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(【7月13日 ロイター】 12日、ジャカルタ 家族の治療に必要な酸素を求めて列をつくる人々のようです)
【アジアの感染中心地となったインドネシア 医療崩壊の危機】
感染力が強い新型コロナ・デルタ株のまん延で東南アジア各国が感染拡大に見舞われていることは周知のところですが、なかでもインドネシアは深刻で、一時期感染爆発が生じたインドをしのぐ状況ともなっています。
****インドネシア、アジアのコロナ流行中心地に 印より「はるかに深刻」****
新型コロナウイルスが猛威を振るうインドネシアでは14日、1日の新規感染者が5万4000人を超え、過去最多を更新した。感染力の強い変異株「デルタ株」の拡大により、同国はインドを抜いてアジアのコロナ流行中心地となっている。
新型コロナウイルスが猛威を振るうインドネシアでは14日、1日の新規感染者が5万4000人を超え、過去最多を更新した。感染力の強い変異株「デルタ株」の拡大により、同国はインドを抜いてアジアのコロナ流行中心地となっている。
インドネシアでは感染者の急増により病院がひっ迫。自宅で多数の人が亡くなり、患者の家族が治療に必要な酸素ボンベを必死に探し求める状況となっている。
インドネシア保健省の発表によると、過去24時間の新規感染者は過去最多の5万4517人、死者は991人。新規感染者に対する死者の割合は、6月上旬から10倍に増加している。だが検査や接触者追跡の体制が整っていないことから、実際の犠牲者ははるかに多いとみられている。
オーストラリア・グリフィス大学に所属するインドネシア人疫学者のディッキー・ブディマン氏は、「インドネシアはパンデミック(世界的な大流行)の中心地となる可能性があるが、すでにアジアの中心地となっている」と指摘。
人口の差を考えれば、インドネシアの状況は「インドよりもはるかに深刻だ」とした。
1日の新規感染者数は実際には10万人を超えている可能性があり、1日の死者は今月末までに倍増し、2000人に達する恐れもあるという。
最近、コロナ流行の大きな波に見舞われていたインドでは現在、1日の感染者数の平均は約4万4000人、死者数の平均は1028人となっている。だがインドの人口はインドネシアの5倍近くあり、統計サイト「ourworldindata.org」によると人口100万人当たりの新規感染者数はインドネシアが141人なのに対し、インドでは29人にとどまる。 【7月15日 AFP】
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ジョコ大統領・インドネシア政府は厳しいロックダウンは避け、各種対応に加えてワクチン接種を進めようしていますが、事態に追いついていないのが現状です。
****ロックダウンには依然消極的****
タイ政府は7月12日から首都バンコクなどに実質的な「ロックダウン(都市封鎖)」を発令して感染拡大防止策に乗り出した。この「ロックダウン」には午後9時から翌日の午前4時までの外出禁止令が含まれており、思い切った判断といえる。
これに対しインドネシア政府、首都ジャカルタの州政府などは「経済活動への影響が深刻になる」との理由で強い「活動制限」に踏み切れない状態が続き、それが感染拡大を防げない一因になっている、との批判も出ている。
3日に「緊急公衆活動制限(PPKM Darurat)」を施行して、主要な基盤分野の産業を除いてリモートワーク率を100%として、学校教育はすべてオンライン化。宗教施設やショッピングモール、飲食店の閉鎖(飲食店はテイクアウトのみ可)、主要道路への一般車両・バイクの乗り入れ規制、国内移動に際して(インドネシア人対象)ワクチン接種済みの証明書携帯などを義務付けている。
それでも目に見える効果はなく、感染者・死者は減少するには至っていない。
ジョコウィ内閣の閣僚からは「政府のコロナ対策を信用するように」「感染者にはワクチン未接種者が多い」「必要とされる医療用酸素、感染者用病床は確保の見通しが立っている」などの声が出され、ジョコウィ大統領によるワクチン接種現場の視察の様子と共に地元メディアを賑わせている。
しかしそうした中に緊急事態への具体策はあまり見えず、インドネシア人の間からも政府不信の声が出始めているという。【7月13日 大塚智彦氏 Newsweek「医療崩壊寸前のインドネシアに残された在留邦人の不安はピークに」】
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【感染は在留邦人にも 高まる不安 困難な一時帰国】
インドネシアは日本人も多数生活している国ですから、感染は日本人にも及んでいます。
医療崩壊状態のインドネシアから一時帰国しようにも制約されている航空券が入手できず、現地日本人社会からは日本政府の対応を求める切実な声も出ています。
****医療崩壊寸前のインドネシアに残された在留邦人の不安はピークに****
<医療体制のぜい弱さやワクチン接種が見通せず帰国もままならない異国にいる邦人の不安はいかばかりか──>
(中略)
危機感高まる在留日本人から不満の声
インドネシア社会の不十分な感染拡大防止策や中国製ワクチンの有効性、安全性に対する不安、さらに病院がどこも満床に近い状態のため、発熱などによる診察や症状悪化での入院が困難な現状に、在留日本人たちは「一体どうすればいいのか」という切実な問題に直面している。
日本外務省は在外日本人に対して8月1日以降、成田空港などでワクチン接種を進める方針を明らかにしている。
しかしこの方針に対して「インドネシアにいる日本人の実情を無視している」との声が出ている。
何しろ、一時帰国しようにも日本に向かうインドネシア発の航空便が連日満席状態でチケットが確保できない状況が続いているというのだ。航空各社は感染拡大防止策として座席の間隔をあけてチケットを販売しており、これも「帰国便確保困難」に影響しているという。
さらに仕事や家庭の諸事情から一時帰国ができない在留日本人も多数おり、そうしたことを背景に「日本大使館には医官もいるということだし、大使館内で日本から運んだワクチン接種ができないのだろうか」「日本から医師や看護師、自衛隊の医官などを緊急にジャカルタに派遣して在留日本人向けのワクチン接種ができないものか」「インドネシア政府にワクチンを大量に供与しているが、在留日本人のためにワクチンをジャカルタに運ぶことはできないのか」「チャーター便で帰国希望の在留日本人を運ぶことを検討してみてはどうか」などの不満や注文などの声が出ている。
インドネシアではこれまでに在留日本人の感染者は300人を超え、感染死者は7月12日までに14人を確認している。
しかしこの数字には在留届を大使館に提出しておらず、インドネシア人と結婚してイスラム教徒などに改宗して地域社会に溶け込んでいるが日本国籍は有しているというような「定住日本人」の感染者、感染死者の数字は「把握が難しい面がある」(大使館関係者)として含まれていない。
インドネシア政府は当初、出国する外国人に対して「コロナ陰性証明」と同時に「ワクチン接種証明書」の提示を義務付けたが、日本をはじめとする各国大使館の申し入れで即刻この規則は撤回された。
さらに出国する国際空港があるジャカルタなどに他地域から向かう外国人に対しても「ワクチン接種証明」の携帯、提示が求められたが、これも「ワクチン接種を本国で受けるために空港へ向かうのにワクチン接種照明を義務付けることは整合性に欠ける」との声を受けて撤回されている。
こうした思いつきとも思える在留外国人へのインドネシア政府の「朝令暮改」に振り回されているのが日本などの各国大使館という現状があり、日本大使館が在留日本人を対象にして発出している通知にも「インドネシア政府の感染防止対策などは急に変更される可能性がある」と注意する事態が続いている。(中略)
大使館対応に在留日本人の間から動きも
ジャカルタ在住の日本人によると、危機的状況にある現況に何らかの対応策を日本大使館に尋ねたところ「重症者は海外旅行保険に入っていると思われるので、それを使って飛行機で帰国し、日本で治療して下さい」と言われたという。
さらに在留日本人の間では一時帰国、本帰国を含めて「日本への出国を希望しながら、航空券確保が困難な状況にある」という在留日本人の数を調査して、「こうした在留日本人に対してどういう対応が可能なのか」と対応を尋ねようとする動きがでて、現在具体的な希望者調査をしようという機運が盛り上がっているという。
在外公館としてできることに限界があることは在留日本人の間でも理解があるものの、このインドネシアの危機的状況の中で、特別な方法、手段、対応策があるのか、ないのか、そして可能なのか、不可能なのか、大使館側と在留日本人側の双方の苦悩は今日も出口が見えない中で続いている。【7月13日 大塚智彦氏 Newsweek】
