(検問所で警備に当たるアフガニスタン政府軍の兵士ら=3日、西部ヘラート州【7月5日 時事】)
【タリバンの攻勢にアフガニスタン政府軍壊走 「半年」持つのか?】
米軍撤退が進むアフガニスタンの情勢については、6月27日ブログ“アフガニスタン 米軍撤退で「半年で崩壊」の現実味 今後もカギを握るパキスタン”で取り上げたばかりですが、「半年」ももつだろうか?といった雰囲気にもなっています。
米軍撤退の方は着々と進み、作戦拠点だったバグラム空軍基地もアフガニスタン側に引き渡されています。
****米軍、アフガン撤収9割完了 タリバン攻勢で情勢悪化の恐れ****
米中央軍は6日、米軍のアフガニスタン撤収が9割以上完了したと発表した。米軍の撤退により、アフガン政府は単独で旧支配勢力タリバンとの闘いに臨むことを強いられている。
米中央軍によると、米国は9月の完全撤収期限に先立ち、7基地を正式にアフガン側に引き渡し、C17輸送機ほぼ1000機分の軍備撤収を終えた。
アフガニスタンでは複数の州で戦闘が発生しているが、タリバンは特に北部の地方部で激しい攻勢をかけており、過去2か月で数十の郡を掌握した。
タリバンが急速に勢力を拡大する中、先週には米軍の対タリバン作戦拠点となっていたバグラム空軍基地がアフガン側に引き渡され、米軍の空爆支援が大幅に縮小。国内情勢の悪化につながる恐れが出ている。
5日には、アフガン兵1000人以上が隣国タジキスタンに逃げ込む事態も発生。タジキスタン軍は国境地帯への増派を強いられた。アフガン政府は翌6日、北部に数百人の部隊を派遣。ハムドラ・モヒブ大統領顧問(国家安全保障担当)は記者会見で、タリバンに奪われた地域をすべて奪還すると宣言した。 【7月7日 AFP】
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こうしたなか、タリバンの攻勢が強まっているのは上記記事にもあるところですが、(予想されていたことではありますが)アフガニスタン政府軍の士気に問題がありそうです。
****アフガン兵1000人超が逃走 タリバンとの戦闘避け隣国タジキスタンへ****
タジキスタンの国境警備隊は5日、隣国アフガニスタンの兵士1000人以上が反政府武装勢力タリバンとの衝突を受け、タジキスタンへ逃れてきたと明らかにした。
タジキスタンの国境警備隊はこの日の声明で、アフガン兵が「自分たちの命を守るため」に国境を越えたと発表した。
アフガン兵がタジキスタンへ逃れたのは、この3日間で3度目で、過去2週間では5度目。合わせて1600人近い兵士が越境したことになる。
タジキスタン国家安全保障委員会は、今回逃れてきた集団は武装勢力との戦闘後、5日早朝にやってきたと説明した。
アフガニスタンでは暴力行為が増加しており、タリバンはここ数週間、特に同国北部で大きな成果をあげている。
20年にわたり同国に駐留した米軍や北大西洋条約機構(NATO)軍の撤退が進む中、タリバンの攻撃は勢いを増している。
タジキスタンと国境を接するバダフシャン州とタカール州では、タリバンの急速な前進がみられた。
「タリバンがすべての道路を遮断したため、彼らは国境を越える以外に行き場がなかった」と、アフガニスタンの高官は5日、ロイター通信に語った。
バダフシャン州選出のザビフラ・アティク議員によると、アフガン部隊は様々なルートを使って逃れたという。タジキスタンの国境警備隊は、アフガン兵には避難所や食料が提供されているとしたが、それ以上の詳細はわかっていない。【7月6日 BBC】
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タリバンと戦うと言うより、タリバンの攻勢の前に逃げまどっているというようにも見えます。
****米軍の撤退と共に壊走するアフガン軍部隊 支配地域広げるタリバン****
<米軍の撤退に伴い、イスラム原理主義勢力タリバンが勢力伸張。アメリカ史上最長20年間の戦争は何だったのか>
アフガ二スタン治安維持部隊の隊員1000人以上が7月4日、国境を越えてタジキスタンへの撤退を余儀なくされたと報じられた。アフガニスタン北部で勢力を拡大しているタリバンの武装集団に圧倒されたかたちだ。
