孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  中国人を狙ったバス爆発 「鉄の友」の中パ関係 イスラムの大義に優先

2021-07-16 22:41:53 | アフガン・パキスタン
(パキスタン北西部カイバル・パクトゥンクワ州で7月14日、谷に落ちたバスの乗客を救助する人々=AP。バスはこの日、山道を走っていた際に爆発し、谷に落ちた【7月16日 朝日】)

【パキスタンで中国人ら30人以上が乗ったバスが爆発・転落】
パキスタンでのバス爆発「事件」で、多くの「一帯一路」関係中国人が亡くなりました。

****パキスタンでバス爆発 「一帯一路」関係者ら13人死亡*****
パキスタン北西部カイバル・パクトゥンクワ州で14日午前8時ごろ、中国人ら30人以上が乗ったバスが爆発し、地元警察によると、少なくとも13人が死亡、17人が負傷した。中国人らは、中国政府がパキスタンなどで進める巨大経済圏構想「一帯一路」に関連する建設現場に向かう途中だったという。
 
地元警察によると、爆発で死亡したのは、中国人の技術者やパキスタン人の警護要員ら。爆発の原因は分かっていない。バスは険しい山道を上って、同州にある一帯一路のダム建設現場に向かっていたという。
 
中国はパキスタンにとって、対インドで利害が一致する長年の友好国だ。中国の投融資に頼るパキスタン政府に打撃を与えるため、中国権益を標的にする地元イスラム武装勢力の攻撃が続いている。パキスタン政府は中国権益を重点警備しているが、攻撃を防ぎ切れていない。
 
今年4月には、中国大使が滞在していたパキスタン南西部バルチスタン州の高級ホテルで爆発があり、警官ら数人が死亡。パキスタンの反政府武装勢力「パキスタン・タリバーン運動(TTP)」が事件後、犯行声明を出した。
 
また、19年5月には中国人宿泊客が多い同州グワダルの高級ホテル、18年11月には南部カラチの中国総領事館が襲撃された。両事件では、中国の進出に抗議する現地の独立派「バルチスタン解放軍(BLA)」が犯行声明を出した。【7月14日 朝日】
***********************

【「鉄の関係」「鉄の友」の中パ関係】
中国の「一帯一路」にとってパキスタンは“要”ともなる国で、両国は強い関係を有しています。

パキスタンにおける中国の存在感は、2年あまり前にフンザ観光のためにカラコルム・ハイウェイを往復した際に、身に染みて感じました。

カラコルム・ハイウェイ ( KKH) は、中国新疆ウイグル自治区最西部とパキスタンのギルギット・バルティスタン州をカラコルム山脈を横断して結ぶ道路で、国境を横断する舗装道路としては世界一の高所を通る道路です。

ハイウェイはパキスタンと中国政府によって建設され、(多くの中国人労働者の犠牲も伴いながら)建設開始から20年が経過した1978年に完成したということで、「一帯一路」以前からの緊密な中パ関係を象徴する道路です。

この道路の意義については“インドとパキスタンの間に跨るカシミール地区を巡る対立が非常に切迫しているため、カラコルム・ハイウェイは戦略上重要な拠点となっている。また中国にとってはパキスタンへの輸出入の経路として重要なほか、パキスタン南部に中国の支援で建設されるグワーダル港と新疆ウイグル自治区とを結ぶ経路でもあり、中東やアフリカへの資源へのアクセスを確実にする上でも戦略的に重要な経路である。中国政府はパキスタンへ援助を行って拡幅工事などを行っている。”【ウィキペディア】とも。

その後も「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」の一環として、中国の支援で改修・拡幅工事が行われており、私が片道二日、往復四日走ったときも、あちこちで工事中でした。

一番印象的だったのは、パキスタンの山奥に中国語の道路標識みたいなものがあったこと。中国の技術者が大量に入って工事していますので、そういうことにもなります。

****CPEC(China-Pakistan Economic Corrido)****
CPEC(China-Pakistan Economic Corrido)とは、中国・パキスタン経済回廊である。CPECが発表されたのは2015年である。

中国の新疆ウイグル自治区カシュガルから標高4,693メートルのフンジュラーブ峠を超え、パキスタンの北から南まで国内を縦断し、アラビア海に面したグワーダル港までをつなぐ全長約2,000キロメートルにおよぶ長大な経済回廊建設プロジェクトである。

