(【有限会社キムズ】逃げまどう政府軍兵士を励ますために銃を持って最前線にやってきたアフガン女性、「戦う準備はできている」・・・ということです。詳細は知りませんが、面白い画像だったので)
【国土の85%が支配下と豪語】
アフガニスタン情勢については一昨日の7月7日ブログ“アフガニスタン 加速度的に進みそうな政府軍崩壊・タリバン支配”で取り上げたばかりで、また今日取り上げるのはいかがなものかとは自分でも思うのですが、動きが急なことと、タリバンに関する非常に興味深い記事があったので。
最初に現地の情勢から。
7月7日ブログでも書いたように、政府軍壊走・タリバン支配への流れが加速しています。
タリバンがタジキスタンとの国境にある主要検問所シルハンバンダルを奪取し、政府軍は逃げまどうようにタジキスタンに敗走した件は7日ブログのとおりですが、イランとの国境でも。
****タリバン、イラン国境最大検問所を奪取か アフガニスタン****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンは9日、イランとの国境にあるアフガン最大の検問所を奪取したと発表した。また、ロシアは、タリバンがアフガンとタジキスタンとの国境の約3分の2を支配下に置いたと明らかにした。
タリバンのザビフラ・ムジャヒド報道官はAFPに対し、「イスラムカラの検問所はいまや、われわれの完全な支配下にある。きょう中の運用再開を目指している」と述べた。
アフガン政府は現時点で、タリバンによる同検問所の奪取を確認していない。また、AFPもタリバンの発表について、独自に確認できていない。
イスラムカラは、アフガニスタンの主要通関所の一つで、イランとの正式な交易の大半がここを通過する。
米主導の連合軍が撤収する中、タリバンは5月上旬から全国で攻撃を開始している。タリバンが奪取した主要な国境検問所は今回で二つ目となる。
一方、ロシアは9日、タリバンがアフガンとタジキスタンとの国境の約3分の2を支配下に置いたと明らかにした。
ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、「アフガンとタジキスタンの国境で緊張が急激に高まっていると理解している。タリバンは、国境地帯の大部分を迅速に占領し、現在この地域の約3分の2を支配下に置いている」と述べ、全ての側に「自制」を求めると付け加えた。
タリバンは先月、アフガン軍との激しい戦闘の末、タジキスタンとの国境にある主要検問所シルハンバンダルを奪取。多数のアフガン兵がタジキスタンに逃げた。 【7月9日 AFP】
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国境検問所を制圧した後、従来どおり国境の往来を許可して運用再開させていることは、タリバンが関税収入を確保するということに加えて、タリバンの現実的対応をうかがわせています。旧タリバン政権の時代だったら、即座に国境を閉鎖して交易は認めなかったでしょう。
そのタリバン、国土の85%を支配下においていると主張しています。
****タリバン幹部、アフガンの85%が支配下と主張****
モスクワを訪問中のアフガニスタンの反政府武装組織タリバンの幹部は9日、アフガニスタンの85%を支配下に置いたと表明した。
駐留米軍の撤退が進む中、タリバンが攻勢を強め、治安関係者や市民が隣国イランやタジキスタンに流入している。
タリバン幹部は記者会見で「イスラム国(IS)がアフガンで活動しないよう、あらゆる措置を講じる。アフガンの85%がわれわれの支配下にあることを国際社会は最近、知っただろう」と述べた。
ロシアメディアによると、会見でタリバン幹部は、アフガン政府と停戦に向けた協議を行っていると明らかにし、カタールの首都ドーハで行われているタリバン幹部とアフガン政府の特使による和平協議がまとまれば攻撃を停止する考えを示した。【7月9日 ロイター】
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もちろん「85%」という数字はあくまでもタリバン側主張にすぎず、大体3分の1を支配しているという見方が多いようですが、今の勢いなら遅かれ早かれ、そういう状況に近づくでしょう。
“今年5月以降、アフガニスタンの370郡のうち50郡が反政府武装勢力タリバーンの支配下に入ったことがわかった。デボラ・ライオンズ国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)事務総長特別代表が22日、国連安全保障理事会で報告した。”【6月23日 CNN】
“アフガニスタンの治安悪化が鮮明になってきた。反政府武装勢力タリバンが米軍撤収で攻勢を強めているからだ。タリバンの支配地域は政府側の約1.7倍に拡大しており、アフガンでは和平協議が進展するか不透明な情勢にある。
タリバン関係者は日本経済新聞の取材に「過去6週間で支配地域を数十カ所増やした」と明かす。米シンクタンク「民主主義防衛財団」によると、直近のタリバンの支配地域が150弱に対し、政府側は80強にとどまる。【6月26日 日経】”
そして、タリバンが州都後略を開始していることは7日ブログのとおり。
こうしたタリバンが圧倒的に優勢な状況で、政府側との和平協議・停戦がまとまるのか・・・タリバンとして停戦に応じるメリットがどこにあるのか疑問でもあります。
もし停戦協議が成立したとしたら、タリバン側も表に出ない問題を抱えているということでしょうか? あるいは、「焦る必要はない、米軍撤退が完了するのを見届けながらゆっくりとやっていけばいい」という自信でしょうか。
【バイデン大統領「米国は国家建設のためにアフガンに行ったのではない」】
撤退を進めるアメリカ・バイデン大統領は、タリバンがアフガン全土を支配する可能性は「極めて低い」と述べていますが、その根拠は何でしょうか?
****アフガン米軍撤収、バイデン氏「8月末に完了」…タリバン支配の可能性「極めて低い」****
米国のバイデン大統領は8日、ホワイトハウスで演説し、アフガニスタン駐留米軍の撤収について「8月31日をもって完了する」と明言した。現地で攻勢を強める旧支配勢力タリバンがアフガン全土を支配する可能性は「極めて低い」と指摘し、完全撤収方針を堅持する姿勢を強調した。
バイデン氏は「アフガン政府とタリバンが和平に関する取り決めを結ぶ以外に、平和をもたらす方法はない」と述べ、軍事的解決は見込めないとの考えを示した。その上で、現地に米国大使館を残し、アフガン政府治安部隊に対する必要物資の提供などの支援を継続すると改めて表明した。
現地の治安が急速に悪化する中、米軍撤収に異論が出ていることを踏まえ、バイデン氏は「あと1年駐留を続けたところで解決策は得られない。それは過去20年近い経験が物語っている」と主張。「(米同時テロの首謀者)ウサマ・ビンラーディンを殺害し、国際テロ組織アル・カーイダを弱体化させるという目的を随分前に達成した。撤収は正しい判断であり、遅すぎたくらいだ」として、軍事任務を終える意義を訴えた。
一方、通訳などとして米軍に協力してきたアフガン人については「米国に居場所がある。我々はあなた方と共にある」と語り、月内にフライトを手配し、アフガンからの退避を開始すると明らかにした。特別ビザが発給されるまでの間、アフガン国外の第三国などで待機することになるという。【7月9日 読売】
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また、アメリカがアフガニスタン政府を「見捨てた」との批判に対しては、「アメリカは(民主的な)国家建設のためにアフガンに行ったのではない」とも。
アフガニスタン進攻はあくまでもアルカイダなどの国際テロの温床を潰すためというのは、(敗色濃厚になってから)以前からのアメリカの主張ではありますが、やっと芽生えた自由な市民生活、女性の権利といったものを再びイスラム原理主義タリバンに差し出すことでかまわないのか?という疑念は感じます。
****米軍撤収の正当性強調=8月末に終了、未来はアフガン国民に―バイデン大統領****
バイデン米大統領は8日、ホワイトハウスでの記者会見で、アフガニスタンの未来はアフガン国民が決めるべきだと訴え、反政府勢力タリバンが攻勢を強める中で軍事的関与を打ち切ることの正当性を主張した。米国が後ろ盾になってきたアフガンの民主政権を「見捨てた」との批判に反論する狙いがあったとみられる。
バイデン氏は「米国は国家建設のためにアフガンに行ったのではない。アフガン国民だけが国の未来や統治方法を決める権利や責任を持っている」と強調。
一方、米軍撤収後にアフガンが一つの政府の下に統治される可能性は「極めて低い」との見方を示し、タリバンと共存を模索するようアフガン政府に求めた。【7月9日 時事】
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「アフガン国民だけが国の未来や統治方法を決める権利や責任を持っている」・・・まあ、それは間違いないことで、アフガニスタン国民がタリバンを受け入れるということであれば、致し方ないところではあります。
【中国のウイグル族弾圧に目をつぶるタリバンの現実主義】
そこで問題となるのが、タリバンがどういう政治・統治を目指しているのかというところ。
前述の国境検問所の扱いなどを見ると、旧タリバン政権時代とは違う現実主義的な面も持ち合わせているのかも・・・という期待も。
そこで、冒頭でも触れた「非常に興味深い記事」ですが、タリバンのそうした現実主義的側面を物語るものとも言える内容です。
勢力を拡大したタリバンは中国国境にも達し、あの新疆ウイグル自治区に接する形に。
欧米が中国の人権侵害・イスラム弾圧を責めたてているウイグル族の問題。一方で、多くのイスラム国家は沈黙しているという現実も。
イスラム原理主義を掲げるタリバンにとって到底許容できないイスラム弾圧のはずですが、まずはアフガニスタン内部の実権確保のため中国刺激は避ける模様とか。
****中国国境に達したタリバン、内政干渉は回避か****
アフガンの反政府勢力、新疆自治区のウイグル人に共感も当面は近隣の大国刺激せず