こうした緊張の激化は、アメリカ軍がアフガニスタンからの撤退を進める中で起きたものだ。アメリカはこれまで、2001年9月11日に起きた同時多発テロ以降、20年近くにわたって同国で戦闘を行ってきた。
「タリバンがすべての道路を封鎖したため、これらの隊員は、国境を越える以外に行き場をなくしていた」と7月5日、アフガニスタン政府のある高官はロイター通信に対して語った。
アメリカ軍は7月2日、同軍にとってアフガニスタン最大の航空拠点だったバグラム空軍基地からの撤退を完了した。これは、すべての外国部隊の撤収完了に向けた動きの1つだ。
北大西洋条約機構(NATO)もすでに部隊の引き上げを始めており、アメリカがアフガニスタンから完全撤退する前に、撤収プロセスを完了する見込みだ。
ただしアメリカ軍は、今後も約650人の兵士がアフガニスタンにとどまり、首都カブールにあるアメリカ大使館の警護や、カブール国際空港の警備支援などの任務を担う。
24時間で9地区がタリバンに奪われる
アフガニスタンの地元メディア、TOLOニュースは7月4日、同国の9つの地区がわずか24時間のうちにタリバンの手に落ちたと報じた。
アフガニスタン軍特殊作戦部隊の司令官を務めるヒバトゥラ・アリザイ少将はTOLOの取材に対し、「これまでの24時間に我々は、ラグマーン州、カーピーサ州ニジラブ郡、パルヴァーン州シーンワーリー郡、ガズニー州で作戦を遂行し、敵勢力に人的被害を与えた」と語った。
最近になって武力衝突が相次ぎ、後退を余儀なくされている状況においても、ロイターの報道によれば、アフガニスタンのアシュラフ・ガニ大統領は、自国の治安部隊が紛争に対処する能力を十分に備えているとの主張を変えていない。
アメリカのジョー・バイデン大統領は、2001年に発生したアメリカ同時多発テロから20年にあたる9月11日までに、アフガニスタンからアメリカ軍を撤退させるという目標を掲げている。
バイデンは6月25日、「我が国の軍隊は撤退するものの、アフガニスタンへの支援が終わるわけではない」と発言した。ホワイトハウスで行われた、ガニ大統領との会談を前にした談話だ。
アメリカ史上最長の戦いとなっているアフガニスタンでの戦闘に関して、バイデンはかねてから撤退を主張してきた。この戦闘は、アメリカ同時多発テロの黒幕とされたウサマ・ビンラディンをはじめとする国際テロ組織アルカイダの主要メンバーの行方を追う中で始まったものだ。
バイデンの前任であるドナルド・トランプ前大統領は2020年の時点で、2021年5月1日までにアメリカ軍を完全撤退させることでタリバンと合意していた。だが、バイデン政権はこの合意よりも撤退が長引くことを示唆し、9月11日をめどに撤退を完了する方針を明らかにした。しかし結局、アメリカはこの期限を待つことなく、撤退を完了させるとみられる。
アフガニスタンに駐留するアメリカ軍の司令官であるオースティン・スコット・ミラー陸軍大将は、アフガニスタン軍への指揮権移譲を見届けるため、今後も同国にとどまる予定だ。
国防総省のジョン・F・カービー報道官は7月2日、記者団に対し、「我々のアフガニスタンにおける任務は続く」と述べた。「我々は、8月末までにアフガニスタンから撤退するとした大統領の指揮に従って、安全かつ秩序だった撤退を実施し続ける」
タリバンは、トランプ政権との交渉の一環としてアメリカ軍への攻撃を中止した。だがその間も、新たな地域に勢力を拡大し、アフガニスタンの政府および治安維持関連施設への攻撃は続けていた。
TOLOの報道によると、7月3日には、タリバンの兵士20人からなる武装勢力が、国境警備隊の詰所を攻撃したという。これは、アメリカ軍がバグラム空軍基地からの撤退を完了した翌日のことだ。【7月6日 Newsweek】
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政府軍が国境を超えて逃げてしまったことで、国境管理、関税徴収はタリバンの手に渡り、タリバンのあらたな財源ともなっています。
****タリバンに新たな収入源 米軍撤退のアフガンで税関制圧****
アフガニスタンで反政府武装勢力タリバンが新たな収入源を確保した。タジキスタン国境の税関施設を制圧し、徴収し始めた関税だ。