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【中国製ワクチンに関する問題 エビデンスに基づいて議論すべき】
上記記事にある出国時の「ワクチン接種証明」については、インドネシアでは中国製ワクチンを使っていることから生じる問題もあるようです。
****出国に中国ワクチン必須を一転 インドネシアが規制緩和****
新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからないインドネシアで9日、政府が外国人に対する出国制限を緩和した。主に中国製のワクチン接種が国際線の搭乗に義務付けられ、在留邦人の中で不安が広がっていた。
日本人の感染者数は増え続け、いまも60人以上が入院を待つ。ワクチン接種などを目的に帰国を急ぐ動きも活発になっている。
インドネシア政府は6日から、出国のため国際線に搭乗する外国人にワクチン接種を義務づけた。6月以降、新型コロナの感染が急拡大。インドで見つかった感染力の強い変異株(デルタ株)の広がりなどで、1日の新規感染者数は約5千人から、7月には約3万人台に増えており、新型コロナ対策の一環だった。
だが、これに困ったのが外国人だ。インドネシアでは接種の中心が中国製のシノバックやシノファーム。日本など承認していない国も多く、1回接種して帰国しても2回目を受けられない。日本では2回目に別のワクチンを打つことも難しく、敬遠する人が多い。
ジャワ島中部のジョクジャカルタのガジャマダ大学院生の藤本迅さん(35)は日本で就職先が決まり、7月下旬の帰国を予定していた。「帰国の道を断たれることがこんなに怖いことだと思わなかった」と振り返る。「副反応のことも考えると、ワクチン接種は命に関わること。接種の強制は、冗談じゃないという気持ちが強かった」と憤る。
これを受け、日本や米国、豪州、シンガポールなどが共同で規制緩和を働きかけた。現在は、外国人が接種なしでも国内の大半の交通手段で移動し、国際線に搭乗することが可能だ。
(中略)東ジャワ州に暮らす30代の日本人駐在員の男性は「中国製ワクチンは効力に不安があり、打つことに抵抗がある。外国人にも接種を強制する政府の姿勢が怖かった」と話す。規制緩和を受け、8月1日に日本政府が始める、在外邦人を対象とした新型コロナワクチンの無料接種を受けたいという。
藤本さんも「日本で認証されたワクチンを接種できるという選択肢を得られたことは、本当にありがたい。日本政府の働きかけに感謝している」と話す。【7月11日 朝日】
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「日本で認証されたワクチンを接種できるという選択肢を得られたことは、本当にありがたい」とは言いつつも、日本へ向けて出国する手立てがないというのが現状であることは前出のとおり。
中国製ワクチンの効果に関しては、インドネシア人の間でも疑問視する見方も多いようです。
****「中国製ワクチン」接種完了者の感染死が続々、膨らむ疑念****
(中略)インドネシアの場合、2020年3月に最初のインドネシア人感染者が確認されて以降、感染防止対策としてワクチン接種を政府主導で進めてきた。
政府が導入したのは中国製ワクチンだった。無償提供などで積極的に「ワクチン外交」を進める中国政府の思惑に便乗する形でもあった。そのワクチンはシノバック・バイオテック社製とシノファーム社製だ。
当然のことながらインドネシア当局が独自に臨床試験を実施し、安全性・有効性を確認した。昨年9月以降に実施されたインドネシア国家食品医薬品監督庁の治験では、シノバック製ワクチンの予防効果は65.3%あるとされ緊急使用が認められた。
これに基づき2021年1月13日にはジョコ・ウィドド大統領が「国際接種第1号」として中国製ワクチンを接種した。(中略)
ワクチン接種完了者にも感染が拡大
(中略)2021年6月17日に、中部ジャワ州クドゥス県で、シノバック社製のワクチンを接種していた医療関係者350人以上が感染し、うち少なくとも数十人が入院して治療中との報道が流れ、インドネシア国内に衝撃を与えた。
この頃から国民の間に「中国製ワクチンの有効性」への疑念の声が広がり始めた。(中略)そもそもインドネシアでは、中国製ワクチンの接種開始直後から、その有効性について疑問の声が上がっていた。
そのため、政府や州政府がワクチン接種を積極的に奨励しているにも関わらず、インドネシア人、そして在留日本人を含む外国人の間には「中国製ワクチンだけは回避したい」という声が多かった。それでも、インドネシア政府は中国製ワクチンの接種を勧めるしかなかった。
