孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタンからの米軍撤退に伴う現地協力者の処遇 タリバンの報復にさらされる通訳・家族

2021-05-26 23:27:29 | アフガン・パキスタン

(米軍や国連、NATOに抗議するアフガニスタン人の元通訳たち(21年4月)【6月1日号 Newsweek日本語版】)

 

【不透明な撤退後の枠組み】

5月13日ブログ“アフガニスタン  女子生徒が犠牲になる爆弾テロ 将来の姿を暗示するものでなければいいが・・・”でも取り上げたように、アフガニスタンからの米軍撤退について、バイデン大統領は4月末期限を9月11日に延期しましたが、実際にはより早い時点での完了(米独立記念日の7月4日)を目指して、すでに撤退が開始されています。

 

****米軍のアフガン撤収、「6〜12%完了」と中央軍****

米中央軍は11日、アフガニスタン駐留米軍の撤収に関し、4月下旬の作業開始から10日までに全体の6〜12%が完了したと発表した。米軍のC17輸送機104機分の物資約1800個以上をアフガン国外に搬出したとしている。

 

バイデン大統領は、米中枢同時テロから20年となる9月11日までに全ての米軍将兵を完全撤収させると表明。ただ、撤収が急ピッチで進む見通しであることから、米独立記念日の7月4日までに撤収が完了するとの見方も出ている。

 

駐留米軍の規模は、撤収開始の時点で約2500人。アフガン政府と対立するイスラム原理主義勢力タリバンは、米軍の撤収開始を受けて首都カブールを含む各地で攻勢を強めており、今後、米軍将兵の撤収が本格化するのに比例して治安が一層悪化するとの懸念が強まっている。【5月12日 産経】

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米軍など外国部隊撤退後の枠組みとしてアメリカが提案しているとされる、タリバンも権力分担した暫定政権に関する話は、その後どうなっているのか・・・その件に関する報道は目にしていません。

 

****「アフガニスタン 米軍撤退 危うい和平への道」(時論公論)****

(中略)

ではアメリカ軍が撤退したあとのアフガニスタンはどこへ向かうのでしょうか。現在アフガニスタンにはアメリカ軍兵士2500人の他、NATO・北大西洋条約機構の部隊およそ1万人がアフガニスタン軍の訓練などにあたっており、現地の報道ではすでに一部の国は撤退を始めました。

 

この地図はアフガニスタン政府とタリバンの支配地域を示しています。クリーム色が政府の支配地域、赤がタリバン支配地域です。外国の部隊が撤退後、この色分けが大きく変わり、タリバンが支配地域を急速に拡大し、政権を掌握するのではないかといった見方もあります。

タリバンは政権を握っていた当時、女性の就学や就労を認めず娯楽も禁止するなど極端なイスラム主義政策をとりました。タリバンの圧政から解放された瞬間の市民の安堵の表情が今も強く印象に残っていますが、タリバンが復権すれば再び人権が抑圧されるのではないか、とくに女性の権利が守られないのではないかと多くの人が懸念しています。

 

アメリカは、そのタリバンも参加する暫定的な政権を発足させ、新しい憲法のもとで選挙を行って正式な政権を発足させるという提案をしています。

 

しかし、水と油の関係にある両者が権力を共有することができるか疑問です。20年前、アメリカとその支援を受ける北部同盟が首都カブールに突入する瞬間を、私たち各国メディアはタリバンの砲撃が続く中取材しました。そのときの激しい戦闘を思えば、アメリカが政権から引きずり下ろしたタリバンを今度は政権に参加させようとしていることに抵抗を感じる人は少なくないでしょう。

ガニ大統領はアメリカの提案を拒否し、代わりに3段階の和平案を主張しています。まず戦闘を停止し国際監視団が監視する、次に大統領選挙を行って新しい政権を発足させ、最後に憲法の枠組みを作るというものです。

一方、タリバンは外国軍部隊が撤退するまでいかなる会議にも参加しないとしており、アフガニスタンの将来を話し合うために今月後半に予定されていた国連主導の国際会議も延期となりました。(後略)【4月28日 NHK】

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「暫定政権」構想を実現し、維持していくうえで、アフガニスタン政府だけでなく、タリバンへの働きかけが必要ですが、そのためにはタリバンの後ろ盾となってきたパキスタンとの交渉が不可欠です。

 

しかし、アメリカとパキスタンの交渉も見聞きしません。首脳会談も行われていないようです。

 

****米軍撤退後のアフガンに残る課題****

(中略)バイデン政権は、パキスタンをどう扱おうとしているのかよく分からない。

 

