孤帆の遠影碧空に尽き

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アルメニア  アゼルバイジャンとの紛争でロシアへの不信感 大幅譲歩案も 仲介に動くロシア・欧米

2023-06-02 22:13:06 | 欧州情勢

(【5月29日 テレ朝news】 5月25日 ロシア主導の「ユーラシア経済連合(EAEU)」首脳会議において、アルメニア首相に話をさえぎられ困惑の表情の議長・プーチン大統領)

【アルメニア 「ロシアは助けてくれない」】
ともに旧ソ連のアルメニアとアゼルバイジャンが係争地ナゴルノカラバフ地方をめぐって断続的に衝突を繰り返していることは周知のところですが、軍事的に劣勢にあって多くの支配地を失ったアルメニアとしては、アルメニアと同盟関係にありながら、アルメニアの支援要請に応えず、アゼルバイジャンの攻撃を止めようとしないロシアの対応に強い不満があります。

****アルメニア首相、ロシア主導軍事同盟を批判 防衛義務果たさず****
旧ソ連構成国アルメニアのニコル・パシニャン首相は(2022年11月)23日、対立しているアゼルバイジャンから侵略を受けた際に防衛義務を果たさなかったとして、ロシアが主導する集団安全保障条約機構(CSTO)を非難した。

アルメニア、アゼルバイジャン両国は今年9月、係争地ナゴルノカラバフをめぐって交戦。双方合わせて280人以上が死亡した。

この時、CSTO加盟国のアルメニアは、ロシアに軍事支援を要請。ロシアは集団安全保障条約に基づき、アルメニアが他国に侵攻された場合、同国を防衛する義務がある。

だが、アゼルバイジャンとも緊密な関係を保っているロシアはすぐには支援要請に応じず、CSTOは事務総長を紛争地域に派遣し、状況を分析する作業部会を設置する案を示すにとどめた。

パシニャン氏は首都エレバンで開催されたCSTO首脳会議で、「アルメニアがCSTOに加盟していながら、アゼルバイジャンの侵略を防げなかった事態に失望」したと主張。

「この事実は、アルメニア内外でCSTOのイメージを大きく損ねている」「アゼルバイジャンによるアルメニア侵略へのCSTOの対応について、わが国では意思決定に至っていない」と付け加えた。

会議にはロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領も出席した。【2022年11月24日 AFP】
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ロシアとしては、アゼルバイジャンを支援するトルコと事を構えたくないといったこともありますが、ウクライナで手一杯でとてもアルメニアまでは面倒見きれない・・・というのが本音でしょう。

****「そこまでは手が回らない」──旧ソ連の国々の紛争にはプーチンもお手上げ****
<ナゴルノカラバフ地方のラチン回廊で両国軍の兵士が発砲し、死者が出る事態に。ウクライナ戦争に総力を注ぎ込んでいる今、そこまで対応できないという見方が>

旧ソ連のアルメニアと隣国アゼルバイジャン間の係争地ナゴルノカラバフ地方のラチン回廊で4月11日、両国軍の兵士が発砲し、双方に7人の死者が出る事態となった。

今回の衝突は、2020年に起きた6週間のナゴルノカラバフ紛争の延長線上にある。この紛争はロシアの仲介で停戦に至ったが、火種が全て取り除かれたわけではない。

衝突に先立つ7日にはアルメニアのパシニャン首相がロシアのプーチン大統領と電話会談し、ナゴルノカラバフの状況について協議。

双方で停戦合意を履行することの重要性を確認し合ったとされるが、その直後にアルメニア側に通じる唯一の補給路であるラチン回廊で両軍が衝突した。

ロシアはこれまで、旧ソ連構成国であるアルメニアとアゼルバイジャンに影響力を及ぼそうとしてきたが、ウクライナ戦争に総力を注ぎ込んでいる今、この2カ国の紛争にまで手が回らないとの見方もある。
プーチンにとっては新たな頭痛の種かもしれない。【4月17日 Newsweek】
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アルメニア国内には、“頼りにならない”ロシアを見限って、欧米との関係を強化しようとの声も出ています。

****「ロシアは助けてくれない」 小国アルメニア、西側参加望む声も****
アルメニアの首都エレバンのオペラ座近くで、言語学者のアルトゥール・サルグシャンさんは、ロシアは頼りにできないパートナーであり、アルメニアは他の「同盟国」を探すべきだと語った。

サルグシャンさんは「アルメニアが集団安全保障条約機構を抜け、ロシアの影響下から離れる日を夢見ている」と話した。CSTOはロシアが主導し、旧ソ連諸国で構成される。

宿敵アゼルバイジャンと衝突した時も、「窮地に陥ったアルメニアを、ロシアとCSTOは助けてくれなかった」と、サルグシャンさんは強調した。

1991年のソ連崩壊以降、人口約300万人のアルメニアはロシアの軍事的、経済的支援に依存してきた。国内にはロシア軍の基地があり、ロシア語話者も多い。

しかし今日、多くのアルメニア人が、トルコの支援を受けるアゼルバイジャンからアルメニアを軍事的に守るという責任を縮小しているロシアを、許せないと語る。

昨年12月中旬、アルメニアと係争地ナゴルノカラバフをつなぐ唯一の道路をアゼルバイジャンが封鎖すると、ロシアへの不満はさらに高まった。そのロシアは現在、ウクライナとの戦争で身動きが取れなくなっている。

エレバン在住の英語教師アルピネ・マダリャンさんは「アルメニアは小国だ。本当に支援してくれそうな西側陣営に加わる必要がある」と話した。「CSTOを脱退すべきだ。彼らは助けてくれないし、味方でもない」

アルメニアは今年1月、国内で予定されていたCSTO合同軍事演習の実施を拒否した。ただ、これまでのところ脱退は否定している。行方は不透明で、CSTOを抜ける余裕はないとみる専門家も多い。

6週間で数千人の犠牲を出した2020年秋の衝突の際、トルコはアゼルバイジャンを外交的・軍事的に支援した。一方、ロシアは外交的な介入にとどまり、アルメニアは孤軍奮闘を余儀なくされた。

■「反ロシア感情」の高まる可能性も
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は停戦合意を仲介したが、アルメニアは、数十年にわたり実効支配してきたナゴルノカラバフの一部を失うことになった。ロシアは不安定な停戦を維持するため、平和維持部隊を派遣した。
この停戦合意は、アルメニアでは国辱と受け止められた。

政治アナリスト、ビゲン・ハコビャン氏は「アルメニアのロシアへの信頼度は歴史的な水準にまで低下している」と指摘した。「失望感は極めて強く、いずれ反ロシア感情が高まる要因になり得るほどだ」

別の専門家、ハコブ・バダリャン氏によると、アルメニアのエリート層の大多数は反ロシアだ。

■「実利的な判断」
アルメニア人住民が多数派を占めるナゴルノカラバフ地域では、ロシアの平和維持部隊について、アゼルバイジャンから自分たちを守ってくれる唯一の存在だとみられている。しかし、複雑な思いを抱く人も多い。

匿名を条件にAFPの取材に応じた56歳の男性は「ロシア平和維持部隊の存在は、アルメニア人を皆殺しにし、追放したいと思っているアゼルバイジャン人に対する抑止力となっている」と話した。

ただし、「一つの村と重要な軍事拠点が一晩のうちにアゼルバイジャン軍に制圧されたのを見て、われわれはロシアの誠実さに疑問を持ち始めた」と打ち明けた。

アルメニア・アゼルバイジャン両軍は今も頻繁に衝突している。今月11日には国境沿いで戦闘が起き、両軍合わせて7人の兵士が死亡した。

独立系ロシア人アナリスト、コンスタンチン・カラチェフ氏はAFPに対し、ロシアはアルメニアをめぐり、アゼルバイジャンを支援するトルコとの関係を損ないたくないと考えているとの見方を示した。

カラチェフ氏は「ロシアは実利的な判断からアルメニア側に付かなかった」「いずれにせよ、アルメニアには頼れる国がない」と語った。 【4月22日 AFP】AFPBB News
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【欧米も仲介に動く】
もっとも、仮にアルメニアと欧米の関係が強化されたとしても、欧米がアルメニアに軍を派遣してアゼルバイジャンと戦う・・・ということはないでしょう。

