孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツ  人事・資金スキャンダルで揺れる緑の党 そのエネルギー政策に批判も 支持を広げる極右

2023-06-12 22:41:59 | 欧州情勢

(【6月8日 日経】)

【緑の党 縁故主義人事、資金の流れに関する疑惑で人気低迷】
ドイツのショルツ政権は、ショルツ首相率いる中道左派の社会民主党(SPD)、環境政党の緑の党、中道リベラルの自由民主党(FDP)の3党による連立政権ですが、最近「緑の党」の評判はよろしくないようです。

****ショルツ与党が第1党=緑の党低迷―独ブレーメン州議選****
ドイツ北部ブレーメン州で14日、州議会選挙が行われた。ショルツ首相率いる中道左派・社会民主党(SPD)が、中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)から第1党を奪還する見通しとなった。

一方、連立与党の緑の党は議席を減らす方向。暖房に関する新たな環境規制などが反発を呼んでおり、支持率が低迷している。

同日深夜の開票速報によると、SPDは3割弱の得票を固めた。大敗した2019年の前回選挙からは持ち直したものの、戦後2番目の低い水準にとどまっている。CDUは約26%とほぼ横ばい。緑の党は12%弱で、5ポイント超下げた。【5月15日 時事エクイティ】
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緑の党が低迷しているのは、ひとつは党のボスであるハーベック副首相兼経済・気候保護相とその右腕だったグライヒェン事務次官周辺の縁故主事的人事や環境政策に流れ込む巨額の資金に関する疑惑のためです。

****ドイツ経済・気候保護省スキャンダルで注目される「環境ロビーネットワーク」の闇の実態****
目に余る縁故採用の実態
ドイツで人気絶頂だったロベルト・ハーベック経済・気候保護相(緑の党)の人気が、真っ逆さまに墜落している。長らく政治家の人気ランキングでは1位だったのに、5月初めには13位。

5月17日、ようやく自分の右腕だったパトリック・グライヒェン事務次官(51歳)を更迭したが、これもいささか遅すぎた。グライヒェン氏というのは、今回、経済・気候保護省を襲っているスキャンダルの“主役”である。  

日本ではまだあまり報道されていないが、ここ数週間、このグライヒェン氏の目に余る縁故採用の実態が大問題となっている。  

たとえば、経済・気候保護省の管轄下にある連邦エネルギー庁の長官に彼が推薦したのが、自分の結婚の時の証人であるミヒャエル・シェーファー氏。それも、この重要な人事は公募ではなく、最終的に候補者はシェーファー氏一人だけで、しかもグライヒェン氏が選考に加わったという。 (中略)

これがまもなくさらに大スキャンダルに発展していったのは、他にもおかしな縁故人事がたくさん報道され始めたからだ。  やはり経済・気候保護省の事務次官の一人であるミヒァエル・ケルナー氏は、グライヒェン氏の妹の夫で、しかも、妹、ヴェレーナ・グライヒェン氏自身は、BUNDという環境NGOの最高幹部の一人だった。  

BUNDはベルリンに本部を持つ会員58万人の巨大な環境NGOで、2014年から19年の6年間に公金から受けた補助金の総額は2100万ユーロ(現在のレートで約29.4億円)に上る。  

また、グライヒェン氏の兄弟のヤコブ・グライヒェン氏は、エコ研究所の幹部。こちらはフライブルクに本部を持つ強力な環境シンクタンクで、環境省に政策提言をしている。(中略)

「アゴラ・エネルギー転換」の闇
ドイツの主要メディアには緑の党のシンパが非常に多いと言われる。だから、これまでほとんどのメディアは、緑の党、および社民党が主導する過激で、時には無意味な環境政策も、抜本的に検証するような記事は書かなかった。 

そんな彼らが今、一番、気にしているのは、このスキャンダルのとばっちりが、環境シンクタンク「アゴラ・エネルギー転換」に行くかどうかということだろう。  

現在のNGOは、巨悪に立ち向かう弱小な組織などではなく、世界的ネットワークを持ち、政治の中枢に浸透し、巨大な権力と潤沢な資金で政治を動かしている強大な組織だ。そして、ドイツでその中枢にいるのが、“アゴラ・エネルギー転換”である。  

“アゴラ・エネルギー転換”は、2012年の創立の時から、当時の経済・エネルギー省と密接な関係を持っており、人材の行き来も盛んだった。シンクタンクというよりも、まさに巨大なロビー組織だ。 問題のグライヒェン氏も、経済・気候保護省に抜擢される前は、“アゴラ・エネルギー転換”の局長だった。  

今では、アゴラは、“アゴラ・交通転換”、“アゴラ・農業”、“アゴラ・インダストリー”、“アゴラ・デジタル・トランスフォーメーション”と、全ての部門でCO2削減を掲げつつ、政策を牛耳っている。  

35年からのガソリン車・ディーゼル車の販売禁止も、今後、農地が縮小されることも、もちろん、風車が倍増されることも、こういうロビー組織の活動の賜物だ。

掌を返すメディアの露骨な印象操作
それにしてもすごいのは、今や、経済・気候保護省、外務省、環境省、農林省などが全て緑の党の手に落ち、その政策を進言している組織が、やはり緑の党の支配するロビー団体となってしまっているという事実だ。  

しかも、政府はそれらに助成金を出しており、いわば、持ちつ持たれつの関係でもある。(後略)【5月19日 川口 マーン 惠美氏 現代ビジネス】
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今や環境政策には巨額の資金が投入されています。

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環境政策と言えばクリーンなイメージがあるが、G7各国ではどこでも環境利権がすでに経済の各分野に根を張っている。緑の党が連立政権に加わるドイツでは、その金額も桁外れだ。

昨年、オラフ・ショルツ首相(社会民主党)の三党連立政権は、「気候変革基金」の創設を決めた。予算規模は今年から二〇二八年までの四年間で、約一千八百億ユーロ(約二十七兆円)という莫大なものになる。

この全額は、岸田文雄首相が大規模軍拡に踏み切る前の、日本の防衛費の五年分(二十七兆円)とほぼ同じだ。【「選択」6月号 “ドイツ緑の党の「黒い真実」”】
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“市民運動のプロ集団が、巨額の予算を差配する立場になり、右往左往しているのだ”【同上】とも。

縁故主義人事にしても、最も信頼できる者で巨額予算官庁トップを固めたかった・・・ということの結果なのでしょう。

【自然エネルギー重視政策のひずみ 「脱原発」維持の一方で、化石燃料に頼りCO2排出は増加】
緑の党が低迷しているのは、もうひとつの理由は、その存在意義でもある環境政策・エネルギー政策の中身に関する疑問です。

ドイツを長く率いてきたメルケル前首相の「脱原発」については、出身政党のキリスト教民主同盟(CDU)からは疑問の声が出ていますが、政敵である緑の党は「他に類をみない」と擁護している・・・という状況。

****メルケル前首相に最高勲章=対ロシア・脱原発で批判も―ドイツ****
ドイツのメルケル前首相に17日、任期中の功績をたたえ、首相経験者に対する最高位の功労勲章が授与された。

独メディアによると、これまでの受章者は戦後ドイツの立役者であるアデナウアー、コール両首相のみ。世界史に名を残す偉人と肩を並べたが、国内ではロシア依存や脱原発が「負の遺産」として語られるなど評価が揺れている。

メルケル氏は2005〜21年の首相在任中、欧州の債務危機への対応や移民受け入れなどで指導力を発揮。国際社会で存在感を示した。受章演説では「意見の違いがあっても、常にうまく協力しようとしてきた」と振り返った。

しかし最近では、メルケル氏が主導したロシア産天然ガスの調達事業や脱原発への回帰がエネルギー危機をもたらしたとして、出身政党のキリスト教民主同盟(CDU)からも、当時の政策は「間違いだった」と非難の声が上がる。一方、政敵である緑の党から「他に類をみない」と擁護論も。評価が定まるまで時間がかかりそうだ。【4月18日 時事】 
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緑の党は「脱原発」を維持するために、自然相手で調整が難し風力・太陽光エネルギー調整を化石燃料で行い、結果、CO2が増えるということにもなっています。

****ドイツ「風車大増設計画」の危うすぎる中身…ハーベック経済・気候保護相はどんな風景を夢見ているのか****
経費は国民が電気代で負担
5月23日、ロベルト・ハーベック経済・気候保護相(緑の党)が「陸上風力戦略」なるものを発表した。
ドイツでは、風力は再エネの中では比較的頼りになる電源として、政府の期待を一身に背負っており、すでに陸海合わせて3万本近い風車が立っている。

しかし、実は、風車の新設は、2017年のピークを境に年々減っていた。
そこでハーベック氏は、新政府の経済担当の大臣に就任してまもない22年初頭、風車建設のピッチを上げることを宣言。

今回の新目標はそのダメ押しのようで、陸上風力の設備容量を30年に115GWに、35年には160GWに増やすという。現在の風力発電の設備容量は58GW弱なので、今年から毎年10GW近くの新設が必要になる。(中略)

