(新型コロナウイルスによる観客数制限が緩和され、テニスを観にウィンブルドンに戻ってきた観客(7月5日)【7月6日 Newsweek】)
【「政府の命令ではなく、個人の自己責任により感染を防ぐ」「さらに死者が出ることを受け入れなければいけない」】
イギリスのジョンソン首相は5日、ロンドンを含む南部イングランドで、早ければ19日から新型コロナの行動規制をおおかた撤廃する方針を表明しました。
公共交通機関内でのマスク着用の義務を含む一連の法的規制を撤廃、「ウイルスと共生」しながら社会・経済活動の再生を模索する方針です。
イギリスでは、インド由来の変異株が急速に広がっており、5日発表の新規感染者数は2万7330人を記録。ジョンソン首相は「終息はほど遠い」と警告しつつも、ワクチン接種が進んだことで、入院患者数や死者数が流行のピーク時ほど増えていないと判断したとのこと。【7月6日 共同より】
****英イングランド、マスク義務など解除へ 自己責任のコロナ対策訴え*****
ボリス・ジョンソン英首相は5日、イングランドで新型コロナウイルス対策として導入されているマスク着用義務やソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)などの規制の大半を今月19日に解除すると発表した。政府の命令ではなく、個人の自己責任により感染を防ぐよう訴えた。
規制の全面解除は当初6月21日に予定されていたが、感染力の強いデルタ株の感染拡大を受け延期されていた。英国では現在までに、デルタ株が新規感染のほぼすべてを占めるまで拡大。新規感染者が急増し懸念を生んでいる一方で、大規模なワクチン接種が奏功し、入院患者や死者の急増には至っていない。
ジョンソン氏は「このパンデミック(世界的な大流行)は終わりには程遠い。19日までに終わることは決してない」と警告。「悲しいことながらも、新型ウイルス感染症によりさらに死者が出ることを受け入れなければいけない」と述べた。
英国の成人のうち、新型ウイルスワクチンの1回目接種を済ませた人の割合は約86%、2回目接種を終えた人は63%となっている。ただ、自己責任での対策を強調する政府の姿勢に対しては科学者から懸念の声も上がっており、デルタ株の拡散や新たな変異株の出現により医療機関が再び逼迫(ひっぱく)する恐れが指摘されている。 【7月6日 AFP】
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政府が何もしなくなる訳でもありません。
“ジョンソン首相は1メートル以上の社会的距離政策、結婚式や葬式など集会や飲食店の制限、リモートワークを解除するとともにナイトクラブも解禁する方針を明確にした。マスク着用は法的義務ではなくなったものの、「3密」状態で普段会わない人に接触する時はマスク着用を勧める政府のガイダンスが示される。現在の厳格な渡航制限は維持される。”【7月6日 Newsweek】
“英政府は迅速検査やPCR検査、抗体検査に加えてゲノム解析も実施して変異株の流行に目を光らせており、検査や接触追跡アプリで感染者や濃厚接触が疑われる人をあぶり出して、自己隔離を求め感染拡大を防ぐ方針だ。”【同上】
今回のジョンソン首相の判断に関して、いろんな意味で、日本とは違うものを感じます。
形式的な話では、今回決定は「イングランド」におけるもの。
イギリスは周知のようにイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドという歴史的経緯に基づく4つのカントリー(「国」)の「連合王国」ですが、イングランド以外のカントリーにおける同様の判断を決定するのはジョンソン英首相でしょうか? それとも州政府でしょうか?
本質的なところでは、“政府の命令ではなく、個人の自己責任により感染を防ぐよう訴えた”・・・今のように個人の生活を政府が規制する「異常事態」を終わらせ、各自が自分で判断する通常の生活に戻ろうというもののようです。
今回の決定の根底には、よいことだけでなく、病気・禍も基本的には個人の責任で向き合うものという価値観というか、社会生活に関する基本理念みたいなものがあるようです。
日本の場合、このあたりが曖昧で、なにかも「おかみ」にすがる、委ねる、あるいは要求する傾向もあるようにも。
そうした個人と政府に関する基本理念の前提があっての「悲しいことながらも、新型ウイルス感染症によりさらに死者が出ることを受け入れなければいけない」・・・日本の首相がこれを言ったら、責任放棄との猛批判を浴びて退陣でしょうか。
私は個人的には納得できる考えです。
生きていくうえでは、災いはコロナだけではありません。コロナだけにひきずられていては、他の面倒・災いが襲ってきます。コロナのリスクを判断して「まあ、このくらいなら仕方あるまい。」という判断があっていいと考えます。
もちろん、その判断の前提となるのは、“1回目接種を済ませた人の割合は約86%、2回目接種を終えた人は63%”という、日本(1回目接種を済ませた人の割合は約25%、2回目接種を終えた人は14%に比べたら圧倒的なワクチン接種の進捗です。
“自然感染やワクチン接種による抗体保有者は35歳以上で92.7%に達している”【7月6日 Newsweek】
そして、その結果としての、新規感染者が増加しても入院患者や死者の急増には至っていない現実です。
“イングランド公衆衛生庁によると、米ファイザー製ワクチンを2回接種すれば入院や重症化を防ぐ有効性は96%、英アストラゼネカ製ワクチンの入院・重症化防止の有効性も92%だ。”【同上】
【なぜ今なのか?】
もちろん、こうした判断への批判が科学者などから出ているのは上記記事にもあるところですが、そうした批判があるにもかかわらず、いつかは今の「異常事態」を終わらせなければならないにしても、なぜジョソン首相は「今」その決定に踏み切ったのか?
“ジョンソン首相は「このパンデミックは終わりには程遠い。警戒を怠るわけにはいかない。ワクチンが効かない新たな変異株が出てきた時は社会を守るためにいかなる手段であっても講じる必要がある。しかし、寒くなる秋に正常化するのを想像することは困難だ」と学校が休みになる夏に正常化する理由を述べた。”【同上】
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英イーストアングリア大学ノリッジ医学部のポール・ハンター教授は「コロナが消えてなくなることは決してない。それほど遠くない将来、コロナは毎年大人より子供がひく一般的な風邪になるだろう。コロナに繰り返し感染することが避けられない場合、問題はすべての制限を解除するのが安全か否かではなく、いつ解除するのが最も安全かということだ」と指摘する。
「秋まで解除を先延ばしすると、学校が再開されるので感染が増え、秋の3回目接種に先立ってワクチンによる免疫が弱まるとともに季節性呼吸器感染症が増え始めるかもしれない。
コロナに感染する前後にインフルエンザにかかった場合、死亡するリスクは約2倍になる。おそらく今年か来年の冬にインフルエンザが流行り、被害を広げる恐れがある」という。【同上】
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ただ、「今」規制を解除した場合、秋に解除するのに比べて、秋・冬の被害を少なくすることになるのか・・・よくわかりません。
注目すべき点は「秋の3回目接種」がすでにスケジュールに組み込まれているところ。
1回目接種すらままならない状況の日本と異なるところです。
【コロナによる死もインフルエンザと同じように日常の光景になっていくのかも】
****7月19日に正常化するイギリス 1日5万人の感染者も許容範囲内 「コロナとの共生」を模索****
<「パンデミックは終わりには程遠い」と言いつつ「正常化」に踏み切ろうとするジョンソン英首相がよって立つ根拠とバランス感覚>
[ロンドン発]デルタ(インド変異)株が猛威をふるうイギリスで新規感染者数が2万7千人を超える中、ボリス・ジョンソン首相は5日「ワクチン接種が進み、感染と死亡の関係を断ち切ることができた。コロナと共生する新しい方法を見つけなければならない」と19日に正常化する見通しを確認した。しかし、その"コロナ自由記念日"には感染者は1日5万人に達するという。
イギリスの"コロナ自由記念日"は当初、6月21日に設定されていたが、デルタ株の大流行に対してワクチン展開の時間を稼ぐため4週間延期された。12日に最新データを確認した上で最終決定するという。(中略)
科学者の意見は二分
しかし7月19日に法的制限を解除して、個々人の自発的な感染防止策に委ねることを懸念する声もある。科学者の意見も二分している。
英インペリアル・カレッジ・ロンドンのリチャード・テダー教授(医療ウイルス学)は「ワクチンは現在、感染を防ぐのではなく、発症を防ぐために使用されている。行動制限を解除すれば、ワクチンに対してさらに耐性を持ち、より感染力のある変異株を生む非常に現実的なリスクを伴う。感染しても発症率が低いことを強調するのは危険だ」と指摘する。
英リーズ大学医学部のスティーブン・グリフィン准教授は「焦って制限を解除すると、デルタ株による感染者数を劇的に増やし、不必要な害をもたらす恐れがある。感染と重症化の関連性はワクチン接種で弱められているが、なくなっていないことはほぼ確実だ。若者やワクチン未接種者の入院が増え、重症化や長期コロナ感染症がみられるだろう」と警戒する。
マスク着用が法的義務ではなくなったことについて、英ブリストル大学コンピューターサイエンス学部のローレンス・エイチソン講師(機械学習・計算論的神経科学)は「私たちの調査では、全員がマスクを着用した場合、コロナの蔓延は約25%減少する。人々はマスク着用に慣れてきた。通常の活動を再開する一方で、マスクを着用することはリスクを管理するために誰にでもできる簡単なことだ」という。
イギリス医師会(BMA)公衆衛生医学委員会のピーター・イングリッシュ前議長は「デルタ株は空気中を伝わって感染する。集会の規模が大きくなるほどリスクは高くなるが、適切な換気によってリスクを軽減できる。次善の策はマスクだ。店内や公共交通機関などでのマスク着用は邪魔にはならない」と語る。
「インフルエンザと同じように途中で犠牲者が出る」
(中略)
英レスター大学のジュリアン・タン名誉准教授(臨床ウイルス学)は「経済と教育を再開するためには制限を解除する必要がある。しかしデルタ株に感染して入院する人が徐々に増加している。ワクチンや自然感染による免疫が長期コロナ感染症やさまざまな変異株に効くかどうか分からない。感染の拡大により新たな変異株が生まれてくる」と解説する。
「こうした事情を考えると、自発的なマスク着用などある程度の個人的な制限を維持することは感染を遅らせる上で賢明かもしれない。しかし、これらはすべて"ウイルスと一緒に暮らすことを学ぶ"プロセスの一部だ。インフルエンザと同じように残念ながら途中で犠牲者が出るだろう」
英イングランドではインフルエンザによる死亡は2016年度で約1万5千人、17年度には約2万2千人にのぼった。コロナではこれまでに15万2606人が死亡している。因果関係が分からないものがほとんどだが、ワクチン接種後に亡くなった人も1403人に達する。これから2度目の冬に向け、死者はどれぐらい増えるのだろうか。
コロナによる死もインフルエンザと同じように日常の光景になっていくのかもしれない。【7月6日 Newsweek】
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“コロナ自由記念日”というのは、いささか不適切な名称だとは思いますが、そのとき予想される感染者は“1日5万人”・・・イギリスの人口は日本の半分ほどですから、日本に置き換えると“1日10万人”(現在の日本の感染者は1日千数百人レベル)・・・それでも規制を廃止するという判断です。
ウイルスと一緒に暮らす以上はある程度の犠牲者は避けらない。それが一定範囲に収まる見込みがあれば、社会生活を「正常化」させ、その犠牲も受入れていこう・・・という判断です。
最初にも触れたように、今の個人生活が規制された状態は「異常」であり、どこかで終わらせなければならないという考えにたった判断であり、マスク着用や自粛を違和感なく受け入れる日本社会とは異なります。
もっとも、日本でも「緊急事態宣言」とか「まん延防止」とか対策をとっても、人の動きは以前ほど変化しない現実も生じています。
「規制疲れ」「慣れ」とか言っていますが、政府・メディアは口にはしないものの、人々の間で「まあ、こんなものだろう」という「ウイルスとの共存」に関する認識が一定に広まっている結果ではないでしょうか。
