孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中東外交の仕切り直しを図るアメリカ 中国はパレスチナ仲介に関心

2023-06-10 21:46:39 | 中東情勢

(サウジアラビア・ムハンマド皇太子と会談するブリンケン米国務長官【6月8日 NHK】)

【アメリカ 中東外交の仕切り直し サウジ・イスラエル関係の仲介】
サウジアラビアとイランの中国仲介による関係正常化、シリアのアラブ連盟復帰など大きく動き始めた中東情勢ですが、その背景としていつもあげられるのが、中東におけるアメリカの存在感・影響力が薄れていること。

それは、アメリカ国内の石油生産が増加し、中東石油を必要としなくなったことや、アメリカが中東より中国を重視した戦略に変化していることなど、アメリカ自身が中東への関与を弱めていることが背景にあります。

とは言え、アメリカとしても国際政治をリードしていくうえで中東への影響力は必要でし、アメリカに代わって中東における中国・ロシアの影響力が増すのも困ります。

アメリカにとっての中東を考えると、(イスラエルは別として)一番中核になるのがサウジアラビアとの関係。
ブリンケン米国務長官がサウジアラビアを訪問し、中東外交の仕切り直しを図っています。

****「米国はとどまる」中東への関与強調 米国務長官、サウジ訪問*****
中東の石油大国サウジアラビアを訪問したブリンケン米国務長官は7日、首都リヤドで開かれた湾岸協力会議(GCC)の閣僚級会合に出席した。ブリンケン氏は開催に先立ち、「米国はこの地域にとどまる」と述べ、中東諸国との関係強化に努める方針を示した。

ロイター通信によると、ブリンケン氏は同日、サウジの実力者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子に続いてファイサル外相とも会談した。

サウジは3月、中国の仲介でイランと外交関係の正常化で合意したほか、ウクライナに侵攻したロシアとも一定の関係を維持している。中露がサウジなど中東諸国への影響力を強める中、ブリンケン氏は訪問を通じて米国の存在感をアピールした形だ。

ブリンケン氏は訪問最終日の8日、リヤドで開かれたイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の壊滅を目指す有志連合の閣僚級会合に出席し、「シリアとイラクではIS打倒に成功したが、ISはアフガニスタンで勢力を回復しつつある」と述べ、「ISとの闘いは終わっていない」と強調した。【6月9日 産経】
********************

米国務長官が「米国はこの地域にとどまる」と敢えて言う必要があるというのは、中東諸国や関係国がアメリカは中東から手をひく姿勢を強めていると見ていることの裏返しでもあります。

それはともかく、アメリカにとって、サウジアラビアとの関係を再構築する具体策は、サウジアラビアとイスラエルの関係正常化を仲介することでしょう。

イスラエルもサウジアラビアとの関係正常化を求めてサウジアラビアと交渉していますが、サウジ・イラン関係の方が先行し、イスラエルとしては中東情勢変化の流れから取り残された形にもなっています。

サウジアラビアもイスラエルとの関係は望むところでしょうが、やはりアラブの盟主としては「アラブの大義」であるパレスチナの問題を捨ておく訳にもいきません。たとえ「アラブの大義」がどんなに形骸化しているとはいっても。

****米、中東外交を仕切り直し イスラエルとサウジの国交正常化模索 難航は必至****
ブリンケン米国務長官は8日、3日間のサウジアラビア滞在を終えた。今回の訪問でブリンケン氏は、中東における2大同盟国であるサウジとイスラエルの国交正常化に向けた橋渡しを模索。

外遊は、中国やロシアがイランと接近するなど中東の力学が変化する中で行き詰まりをみせていた中東外交の仕切り直しを図るものとなった。

8日の帰国に先立って記者会見したブリンケン氏は、イスラエルとサウジを含むアラブ諸国の国交正常化を促進することが「米国の戦略のカギ」だと語った。帰途の機中ではイスラエルのネタニヤフ首相と電話で正常化問題を協議。サウジ側から得た感触を伝えたものとみられる。

米国の中東外交はここ数年で何度も変転した。サウジ、イスラエルの両国と緊密な関係を築いたトランプ前政権は2018年、オバマ政権が結んだイラン核合意から一方的に離脱し、イランへの圧力を強めた。末期にはアラブ首長国連邦(UAE)など一部のアラブ諸国とイスラエルの国交正常化を実現し、「イラン包囲網」を強化している。