バイデンは未だパキスタンのイムラン・カーン首相と電話会談をしていない。4月の気候変動サミットには、インドとバングラデシュの首脳は招待したが、イムラン・カーンは招待しなかった。

 

中国に傾斜するパキスタンのバイデン政権にとってのプライオリティは低いということかも知れないが、アフガニスタンからの撤退という新たな情勢を前に、テロの脅威の監視の観点を含め、パキスタンとの関係をどうするかの整理は必要であろう。

 

これまでアフガニスタン駐留米軍への補給路として、あるいはタリバンの隠れ家として重要であったパキスタンは、用済みという訳にも行かないであろう。【5月26日 WEDGE】

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【最低限必要とされる現地通訳・家族のアメリカ移住 国としてのモラルの問題】

前回ブログで取り上げたように、イスラム主義のタリバンが実権を握るような体制にあって、人権(特に女性の権利)や民主主義がどのように保証されるのかが最大の関心事ですが、それ以前の問題として、新たな事態への転換が混乱なく実施されるのかという問題もあります。

 

(持続性あるものかどうかは疑問ですが)きちんとした枠組みなしの撤退では、南ベトナムからの米軍撤退、その後の「南」の崩壊に伴う混乱、大量の難民発生といった事態の再現となってしまいます。

 

もし、「暫定政権」などの枠組みをあきらめる場合であっても、米軍など外国部隊に協力した通訳やその家族など、タリバンの報復にさらされる人々の保護が最低限必要でしょう。

 

それすらなければ、文字どおり南ベトナム崩壊時の混乱・悲劇の再現です。

あれはダナンの米軍基地だったでしょうか。アメリカに向かう最後のチャーター便に乗せてもらおうと群がる大勢の人々。無理やり乗り込もうとする群衆を腕ずくで振り落とすアメリカ人・・・・

 

あのとき、上院議員だったバイデン氏は、救出計画つぶしの急先鋒だったそうです。

 

****米軍は相棒を見捨ててアフガンを去るのか****

移民ビザの発給が間に合わなければ、現地の通訳やその家族らはタリバンに殺される危険性がある

 

サイゴン陥落でベトナム戦争が終結した1975年4月。南ベトナムにいたアメリカ人がヘリコプターで一斉に脱出するなか、ワシントンでは若き上院議員がこう主張していた。

 

「1人だろうと10万人プラス1人だろうと、アメリカには南ベトナム人を救出する責務は一切ない」

救出計画つぶしの急先鋒だったその議員こそ現在の米大統領、ショー・バイデンだ。

 

そして、20年に及んだ戦争の末に米軍がアフガニスタンから撤退し始めた今、バイデンは再びアメリカの良心が問われる二者択一に直面している。自国の軍隊のために働いてきたアフガニスタン人を見捨てるのか、それとも救いの手を差し仲べるのか。

 

アメリカに永住できる特別移民ビザ(SIV)発給を条件に、駐留米軍や多国籍軍の通訳などを務めてきた多数のアフガニスタン人とその家族。

 

彼らは今、命の危険にさらされている。救出ミッションは時間との競争であり、煩雑な行政手続きとの戦いだ。

 

米軍と多国籍軍が撤退すれば、アフガニスタンは再びイスラム原理主義勢カタリバンの支配下に置かれかねない。今もSIVの発給を待っていた米軍の通訳が武装勢力に殺される事件が相次ぎ、通訳仲間らは不安を募らせている。

 

米軍に協力したアフガニスタン人とその家族へのSIV発給については、ワシントンでも米政府の対応の遅れを非難する大合唱が起きている。議員や退役軍人が手続きを迅速化するようハイテン政権に猛プッシュをかけているのだ。

 

下院外交委員会のメンバーである民主党のアミ・ベラ議員によると、現時点でSIVを申請し、発給を待っているアフガニスタン人はざっと1万7000人。手続きを迅速に進める具体的な計画がなければ、米軍の撤退完了までに発給が問に合うか「非常に心配」な状況だと、ベラは言う。

 

見せしめの制裁を懸念

(中略)今のところハイテン政権は手続きの迅速化について、はっきりした計画を議会に示していない。このままいけばベトナム戦争終結時の二の舞いになると、民主・共和両党の議員は危機感を募らせている。

 

「アフガニスタンをもう1つのサイゴンにしてはならない」。下院外交委員会の共和党のトップ、マイケル・マコール議員は議会でそう訴えた。「これはアフガニスタンでビザを待っている人だけの問題ではない。同盟国やパートナーがアメリカは約束を守らず、自分たちを見捨てると思ったら、アメリカの安全保障に致命的なダメージが及ぶ」(中略)

 

アフガニスタンの高官クラスの外交筋は匿名を条件に取材に応じ、米軍の通訳が国外に脱出できなければ、タリバンに報復されるとの懸念が現地でも広がっている、と明かした。

 

タリバンには通訳に制裁を加える動機があると専門家はみる。80年代末に旧ソ連軍が撤退した際、タリバンはソ連兵に協力したアフガニスタン人に厳しい制裁を加えなかった。そのため外国の軍隊に雇われるアフガニスタン人に歯止めをかけられなかった、とタリバンは後悔しているのだ。

 

「(米軍に雇われていた)人たちが(見せしめのために)報復されるリスクは極めて高い」と、スタンフォード大学の南アジア研究者、アスファンディアル・ミルは警告する。

 

バイデンが設定した米軍の撤退完了の期限は9月11日。政府が手続きを簡略化しなければ、それまでにはとてもSIVの発給は問に合わないと、議員や退役車人らぱ懸念している。問に合わない場合は、通訳とその家族らを首都カブールか第三国もしくは他の米軍基地に一時的に避難させるべきだと、彼らは言う。(中略)

 

タリバンの標的になる

この問題に対処するため、カブールの米大使館に関して「領事部の一時的な増員」を承認したと、国務省の報道官は語る。(中略)

 

これまでにイラクとアフガニスタンから約3万の家族が、SIVを通じてアメリカに移住している。一方で、米軍や多国籍軍を支援したアフガニスタン人の通訳などが、ビザの発給を待つ問にタリバンなどの武装勢力に殺害されており、アメリカのモラルの甚大な欠如だと、米退役軍人の支援団体は指摘している。

 

SIVの申請者を支援する非営利団体「ノー・ワンーレフトービハインド」は、少なくとも300人の通訳やその家族の殺害を確認していると、ジェームズ・ミーアバルディス理事長は言う。

 

国防総省報道官のロブ・ロードウイック少将は、「自分や家族を大きな危険にさらしながら、われわれの軍に貴重な責務を提供してくれた人々を助けるために」、同省もSIVプログラムを引き続き「支持する」と語っている。(中略)

 

国としてのモラルの問題

しかし、ビザ取得までには官僚主義の壁がいくっも立ちはだかる。膨大な数の申請書類をそろえ、米領事館で面接を受け、さらに書類作成、手続きなど11段階の複雑なプロセスを経て、ようやくSIVを手にできる。

 

1月に国務省が発表したデータからも、膨大な時間がかかることが見て取れる。書類審査は1つにつき平均10日、事務処理には3ヵ月以上かかることも。さらに、特別委員会が申請を審査して承認を決定するプロセスは平均833日と、2年を優に超える。

 

陸軍時代にイラクとアフガニスタンの双方に駐留したミーアバルディスは、自分のアフガニスタン人通訳のSIV申請を手助けしたが、ビザの発給までに3年かかった。多くの退役軍人が似たような経験をしていると、彼は語る。

 

「彼らはそれぞれ、個人として正しいことをしようと努め、自分のパートナーの脱出を助けるために何年もかけて官僚機構と戦ってきた」

 

米国務省のデータによると、昨年10~12月にアフガニスタン向けに発給されたSIVは計1321件。アフガニスタン人の申請枠は残り1万993件だ。

 

アメリカは19年度末までに、米政府のために働いたイラク人に2万993件のSIVを発給したが、やはり処理の遅さや言語の壁などについて批判を受けている。今も多くのイラク人が、アメリカヘの入国の承認を待ちながら危険にさらされている。

 

長く待だされる理由は、典型的なお役所仕事に加えて、過去の申請の処理が滞っていること、厳格な身元調査に時間がかかること、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で米大使館員が退避したために事務スタッフが少ないことなどがある。

 

アフガニスタン人通訳の中には、雇用契約書や、かなり前に死亡した上司や倒産した契約会社からの推薦状など、必要な書類の作成に苦労する人もいる。また、米議会内外の支援者はバイデン政権に対し、移民の再定住先として、米国内の候補地を明確に承認することを求めている。

 

ベラ下院議員は、アメリカという国の基本原則が問われており、党派を超えた最優先課題だと語る。

「ほかの国の人々に私たちのために働いてほしい、協力してほしいと求めるなら、今後どのようなモラルを持つべきか。国としてモラルの範を示したいのなら、これこそ私たちがやるべきことだ」【6月1日号 Newsweek日本語版】

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