(台湾最大の湖「日月潭」が干ばつに見舞われ、湖岸の土が露出している【5月9日 レコードチャイナ】)
【戦前、八田 與一が建設したダムの着工100年記念式典に蔡総統ら台湾トップ3が出席】
戦前日本の統治下にあった国々のなかでも台湾は今でも極めて親日的な国として知られています。
やはり日本の侵略に苦しんだ中国が「どうして?」と訝しく思うほどに。
そんな台湾にあっても、ひときわ敬愛されている日本人が、水利技術者だった八田 與一(はった よいち)。日本よりは台湾で有名な人物です。
私事ですが、彼が活躍した嘉義・台南は、亡くなった私の母が女学校時代まで暮らした街でもあります。
(生前、母に八田のことを尋ねると、「なんかそんな人がいたみたいだね・・・」って言っていました。当時、母は弓道一筋の日々でしたから。日本人社会における八田の認知度もそんなに高くなかったのかも。)
****八田 與一(はった よいち)****
1886年(明治19年)に石川県河北郡花園村(現在は金沢市今町)に生まれる。石川県尋常中学、第四高等学校(四高)を経て、1910年(明治43年)に東京帝国大学工学部土木科を卒業後、台湾総督府内務局土木課の技手として就職した。
日本統治時代の台湾では、初代民政長官であった後藤新平以来、マラリアなどの伝染病予防対策が重点的に採られ、八田も当初は衛生事業に従事し嘉義市・台南市・高雄市など、各都市の上下水道の整備を担当した。その後、発電・灌漑事業の部門に移った。(中略)
嘉南大圳
1918年(大正7年)、八田は台湾南部の嘉南平野の調査を行った。嘉義・台南両庁域も同平野の区域に入るほど、嘉南平野は台湾の中では広い面積を持っていたが、灌漑設備が不十分であるためにこの地域にある15万ヘクタールほどある田畑は常に旱魃の危険にさらされていた。
そこで八田は民政長官下村海南の一任の下、官田渓の水をせき止め、さらに隧道を建設して曽文渓から水を引き込んでダムを建設する計画を上司に提出し、さらに精査したうえで国会に提出され、認められた。
(中略)八田は国家公務員の立場を進んで捨て、この組合付き技師となり、1920年(大正9年)から1930年(昭和5年)まで、完成に至るまで工事を指揮した。
そして総工費5,400万円を要した工事は、満水面積1000ha、有効貯水量1億5,000万m3の大貯水池・烏山頭ダムとして完成し、また水路も嘉南平野一帯に16,000kmにわたって細かくはりめぐらされた。この水利設備全体が嘉南大圳(かなんたいしゅう)と呼ばれている。
ダム建設に際して作業員の福利厚生を充実させるため宿舎・学校・病院なども建設した。爆発事故の翌年には関東大震災が起こり予算削減の為に作業員を解雇しなければならなかった。八田は、有能な者はすぐに再就職できるであろうと考え、有能な者から解雇する一方で再就職先の世話もした。
2000年代以降も烏山頭ダムは嘉南平野を潤しているが、その大きな役割を今は曽文渓ダム(中国語版)に譲っている。この曽文渓ダムは1973年に完成したダムで、建設の計画自体も八田によるものであった。
また、八田の採った粘土・砂・礫を使用したセミ・ハイドロリックフィル工法(コンクリートをほとんど使用しない)という手法によりダム内に土砂が溜まりにくくなっており、近年これと同時期に作られたダムが機能不全に陥っていく中で、しっかりと稼動している。
烏山頭ダムは公園として整備され、八田の銅像と墓が中にある。また、八田を顕彰する記念館も併設されている。
評価
日本よりも、八田が実際に業績をあげた台湾での知名度のほうが高い。特に高齢者を中心に八田の業績を評価する人物が多く、烏山頭ダムでは八田の命日である5月8日には慰霊祭が行われている。
中学生向け教科書『認識台湾 歴史篇』に八田の業績が詳しく紹介されている。2004年(平成16年)末に訪日した李登輝台湾総統は、八田の故郷・金沢市も訪問した。2007年5月21日、陳水扁総統は八田に対して褒章令を出した。
また、当時の馬英九総統も2008年5月8日の烏山頭ダムでの八田の慰霊祭に参加した。翌年の慰霊祭に参加し、八田がダム建設時に住んでいた宿舎跡地を復元・整備して「八田與一記念公園」を建設すると語った。(中略)
2011年には台南市の主要道路のひとつが「八田路」と命名された。
妻の外代樹も顕彰の対象となり、2013年9月1日には八田與一記念公園内に外代樹の銅像が建立された。(後略)【ウィキペディア】