今夏の攻勢でアフガニスタンの3分の1の地域を支配下に収めた反政府武装勢力タリバンは今週、同国北東部のバダフシャーン州を一気に制圧し、山岳地帯にある中国・新疆ウイグル自治区との境界線に達した。
過激派組織アルカイダの影響下にあった新疆のウイグル系武装グループとタリバンの歴史的関係を考えると、タリバンが国境地帯に進出した事実は、以前なら中国政府を警戒させていただろう。
しかしタリバンは現在、自分たちのアフガン支配を何とか中国に黙認してもらいたいとの意図から、節を屈して中国の懸念を和らげようとしている。
北京の清華大学・国家戦略研究所で研究部長を務めるチエン・フェン(Qian Feng)氏は、「タリバンは中国に友好の意思を示そうとしている。特に米軍のアフガン撤退後、中国が以前より重要な役割を果たすことを彼らは期待している」と語った。
米軍のアフガン撤退がほぼ完了したため、この地域で中国の影響力は強まりつつある。中国がタリバンの主要な支援者・パキスタンと戦略的関係にあることが、その一助になっている。
中国はまた、アフガンと国境を接する中央アジアの国々でも、影響力を拡大している。こうしたイスラムの国々はすべて、仲間であるべき新疆のイスラム教徒が集団で拘束されていることや、その他の中国の人権侵害行為について、以前から批判を避けてきた。この問題に対する中国の敏感さを意識してのことだ。
タリバンはこうした問題について、他の国々ほど発言に消極的ではないが、イスラムの大義を世界に示すという信念と、アフガンにタリバン政権が誕生しても中国の安定を脅かさないという安心感を中国に与えることの間で微妙なバランスを取っている。米情報当局の最近の分析では、早ければ米軍撤退の6カ月後には、アフガンの反政府勢力が現政権を倒すと予想されている。
カタールのドーハで活動するタリバンのある幹部は「われわれはイスラム教徒に対する迫害を懸念している。その場所がパレスチナでも、ミャンマーでも、中国でも同じだ。そして世界各地で起きている非イスラム教徒に対する迫害についても懸念している。だが、中国の内政には干渉しない」と語った。ドーハには、タリバンの政治活動拠点がある。
これとは別の幹部で、タリバンの広報官を務めるスハイル・シャヒーン氏は、タリバンが2020年2月にドーハで米政府と結んだ和平合意の中で、アフガンの領土を他国に利用させず、移民に関する国際法の枠組みから外れた形では難民や亡命者を一切受け入れないと約束した点を強調した。
シャヒーン氏は、「われわれは、個人か団体かを問わず、いかなる者に対しても、アフガンの土地を使って米国とその同盟国、および、その他の国と戦うのを容認しないつもりだ。そこには中国も含まれる」と述べた。
同氏によると、タリバンは、新疆のウイグル人の窮状を気にはしているものの、中国政府との政治的対話を通じて仲間のイスラム教徒の支援を目指す意向だ。「われわれは詳細を知らない。しかし、詳細が分かれば、懸念を示すことになる。イスラム教徒にとって何らかの問題があるならば、もちろん、われわれは中国政府と協議する」と同氏は語った。
タリバンが政権を奪還した場合、欧米諸国に加わって、国連で新疆での人権侵害を非難するかを尋ねたところ、シャヒーン氏は回答をためらった。同氏は、いかなる判断も、その時の現地の実情に基づいて下されるべきだと述べた。
ウイグルの武装勢力、とりわけ、東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)とその後継組織のトルキスタン・イスラム党(TIP)とタリバンとの関係は、国際テロ組織「アルカイダ」の指導者、オサマ・ビンラディン容疑者がアフガンで2001年米同時多発テロの計画を練っていた頃にさかのぼる。
ウイグル人武装勢力の多くは近年、シリアに移動しているが、国連安全保障理事会が昨年出した報告書によると、ETIMのメンバーおよそ500人がアフガンに残っており、その大半はバダフシャーン州のレギスタンとワルデュにいると推測されている。トランプ政権は昨年、ETIMのテロ組織指定を解除し、中国政府の怒りを買った。
中国はTIPのような過激組織の存在を利用して新疆の締め付けを正当化してきた。職業訓練キャンプと称して100万人以上のイスラム教徒を収容したこともその一つだ。新疆では2017年以降、目立ったテロ事件は報告されていない。
