孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  教育産業規制、宿題なども規制 生徒と家計の負担軽減で出生数増加を IT大手の影響力排除も

2021-07-26 23:00:38 | 中国
(【7月25日 日テレNEWS24】)

【競争社会のストレスを忌避する「タンピン族」】
14億人による熾烈な競争社会・中国では、少しでも競争を優位に・・・ということで、子供の教育熱が過剰なまでに高く、そのことが子供にはストレスとなり、一部には競争を忌避する若者層の出現を促しています

また、親の教育費負担を増加させることで二人目・三人目の子供を敬遠する風潮が強まり、従来の「一人っ子政策」から脱却し、出生数増加政策に転じた中国政府の足を引っ張ることにもなっています。

競争を忌避する若者の増加は、結婚・出産意欲の低下となって、出生数増加政策のブレーキにもなります。

****急速に「日本化」する中国の若者 「タンピン(だらっと寝そべる)」が流行語になる背景****
中国政府は今年5月31日、1組の夫婦に3人目の出産を認める方針を示した。
中国政府は30年以上続けてきた「一人っ子政策」を2016年に廃止したが、出生数はその後、2016年の約1800万人から2020年には約1200万人に減少した。
 
今回の政策転換が、いつ、どのように施行されるのzかは明らかではないが、3人の子どもを認める政策が有効に機能するのは(1)補助金を受けている貧しい家庭か(2)多くの子どもに必要な教育を与えられることができる富裕層に限られることから、出生数を増加させる効果は期待できないだろう。
 
多くの夫婦は3人目どころか、2人目も望んでいないのが現状である。
2016年に失敗した政策(出生数の制限措置の緩和)を懲りずに実施しようとしている政府の姿勢は、国民の間に「政府は出生数の低下の真の理由がわかっていない」との不信感を広げるだけだと言っても過言ではない。
 
出生数低下の要因は、教育をはじめとする生活関連コストの高騰に尽きる。
中国メディアの試算によれば、1人の子どもが大学卒業までにかかるコストは北京市や上海市では4000万円以上になるという。
 
出生数を増加させるためには、子どもを1人以下しか持たない夫婦に対する巨額の財政支援が不可欠となるが、中国政府にはその覚悟があるとは思えない。
 
都市部を中心に物価が高騰したことで「稼ぎ」の大半が日常の支出と住宅ローン返済でなくなってしまう夫婦にとって、子どもをつくることは贅沢以外の何ものでもない。
 
国民の生活の隅々まで管理しようとする中国政府でも、統制だけで子どもを増やすことはできない。むしろ統制が過ぎれば、経済自体が窒息してしまう。

政府の失政を尻目に、国民は次第に白けつつある。
これを象徴するのが「タンピン」という最近の流行語である。「タンピン」とは「だらっと寝そべる」という意味である。仕事をしないで寝そべって何も求めない、マンションや車も買わず、結婚もせず、消費もしないというライフスタイルのことである。
 
発端は今年4月、あるネットユーザーが中国のSNSに投稿した「タンピンは正義だ」と題する文章だった。「2年もの間仕事をしなかったが、何の問題もなかった」とする書き手は、最低限の生存レベルを維持し、他人の金儲けの道具や搾取される奴隷になることを拒絶すべきと主張した。その後「寝そべり族」が都市部を中心に多数誕生したという。

「改革開放」以来、経済の右肩上がりが続いてきた中国では、猛烈に働き地位や財産を得て裕福な家庭を築くことが国民の目標となってきたが、不平等感の高まりと生活コストの上昇でこの目標ははるか遠く手の届かないものになってしまった。

就職難や物価の高騰、当局による情報統制などにより閉塞感が漂っており、「90後(90年代生まれ)」「00後(2000年代生まれ)」と呼ばれる世代を中心にアグレッシブな親たちが望む出世や結婚などに関心を持たない人々が急増している。「タンピン」はそうした若者たちの心を見事に捉えたのだと言えよう。
 
中国政府は「今年第1四半期に人手不足が深刻な業種が100を超え、そのうち7割近くが製造業であり、技能労働者の不足が顕著になっている」ことを明らかにした。若者の「3K労働」離れが進んでいる。(中略)
 