【「闘いが終わったわけではない」が「ウイルスからの独立宣言にかつてないほど近づいている」】
事情はアメリカもイギリスと似ています。
独立記念日、ホワイトハウスのパーティーでバイデン大統領は「「ウイルスからの独立宣言にかつてないほど近づいている」「アメリカは戻ってきた」と社会の正常化をアピールしました。
****「アメリカは戻ってきた」専門家から懸念も****
ワクチン接種が進むアメリカは、独立記念日を迎えました。ホワイトハウスにはおよそ1000人が招待され、マスクなしの密集状態でパーティーが開かれました。(中略)
■アメリカ ホワイトハウスの庭でパーティー…批判の声も
(アメリカ 感染者3371万7574人 死者60万5526人 米ジョンズ・ホプキンス大 5日午後5時時点)
世界最多の3300万人以上が感染したアメリカ。
ホワイトハウスの庭では、1000人が招待されたバーベキューパーティーが開かれました。市内では花火も打ち上げられ、市民はお祝いムードに包まれていました。
独立記念日を迎えた4日、バイデン大統領は─。
バイデン大統領
「ウイルスからの独立宣言にかつてないほど近づいている。ただ、ウイルスとの戦いは終わっていない。まだやるべきことが多くある」
「アメリカは戻ってきた」と社会の正常化をアピールしました。
ワクチン接種が進むアメリカでは、CDC(=疾病対策センター)が5月、マスク着用の指針を緩和し、ホワイトハウスでは、およそ1000人がマスクなしの密集状態でパーティーが開かれました。
アメリカの人は―
「こんなに大勢の人と過ごすのは(パンデミック以降)初めてです」
一方で、大統領は、この日までに18歳以上の7割の接種を目標に掲げていましたが、1回の接種を終えたのはおよそ67%に留まっています。
ただ、ある専門家が「ウイルスからの独立を祝うことが、まだ接種していない人へ誤ったメッセージに」と懸念を示すなど、ホワイトハウスのイベント開催には、批判の声も挙がっています。(後略)【7月5日 日テレNEWS24】
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****米バイデン大統領 独立記念日演説 コロナ対策「闘い終わらず」****
アメリカのバイデン大統領は独立記念日の4日、ホワイトハウスで演説し、新型コロナウイルス対策が進み、社会が正常化に近づいていると強調する一方「闘いが終わったわけではない」と述べ、ワクチンの接種を改めて呼びかけました。
バイデン大統領は独立記念日の4日、ホワイトハウスに招待した医療従事者や軍の関係者らおよそ1000人を前に演説しました。
この中で、バイデン大統領は「この国やあなたが1年前にどういう状況だったかを思い出してください。感染拡大がもたらした孤立、痛み、愛する人を亡くすつらさなどの暗闇から、われわれは抜け出しつつある」と述べ、感染対策によって社会が正常化しつつあると成果を強調しました。
そのうえで「新型ウイルスとの闘いが終わったわけではない。強力な変異ウイルスも出てきている。最大の防御はワクチンを接種することだ」と述べ、国民に改めて接種を呼びかけました。
アメリカでは、ワクチンの接種が進んでいることを受けて経済や社会の活動を再開する動きが広がっていて、首都ワシントンの中心部にある広大な緑地帯「ナショナル・モール」ではこの日、大勢の人がマスクを着用せずに集まって独立記念日を祝うなど、日常が少しずつ戻ってきています。
しかし、バイデン大統領が掲げていた、この日までに18歳以上の70%がワクチンを少なくとも1回接種するという目標は実現しておらず、1日当たりのワクチンの接種回数はピーク時のおよそ6分の1とペースの減速が顕著になっていて、感染対策にはまだ多くの課題が残っています。【7月5日 NHK】
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「ウイルスからの独立宣言にかつてないほど近づいている」と「闘いが終わったわけではない」のどちらに重点があるのか・・・・気分としては前者でしょうか。
とにもかくにもワクチン接種を進めないと話にもなりません。(ワクチン接種で十分という訳ではありませんが)
日本も1日120万回ペースにもなり、(致命的に遅すぎたものの)ようやくエンジンがかかったかな・・・と思っていたら、ここにきて職域・大規模接種の抑制・中断という息切れ状態は周知のところ。
やれやれ・・・って感じです。