CPECには、グワーダルの港湾及び周辺の開発のほか、水力発電所建設を含む電力インフラの整備、カラチやペシャワールにおける都市交通整備など67件のプロジェクトが含まれる。中国からパキスタンへの融資額は600億ドルを超えると言われる。【ロイター】
********************

この「CPEC」という言葉も、同行の現地ガイド氏から毎日耳タコのように聞かされました。

中国支援による改修工事が済んだ箇所は快適な舗装道路となっており、悪路のロングドライブに疲れた私の正直な感想としては、中国のパキスタン支援に感謝しました。

このように中パ両国は強い絆で結ばれており「鉄の関係」とも言われています。

*****鉄の関係*****
中国とパキスタンは、1950年に外交関係を樹立した。

パキスタンは、中国にとって唯一の同盟国である。また、中国はパキスタンへの武器供与国であり、2006年に自由貿易協定が締結されている。

パキスタンのアリフ・アルビ大統領が2020年3月に中国を訪問し、北京で習近平国家主席と会談した際にも、両首脳は、「一帯一路」構想のCPEC推進の協力関係強化による「鉄の関係」を確認した。【ロイター】
*****************

中国にとって「鉄の関係」「鉄の友」という国は、パキスタンを含めて14か国あるとか。

****パキスタンからザンビアまで、中国の14の「鉄の友」―香港メディア****
香港英字メディアのサウスチャイナ・モーニング・ポストはこのほど、中国にとって「鉄のように揺るがない友」として14の国を挙げていると、中国のニュースサイトの環球網が11日付で報じた。

サウスチャイナ・モーニング・ポストの10日付記事によると、中国の外交声明の英語版において「ironclad」という言葉ほど中国と他国との緊密な関係を表すものはない。

ironcladのカテゴリーに分類される国は現在、ブラジル、エジプト、エチオピア、ケニア、マリ、マルタ、ナミビア、パキスタン、ルーマニア、セルビア、タンザニア、イエメン、ザンビア、ジンバブエの14カ国だ。

ベラルーシ、カンボジア、キューバ、ミャンマー、ウクライナなども、中国との強力な歴史的および政治的関係からこのリストに含まれる可能性があると指摘する人もいる。

中国人民大学国際事務研究所の王義桅(ワン・イーウェイ)所長は、ironcladについて「緊密な関係と強力なコミュニケーションを意味する」とし、「そうした友は裏切るよりも互いの核心的利益を尊重する可能性が高い」と述べている。

中国研究に特化した調査会社プレナムのアナリストは、そうした国々は「全天候型の友」とも呼ばれるとした上で、「この概念が中国の外交上の優先事項を表しているとは思わない。この言葉は、現実的な計算よりも歴史的な重みを持っている」との見方を示している。【7月12日 レコードチャイナ】
*******************

ブラジル、エジプトなど、ちょっと首をかしげたくなるような国も含まれていますが、パキスタンはそういう中にあっても別格、文字通りの「鉄の関係」にあります。

【頻発する中国権益を標的にする地元イスラム武装勢力の攻撃】
それだけに、パキスタン政府を攻撃する側にとっては、中国関係者は“狙い目”ともなります。
冒頭記事にもあるように、4月には中国大使を狙ったと思われる事件も。

****中国大使が標的か、パキスタンの高級ホテルで爆発…イスラム武装勢力が犯行声明****
パキスタン南西部クエッタの高級ホテルの駐車場で21日、車に仕掛けられた爆弾が爆発し、地元病院によると、5人が死亡、12人が負傷した。現地を訪れていた中国の農融ノンロン駐パキスタン大使を狙った犯行との見方が出ている。
 
大使は爆発当時、宿泊先だったこのホテルにはおらず、無事だった。地元のイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)が「高官を狙った」と犯行声明を出した。
 
大使は、中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」で中核に位置づけられている「中国・パキスタン経済回廊」(CPEC)の協議のため、投資家や企業関係者らと訪れていた。現地では中国に反発する武装勢力が、中国人や関連施設の襲撃を繰り返している。
 
中国外務省の汪文斌ワンウェンビン副報道局長は22日の記者会見で、「今回のテロ攻撃を強く非難する」と述べた。【4月22日 読売】
************************

今回のバス爆発も、パキスタン側は当初「事故」として処理しようとしていましたが、やはりテロだったという見方に変わっています。

****中国人死亡のバス爆発、テロか 爆発物の痕跡見つかる****
パキスタン北西部で14日に中国人ら13人が死亡したバスの爆発について、パキスタンのファワード・チョードリー情報放送相は15日、「初動捜査で(現場から)爆発物の痕跡が見つかった」とツイッターで明らかにした。パキスタン治安当局は、爆破テロだった可能性も視野に捜査している。(中略)