この「中国製ワクチンに対する不安」に追い打ちをかけるように、6月22日、米ニューヨークタイムズ紙は「中国製ワクチンに頼った国は感染拡大の危機にある」という趣旨の記事を掲載し、中国製ワクチンに対する警鐘を鳴らした。(中略)
中国製ワクチン臨床試験責任者までも死亡
7月8日、再び大きな衝撃がインドネシアに走った。インドネシアで中国シノバック社製ワクチンの臨床試験を指揮してきた責任者が新型コロナに感染して死亡したというのだ。(中略)
実はこれまでもシノバック社製ワクチン接種後に感染、感染死する事例が何度も報道されてきていたが、保健当局は対応を怠ってきた。その結果、今年6月から現在までに医療関係者131人がコロナ感染で命を落としており、その大半が優先接種でシノバック社製のワクチン接種を受けていたことが報告されている。(後略)【7月11日 大塚 智彦氏 JBpress】
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中国製ワクチンの感染予防効果はやや低めの数値が出ていますが、ワクチン接種後に感染するのは別に中国製だけでもなく、ファイザーやアストラゼネカのワクチン接種が進むイギリスでも再び感染者が急増しています。
ここらあたりは、感染者・死亡者の分析、ワクチンを接種しなかった場合のリスクとの比較などエビデンスに基づいて議論すべき問題で、「中国製だから・・・」という決めつけは誤った結論を導きます。
【日本政府も特別便運航で調整】
話をインドネシアの日本人に戻すと、ゼネコン大手の清水建設が依頼した特別便が14日に運行されましたが、これが混乱に拍車をかけることにも。
****企業手配の特別便で在留邦人混乱 政府主導と誤解、インドネシア****
インド由来の新型コロナウイルス変異株「デルタ株」の感染が急拡大しているインドネシアで、大手ゼネコンの清水建設が14日に自社で手配した全日空の特別便を、政府主導の手配便だと誤解する在留邦人が相次ぎ、一時混乱が広がった。
加藤勝信官房長官は13日の記者会見で「14日に在留邦人が日系航空会社の特別便により帰国予定で、政府としても支援していきたい」と述べたが、清水建設が独自に手配した便だとは説明しなかった。
企業手配便という点に触れない形で報じられると、「政府が運航させる便なのか」といった問い合わせが在インドネシア日本大使館に数十件寄せられた。【7月15日 共同】
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こうした状況にさすがに日本政府も、帰国を希望する邦人のために近日中に特別便を運航する方向で調整しているとのことです。
****インドネシアから退避の邦人向け特別便を検討 企業や団体の保証必要****
新型コロナウイルスに感染する在留邦人がインドネシアで増えていることを受け、現地の日本大使館は14日夜、帰国を希望する邦人のために、近日中に特別便を運航する方向で調整していると発表した。
現状、帰国後の隔離施設などを企業や団体が用意することが条件となるが、頼れる組織がない人からの相談も受けるとしている。
日本大使館によると、特別便の運航の検討をしているのは日本航空と全日空。首都ジャカルタ郊外のスカルノ・ハッタ国際空港を出発し、成田空港に到着する見通しだ。
搭乗には、日本に拠点がある企業または団体が搭乗者の「保証人」となり、帰国後に14日間の隔離措置を確約する誓約書が必要になる。入国後の隔離施設やPCR検査などの手配や費用負担も求められる。航空会社が代行して手配する案も検討されている。個人では保証人になれない。出国前72時間以内のPCR検査結果の提示も必須だ。
現在、搭乗希望者を募っており、15日昼の時点で日本大使館には100件以上の問い合わせがあるという。
インドネシアでは1日の新規感染者数が5万人を超えるなど爆発的な感染拡大が続いている。日本大使館によると、15日時点の日本人の感染者数は約350人、死者数は14人。日系医療サービス会社「ウェルビーホールディングス」によると、入院待ちの感染者は約50人にのぼる。(後略)【7月15日 朝日】
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ある意味、インドネシアみたいに在留邦人が多い国は、いろいろと対応もとられる余地がある分まだいいのかも。そうでない国の場合は、まったく個人による対応となります。