バダフシャーン州内の州都以外の地域は、現在全てタリバンの支配下にあり、ここ数日間で1000人を超える政府軍の兵士が国境を越えてタジキスタンに逃亡している。
今週タリバンに制圧されたバダフシャーン州北東部のワハン地区は、60マイル(約96キロ)にわたって中国と国境を接している。大半は通行が不能な高地で、国境をまたぐ道路はない。しかし、タジキスタンとの国境は警備が緩く、突破しやすいため、新疆への通り道を提供する形になっている。これが近年、中国がタジキスタンに部隊を配備している理由の一つだ。
中国政府はアフガンのアシュラフ・ガニ政権への支持を公言しているが、長年アフガンからの米軍撤退を求め、タリバンの代表団を繰り返し中国に招いている。2019年には、タリバン政治部門のトップを務めるアブドゥル・ガニ・バラダル氏の訪問を受け入れた。今年に入ってからは、中国はアフガン政府とタリバンの和平交渉の開催を提案している。
中国国家安全部傘下のシンクタンク、「中国現代国際関係研究院(CICIR)」の安全保障・軍縮担当研究員、リー・ウェイ(Li Wei)氏は「タリバンは再び実権を握ることが可能だと考えており、近隣諸国とより友好的な関係を築きたいと考えている」と指摘するとともに、「彼らはまた、アフガンが再び国際テロの温床になるのを望んでいない」と述べた。
こうした楽観的な見方にだれもが同意しているわけではない。シンガポールの南洋理工大学で国際テロリズム問題を研究するロハン・グナラトナ(Rohan Gunaratna)氏は、とりわけシリアにいるウイグル人の過激派メンバーの多くが現在、アフガンへの帰還を目指していることもあり、タリバンがこれらウイグル武装勢力への支援を再開すると予想している。
グナラトナ氏は「彼らにとってタリバンは主要な受け入れ先だった。彼らは極めて緊密な関係にあった」とし、「タリバンの思想は以前と大きくは変わっていない。米軍の撤退で、彼らはまた元に戻るだろう。アフガンは再び、そうした全ての海外のテロリストたちがかなりの規模のプレゼンスを確保する『テロリストのディズニーランド』と化すことになろう」と指摘した。
アフガン政府は長い間、こうした懸念をあおってきた。そして米軍の大半が撤退した現在、中国に接近してアフガンの鉱山部門が持つ投資機会や、潜在的魅力を持つ輸送ルートを売り込んでいる。
中国はアフガンの天然資源に一部投資を行ってきたが、戦闘状態が続いていることから、経済面で大規模に関与することは当面ありそうにない。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まる数カ月前の2019年9月、中国、アフガン、パキスタンの外相はパキスタンのペシャワルとアフガンのカブールを結ぶ幹線道路によって「中国・パキスタン経済回廊」をアフガンまで延長することで基本合意した。同構想は現時点で依然として提案段階にとどまっている。清華大学のチエン氏は、「中国政府はこの構想を急いで進めようとしていない。緊急の必要性は見当たらない」と語った。【7月9日 WSJ】
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タリバンがイスラムの大義に目をつぶり、中国の内政に干渉しようとしないこと・・・その良し悪しは別として、国際関係への配慮みたいな現実的バランス感覚は持っているようです。
以前の旧タリバン政権は、カンダハルの片田舎からオマル師に率いられて出てきて、あれよあれよという間に政権を獲得しました。結果、外国の文化に触れたこともなく、外国に関する知識も全くないまま、イスラム原理主義というよりは、彼らが暮らしていた田舎の部族社会のルールによる全国統治を行うことにも。
そうした時代から年月が流れ、タリバンも一定に国際社会における「常識」「駆け引き」みたいなものを身に着けるようにもなっているようです。
そうしたことが、新たなタリバン支配で、市民の自由とか女性の権利において、どのように展開されるのか・・・誰ままだわかりません。
何度も言うように良し悪しは別として、中国のウイグル弾圧に目をつぶる現実主義的政治感覚があるなら、市民の自由や女性の権利について、国際社会としても交渉の余地がある・・・・かも。