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馬英九総統も「八田與一記念公園」を建設したということで、国民党・民進党にかかわらず敬愛されているようです。
でもって、今年はダムの着工100年を祝う式典が行われましたが、蔡英文総統を筆頭に台湾政治トップ3人が参列したそうです。
****日本人技師、八田與一たたえ 台湾がダム着工100年式典 蔡総統らトップ3が出席****
日本人技師、八田與一(はった・よいち)が戦前、台湾で建設した烏山頭(うさんとう)ダムの着工100年を祝う式典が8日、台南市の八田與一記念公園で行われた。関連イベントも含め、蔡英文総統、頼清徳副総統、蘇貞昌行政院長(首相に相当)が出席した。
外国が関わる歴史イベントで、台湾政治トップ3人の参列は極めて異例だ。
先月16日の日米首脳会談や、今月5日に閉幕した先進7カ国(G7)外相会議で、菅義偉首相、茂木敏充外相が相次ぎ「台湾海峡の平和と安定」を重視する姿勢を明確にした。台湾も対日関係を強化する意思を改めてアピールした形だ。
蔡氏は「100年前に烏山頭ダムを作った八田與一の先見の明、勇気と実行力を学び、台湾と日本は新型コロナウイルス対策や気候変動問題などで協力関係を緊密にし、100年後の子孫に良い環境を残せるよう努力したい」と述べた。
安倍晋三前首相もビデオメッセージを寄せて、「真の友人だけがつくる深い交わりをこの先もずっと、世代を継いで大事にしていきましょう」と強調した。
1920年着工の烏山頭ダム記念式典は昨年9月に予定されていたが、八田與一の79年目の命日にあたる8日に延期された。台湾側から約500人が出席したが、日本側関係者は八田與一の故郷、金沢市からテレビ会議方式で参加した。
烏山頭ダムにある八田與一像前で行われた慰霊祭では、頼氏が「八田與一の台湾への貢献に感謝する」とあいさつし、献花した。(後略)【5月8日 産経】
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敬愛されているのはともかく、台湾政治トップ3人が参列というのは・・・と驚いた次第ですが、昨今の日米の台湾重視に応える形での、台湾の日本重視・関係強化の表明だったとのこと。
ただ、いかにそうした国際政治の絡みがあるにせよ、八田 與一という人物の偉業があってのことでもあります。
【記録的干ばつ、世界の半導体生産を担う企業の生産にも深刻な影響】
もっとも、ダム着工100年を祝う式典に参列した蔡英文総統など首脳陣の頭には、八田のこと、日本との関係のこと以外に、もうひとつのことがあったのではないでしょうか。
それは、現在台湾がみまわれている深刻な干ばつ・水不足。
****台湾、半世紀ぶりの記録的干ばつ、不足する半導体生産への影響も懸念****
台湾が半世紀ぶりの記録的な干ばつに見舞われている。
一部自治体では週2日間の断水を実施。農産物被害が報告されているが、台湾は世界的に不足する半導体の一大生産基地でもある。製造時に大量の水が必要な半導体産業への影響を懸念する声が上がっている。
台湾・中央通信社などによると、台湾では昨年、台風が上陸せず、台風による降雨がもたらされなかった。今年に入っても中部や南部ではまとまった雨が降っておらず、過去56年で最も深刻な水不足となっている。
今年に入っても中部や南部ではまとまった雨が降らないまま。(中略)
台湾中部を流れる台湾一長い河川、濁水渓の下流は枯渇した。濁水渓は南投県、雲林県、彰化県、嘉義県を東西に流れる。本流の全長は約187キロ。河口に近い西浜大橋付近で川の水が枯れ、4月26日にはそのやや上流の自強大橋付近も干上がっているのが確認された。
濁水渓流域を管轄する経済部(経済省)水利署第四河川局の董志剛副局長は中部や南部で半年以上まとまった雨が降っていないことから、河川の水量が不足していると指摘。「早く雨が降って干ばつが解消されるよう神頼みするほかない」と切実な思いを口にした。
半導体ファウンドリー(受託生産)で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は、台湾中部に生産拠点がある。台湾の半導体工場は世界の生産量の65%を賄っており、生産能力の大半をTSMCが占める。
