孤帆の遠影碧空に尽き

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ハンガリー・オルバン首相の反LGBT法 EUは「一線を超えた」と法的手続き開始

2021-07-22 22:29:14 | 欧州情勢

(ハンガリーの首都で開催された性的少数者(LGBT)によるプライドパレード(2019年7月6日撮影)【7月15日 AFP】)

【未成年に対する同性愛の「助長」行為を禁止する法改正案 EU激しく反発】
ハンガリーでは、オルバン首相が西欧的「自由主義的民主主義」を否定するような、強権支配で民族主義を重視する「非自由民主主義」を主張し、具体的にはロシアや中国的なモデルを念頭に置いているとも指摘されていることは、これまでも再三取り上げてきました。

同様の傾向はポーランドにも見られ、そうしたハンガリー・ポーランドなど東欧諸国と、EUを主導する独仏などの西欧諸国の間には溝があり、そうした東西の分断がEUの抱える大きな問題となっています。

ハンガリー・オルバン首相は政府に批判的なメディアを抑圧し、移民・難民に対しては排他的で、性的マイノリティーに対しても伝統的価値観に基づく締め付けが続いていますが、そのあたりのことは2020年12月16日ブログ“伝統的価値観を強要するハンガリー・ポーランド 皮肉な「ゲイの乱交パーティー」とショパン同性愛者説”でも取り上げました。

オルバン政権が「標的」としている性的マイノリティLGBTQに関しては、昨年5月に合法的に性別を変えることができなくなり、昨年12月ブログでも触れたように、12月には同性カップルが養子を取ることも事実上禁じる法案が成立しています。

そうした流れの一環で、今年6月には未成年に対する同性愛の「助長」行為を禁止する法改正案が可決されました。

****未成年への同性愛「助長」禁止 ハンガリーで法案可決****
ハンガリー議会は15日、未成年に対する同性愛の「助長」行為を禁止する法改正案を可決した。この法改正案に対しては、性的少数者を抑圧するものだとの批判が上がっている。
 
法改正は、右派オルバン・ビクトル首相が率いる政権が進める政策の一環で、実現すれば同性愛や性別移行に関する性教育や、LGBTQI団体の宣伝が事実上禁止されるほか、同性愛を助長するとみなされた映画に上映時間や視聴年齢の制限が科される可能性もある。
 
オルバン政権は法改正について、小児性愛対策や未成年保護が目的と主張。だが反対派からは、表現の自由や子どもの権利を「深刻に制限する」ものだとの声が上がっている。
 
議会前では14日、5000人以上が集まり、法改正案に抗議。LGBTQI団体は、ロシアで導入された類似の法律になぞらえ、法改正案を批判している。
 
米国のジョー・バイデン政権はLFBTQIの権利を優先事項の一つとして掲げている。米国務省のジャリナ・ポーター報道官はハンガリーの法改正案について、表現の自由に関する「懸念を生む」ものであり、「民主主義社会では受け入れられない」制限を含んでいると指摘した。 【6月16日 AFP】
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EUのフォンデアライエン欧州委員長は、性的少数者(LGBTQ)らの権利を規制するハンガリーの法改正をめぐり「法案は恥だ。性的指向に基づく明らかな差別でEUの基本的価値観に反する」と述べ、法的措置に着手する方針を示唆、EU加盟国のうち15か国は共同声明で、同法に対する「深刻な懸念」を表明。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は同法について、「間違っており、私の政治に対する理解と相反している」と批判しています。

ドイツでは、サッカー欧州選手権の対ハンガリー戦会場となるミュンヘンのスタジアムをLGBTQの象徴である虹色にライトアップする案が欧州サッカー連盟に拒否されたことを受け、国内各地の施設を虹色に染めて抗議の意を示したことも話題になりました。

EU内ではこの問題での協議が行われていますが、議論は平行線のようです。

****ハンガリーとEU「恥ずべき」と応酬 LGBT新法で****
子どもらへの性教育の場などで、同性愛や性転換にかかわる情報を伝えることを禁じるハンガリーの新法に対し、24日の欧州連合(EU)首脳会議で、性的少数者(LGBTなど)の権利制限や差別にあたるといった批判が相次いだ。ハンガリーは「子どもたちを守る法律だ」と繰り返し、対立が深まっている。
 