タリバンが6月22日、米国が建設したシェールカーンバンダルの検問所を制圧し、国境警備隊をはじめとするアフガニスタン政府軍の134人がタジキスタンに逃亡。以来、タリバンは別の検問所を含むタジキスタン国境の大半を支配し、今月3、4日だけでも1000人近いアフガニスタン兵がタジキスタンへ逃れた。
現地の貿易商などによると、シェールカーンバンダルの検問所はタリバンとタジキスタンの紳士協定のもとで業務を続けている。
インタビューに応じたタリバンのスハイル・シャヒーン報道官は「(タジキスタン、ウズベキスタン両政府に)国境、税関の通常の手続きはこれまで通り行うと通知した」と語った。「税関職員もそのままで、従来通りの仕事をするよう求めている。証印(スタンプ)も変えていない。ビジネスマン、貿易商、一般人の問題になることは避けたいからだ」という。
米軍が完全撤退に向けて動き、士気の低下したアフガニスタン政府軍の兵士が逃亡・投降する中、タリバンは最近、アフガニスタン全域の3分の1余りを支配下に収めた。その多くは戦闘なしで制圧している。
米情報機関の見立てでは、同国政府は米軍撤退後、早ければ半年で崩壊する可能性がある。こうした事態への懸念から、隣国の一部はタリバンに接触している。
シェールカーンバンダルの貿易商組合の責任者を務めるサイド・ムジタバ・ハシェミ氏によると、タジキスタンの国境担当官らとタリバンは、国境管理のあり方について協議を行った。同氏によれば、タリバンは現在、1日当たり100万アフガニ(約140万円)程度の関税収入を得ているとみられる。【7月6日 WSJ】
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“ビジネスマン、貿易商、一般人の問題になることは避けたい”・・・・タリバンもかつての原理主義一辺倒ではなく、それなりに現実的に変容していることも感じられます。
“その多くは戦闘なしで制圧している”というところが一番の問題で、政府軍には自力で戦う士気がないようです。
タリバンはこうした浮足立つ政府軍に攻勢を強めています。これまでは攻撃を控えていた州都への攻撃も始まっています。先日のすべてを飲み込む「土石流」のような勢いにもなるのかも。
****タリバン、西部バドギス州都に攻撃開始 アフガニスタン*****
米軍の9割以上が撤収したアフガニスタンで7日、旧支配勢力タリバンが、西部バドギス州の州都を攻撃した。タリバンが、アフガン軍に対する本格的な攻撃を開始して以降、州都を攻撃するのはこれが初めて。
バドギスの州都カライノウで激しい戦闘が発生。タリバンは、警察本部と国家保安局の建物を占拠した。
米軍と北大西洋条約機構がアフガン駐留部隊の撤収を始めると、タリバンは攻撃を開始。すでに地方の多数の地区を掌握しており、アフガン政府が危機的状況に陥っているのではないかとの懸念が広がっている。
バドギス州知事はテキストメッセージでメディアに対し、「敵がカライノウに侵入し、全地区が陥落した。市内で戦闘が始まった」と伝えた。
バドギス州議会議員の一人は、「議員らは市内の陸軍基地に逃げた。戦闘は続いている」と述べた。 【7月7日 AFP】********************
かつてソ連が支えた政権はソ連撤退後も3年間は持ちましたが、現在のアフガニスタン政府は米軍撤退直後には半年を待たず崩壊するのでは・・・・あるいは、米軍撤退が完了する頃には、実質的に機能しなくなっているのでは・・・とすら危惧されます。
【急がれる米軍撤退後の処理・態勢づくり】
そうなると、以前も取り上げたように、タリバンの報復が予想される米軍「協力者」の退避が急務となります。
****アフガン人協力者の一時受け入れ、中央アジア諸国に要請 米****
バイデン米政権がアフガニスタン軍事作戦で米軍や米外交官らに協力したアフガン人通訳などの一部を暫定的に受け入れるよう中央アジア諸国に求めていることが4日までにわかった。
米政府当局者などが明らかにした。これらアフガン人が米国の特別移民ビザ(入国査証)を得るまでの措置となっている。
米国が交渉しているのはタジキスタン、カザフスタンとウズベキスタン。この特別移民ビザの発給を待っているアフガン人は約1万8000人とされる。全員を1カ国に集中して退避させず、多くの国に一時的に分散させるのがバイデン政権の計画となっている。
関係筋によると、1万8000人のうち同ビザの審査が最終段階にある約9000人をアフガンから脱出させるのが緊急課題となっている。退避させるアフガン人は家族との合流も踏まえ最終的に5万人以上に達する可能性もある。
バイデン大統領は今年9月11日までのアフガン駐留米軍の完全撤収を宣言。撤退作業が迅速にはかどり事実上完了したとされるなかで、アフガン人通訳らの安全確保策が十分に検討されていたのかへの懸念も生じている。
アフガンでは現在、軍事攻勢を強める反政府武装勢力タリバーンが支配地を広げて治安が悪化。米軍などと共に働いたアフガン人が報復の対象になりかねないとの危惧が生じている。
バイデン大統領は先々週、アフガン人の協力者数千人は置きざりにしないと主張していた。
ウズベキスタン、タジキスタン両国の外相は先週、ワシントンを訪れ、ブリンケン米国務長官やオースティン米国防長官と会談した。アフガン人問題などを話し合ったとされる。【7月4日 CNN】
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「協力者」の一時退避だけでなく、アメリカはアフガニスタン国内で失う活動拠点を中央アジア諸国に求めようともしていますが、この地域を「裏庭」とするロシアは警戒しています。
****米、見えないアフガン撤収後 治安に「重大懸念」****
バイデン米政権によるアフガニスタン駐留米軍の撤収が完了に近づく中、米軍撤収後のアフガン国内の治安維持に米国がどう関与していくかが重大懸案として浮上してきた。
米政権は、アフガンが再び米本土への攻撃を企てるテロリストの温床と化すのを食い止めることを至上課題に掲げるが、具体的な方策は打ち出されていない状況だ。(中略)
バイデン政権の対応をめぐっては、野党の共和党から、「米国最長の戦争」を終わらせるという政治的思惑が優先され、「計画と準備を欠いている」(マッコール下院議員)との批判も強い。
アフガン国内に存在する国際テロ組織アルカーイダやイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)系の武装勢力による対米攻撃の阻止に向け、どのように情報収集や対テロ作戦を実施していくのか、現時点で米政権の方針は定まっていないとされる。
特にアフガン国内を拠点に情報収集や無人攻撃機によるテロ組織幹部の殺害作戦を展開してきた中央情報局(CIA)は活動拠点を喪失することになる。
オースティン国防長官は最近、アフガンと国境を接するウズベキスタンとタジキスタンの外相と相次ぎ会談し、アフガン情勢の安定に向けた協力を要請した。両国は米軍のアフガン進攻に際して基地を提供した経緯があり、バイデン政権としては両国をアフガンの治安対策の拠点とする構想を描いているもようだ。(中略)
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米軍のアフガニスタン撤収をめぐり、アフガンと隣接する中央アジアを「裏庭」とみなすロシアは、米国がこの地域に軍事拠点を獲得し、影響力を強めることを警戒している。
米軍の撤収開始を控えた4月下旬、ショイグ露国防相はタジキスタンとウズベキスタンを相次ぎ訪問。5月にはプーチン露大統領がタジクのラフモン大統領と会談した。露メディアは、米軍基地が中央アジアに出現するのを阻止すべく露政権が各国に働きかけているとの見方を示した。
米国が「テロとの戦い」に乗り出した2000年代初頭、ロシアはウズベクやキルギスなどの空軍基地を米軍が使用することを容認した。イスラム過激派がアフガンから中央アジアに流入するのを防ぎたかったことに加え、当時のプーチン露政権が国際協調路線をとっていた事情があった。
その後はしかし、米露関係が悪化の一途をたどり、ロシアは米国によって「勢力圏」が侵食されることを強く警戒している。プーチン政権は、アフガンの治安悪化に備える名目で中央アジアへの軍事的関与を強める思惑で、タジク駐留ロシア軍を増強することも視野に入れている。【7月6日 産経】
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「計画と準備を欠いている」というのもそうなんでしょうが、動き出した事態は想定を超えたスピードで一気に変化するという面もあります。
サイゴン陥落時の混乱の再現となりそうな気配も。