中国の若者の急激な変貌ぶりを見て、筆者は「既視感(デジャブ−)」を感じずにはいられない。現在の中国の若者が30年前の日本の若者とそっくりだからである。

『若者・アパシーの時代―急増する無気力とその背景』(稲村博著/NHKブックス)という本がバブル経済真っ盛りの1989年に出版されている。アパシーとはドイツ語で「外界からの刺激に無感覚になること」を意味する概念であり、1960年代の米国で生まれた。

著者である稲村博氏は「近年極端に無気力な状態を続ける若者が急増している。病気でもないのに仕事にも就かず長期間何もしない若者が目立つようになった」とした上で、「その原因は進学一辺倒の競争社会や若者から夢を奪う管理社会などだ」と指摘している。
 
若者のこのような「堕落」に危機感を抱いた中国政府系メディアは「奮闘すること自体が一つの幸福であり、奮闘する人生こそが幸福な人生だ」とするキャンペーンを展開し始めている。「奮闘」という言葉は、習近平国家主席が発言の際にたびたび使ってきたキーワードである。習近平政権は2012年に誕生以来、「正能量(ポジティブなエネルギー)」を前面に掲げ、市民の社会的責任を極度に要求している。
 
しかしポジティブ性の押し売りを中国の若者はもはや受け止めることができない。「タンピン」というキャッチフレーズのもとで、若者は過剰なポジティブ性と生産性を求める風潮に対して静かな抵抗を示しているのである。
 
若者が仕事もせずお金を持たず消費しない社会になれば、高度な経済発展は望めない。中国も日本と同様に「失われた30年」を経験することになるのではないだろうか。【6月22日 藤和彦氏 デイリー新潮】
***********************

【教育費の負担増、子供への過重な宿題を改善すべく規制強化】
家庭の教育費の高騰については、年間の塾代に平均年収の2倍近い費用をかける家庭も。

****中国が教育費高騰で塾規制 受講料、平均年収の2倍も****
(中略)
少子化対策へ習氏「学校が責任もて」
「児童生徒の勉強は基本的に学校内で教師が責任を負うべきだ」。習近平(シー・ジンピン)国家主席は6月、唐突に教育問題を取り上げた。

背景には少子化対策がある。中国政府は夫婦1組に3人目の出産を認める法改正に着手した。長年の産児制限で1人っ子が圧倒的に多い中国では、親が子どもの教育に巨額のお金を投じる。

一人娘が6月に全国統一大学入試「高考」を受けた北京市の呉さんは「同級生で高校3年生の塾代に年30万元(約510万円)かけた家もある」と明かす。北京市の会社員の平均年収は260万円程度とされ、2倍近い計算だ。

教育費は若い夫婦が出産をためらう大きな原因だ。1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は2020年に1.3まで下がった。

政府は教育費の軽減が出生率の反転に欠かせないとみて、教育行政で「双減(2つの軽減)」を掲げた。高騰する家庭の教育費と宿題など児童の負担の2つを軽くする意味だ。矛先は塾業界に向かった。

中国教育省は6月、「校外教育機関監督局」を新設した。塾への規制をつくり、監督する。週末や長期休暇中の授業時間を制限したり、学費の標準モデルを策定したりするのが検討課題という。

全国に先立って動き出した地域もある。受験競争が激しいことで有名な山東省は6月、省内の学校に夏休み中の対応に関する通知を出した。児童生徒に塾通いを勧めたりしないよう要求した。

シンクタンクの前瞻産業研究院によると、中国の教育産業の市場規模は20年までの5年で4割増えた。新型コロナウイルス禍でもオンライン授業が広がり、需要は底堅かった。

講師の経歴詐称や「秘密特訓」で高額徴収
親の教育熱を逆手に取った塾の不法行為も社会問題になった。独占禁止法などを管轄する国家市場監督管理総局は6月、15社の学習塾に総額3650万元の罰金を支払うよう命じた。講師の経歴詐称や、わざと高い学費を設定して値引きで割安感を演出する行為があった。

教育省も6月、親への注意喚起という形で学習塾をけん制した。「秘密の特訓コース」などと銘打って高額の授業料を追加徴収する例などを挙げた。

もっとも、新型コロナの爪痕で若者の職探しは厳しさを増す。「高考の数点の差が人生を左右する」との考えも根強く、我が子を少しでも良い大学に進学させようと必死になる親は多い。(後略)【7月11日 日経】
***********************

