孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  ヒンズー至上主義モディ政権の弊害 コロナ死亡者は公式発表の10倍に及ぶ可能性も

2021-07-20 22:32:36 | 南アジア(インド)
(インドの新型コロナ新規感染者・死者【ロイター COVID-19 TRACKER】)

【牛のふんや尿でコロナ予防・治療 批判すると「宗教的感情を踏みにじった」容疑で逮捕】
インドでは5月初旬には1日あたりの新規感染者数が4.0万人を超え、世界最悪の感染拡大・医療崩壊に見舞われましたが、その後事態は急速に収束し、現在の新規感染者は1日4万人程度になっています。

(インドに限らず、どこの国の感染状況のグラフを見ても、拡大ペースと減少ペースはほぼ同じで、結果、グラフは綺麗な山の形をつくることが多いようです。このあたりの様々な社会現象や自然現象が正規分布に従うというのは、統計学が苦手だった私的には不思議なものにも感じます)

収束傾向にはありますが、モディ首相は“一応”警戒も呼び掛けています。

****インド首相、観光地の混雑を警告 新規感染者数は減少****
インドのモディ首相は13日、観光地の過密化に警鐘を鳴らすとともに、新型コロナウイルス感染者数は減少しているものの、ワクチン接種を加速させるよう呼び掛けた。

インドの医師団体である医療協会(IMA)は12日、観光地や聖地巡礼に関するコロナ対策の移動制限を解除すれば新型コロナウイルスの感染爆発を招く要因になり、流行の第3波は避けられないと強く警告し、各州政府と市民に警戒水準を下げないよう訴えた。

ツイッターへの投稿でモディ首相は、観光産業が新型コロナで深刻な打撃を受けていることを認めつつ、「マスクを着用せずに大勢の人が集まることは決して良いことではない」とした。

インドのコロナ感染者数は累計3091万人で、米国に次いで世界第2位。13日に報告された新規感染者は3万2906人で、3月中旬以来の低水準となった。第2波のピーク時には1日あたり約40万人に達していた。【7月14日 ロイター】
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“一応”と断ったのは、ヒンズー至上主義のモディ政権がどこまで科学的コロナ対策に取り組むのか、その本気度にやや疑問も感じているからです。

5月初旬をピークとする最悪パンデミックも、与党の選挙動員やヒンズーの宗教儀式、そしてモディ首相の失政が大きな原因となっています。

****インドのコロナ地獄を招いた張本人モディの、償われることのない重罪****
<感染爆発で死者急増のインド、その「戦犯」は過信から備えを怠ってきたモディ首相。ただし彼は国民の悲劇を自らの利益に変えかねない>

わが国は「新型コロナウイルスを効果的に抑え込み、人類を巨大な災禍から」救った──。インドのナレンドラ・モディ首相がオンライン会合のダボス・アジェンダ(世界経済フォーラム)で、そう高らかに宣言したのは今年1月28日だ。

それから3カ月。気が付けばインドは世界最悪の感染地となり、医療崩壊が現実となった。首都ニューデリーでは医療用酸素が不足し死亡する患者が続出。最先端の設備を備えた病院でさえ政府に「もっと酸素ボンベを」と訴えている。火葬場はフル稼働で、燃やす場所も薪も足りない。

遺体を自宅の庭に埋める人もいる。路上に薪を積んで遺体を焼く人もいる。首都圏以外の状況はもっとひどい。南インドにいる知り合いの記者は筆者に、「ハエが落ちるように」人が死んでいると電話で伝えてきた。

誰の身近にも感染者がいる。5月8日時点の累計死者数は公式発表で23万8000人超とされるが、実数はその20倍とも推定される。酸素や、最低限の医薬品を売る闇市場も出現した。IMFは2015年に、いずれインドは中国以上の経済大国になると予言したが、今のインドは諸外国に緊急援助を請うばかりだ。

未知の病原体だけが、この惨状を招いたのではない。真の原因は、なによりも自画自賛を愛する指導者の行動にある。ダボス・アジェンダでの首相の無邪気な演説を受けて、インド政府は国民に、もう最悪の時期は脱したという取り返しのつかない思い込みを抱かせた。

政権与党でヒンドゥー至上主義のインド人民党(BJP)は2月に、「新型コロナウイルスとの闘いに勝利した輝かしい国として、インドを世界に知らしめた首相のリーダーシップ」を称賛する決議を党内で採択した。美辞麗句を並べた決議文には、インドが「モディ首相の有能かつきめ細かく、献身的で先見性のあるリーダーシップ」の下で新型コロナウイルスを打ち負かしたとある。

マスクなしで大規模な選挙集会
3月になると、モディ政権の保健相はインドにおける感染が「終息に向かう局面」にあると発表した。同月、グジャラート州ではモディの名を冠したスタジアムでインド対イングランドのクリケットの試合が開かれ、マスクなしの観客が何千人も集まって大声援を送った。

地方選挙の行われた4つの州では、何千人もの与党支持者がバスで集会に動員された。本来なら来年のはずだったヒンドゥー教の祭典「クンブメーラ」も、今年は縁起がいいと言う聖職者らの助言で1年前倒しになり、4月12日には聖地ハリドワールのガンジス川で300万人以上が沐浴した。

その5日後、1日の新規感染者が23万人を超えたという発表があった。それでもモディは西ベンガル州での選挙集会で、「これほど大勢の人が集まるのは見たことがない」と大見えを切った。もう感染症には勝ったと、モディは確信していた。選挙応援の集会は、いわば勝利の凱旋行進だった。

昨年、国内で第1波の感染爆発が起きる1カ月前にアメリカのドナルド・トランプ大統領(当時)を熱烈歓迎したように、モディは今度もイギリスのボリス・ジョンソン首相を招き首脳会談を開く予定でいた。だがインドでの驚異的な感染拡大を受けてジョンソンは訪問中止を決断。さすがのモディも、これで目が覚めたらしい。だが、今さら現実を受け入れても手遅れだ。

モディは1月、インドには「新型コロナ対策の専用インフラ」があると自慢していたが、そんなものが本当にあれば、こんなに多くの人が死ぬわけがない。モディは14年にも、スマートシティーの実現と雇用の拡大を約束して選挙に勝ったが、またしても美辞麗句で国を欺いた。バラ色の公約の下にあったのは、荒廃と死のみだ。

もしも首相が責任を放棄せず、建設的な助言をする人々を悪者扱いしなかったら、インドはこんな人道危機に陥らずに済んだかもしれない。国民を地獄絵図から守るために必要な、時間も方法も専門家の助けもあったはずだ。

既に昨年11月の時点で、インド議会の委員会が感染第2波を警告し、政府に医療用酸素ボンベの調達増を求めていた。だがモディは対策を強化せず、自身のカルト的な人気を高めることと国富を略奪することのために新型コロナウイルスを利用した。

昨年3月、わずか4時間の猶予しか与えずに全土封鎖を発表して国中を混乱に陥れた数日後、モディは信託基金「PMケアズ」を創設し、コロナ救済のための寄付金を募集した。それで最貧層に救いの手を差し伸べ、マスクなどの購入や、各地での酸素ボンベ製造プラント増設を目指すことになっていた。

募集から2カ月で10億ドルを超える金額が集まったが、それをモディが何に使ったかは誰も知らない。というか、誰も知り得ない。寄付者に対しては税金上の便宜を図り、政府機関を通じて大々的な宣伝もしたというのに、基金が民間の公益信託として設立されたため、当局による監査の対象にならないからだ。(中略)

死人が街にあふれる現状は彼の無能さ・無謀さをさらけ出しているが、それは彼に民主主義の停止を正当化させる口実を与えるかもしれない。インドの状況は今でも事実上の非常事態に等しいが、この男なら平気で、これを常態化しかねない。