これに対しバイデン政権は、イラン核合意の修復によって域内の緊張緩和を目指すことを中東外交の基調に置いた。
だが昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻後、イランが露軍への兵器供与に乗り出したことで、一時は妥結寸前にこぎつけた核合意の再建協議は頓挫。

世界的なエネルギー高騰の解消に向け、人権問題を巡って関係が険悪化していたサウジに歩み寄って石油増産を働きかけたものの、成果はあがらなかった。

対イスラエルでは、バイデン政権が推すパレスチナとの「2国家共存」案に否定的なネタニヤフ氏が右派連合を率いて政権に返り咲いたことでぎくしゃくした関係が続く。八方ふさがりといっていい状態だ。

そこで目を向けたのが、イスラエルとサウジの国交正常化を仲介することで中東での影響力確保を図る路線だ。断交していたサウジとイランが今年3月、中国の仲介で関係正常化に合意し、米国の影響力低下がささやかれたことも方針転換を後押ししたとみられる。

米ネットメディア「アクシオス」によると、バイデン政権は今後6〜7カ月でイスラエルとサウジの正常化に向けた動きを軌道に乗せたい考え。バイデン大統領が再選を狙う来年11月の大統領選を前に大きな外交的成果をあげ、選挙運動に勢いをつけたいとの計算もにじむ。

しかし、道のりは険しい。サウジのファイサル外相は8日の会見で、国交正常化に前向きな姿勢を示しつつも、前提としてイスラエルと将来のパレスチナ国家による「2国家共存への道が開かれる必要がある」と強調した。アラブ諸国の盟主を自任するサウジとしては、「パレスチナを見捨てた」との印象は避けたいためだ。

ところが、ネタニヤフ政権は国際法に反するヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地建設を推進しており、そもそも「2国家共存」案には否定的だ。バイデン政権の仲介努力は、出発点から壁に直面している。【6月9日 産経】
*********************

イスラエルとサウジの国交正常化を仲介と言っても実際にはなかなか難しいものがありますが、アメリカのこうしたサウジアラビアへの関与によってサウジアラビアの中国・ロシアへの接近を止められるかと言えば、それも困難なようです。

****サウジと中露の関係深化「米国には止められない」 評論家ハミディ氏****
ブリンケン米国務長官のサウジアラビア訪問について、国際情勢に詳しい在英評論家のサミ・ハミディ氏(32)が産経新聞の電話取材に応じ、「米国はサウジと中露の間で進む関係深化を食い止めることはできないと思う」などと述べた。

 ハミディ氏は「(サウジにとって)中露との関係は、米国に対抗する上で核心的なテコになっている。米国を譲歩させたり、要求を聞き入れさせたりする上で重要だ」との見方を示した。(後略)【6月9日 産経】
******************

【中国 サウジ・イランの次はパレスチナ?】
一方、サウジアラビアとイランの関係正常化を仲介して、その存在感を示した中国ですが、中東問題の長年の懸案であるパレスチナ・イスラエルの間の仲介にも関心があるようです。

****パレスチナ議長、13日訪中=習主席の「仲介外交」加速か****
中国外務省は9日、パレスチナ自治政府のアッバス議長が13〜16日に中国を訪れると発表した。習近平国家主席が招待した。

中国はかねて中東和平への関与に意欲を示しており、習氏とアッバス氏の会談でも対イスラエル関係などが議題になるとみられる。

中国外務省の汪文斌副報道局長は9日の記者会見で、「中国とパレスチナの伝統的な友好関係のさらなる発展を願っている」と強調。「引き続き国際社会と協力し、パレスチナ問題の早期かつ永続的な解決に向けて努力する」と述べた。

中国は3月、イランとサウジアラビアの関係修復を仲介。4月には秦剛国務委員兼外相がイスラエル、パレスチナの両外相と個別に電話会談し、和平促進に向けて中国が「建設的な役割」を果たす用意があるなどと伝えていた。

ロシアが侵攻するウクライナ情勢を巡っても、独自の「和平案」を掲げて欧州に接近するなど、「仲介外交」活発化による影響力拡大を図っている。【6月9日 時事】
*********************

誰がやってもうまくいかなかったパレスチナ問題ですから、そうそう簡単に成果がでるとも思えませんが、パレスチナにしても、ウクライナにしても、最近の習近平国家主席は「仲介外交」に意欲的です。

中国の国際的影響力の大きさを世界に、そしてアメリカに見せつけることで、新たな国際秩序の主役たらんとしているのでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする