日】

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