新型コロナウイルスの危機はインド独立以来最大の悲劇だが、それをも自分の利益に変えようとする男。それがナレンドラ・モディだ。【5月12日 Newsweek】
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モディ首相率いるヒンズー教至上主義政党「インド人民党」の政治家の一部は、新型コロナなどの疾病の予防と治療に牛のふんや尿を利用しようという活動を支援しており、それを批判すると「宗教的感情を踏みにじった」容疑で逮捕されます。

****牛ふんのコロナ治療効果否定の活動家、インド最高裁が釈放命令****
インドの最高裁判所は19日、牛のふんで新型コロナウイルス感染症は治療できないとフェイスブックに投稿したとして、扇動の疑いで2か月間拘束されていた活動家の釈放を命じた。
 
ヒンズー教では牛が神聖視されており、ナレンドラ・モディ首相率いるヒンズー教至上主義政党「インド人民党」の政治家の一部は、COVID-19などの疾病の予防と治療に牛のふんや尿を利用しようという活動を支援している。
 
活動家のエレンドロ・レイチョンバンさんは5月、BJPに所属する北東部マニプール州議会議員が亡くなったことについてフェイスブックに、「新型コロナの治療法は牛のふんや尿ではない。科学と常識だ」と投稿した。
 
BJPの政治家がこれを批判。遺族とBJP党員らの「宗教的感情を踏みにじった」容疑でレイチョンバンさんはすぐに、地元ジャーナリスト、キショーレチャンドラ・ワンケムさんと共に逮捕された。
 
レイチョンバンさんには、物議を醸す国家安全保障法で1年の拘束が認められている扇動容疑がかけられた。
 
最高裁は19日、レイチョンバンさんの継続的な拘束は人権侵害に当たるとして、釈放を命じた。ワンケムさんは引き続き拘束される。
 
モディ政権は、ジャーナリストや人権活動家ら数千人を扇動容疑やテロ対策法違反で逮捕している。
 
今月には、テロ容疑で9か月にわたり拘束していた部族権利活動家のスタン・スワミー神父が獄中で死亡し、国連難民高等弁務官事務所などから批判を浴びた。 【7月20日 AFP】
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単にコロナ対策というよりは、モディ政権の民主主義に対する認識が問われる体質の一端でしょう。

【ワクチン1日1000万回を目指す取り組みも】
一方的に批判するだけでは片手落ちでしょうから付け加えると、モディ首相もワクチン接種には積極的に取り組んでいます。ひと月程前のやや古い記事ですが・・・

****一時は感染爆発、インド接種「世界最多」1日861万回…予約不要・戸別訪問で加速へ****
新型コロナウイルスの感染爆発に見舞われたインドが、ワクチンの確保や接種の促進を加速させている。21日の接種回数は861万回を超え、過去最高を記録した。政府は希望者への接種について年内の完了を目指している。

「よくやったインド!」。ナレンドラ・モディ首相は21日夜、ツイッターでワクチン接種回数の記録を評価し、医療関係者らをたたえた。政府は、1日あたりの接種回数としては世界最多だと主張している。

政府は今月に入って、ワクチン接種を強化する策を次々と打ち出している。15日には「接種のための予約は必要ない」と発表した。

これまでは、アプリなどによる予約を国民に求めていた。しかし、都市部では希望者の殺到で予約が取れず、インターネットやスマートフォンの普及が遅れている地方では予約が難しいという問題が生じていた。

インドの地元テレビ局は21日、接種会場で「2か月予約ができなかったワクチンをようやく打てる」と喜ぶ女性の声を伝えた。

人口が密集するデリー首都圏の政府は、医療関係者が45歳以上の未接種者の自宅を訪問し、その場でワクチンを打つ取り組みを月内にも始める予定だ。

インドが確保するワクチンは国産が大半だが、一部は輸入に頼っている。モディ政権は21日から、地方政府の財政負担を減らすため国が国内のワクチン製造会社から購入する割合を増やし、地方への無償分配を始めた。臨床試験中の国産ワクチンについても3億回分の購入を予約した。海外からの調達も増やす方向だ。(中略)