新法は、18歳未満を対象に同性愛などの描写を学校や映画、広告などを通して伝えることを禁じる。ハンガリー国会で15日、可決した。小児性愛者の取り締まりを厳しくする法律の一環で、子どもを守る趣旨だとしている。
 
これに対し、EUの行政を担う欧州委員会は、性的少数者のありようをポルノと同じように扱うのはEU基本法に反すると指摘し、EU司法裁への提訴も視野に対応を取りはじめた。(中略)
 
ブリュッセルで開かれた24日のEU首脳会議では、ベルギー首相が胸元に多様性を表す虹色のピンバッジを着けて出席し、いくつもの国がハンガリーのオルバン首相を前に新法の問題を指摘。

オルバン氏は記者団に「法律は同性愛の問題と関係がない」と語って会議にのぞんだ。従来通りの説明をして、議論は平行線をたどった模様だ。
 
首脳会議のミシェル常任議長は25日の記者会見で、EU基本法は加盟国の法律より上位にあるなどと指摘したことを明かし、「時に厳しい雰囲気になったが、必要な議論だった。オルバン氏にとっては、(人権や民主主義を守る)各国首脳の信念を聞く機会になった」と語った。(後略)【6月25日 朝日】
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6月24日のEU首脳会議では「ハンガリーは一線を越えた」と各国から非難や怒りの声が噴出、オランダのルッテ首相はEU追放にまで言及する事態になっています。

****反LGBT法「一線越えた」=EU各国首脳、ハンガリー猛批判****
教材などで性的少数者(LGBT)に関する描写を禁じるハンガリーの新法が、欧州連合(EU)で猛批判にさらされている。人間の尊厳や平等などEUの基本理念に反すると深刻視され、24日の首脳会議では「一線を越えた」と各国から非難や怒りの声が噴出した。
 
「ハンガリーはもうEUにいる資格はない」。オランダのルッテ首相はEU追放にまで言及。EU首脳会議でもオルバン首相に新法撤回かEU離脱を選択するよう迫った。
 
新法には未成年向けの教材や宣伝などで同性愛や性転換の描写や助長を禁じることが盛り込まれた。15日にハンガリー議会で可決されると反発が拡大。「言語道断の差別だ」と懸念を表明した共同声明にはEUの17カ国が署名した。
 
オルバン氏は首脳会議で「子供と親の権利を守る法律で反同性愛ではない」と正当性を主張。しかし「全く認識が違う」(メルケル独首相)、「理念拒否は受け入れられない」(ベルギーのデクロー首相)と各国から集中砲火を浴びた。
 
同性愛者であると公表しているルクセンブルクのベッテル首相は、同性愛を自覚した際の自らの苦悩を吐露し「ゲイになるのは選択ではないが、不寛容は選択だ」と訴えた。会議では、ハンガリーは一線を越えたと嘆き、多くの涙を誘ったという。【6月27日 時事】 
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【欧州委員会、法的手続き開始】
こうした流れを受けて、EUの政策執行機関である欧州委員会は7月15日、東欧の加盟国ハンガリーとポーランドがLGBTなど性的少数者を抑圧し、人権尊重などを定めるEU基本条約に反しているとして、両国に対する法的手続きに入ったと発表しました。

****欧州委員会、ハンガリーなどに法的手続き開始 反LGBT政策で****
欧州連合(EU)の欧州委員会は15日、東欧の加盟国ハンガリーとポーランドがLGBTなど性的少数者を抑圧し、人権尊重などを定めるEU基本条約に反しているとして、両国に対する法的手続きに入ったと発表した。

両国に通知書を送付し、2カ月以内に十分な対応がなければ、制裁を求め欧州司法裁判所に提訴する可能性がある。
 
ハンガリーは8日、18歳未満向けの教材や広告、映画などで同性愛の描写などを禁じる法律を施行した。欧州委は新法が「性的指向に基づく差別」であり、基本的権利の制限にあたると指摘している。

ポーランドでも近年、複数の自治体が「LGBTのいない地区」を宣言するなどLGBT排除の動きが目立つ。
欧州委はこれらがEUの法律に反する疑いがあるにもかかわらず、ポーランド政府が調査に協力していないと批判している。
 
欧州委は15日の声明で、「人権の尊重や平等はEUの核となる価値観。その価値を守るためにすべての手段を取る」と強調した。【7月16日 毎日】
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フォンデアライエン欧州委員長は、「誰を愛するかということや年齢、民族、政治的見解、信仰を理由に、われわれの社会の一部が汚名を着せられることを、欧州は決して許さない」と発表。

【鼎の軽重を問われるEU】
EUにとっても、人権の基本理念に関する問題であり、安易に妥協するようだと鼎の軽重を問われることにもなります。

****EUの資質が問われるハンガリー反LGBT+法案の行方****
(中略)6月29日付の英フィナンシャル・タイムズ紙が、オルバン首相は遂に一線を超えたかという社説を書いている。

EUおよび加盟国首脳は遂に我慢の限界に達したのかも知れないというのが、フィナンシャル・タイムズ紙の社説である。EU首脳会議の場を含め、ハンガリーに対しては非難の合唱の様子であり、唯一ハンガリーの弁護に回ったのはポーランド首相モラヴィエツキであった。(中略)
 
ハンガリー政府は、法律は子供の権利を守り、親の権利を保証するものであり、差別の要素は含んでいないと主張している。
 
オルバン首相は、かねてから移民、イスラム教徒、ユダヤ人、LGBTコミュニティを敵視し、彼の保守支持層に訴えることをやって来たが、今回の動きも来年の議会選挙を睨んだ文化戦争だというのが、フィナンシャル・タイムズの社説の見立てである。

また、それによって民主的・法的チェック・アンド・バランスが崩れたハンガリーの実情に対するEUの懸念から注意をそらそうともしていると観察している。(中略)
 
事態打開のために、フィナンシャル・タイムズ紙の社説は財政的な梃を使うことを推奨している。アイルランド首相のマーティンは「一線を超えた。それが資金援助に関する将来の決定との関連で意味を持つことは確かであろう」と述べたというが、この社説が示唆するように、復興基金のハンガリーへの資金供与に当たって、殊更に厳格な審査を行うことでハンガリーに圧力をかけることは有り得る選択肢であろう。(中略)
 
四面楚歌の圧力でオルバン首相が法律の撤回にどう動くか(未だ、法律は大統領の署名を得ていない)、分からない。しかし、ここでEUが引き下がるようでは鼎の軽重を問われるであろう。

EUがハンガリーに財政支援に関する制裁の圧力をかけたとしても、文化、宗教的価値観にもかかわる、国家主権の問題でもあり、解決は容易ではないかもしれない。【7月22日 WEDGE】
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【マイノリティーいじめで権力にしがみつく「悪あがき」】
ポピュリストたるオルバン首相にとっては、マイノリティーいじめによって、大衆の不満を社会的弱者に向けて、政権を維持しようとする、権力にしがみつく「悪あがき」みたいな様相もあるとの指摘も。

****少数派「いじめ」の強化で、権力にしがみつくハンガリーの「独裁者」****
<「マイノリティーいじめ」でしかない反LGBTQ法導入は、来年の総選挙を前に窮地に追い込まれたオルバン首相による必死の延命策>

ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は民主主義の旗を掲げて政界入りした。冷戦後の1990年代、彼はハンガリー政界の希望の星であり、共産主義から民主主義への移行を目指すこの国に支援の手を差し伸べた欧米諸国の寵児でもあった。

だが政権の座に就くや、ポピュリズムの手法に頼るようになった。熟議を重ねる民主的な統治に背を向け、数にものいわせて安易な路線に転換。権力の暴走を防ぐ制度や法律を次々に廃止した。

今の雲行きでは、彼は「腐敗したいじめっ子」として政界を去ることになりそうだ。末期段階のオルバン政治は、ハンガリー式ナショナリズムでも「擬似民主主義」でもない。ただの茶番だ。

オルバンとその協力者らは6月に議会で反LGBTQ(同性愛者などの性的少数者)法を成立させ、7月8日に施行した。同性愛やジェンダーの多様性について未成年者に伝えることを禁じるなど、ロシアの「同性愛宣伝禁止法」と似たような内容だ。

当然ながらウルズラ・フォンデアライエン欧州委員会委員長とドゥニャ・ミヤトビッチ欧州委員(人権担当)はこの法律を批判。オランダのマルク・ルッテ首相は、ハンガリーはEUを去るべきだ、とまで指弾した。

オルバンはここ数年、イスラム教徒の難民や少数民族のロマに対する偏見や差別を政治的に利用してきた。憎悪をあおるポピュリズム的な手法を続けるために、新たな「大衆の敵」が必要になり、格好の標的としてLGBTQに目を付けたようだ。

ポピュリストは2つの理由でマイノリティーを標的にするが、この2つは連続する。つまり標的は同じでも、政治的な目的は進化するのだ。

公約を果たせないポピュリストの行方
まずは、大衆の支持をつかむため。ポピュリスト政治家はマイノリティーに対する恐怖心や嫌悪感をずけずけと口にして大衆の代弁者を気取る。ドナルド・トランプが2016年の米大統領選に出馬を表明したときにメキシコ移民を「強姦魔」や「犯罪者」呼ばわりしたのもそのためだ。

右であれ左であれ、大風呂敷を広げたポピュリストの指導者はいずれ公約を果たせなくなる。そのとき彼らは2つ目の理由でマイノリティーいじめに走る。大衆の不満を社会的弱者に向けて、姑息に政権を維持しようとするのだ。

つまり1つ目のマイノリティーいじめは権力基盤の強化のため、2つ目は危うくなった権力基盤にしがみつくため。

ポピュリストの指導者は大衆の支持を失えば裸の王様だ。
民主主義の下では、どんな指導者も支持率を気にするが、ポピュリストの指導者は異常なまでに気にする。政治的信念も指導者の資質も欠いた彼らにとっては、大衆の支持のみが頼みの綱なのだ。

EUとNATOの加盟国でありながら、民主主義が後退しつつある──ハンガリーの危うさはそれだけではないし、それが主な危険要因でもない。

腐敗疑惑、世界最悪クラスの新型コロナウイルスの死亡率、EUを軽視し中国とロシアに接近する外交への有権者の懸念──。それらが積み重なってオルバン政権は今や崖っぷちに追いやられている。彼らが土壇場で見せる悪あがきこそ、今のハンガリーが抱える最も危険な要因だ。

オルバンは2000年前後の数年間首相を務め、10年に首相の座に返り咲いた。ドイツのアンゲラ・メルケル首相がいい例だが、どんな指導者も10年以上たてば新鮮味は薄れる。

22年の総選挙でオルバンの対抗馬として浮上しているのが、首都ブダペストの市長で46歳のカラチョニ・ゲルゲイだ。そうなればオルバンは10年に権力を掌握して以来初めて、手ごわい挑戦を受けることになりそうだ。

カラチョニはオルバンとは驚くほど対照的だ。若く、楽天的で、EU加盟国としてハンガリーに活気ある未来が約束されるよう情熱を注いでいる。気候変動、教育、スキルアップや不平等といった自分と同世代の問題に精通してもいる。

欧米による制裁の動きも
総選挙を前に、オルバンは不屈のオーラを永遠のものにしようとし、カラチョニは与党フィデス・ハンガリー市民連盟が選挙で負けないというのは迷信だと暴こうとするだろう。

オルバンが勝てば、ハンガリーは中欧にあって政治的にはますます中央アジアの国に似てくる可能性が高い。一方、カラチョニが勝てば22年はハンガリーの転機──民主主義再生のチャンスになる。(中略)

アメリカで政府を非難する多くのレッドステート(共和党が優勢の州)の政治家と同様、オルバンもEU本部を激しい言葉で非難している。だが多くのレッドステートが連邦政府予算を受け取っているように、ハンガリーはEU予算の純受益国でもある。オルバンはEUの資金を必要としている──自国の農家助成のためだけでなく、自身が牛耳る汚職まみれの公共事業の費用を賄うためにもだ。

(中略)ハンガリーの民主主義後退は国民に痛手となるばかりか、EUの影響力を低下させ、NATOの基本理念を損なう。

何より、米欧の指導者は今後オルバンがさらに卑怯な行為に走る可能性にも備えておく必要がある。何が起きても不思議はない。いじめっ子は性的少数派を標的にする。この上なく残酷で、それ以上に弱い。それでも危険であることには変わりない。追い詰められたいじめっ子ほど危険なものはないのだ。【7月22日 Newsweek】
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「そんなにEUの理念が気に入らないなら、出ていけばいいのに」と思いますが、上記記事にもあるように、ハンガリーなど東欧諸国はことあるごとにEUの施策を批判しますが、EUから多額の資金を受け取る「受益者」でもあります。
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