それはさておき、欧米も、目立った成果は出ていないながらも、アルメニア・アゼルバイジャンへの働きかけを行っています。自陣営に手繰り寄せようという思惑でしょう。

****アルメニアとアゼルバイジャン外相、紛争巡り米で会談****
ブリンケン米国務長官は1日、ともに旧ソ連の構成国だったアルメニア、アゼルバイジャンの紛争緩和に向けて両国外相と米首都ワシントンで会談した。

係争地となっているナゴルノカラバフとアルメニアを結ぶ唯一の陸路「ラチン回廊」の起点にアゼルバイジャンが道路検問所を設置したことで、両国関係が再び緊張している。(後略)【5月2日 ロイター】
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****アルメニアとアゼルバイジャン、(5月)14日に首脳会談 EU本部で****
アルメニアのパシニャン首相とアゼルバイジャンのアリエフ大統領が14日にブリュッセルで会談すると、欧州連合(EU)が8日明らかにした。係争地ナゴルノカラバフを巡り、持続可能な平和協定締結と不和解消を目指す。(後略)【5月9日 ロイター】
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【アルメニアのパシニャン首相 踏み込んだ譲歩案】
こうした状況で、アルメニアのパシニャン首相は現住しているアルメニア系住民の安全が確保されるのならば、アゼルバイジャンの主権を認める従来にない踏み込んだ譲歩案を明らかにしています。

*****アルメニア、係争地でアゼルバイジャンの主権容認へ 平和条約に意欲****
タス通信などによると、旧ソ連アルメニアのパシニャン首相は22日、係争地ナゴルノカラバフについて、現住しているアルメニア系住民の安全が確保されるのならば、敵対してきたアゼルバイジャンの主権を認める考えを表明した。アゼルバイジャンとの平和条約締結への意欲も示している。

パシニャン氏は25日、アゼルバイジャンのアリエフ大統領とモスクワで会談を予定しており、関連する問題を協議する。アルメニアとアゼルバイジャンは、6月1日にもモルドバの首都キシナウで話し合う予定。帰属問題を解決し、平和条約を結べば、地域の緊張緩和に寄与するのは確実だ。

アルメニアとアゼルバイジャンは、共にソ連の共和国だった時代からナゴルノカラバフの帰属を巡って衝突を繰り返してきた。近年はアゼルバイジャンが優位な状況を築いていることから、パシニャン氏は同地に住むアルメニア系住民の安全を第一にして、譲歩を検討している模様だ。

ソ連時代のナゴルノカラバフはアルメニア系住民が多数派を占めたが、アゼルバイジャン共和国の管轄下に置かれた。1980年代末期になると、同地のアルメニア系住民がアルメニア共和国への編入を要求。アルメニアとアゼルバイジャンの衝突に発展し、推定で1万8000人超の死者を出した末に、アルメニアがナゴルノカラバフで実効支配を確立した。

一方で2020年秋に再発した衝突では、アゼルバイジャンが有利に戦闘を進め、ナゴルノカラバフの一部地域の支配権を回復した。この時はロシアが仲介役となり、現地に平和維持部隊を派遣するなどして事態を収拾させた。

しかし、現在はウクライナで続ける「特別軍事作戦」に注力していることもあり、ナゴルノカラバフ紛争で重しの役割を担いにくくなっていた。【5月23日 毎日】
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アルメニアのパシニャン首相としてはロシアに期待できないので、西側の支持を得て、独自の「解決」を図ろうとする考えでしょうか。
あるいは、ロシアに対する「ロシアが本気で動かないなら、アルメニアはもはやロシアを見限る」という“アピール”でしょうか。
アルメニア国内で、このような「譲歩」が容認されるのでしょうか。

アルメニアのパシニャン首相とアゼルバイジャンのアリエフ大統領は5月25日、両国関係の正常化に向けてモスクワで協議し、1週間以内に副首相級会合を開くことで一致しています。

【プーチン大統領の話をさえぎるアルメニアのパシニャン首相 両国の副首相が2日にモスクワ、外相が12日にワシントンで会談 7月にはEU仲介の会談】
ロシアとしては、ロシア主導で関係正常化をまとめたい思いです。

****関係正常化へ副首相会合 アゼルバイジャンとアルメニア****
南カフカス地方の旧ソ連構成国、アルメニアのパシニャン首相とアゼルバイジャンのアリエフ大統領は25日、両国関係の正常化に向けてモスクワで協議し、1週間以内に副首相級会合を開くことで一致した。

両国は係争地「ナゴルノカラバフ自治州」の帰属を巡って30年間以上にわたり対立してきた。平和条約の締結に向けた動きが加速するかが今後の焦点となる。

協議はロシアのプーチン大統領が仲介し、協議にも同席した。南カフカス両国の関係正常化問題では、米国や欧州連合(EU)も仲介作業を進めてきた。

ロシアはこの問題で主導権を握り、「勢力圏」とみなす旧ソ連地域で欧米の影響力が強まるのを防ぎたい考えとみられる。

会合に先立つ22日、パシニャン氏は「アルメニア系住民の安全が保障されることを条件に、アルメニアはナゴルノカラバフ自治州がアゼルバイジャン領であることを認める」と表明。関係正常化に向け、条件付きながらも「譲歩」に応じる姿勢を示していた。

関係正常化に向けた焦点は、同自治州内のアルメニア側実効支配地域とアルメニア本国を結ぶ唯一の陸路「ラチン回廊」の封鎖問題だ。アルメニアは、アゼルバイジャンが2020年の停戦合意に反して回廊を封鎖し、物資輸送を妨害していると非難。アゼルバイジャンは封鎖を否定している。

プーチン氏は25日の協議で、回廊を巡る問題は「純粋に技術的なもので解決可能だ」と指摘。1週間以内にロシアを含む3カ国で副首相級会合を開くことを提案し、パシニャン、アリエフ両氏も同意した。

協議に先立って25日にモスクワで開かれた露主導の「ユーラシア経済連合(EAEU)」首脳会議の場でも、パシニャン、アリエフ両氏は関係正常化への意欲を表明した。

パシニャン氏が「譲歩」を示したのは、和平機運がアルメニア国民内に高まっていることなどが理由とされる。ただ、野党勢力は同氏の姿勢を「敗北主義」と批判。自治州内のアルメニア人系勢力も同氏に批判的で、関係正常化に向けた道筋は平坦(へいたん)ではない。(後略)【5月26日 産経】
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そのたロシア主導の「ユーラシア経済連合(EAEU)」首脳会議においては、アルメニアとアゼルバイジャンの両首脳が議長を務めるプーチン大統領の目の前で口論を繰り広げ、ロシア側の面目をつぶすような一幕もあったようです。

****プーチン大統領の面前で“口論” 旧ソ連首脳…話を遮ってまで批判した理由*****
(中略)
■プーチン大統領…両国に“自制”呼び掛け
プーチン大統領の目の前で論争が繰り広げられたのは25日、ロシアのモスクワで開かれた旧ソ連諸国の首脳が集まって行われた「ユーラシア経済同盟」首脳会議での出来事だった。

プーチン大統領:「『ユーラシア経済同盟』首脳会議の開催にあたり…」

アルメニア パシニャン首相:「お話し中、失礼します。一言言わせて下さい。ロシアの平和維持部隊が道路を管理すべきだが、アゼルバイジャン側が違反して封鎖しました」

アルメニアのパシニャン首相が、プーチン大統領の話をさえぎったのだ。(中略)

なぜ、パシニャン首相は、プーチン大統領の話をさえぎってまで、アゼルバイジャンの批判をしたのか?
旧ソ連の紛争に詳しい慶應義塾大学の廣瀬陽子教授は、「(中略)ロシアは解決に動かず仲介役を放棄していて、今回、プーチン大統領の話をさえぎるという形で抗議の姿勢を見せたのでは」と分析している。【5月29日 テレ朝news】
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アゼルバイジャンによる道路封鎖を非難するアルメニアのパシニャン首相に対し、アゼルバイジャン・アリエフ大統領は「いいがかり」だと反論。

困ったプーチン大統領は、“「ロシアも例の方面(ウクライナ)で紛争が起きています。我々全員が紛争の解決に利害関係を有しているに違いありません」  ロシアがウクライナに侵攻した件を持ち出して、両国に自制を呼び掛けた。”【同上】
両首脳はEU仲介で1日にモルドバで会談。上記「副首相会合」を含めた直近の情勢としては以下のように。

****ブリュッセルで7月再会談=アルメニア・アゼルバイジャン首脳****
係争地ナゴルノカラバフを巡って対立するアルメニアのパシニャン首相とアゼルバイジャンのアリエフ大統領が1日、モルドバで会談した。

仲介した欧州連合(EU)のミシェル大統領によると、双方は7月21日にブリュッセルで再び会談することで一致した。モルドバでの協議はミシェル氏と独仏首脳を加えた5者で行われ、各国の仲介努力が活発化している。
アルメニアのメディアが伝えたパシニャン氏の説明によると、両国の副首相が2日にモスクワ、外相が12日にワシントンで会談する。【6月2日 時事】 
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ロシアに加えて、アメリカ・EUの仲介も。ロシアとしては何とか自国主導でまとめたいところでしょう。
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