つまりドイツでは、風車が3万本近く立っている現在でも、全発電量における風力電気の割合は9%ほど。というか、風車はたとえ10万本あっても、そもそも風がなければ発電はゼロだ。

しかし、その反対に、全国的に適度な風が吹いた場合には、3万本近い風車が突然、能力をフルに発揮するため、何十基もの原発にスイッチが入ったような状態になる。その場合、送電線を保護するため、過剰な電気は急遽、どこかに流さなければならない。

そこで、安価で、時にはマイナス価格で外国に出すことになるが、それでも捌けない場合は、発電事業者に補償を払って風車を止めてもらう。どちらの経費も最終的に国民が電気代で負担する。(中略)

緑の党の目的は「CO2削減」ではなかった
ただ、風車をどんどん増やせば心置きなく火力を停止できて、緑の党の思い描いているような再エネ100%の理想社会に近づけるのかというと、そうはいかない。一番のネックは、当たり前のことだが、風を人間がコントロールできないこと。

直近では21年、風が非常に弱く、折りしもドイツは、原発、石炭、褐炭による発電を軒並み減らしていた最中だったので、必然的にガスに需要が集中した。

その後のウクライナ戦争で、ガスの逼迫、および高騰が顕著になったが、実は、それらはもっと前から始まっていたのだ。かといって、将来の有望な電源と目される水素は、掛け声だけは勇ましいが、まだ商業ベースには程遠い。

そこで、ハーベック氏の「陸上風力戦略」なるものが出てきたわけだが、何のことはない、風のない時は褐炭や石炭を焚き増すのだから、今や、ドイツはポーランドと並んで、EUで一番CO2排出の多い国になってしまった。しかも、ポーランドは現在、原発の建設に前向きなので、そのうち、ドイツだけが置いてきぼりになる可能性は高い。

原発を再エネで代替することが無理だというのは、皆がわかっていたことだ。だから今、化石燃料で代替しているのだが、これでCO2が増えることも、もちろん皆がわかっていた。

CO2の削減が目的なら、先に石炭から止めていき、原発と再エネで釣り合いを取りつつ、本当に原発を代替できるクリーンな電源や技術を、時間をかけて開発していくべきだった。結論として、緑の党の目的は、CO2の削減ではなかったということだ。(後略)【6月2日 川口 マーン 惠美氏 現代ビジネス】
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冒頭記事にもある“暖房に関する新たな環境規制”も不評。

****ヒートポンプ式暖房を巡る謎の法案****
なお、人気絶頂だったハーベック氏が急に落ち目になっている背景には、実は、もう一つ、大きな理由がある。ハーベック氏が夏までに強引に通そうとしている法案(建造物エネルギー法)、通称「暖房法案」のせいだ。  

これは、来年2024年よりガスと灯油の暖房器具の販売を禁止し、徐々に電気のヒートポンプ式の暖房に切り替えることを国民に強制する法律で、従わない場合は年間5000ユーロ(約70万円)の罰金という項目まで入っているというので、ドイツ国民は驚愕した。  

ヒートポンプは日本のエアコンに使われている技術(筆者注:電力を使って大気中の熱を集めて移動させる技術)で、最近は給湯器や床暖房にも普及している。ただ、ドイツの家庭の暖房設備は家全体を暖める大掛かりなもののため、これをヒートポンプでやろうとすると、床暖房となるらしい。  

ヒートポンプはまだ、ドイツでは普及しておらず、そうでなくても高価な上、床暖房となると当然、床を剥がすため、工事費が膨大だ。

ようやく家のローンを払い終えて年金生活に入った人たちが、高価な暖房設備を購入し、大規模リフォームをするなど非現実的だし、年金生活者でなくても負担が大きすぎて、最悪の場合、家を手放さなければならなくなるかもしれない。  

また、家主にとってもすごい出費で、それが家賃に反映されれば借家人も困窮する。  将来、暖房がだんだん電化されていくことはわかる。

しかし、なぜ、今、国民に多大な負担をかけてまで、これほど急激にヒートポンプに取り替えなければならないのかの説明が全くない。全て惑星を救うためと言われても、国民の財力には限度がある。  

しかも、まだ、電気を作るのに石炭やガスを燃やしているのだから、CO2の削減にも役立たない。それどころか、これは、政府による自由市場への介入であり、ひいては国民の自由の制限である。そして興味深いことに、この法案の生みの親もやはりグライヒェン氏だ。【5月19日 川口 マーン 惠美氏 現代ビジネス】
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【反移民・反グリーンで勢力伸ばす極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」】
低迷する緑の党と対照的に支持を拡大しているのが、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」で、緑の党の環境政策への不満の受け皿にもなっています。

****ドイツ極右政党、反移民・反グリーンで勢力伸ばす****
ドイツで反移民を訴える極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が世論調査で支持を伸ばし、主要政党が警戒を高めている。移民の阻止を訴え、環境保護(グリーン)政策にはコストがかかると批判することで、ドイツ東部3州の選挙で勝利を収める勢いだ。

全国世論調査では、AfDの支持率は17−19%と過去最高に近い数字で、調査によってはショルツ首相の社会民主党と2位を争う位置にある。10.3%の得票を確保した2021年の選挙の時点では第5位だった。

AfDがこれほどの支持率を記録したのは、欧州移民危機発生後の2018年以来となる。今回、ナショナリズムと反移民を掲げるAfDとしては、ショルツ首相率いる3党連立政権の内輪揉めにも乗じた格好だ。

極右政党は欧州各国で勢力を広げつつある。フランスでは選挙での対立候補として以前より強力になり、イタリアとスウェーデンでは連立与党として政権に加わっている。

とはいえ、ナチスという過去を持つドイツにとって、AfDの台頭は特に神経を使う問題だ。同党は移民流入の多さやインフレの高進、費用のかかる「グリーン移行」政策をめぐって現政権を激しく批判している。

ドイツの情報機関である連邦憲法擁護庁は、AfDの青年組織を「過激派」と認定し、「人種差別的な社会概念」を広めているとしている。また同庁トップは、対ロシア制裁に反対するAfDが、ウクライナ情勢に関するロシア側のプロパガンダを流布することに協力したと批判している。

ドイツの主要政党はAfDとの協力を拒否して同党を政権から締め出してきたが、AfDの批判者は、AfDがドイツの政界主流をさらに右寄りに引きずるのではないかと懸念している。

デュッセルドルフ大学で政治学を研究するステファン・マーシャル氏は、「移民などの課題をめぐる論調がとげとげしいものになっている」と語る。

移民問題はドイツの政治課題の中で比重を高めつつある。東部ザクセン州のミヒャエル・クレッチマー州首相は中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)出身だが、先週、移民の数が「多すぎる」と述べ、難民受け入れ数の制限と、給付の削減を訴えた。

<グリーン移行のコストは>
(中略)またAfDは人類の活動が気候変動の原因になっているとすることに異議を唱えており、化石燃料からの脱却に伴うコストに関する一部有権者の懸念も利用してきた。

AfDのティノ・クルパラ共同党首によれば、ショルツ政権の連立パートナーであり、化石燃料からの移行の加速を要求している緑の党の政策が、「経済戦争やインフレ、脱工業化」をもたらすと評価する有権者が増加しているという。 「緑の党のような危険な党と連立を組むことのない政党は、私たちAfDだけだ」とクルパラ氏は言う。

2024年に州議会選挙が行われるドイツ東部のチューリンゲン州、ザクセン州、ブランデンブルク州では、AfDが初めて第1党になろうとしており、世論調査では23−28%の支持を集めている。

アナリストによれば、旧東独地域では有権者の支持政党があまり固まっておらず、AfDを受け入れる余地がある。統一から30年経った現在も旧東独地域の低所得傾向は続いており、その責任は長年にわたって政権交代を繰り返してきた主要政党にあると有権者が考えていることも理由の一端だという。

連立政権から排除されているとはいえ、AfDの台頭は他党の票を奪っており、州と国政双方のレベルで連立がより不安定にならざるをえない。AfDの支持が最も高い旧東独地域では、それが顕著だ。

<不満のうねり>
マンハイム大学で政治学を研究するマルク・デブス氏によると、一部の有権者たちのあいだでは、特に保守政党は左派と協調するのではなく、正式な連立には至らないまでも、もっとAfDとの連携を強めるべきだという声が強まる可能性があるという。(中略)

他方で、AfDは複数の危機が一時的に重なったことに伴う不満の高まりに便乗しているだけだという見方もある。インフレもすでに峠を越え、ロシアによるウクライナ侵攻に伴い冬季に急騰したエネルギー価格も落ち着いてきた。

ショルツ政権のウォルフガング・ビューヒナー報道官は、同政権はAfDへの支持を徐々に抑え込んでいけると確信していると語る。 「ショルツ首相は、私たちが良い仕事をしてドイツの問題を解決していけば、この件について心配する必要がなくなる日もそう遠くないと楽観している」と、同報道官は話した。【6月10日 ロイター】
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