爆発の原因について、パキスタン外務省は14日、「機械の不具合で燃料が漏れ、爆発した」と説明したが、中国外務省は「事件」と主張し、見解が食い違っていた。
 
パキスタン情報放送相は、15日のツイッターで「テロの可能性を排除できない」「中国大使館と連携し、テロの脅威と戦う」と述べた。
 
中国の投融資に頼るパキスタン政府にとって、中国権益に絡む事件は最も避けたい事態だ。パキスタン政府は中国の外交団や企業を重点警護しているが、近年はイスラム武装勢力による攻撃が続いている。
 
これまでの攻撃は主に南部や南西部が中心で、すぐに犯行声明が出るものが多かった。ただ、今回の爆発は北西部で場所が離れているほか、16日朝時点で犯行声明が出ていない。パキスタン政府は、生存者から事情を聴くなどして爆発の経緯を慎重に調べている。【7月16日 朝日】
*********************

中国は犯人処罰を強く求めています。

****パキスタンのバス爆発は「テロ」=中国首相が犯人処罰要求****
中国の李克強首相は16日、パキスタン北部で中国人9人が死亡したバス爆発をめぐってカーン首相と電話会談し、「テロ攻撃犯を必ず法で処罰しなければならない」と要求した。

カーン氏は「テロ襲撃事件」の真犯人を法に基づき裁くと約束した。中国外務省が発表した。(後略)【7月16日 時事】 
*********************

【イスラムの大義に優先する「鉄の友」】
なお、中パの「鉄の友」をうかがわせる案件としては、以下のようなものも。

****パキスタン首相、中国の新疆弾圧に対する非難を拒否****
パキスタンのカーン首相は22日までに、中国政府が行っているとされる西部新疆ウイグル自治区での少数民族ウイグル族に対する人権弾圧を非難しない考えを明らかにした。
ニュースサイトのアクシオスとのインタビューで20日に述べた。

インタビューの中で大規模なウイグル族の強制収容と虐待について問われたカーン氏は、中国について「我々の最も素晴らしい友人の一人。我々にとって最も困難な時期にそうあり続けている」と指摘。新疆の問題をめぐっては、中国政府とのいかなる協議も「非公開で行われるだろう」との見解を示した。

米国務省によると近年、ウイグル族や他のイスラム教徒の少数民族最大200万人が新彊全域にある大規模な収容施設に入れられているとみられる。多くの元収容者は収容所内で洗脳や身体的虐待、強制不妊などを受けたと証言する。

米国をはじめ複数の西欧諸国の議会は、中国による新彊でのこうした行為をジェノサイド(集団殺害)と認定した
しかしカーン氏は、中国政府がパキスタン政府との非公開の協議で新彊での大規模な弾圧を否定していたと説明。

「我々は彼らのやり方を尊重する。(中略)どうしてこれが西洋世界でここまで大きな問題になっているのか? なぜカシミール地方の人々は無視されているのか? そちらの方がはるかに意味がある」と述べた。

イスラム教徒が多数を占めるカシミール地方はパキスタンとインドが領有権を争っており、しばしば暴力的な衝突が発生している。

カーン氏はまた「世界を見渡せば、パレスチナ、リビア、ソマリア、シリア、アフガニスタンでも問題が起きている。すべてについて発言しなくてはならないのか?」と付け加えた。

パキスタンは中国の長年の友好国・貿易相手国で、インフラ投資でも大きな恩恵を受けている。これらの投資は習近平(シーチンピン)国家主席が掲げる経済圏構想「一帯一路」の一環だ。

カーン氏は2019年3月にも、英紙フィナンシャルタイムズの取材に対し、新疆ウイグル自治区での大規模な強制収容に関する報道について「よく知らない」と答えていた。中国の最西端に位置する新疆ウイグル自治区はパキスタンとも国境を接している。【6月22日 CNN】
*******************

パキスタンではフランスのイスラム風刺、およびそれを擁護するマクロン大統領に対する抗議デモが激しく行われています。

そのパキスタンがイスラム教徒弾圧に沈黙。「鉄の友」はイスラムの大義に優先するようです。

それは、パキスタンだけでなく、多くのイスラム教国家が中国のウイグル族弾圧に沈黙していることにも示されています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする