孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

北朝鮮  都市部でも餓死者 1990年代の大飢饉「苦難の行軍」以降で最悪の食糧難

2023-06-18 22:56:57 | 東アジア

(北朝鮮のチョンサム協同農場。畑にある金日成と金正日のプロパガンダ・フレスコ画【5月24日 現代ビジネス】)

【都市部でも多くの餓死者が】
餓死者が出るほどの食糧不足・市民生活の困窮のなかで続けられるミサイル・衛星の発射実験・・・日本的感覚では「異常」としか言い様がありませんが、北朝鮮・金政権は核・ミサイル技術の開発によってアメリカや韓国が手だしできない状況をつくり、より有利な国際環境をつくることを政権存続の基盤としているのでしょう。彼らなりの「合理性」の結果でしょうか。

国民の疲弊・不満は力で封じ込めることができる・・・・ということでしょうが、そこには限界もあるでしょう。

北朝鮮の食糧不足は今に始まった話ではなく、毎年繰り返し報じられているものではありますが、最近の食糧事情は都市部でも餓死者が出るなど、これまでになく厳しいと言われています。

****「都市部で多くの餓死者」北朝鮮の食糧不足の深刻さ 専門家が解説**** 
朝鮮半島の情勢に詳しい龍谷大学社会学部教授の李相哲氏が6月12日、ニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」に出演し、辛坊と対談。北朝鮮の最新情勢について、「都市部で多くの餓死者が出ている」と解説した。(中略)

辛坊)北朝鮮の飢餓は現在、どのような状態なのでしょうか。
李)北朝鮮と海外の間で交わされている電話などから、食糧不足の一端が分かります。例えば、北朝鮮から海外にいる親戚や脱北者に対し、欲しい物を伝える際のしゃべり方から、逼迫の度合いが分かるのです。最近では公の報道によって、都市部で多くの餓死者が出ていることが伝えられています。(中略)

トウモロコシの値段が何倍も跳ね上がっているのです。トウモロコシの値段はコメよりはるかに安いため、皆がトウモロコシを買おうと殺到します。しかし、供給量が少なく、さらに値段が高騰しているため、手に入りにくい状態です。これが、北朝鮮の食糧難が深刻であるという1つの指標になっています。(中略)

北朝鮮の都市部には、在外中国人である華僑も暮らしています。北朝鮮の華僑は裕福と思われているのですが、その華僑が飢え死にしたというニュースもありますから、飢餓状態はかなり深刻だといわれています。(中略)

韓国の発表では、5月31日の北朝鮮による「軍事偵察衛星」と称する飛翔体の打ち上げにかかった費用は、北朝鮮の国民約2500万人全員が10カ月食べられるコメが買える金額に相当するとされています。それだけのお金を使って発射したものの、失敗しました。北朝鮮は馬鹿げたことをやっています。【6月12日 ニッポン放送 NEWS ONLINE】
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2月8日ブログ“北朝鮮 餓死、絶望からの自殺、凍死、格差・・・理不尽な現実 それでも「金王朝」は続く”では、比較的裕福な地方都市と見られている開城でも餓死者・自殺者が相次いでいることも取り上げました。

****北朝鮮、食料難が深刻化か 開城で餓死者続出と報道****
韓国の聯合ニュースは6日、北朝鮮南西部の開城市で食料事情が悪化し、1日数十人が餓死しているとの消息筋の話を伝えた。開城は生活水準が比較的高いとされる地方都市で、事実なら食料難が全国で深刻化している恐れがある。

聯合は昨年末に金正恩朝鮮労働党総書記の指示で穀物の生産と流通の統制が強まり、住民の食料調達に重大な問題が生じているとした韓国政府の分析を伝えた。

北朝鮮メディアは6日、朝鮮労働党の重要会議、党中央委員会拡大総会が2月下旬に招集されると伝えた。農業問題を討議するとしており、食料難への緊急対処を目的に開かれる可能性がある。【2月6日 共同】
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【「ロシア産小麦粉」が出回り、多少の安堵感も】
北朝鮮指導部の対応の結果でしょうか、ここにきてロシア産小麦が大量流通し、“多少の安堵感が流れている”という報道もあります。

****餓死者発生の北朝鮮に大量流通し始めた「ロシア産小麦粉」****
ただでさえ深刻な食糧不足にあったところに、前年の収穫の蓄えが底をつく「ポリッコゲ」(春窮期)を迎えた北朝鮮。各地からは深刻な飢えの状況が伝えられている。子どもたちは学校にも行けず、家族のために毎日山に入って山菜採りを余儀なくされる事態に。

一方で当局は、穀物輸入を盛んに行っていると伝えられている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、5月中旬から新義州(シニジュ)一帯で中国から輸入されたと見られる小麦粉が多く出回っていると伝えた。

2キロ入りの袋で、表面にはロシア語と中国語の表記がある。製造はロシアのノボクズネツク小麦粉工場、輸入は泰和翔(大連)供給鍵管理有限公司となっている。中国経由で輸入されたロシア産の小麦粉で、賞味期限は生産日から12カ月となっているが、日付は記載されておらず、どれほど古くなったものかわからないと情報筋は述べた。

販売は国営の糧穀販売所で行われているが、1キロあたり8000北朝鮮ウォン(約128円)。今年1月、2月に売られていた小麦粉と比べて1000北朝鮮ウォン(約16円)安くなっている。その当時、コメは4500北朝鮮ウォン(約72円)、トウモロコシは2000北朝鮮ウォン(約32円)で、小麦粉にはとても手が出せなかった。

ポリッコゲで食糧価格の高騰と飢餓が広がることが懸念されていたが、小麦粉が出回るようになったことで、多少の安堵感が流れているという。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋も、清津(チョンジン)市内の各区域の糧穀販売所で、同じロシア産の小麦粉が販売されていると伝えた。これに伴い、市場の小麦粉の価格も下落した。

この小麦粉がどのような経緯で、いつ、どこから輸入されたかは詳らかでない。
「中国とロシアが共同で支援したのか、わが国(北朝鮮)が主導して輸入したのかわからない。しかし、輸入小麦粉が出回るようになって価格が下落し、ほとんどの住民は胸をなでおろしている」(情報筋)(中略)

北朝鮮では今、ひどい地域だと、人民班(20〜40世帯)の数世帯が餓死するほどの事態になっていると伝えられる。農村での田植えや建設現場への動員にも深刻な影響が出ており、社会的な不満も溜まっている。

コメや小麦粉を大量輸入することで価格を下げ、不満を抑えると同時に、「国営米屋」の糧穀販売所で販売することで、穀物流通や価格決定の主導権を国の手に取り戻そうとする意図があるものと考えられる。

ただ、この手の輸入は、急場をしのぐための一過性のものに終わることが多く、人為的な価格引き下げがいつまで可能かはわからない。【6月1日 デイリーNKジャパン】
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餓死に直面している者に、米の2倍近い、トウモロコシの4倍ほどの値段の小麦を買う余裕があるのか・・・そこらはわかりませんが、社会全体の需給バランスを改善するのには役立つでしょう。継続できればの話ですが。

【強権支配社会秩序の“ほころび”】
国民の疲弊・不満を力で封じ込める社会体制にも“ほころび”が見えるとの報道も。

****「報復殺人」で警察官70人が犠牲も…金正恩体制の“秩序崩壊”****
暴言、暴行、そしてワイロ要求など、その横暴な振る舞いから、国民の怨嗟の的となっている北朝鮮の安全員(警察官)。

しかし、彼らとて気楽に過ごしているわけではない。恨みを買った安全員が報復される事件が多発しているからだ。韓国のリバティ・コリア・ポスト(LKP)によると、1年間に全国で安全員に対する報復と見られる殺人事件が70件超も起きた例もある。

最近、同様の事件がまた起きたが、市民が同情を示すことはないと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

両江道(リャンガンド)の情報筋によると、事件が起きたのは今月6日午後2時ごろ。恵山(ヘサン)市の外れにある春洞(チュンドン)の洞事務所(末端の行政機関)前で、町内在住のチェさんが、春洞分駐所(派出所)の安全員2人と出くわした。チェさんは町内で有名なガソリン商人。安全員とも顔見知りだった。

3人はしばらく立ち話をしていたが、何があったのか口論となった。1時間ほどしてチェさんはその場を立ち去ったが、安全員はそのままその場に立っていた。

すると20分後。体格の良い6人の兵士が突如として現れた。そして、石で安全員の頭部を殴りつけ、倒れたところをメッタ蹴りにし、その場から去って行った。その間、わずか1分ほどのことだった。

騒ぎを聞きつけた洞事務所の職員が飛び出してきたところ、頭から血を流し、動けないほどの大怪我を負った安全員が倒れていた。

野次馬が倒れた安全員を取り囲んでいるところに、チェさんが両手にガソリンの入った一斗缶を持って現れた。血を流して倒れている安全員を見た彼は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で「一体何が起きたんだ?」と叫んだという。

別の情報筋によると、暴行を受けた安全員は肋骨を折る大怪我を負って14日の時点でも入院している。チェさんは、ワイロとしてガソリン30キログラム(40.2リットル)を要求した安全員を痛めつけるために、兵士6人を雇ったようだ。恵山市安全部(警察署)に逮捕されたチェさんは、取り調べで容疑を強く否認している。また、兵士6人の身元もわかっていない。

通常、安全員に大怪我を負わせて逮捕された場合、取り調べの過程で、他の安全員から報復として激しい暴行を受ける。それを知りつつも、大胆な報復劇を繰り広げたチェさんには、何かやらかしても庇護してくれる地方政府の幹部との強力なコネがあったのだろう。

ただ、かつての北朝鮮であれば、いくら幹部とコネがあるからと言っても、市民が安全員に半ば公然と集団暴行を加えることなど出来なかった。現在の北朝鮮ではそれだけ、金正恩体制の権威失墜が著しいということなのかもしれない。

安全部も、事件の発端は安全員のワイロ要求と知って、事件の話の拡散を抑えることに必死になっているとのことだ。しかし、話はあっという間に広がり、市民は「痛快だ」「スッキリした」とのリアクションを示している。

「もし戦争が起きたら、人々はまず保衛員(秘密警察)と安全員から『消す』だろう」(別の情報筋の友人)
やりたい放題をしてきた権力に対する、北朝鮮国民の恨みは深い。【6月17日 デイリーNKジャパン】
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賄賂をめぐる安全員(警察官)とのトラブルと言えばそれまでの話ですが、国民が政権に批判の声をあげるとき、先ずそのきっかけとなるのは、権力システムの最前線で国民に対峙する安全員(警察官)みたいな存在と国民の衝突でしょう。

【1990年代の大飢饉「苦難の行軍」以降で最悪の食糧難】
いずれにしても、現在の北朝鮮は“1990年代の大飢饉「苦難の行軍」以降で最悪の食糧難”と言われています。

****「苦難の行軍」以降で最悪…北朝鮮の食糧難、口揃える専門家たち****
北朝鮮は今、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」以降で最悪の食糧難に突入していると言われている。そのきっかけとなったのは、新型コロナウイルスの国内流入を防ぐために2020年1月、国境を封鎖し、すべてのモノと人の行き来を止めたことだ。

食糧難は年を追うにつれ悪化し、各地からは窮状を伝える情報が寄せられている。英国BBCは、デイリーNKの協力で、3人の内部情報筋とのインタビューを行った。

首都・平壌に住むジヨン(仮名)さんは、知り合いの一家3人が餓死したと証言した。
「3日にわたって人の出入りがなかった。それで水を届けようとドアをノックして入れて欲しいと声をかけた。しかし、返事はなかった」

北朝鮮の中では非常に優遇されている首都・平壌ですら餓死者が出るのは、食糧事情がいかにひどいかを示している。

ジヨンさんは、なんとかして2人の子どもに食事を与えようと頑張っているが、2日間何も食べられなかったこともあり、寝ている間に死んでしまうかもしれないと思ったという。また、平壌の路上では、多くの人が物乞いをするという今までになかった状況となっている。

「多くの人が路上で物乞いをしている。中には横たわっている人がいるが、確かめてみると多くが事切れている。自宅で命を絶つ人もいれば、山に入って行方をくらますひともいる。こんなことは今までに聞いたことがない」

また、監視と取り締まりが以前以上に厳しくなり、2020年に制定された「反動文化排撃法」で、詰問されることもしばしば。どこにスパイが潜んでいるかわからないこともあり、相互不信が広がっている。(中略)

「一歩踏み外せば死刑だ」
「私たちはここに閉じ込められ、死ぬのを待つばかりだ」
(中略)ミョンスクさんは、密輸で入ってきた商品を取り扱っていたが、国境警備が強化され、もはや国境の川を渡ることは不可能になったという。このような状況に、金正恩総書記に対する北朝鮮国民の感情も悪化しているようだ。

「コロナ前、人々は金正恩氏を肯定的に考えていた。しかし、今ではほとんどのひとが不満に満ち溢れている」

専門家たちは、今が「苦難の行軍」以降で最悪の食糧難だと指摘している。

北朝鮮経済を専門にするピーター・ワード氏は「平凡な中産階級の隣人が餓死していることは非常に憂慮される」「未だ全面的な社会の崩壊や大規模な餓死ではないが、状況はよくなさそうだ」と述べた。

韓国のNGO、北朝鮮人権情報センター(NKDB)のソン・ハンナ国際協力局長は「過去10年から15年で、餓死の事例はほとんど聞いていない。北朝鮮の歴史上最も苦しかった時期を思い起こさせる」と述べた。

北朝鮮は昨年、63回のミサイル発射実験を行い、その費用は5億ドル(約706億円)に達すると見られるが、北朝鮮国民全てに食糧を配給してもまだ残るほどの額だとBBCは伝えている。

北朝鮮は中国、ロシアからコメや小麦粉を緊急輸入する対策に乗り出したものの、まだ全国民を飢えから救うほどには行き渡っていないようだ。コロナの再流入を極度に恐れ、輸入後の消毒などを行っているが、そのキャパシティを超える量の輸入はできないためだと見られる。

まもなく麦の収穫が始まるが、生産性の低い北朝鮮の集団農業では、すべての国民を救えるほどの麦を確保するのは難しいだろう。また、今年も異常気象による日照りや集中豪雨が予想されている。【6月17日 デイリーNKジャパン】
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【近年の食糧難は、一時導入された市場経済的要素を排し、社会主義的農業政策へ回帰していることの結果】
北朝鮮の慢性的食糧難は、その社会主義的政策に根本原因があると指摘されています。

****北朝鮮「ミサイル連射」のウラで…「農村の革命化」に大失敗した金正恩に待ち受ける「食糧不足」という厳しい現実****
(中略)
金正恩の市場経済的な改革志向の後退
金正恩政権は、政権発足直後には市場経済的な要素を取り入れた対応でそれなりの成果を上げた。  

農業でも協同組合内部の作業班である「分組」を家族単位まで小規模化して、生産性を上げた。北朝鮮はさらに2013年から本格的に「圃田担当責任制」を実施し、ノルマ以上の生産については農民が市場などで処分することを容認した。こうした農民の労働意欲を刺激する措置が農業生産を向上させた。  

しかし、「農村革命綱領」には、このような市場経済的要素を組み込んだ農業政策に言及はなく、むしろ、改革的な農業政策は後退した。農民を共産主義的人間に改造することが優先される中では、市場経済的な働きかけで農民の労働意欲を刺激しようという方向性は抑制されていった。  

金正恩氏自身の考え方も、政権スタートには、発展した現実に合わせ「われわれ式の経済管理方法」を研究、完成していくべきとして、一定の枠内ではあるが経済改革を推し進める姿勢を示していた。  

しかし、2019年2月のハノイでの米朝首脳会談の決裂を受けたのちには、自力更生による「正面突破戦」を主張し、最高指導者の経済政策は改革ではなく、社会主義的な方向へ回帰してしまった。  

北朝鮮の食糧問題は深刻ではあるが、市場が運営されていることで配給制度の不備を補い、何と餓死者を出さない程度の低空飛行を続けてきた。  

しかし、金正恩党総書記は金日成主席の1964年の「社会主義農村テーゼ」を深化、発展させたという「農村革命綱領」を掲げ、農村に「3大革命」を持ち込み、農民の思想革命を起こすという社会主義への復帰ともいうべき道を歩んでいる。  

農村では当初は成果を上げた圃田担当責任制などが消えつつあり、社会主義的な集団営農へと回帰しつつある。これでは「働いても、働かなくても同じ」という状況に陥り、生産性は上がらないだろう。  

また、金正恩党総書記は会議で穀物生産の向上を叫ぶだけで、自らは農場に足を運んでいない。農場や工場の生産現場へ行って、現場での現地指導をメディアで伝え、生産向上を図るというのが、金日成主席、金正日総書記から続く伝統だったが、金正恩党総書記は最近、ほとんど現場に出向かない。  

出向くのは「完成」が予見されている建設現場がほとんどで生産現場に足を運ばない。ほとんどは金得訓首相に丸投げし、自身は党の会議などで檄を飛ばすだけだ。農業生産が向上しない責任をとりたくないためかもしれない。  

北朝鮮当局の動きは、市場での穀物取引を禁止し、食糧の販売を国家統制の下に置こうとしているように見える。配給制を完全に復活できるほど食糧確保ができないために、市場が持っていた市場機能を奪い、国営の糧穀販売所で市場に奪われた食糧販売権を国家が取り戻そうとしているようだ。  

北朝鮮の食糧難は、金正恩党総書記が掲げた「農村革命綱領」で農村の革命化を優先し、農民の思想改造などという理念先行で、農民の労働意欲やインセンティブを無視した政策の結果のように見える。さらに、農場を国営農場化し、糧穀販売所の設置などで食糧販売を国家統制しようとする社会主義的統制による流通政策の失敗だ。  

北朝鮮が食糧問題の解決を図ろうとするなら、政権初期に実施した圃田担当責任制などを農民の労働意欲やインセンティブを刺激する現実的な施策を取らなければ無理だろう。【5月24日 現代ビジネス】
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