中国政府もこうした事態を憂慮し、「奮闘すること自体が一つの幸福であり、奮闘する人生こそが幸福な人生だ」みたいな精神訓話だけでなく、上記【日経】にもあるように、今年3月ぐらいから教育産業への規制強化で教育熱にブレーキをかける姿勢を打ち出してきました。

****中国、教育産業への規制強化 生徒と家計の負担軽減=関係筋****
中国政府は急成長している個別学習指導産業への規制を強化するための新たな枠組みを検討していることが関係筋の話で明らかになった。生徒・児童の負担を減らすほか、教育費を引き下げ出生率を向上させる狙いがある。

3人の関係筋によると、教育省など関連当局は「K─12」と呼ばれる幼稚園児から高校生を対象とした個別指導を規制する。週末の授業を禁止することなどが柱という。関係筋の一人は早ければ6月末までに公表される可能性があると明らかにした。

中国教育学会の直近の調査によれば、2016年にK─12の75%以上が放課後に学習塾に通っていた。現在はこの割合が上昇しているとみられる。

関係筋は睡眠が足りない児童・生徒を守ることに加えて、出生率が急速に低下する中で夫婦が2人目の子どもを持てる経済的余裕を生み出す狙いがあると説明した。

ある関係者は「生徒の負担を減らすことと、子どもを増やすことに消極的な親の経済的負担を減らすことが急務だ」と語った。

中国当局は既に教育産業への締め付けを強めており、3月に実施した規制では午後9時以降の未成年向けのライブ配信授業を禁止したほか、未就学児向けの学習サービスを禁止した。

関係筋によると、ネットサービス大手、騰訊控股(テンセント・ホールディングス)などが支援するオンライン教育の新興企業、猿補導は10億ドル規模の資金調達を予定していたが、規制強化の動きを受けて計画を保留にした。【5月13日 ロイター】
**********************

こうした流れを受けて、塾などでの個別指導を規制し、更に、学校の宿題など子供の負担を減らす政策に乗り出しています。

****中国、塾や多すぎる宿題を規制 重荷減らして少子化対策****
中国で過酷な受験戦争が子どもや保護者の大きな負担になっている現状を受け、中国共産党と国務院(政府)は学習塾の新規開設や小中学校の過重な宿題の規制に乗り出す。子供の学習をめぐる重圧が少子化の要因になるなか、対策を急ぐ狙いもある。
 
党と国務院が24日に発表した方針は、「子供が宿題と学習塾で背負う過重な負担、家庭の教育費や保護者の負担を1年以内に軽減し、3年以内に成果を明確なものにする」とした。
 
小中学生対象の学習塾(スポーツ・芸術は除く)の新規開設は認めず、既存の塾は非営利団体として登記しなおす。料金なども政府が監督するとした。小中学校が出す宿題も「小学2年生以下はなし、6年生以下は1時間以内、中学生は90分以内で終わる」範囲に収めるよう求めた。
 
「努力しても宿題が終わらない子供はしかるべき時間に寝かせる」「(オンライン学習塾は)午後9時までには授業を終える」などとする方針の内容からは、勉強に追われる子や保護者の厳しい現実も浮かぶ。
 
中国では学歴偏重の流れが止まらず、受験戦争は厳しさを増す一方だ。都市部では小学校の時から学習塾に子を通わせ、学校と塾の勉強について行けるよう自宅で面倒を見る親も多い。
 
教育をめぐる重圧は、高騰する住宅価格と並んで若い世代の負担になっている。北京のコンサルタント会社で働く30代の男性は「職場の先輩から苦労話をいやというほど聞くので、若い世代は子を持つことに後ろ向きになる」と話す。今回の規制には政府の想定を超える勢いで進む少子高齢化をくいとめる狙いも透ける。【7月26日 朝日】
********************

【IT大手企業の過度の影響力排除の一環の側面も】
今回規制を別の側面からみると、経済全体で進む、中国当局によるIT大手企業の過度の影響力排除の一環ともとれます。

****中国、「資本に乗っ取られた」教育産業見直し-モデル転換不可避****
(中略)
今回の規制は滴滴グローバルやアリババグループなど中国インターネット企業の強まる影響力を抑え込む政府の取り組みの広がりを反映している。

学外の過剰な学習は子供にとっては苦痛で、高額な授業料で親の負担も重く、社会の格差を助長するとして同業界への風当たりは増していた。

教育省はウェブサイトに掲載された別の声明で、学外の教育産業は「資本にひどく乗っ取られて」きたとし、「それが福祉としての教育の本質を破壊した」と主張した。

学習塾は意欲的な子供の成功につながる確かな方法としてかつて考えられていたが、今では習近平国家主席の最優先課題の1つである少子化対策にとって障害と見なされるようになっている。