ただ、英オックスフォード大の研究者らの統計によると、ワクチンを少なくとも1回接種した人は、全人口の16%にとどまっている。専門家は、今後の対策が不十分だと今秋にも新たな感染拡大が起きると警告している。【6月23日 読売】
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インド政府は6月1日、7月中旬〜8月上旬に新型コロナウイルスワクチンの接種回数を1日あたり1000万回に増やすと発表していました。(6月2日時点では239万回)

もちろん、1日861万回と言っても、日本の人口の10倍あります。 ただ、最近の日本のワクチン接種のブレーキ状態からすれば、日本政府にも頑張って欲しいところです。

【「超過死亡」の推計によれば、実際死者は発表数字の最大10倍 340万〜470万人】
ところで、5月初旬の感染ピークの頃の「ハエが落ちるように」人が死んでいた状況は目を覆うものがありました。そのたりを物語るものでしょう。

****モンスーンで増水ガンジス川、墓地の遺体露出 新型コロナの犠牲者か****
モンスーンの季節に入ったインドで、ガンジス川が増水し、新型コロナウイルスの感染が急増した時期に亡くなり、川沿いに浅く埋められていた遺体の一部が露出している。
 
北部アラハバード当局のニラジュ・クマール・シン氏によると、ここ3週間で150近くの遺体を火葬しなければならなかったという。「遺体を掘り起こしているわけではなく、水位上昇により露出した遺体を火葬しているだけだ」
 
シン氏はAFPに対し、川沿いの埋葬地は1キロにわたって広がっており、約500〜600の遺体が埋められているとみられると話した。
 
遺体の多くは、国内で新型コロナの感染者が急増し、多くの地域で医療が逼迫(ひっぱく)していた4、5月に新型コロナで亡くなった人だと考えられている。
 
ヒンズー教の伝統的な火葬に必要なまきを買えない一部の家族は、遺体をガンジス川に流したり、川沿いの砂州に埋葬したりしていた。だが、モンスーンの雨により川が増水し、砂が流され遺体が露出している。 【6月27日 AFP】
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当時の混乱状況では、感染者・死者数に関してまともな実態把握ができていたとは到底思えません。

当時の公式発表数字は実態よりはるかに少ないのではという指摘は以前からもありましたが、「超過死亡」の推計に基づき、実際は10倍だったかも・・・とも。

****インドのコロナ死者数、当局発表の最大10倍 推計****
インドの実際の新型コロナウイルス死者数は、当局が報告した約41万4000人の最大10倍に上り、インド独立以来最悪の人道危機となっている可能性があるとする推計が20日、発表された。
 
人口約13億人のインドでは、4、5月に広がった変異株「デルタ株」などの影響で感染が急拡大した。米シンクタンク「世界開発センター」が発表した今回の推計は、インドの新型ウイルス死者数についてこれまで出されたどの推計よりも高い数値となっている。
 
CGDが流行初期から今年6月までのデータを分析した結果、340万〜470万人が新型ウイルスで死亡した可能性が示された。
 
インド当局が報告した死者数は41万4000人以上で、米国の60万9000人、ブラジルの54万2000人に次いで世界で3番目に多い。
 
CGDの報告は、平年を上回る死者数を示す「超過死亡」の推計に基づいている。
専門家らは長らくインドの公式統計を疑問視しており、意図的に間違った報告をしているというよりも、医療体制が逼迫(ひっぱく)していることに原因があると指摘している。 【7月20日 AFP】
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340万〜470万人・・・日本の人口規模に置き換えると40万人程度・・・インドではこの命の重さはどのように認識されるのでしょうか。
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