TSMCは1日で20万トン弱の水を使うとされるが、TSMCの工場群がある台中市の水不足は特に深刻。付近の主要なダム二つの貯水率は5%前後に低下していると伝えられている。TSMCなどは給水車を使って貯水率が比較的高いダムから水を運び、工場を稼働させているという。
事態を重視した台湾の蔡英文総統は3日、北部の水がめの石門ダム(桃園市)を視察し、深刻化する台湾の水不足問題の解決に向けた対策の徹底を各関係部門に指示した。
蔡総統は干ばつによる被害を乗り越えられるよう、新たな水源の開発とダムに堆積した土砂排出の加速化を求めるとともに、海水淡水化や汚水の回収・再利用など各種の水資源計画を引き続き進めるよう要請した。【5月9日 レコードチャイナ】
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危機的な干ばつにあって、蔡英文総統は改めて水利事業の重要性に思いをはせていたのではないでしょうか。
しかしながら、「神頼みするほかない」というのは、世界にとっても困った事態。
「台湾の半導体工場は世界の生産量の65%を賄っており、生産能力の大半をTSMCが占める。」という現状で、もし台湾積体電路製造(TSMC)の半導体生産が止まったら、台湾のみならず、日本を含めた世界経済全体が深刻な影響を被ります。
自動車やスマホをはじめ、多くの産業はいまや半導体なしでは成立しません。
先日4月14日にもTSMCの工場「Fab14 P7」で停電が発生して半導体生産がストップ、日本企業への影響が懸念されたこともありました。
水不足での生産ストップとなると、短時間の停電以上の長期的問題となります。
グローバル化した世界経済には、台湾で雨が降らないと世界経済が麻痺する・・・という、思いがけない「脆弱性」が存在するようです。
今後については、“台湾では例年5~6月に梅雨を迎えるため、水不足には楽観論もある。ただ昨年同様、今年も雨不足となれば、世界的な半導体不足にさらに影響を与えるのは必至だ。”【4月28日 日経】とも。
【米 サイバー攻撃で東海岸の燃料の半分近くを担う石油パイプラインが停止】
「脆弱性」つながりで、改めて危うさを認識させられた事件がアメリカで・・・。
*****米最大の石油パイプライン停止、サイバー攻撃で 東海岸に供給****
米パイプライン最大手のコロニアル・パイプラインが、サイバー攻撃を受けて操業を全面的に停止した。東海岸の燃料の半分近くはこの石油パイプラインが供給。車で移動する人が増える夏が近づく中、停止が長引けばガソリン価格が急騰する可能性がある。
コロニアル・パイプラインはメキシコ湾岸の製油所と米東部と南部を結ぶ全長8850キロのパイプライン。ガソリンを含む燃料を1日250万バレル輸送している。ジョージア州アトランタのハーツフィールド・ジャクソン国際空港など、米国内の主要空港にも燃料を供給している。
コロニアル・パイプラインは「状況を把握し、解決に向けて手立てを講じている。と同時に、通常の操業に安全かつ効率的に戻ることに注力している」と発表した。ランサムウエアによる攻撃に7日に気づき、操業を停止したという。停止がどのくらい長引きそうかなど、詳細は明らかにしていない。
米政府による捜査は初期段階にあるものの、元政府関係者1人と業界関係者2人によると、ハッカーはプロのサイバー犯罪集団とみられるという。
この元政府関係者によると、捜査当局は「ダークサイド」と呼ばれる集団を調査。ランサムウエアを仕込んで金銭を要求、拠点が分からないよう旧ソ連諸国に身を隠すことで知られているという。ランサムウエアは、データを暗号化してシステムを停止させ、金銭を要求するマルウエアの一種。
米連邦捜査局(FBI)を含め政府機関は、状況を認識しているとする一方、攻撃者の詳細は把握していないとした。
ホワイトハウスの報道担当者は、できるだけ早い復旧に向け同社を支援するとともに、供給が寸断されないよう取り組んでいると述べた。バイデン大統領は8日午前に説明を受けたという。【5月9日 ロイター】
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東海岸の燃料の半分近くを輸送する石油パイプラインが止まる・・・これも米経済・社会、ひいては世界経済にとっても深刻な事態です。
アメリカ人はことあるごとに「9.11」を口にしますが、こうしたサイバー攻撃はいともたやすく、「9.11」よりはるかに大きなダメージを経済・社会に与えることができます。
まさに現代社会の「脆弱性」を示しています。