ここ数年、中国の教育産業は同国内で最も魅力的な投資銘柄の1つとして挙がっていた。アリババやテンセント・ホールディングス(騰訊)、北京字節跳動科技(バイトダンス)など本土企業のほか、タイガー・グローバル・マネジメントやテマセク・ホールディングス、ソフトバンクグループなど海外勢も同セクターに投資していた。

中国政府による今回の締め付けが最終的にどのような展開をたどるかは不明だが、将来の労働力となる子供の教育で必須の役割をなお担っている同産業を壊滅に追い込むことを目指すことはないと見る向きは多い。
国務院は国有のオンライン教育サービスの質を向上させ、無料化する方針を示した。【7月26日 Bloomberg】
*********************

【学習塾だけでない「習い事」 進学に有利なため】
ちなみに、中国の幼児教育・習い事の過熱は学習塾に限らないようです。

****学校の勉強だけじゃない! 中国の子どもたちを“囲む”習いごと事情****
とにかく成績重視、テストの点数重視の中国。子どもたちが勉強する場は学校だけではありません。学校のあとには「習い事」という別のお勉強も待っているのです。(中略)

スタートダッシュのためにの乳幼児教育
実は中国の「習い事」。学齢以前から始まっています。もっとも特徴的なものは「早期教育中心」、略して「早教中心」と呼ばれるもの。簡単にいえば乳幼児向けの塾です。

早期教育中心にはいろいろなタイプがあります。例えば、子どもの運動能力の成長を助ける授業や音楽などで五感の発達を促進するもの、英語や算数などの将来的な小学校教育に備えたものなど、学校ごとに多様なカリキュラムが備わっています。

もともと中国では「不能輸在起跑線(スタートラインで負けてはいけない)」というスローガンのような言葉があり、子どもにとってのスタートラインである乳幼児期に、秀でた学習能力などを身に付けさせようとするのです。

ちなみに大都市部ではこうした早期教育中心は、住宅エリアに近い大きなショッピングモールの中にあり、そこでは子どもの授業の終わりを待つ親や祖父母の姿が多くみられます。

中国では年々出生率は減少し、子どもが少なくなっているといわれますが、早期教育市場は右肩上がりが続いています。中国の調査会社・iiMedia Researchは、2015年には約1,173億元(約1兆9,886億円)だった早期教育市場の規模は、2021年には約3,276億元(約5兆5,540億円)に達すると予想しています。

いずれにせよ、中国ではまさに生まれて間もないころから習い事が始まっているのです。

まずはピアノ!そこでも始まる「競争」教育
さて、早期教育によってわが子のスタートダッシュを図る中国の親たち。次に考えるのが音楽や絵画などによって文化的教養を身に付けることです。

上海や北京などの大都市には、早期教育の一環として子どもに楽器や絵画教室を開く会社も少なくありません。そのなかで親たちが子どもに勧めるのが「ピアノ」です。

その傾向が始まった時期や背景に関しては、はっきりしたことは不明です。しかし中国の特に大都市の親たちは必ずといってよいほど子どもにピアノを習わせ、多くの家庭でピアノを購入します。(中略)
ただ、そこでも繰り広げられるのは競争です。中国では「ピアノ検定」のようなものがあり、よく「うちの子はようやくピアノ〇級を合格して~」といった言葉が聞かれます。(中略)

親が熱狂する背景にあるのは、ピアノ検定などを持っていると進学(中学、高校)において加点されることがあるともいわれており、音楽によって子どもの心を育てることが主目的ではないことが垣間みえます。

ただ、子どもに過度のプレッシャーがかかることを懸念し、政府は「もう少し穏やかに成長を見守りましょう」という公益CMを流したこともあります。(中略)

大都市での子どもの習い事は多く、ピアノやバイオリン、バレエやスイミングなど複数行うことも少なくありません。(後略)【5月20日 CITIC PRESS Japan】
*************************

なかなか中国の子供も大変です。寝そべり族が出現するのもわかるようにも。
中国政府の対応もわかりますが、14億人による競争社会という基本構図が変わらない以上、子供たちのストレス・親の経済負担が大きく軽減することもないようにも思えます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする