孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

韓国  引きこもりの若者に最大で毎月7万円弱を支給する引きこもり対策

2023-06-05 22:53:34 | 東アジア

(「若者は立ち直れる」と言われてきたが、その言説にも変化が(ソウル市内) KIM HONG-JIーREUTERS【6月2日 Newsweek】)

【引きこもり状態の若者 ソウルに13万人 全国に61万人】
日本でも「引きこもり」は大きな社会問題のひとつですが、事情は韓国でも同じのようです。

****ぼっち・社会的引きこもり状態の韓国青年、ソウルだけで13万人****
韓国19-39歳の青年調査、就職失敗などで一人っきりの生活選択

ソウルに住む満19-39歳の青年の4.5%に相当する約13万人が孤立(独りぼっち)・隠遁(いんとん、社会的引きこもり)状態と思われるとする調査結果が出た。

孤立・隠遁青年の55.6%はほとんど外出せず、主に家の中だけで生活していることが分かった。このうち、主に家の中だけで生活する期間が5年以上と長期化した青年の占める割合も28.5%に達した。

ソウル市は、昨年5月から12月にかけ、満19-39歳の青年が居住する5221世帯の青年6926人を対象にオンラインで実施した孤立・隠遁青年の実態調査結果を18日に発表した。地方自治体レベルで孤立・隠遁青年の実態調査を行ったのは今回が初めてだとソウル市は説明した。

調査の結果、ソウル市に居住する青年のうち孤立・隠遁青年の占める割合は4.5%だった。ソウル市は「これをソウル市の青年の全人口292万人に換算すると、約12万9000人が孤立・隠遁状態にあると推定される」とし「全国に拡大すれば、約61万人に上る」と明らかにした。

孤立・隠遁青年とは、「孤立青年」と「隠遁青年」を合わせた概念である。

ソウル市は、情緒的・物理的孤立状態が6カ月以上続いた場合を孤立青年と分類する。
情緒的孤立とは周囲に助言を求めたり頼んだりすることができる知人が全くいない状態をいい、物理的孤立とは家族や親戚以外の人との対面交流が年に1-2回以下の状態をいう。

隠遁青年は、外出がほとんどない生活が6カ月以上続き、最近1カ月以内に職業・求職活動を行わなかったケース、と規定した。ソウル市の関係者は「隠遁青年のほとんどが同時に孤立青年でもあり、この二つを分離せず、政策上共に支援していくことにした」と話した。【1月29日 朝鮮日報】
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【月額7万円弱を支給する.壮大な社会実験】
この状況に、韓国政府は対象者に月額7万円ほどを支給し、併せて就学支援やカウンセリング、職業訓練の拡大するという「異次元のひきこもり対策」を行うとか。

****月額7万円の「韓国版・引きこもり対策」...壮大な社会実験が始まる****
<支援金を配って社会復帰を促すアプローチは、孤立に苦しむ若者を救い、広がる閉塞感を打破できるのか>

青少年の引きこもり問題をめぐって、韓国で壮大な実験が始まろうとしている。孤独な若者に定期的に生活費を支給することで社会復帰を促そうというアプローチだ。

女性家族省は4月半ば、引きこもりの若者に最大で毎月65万ウォン(約6万9000万円)を支給する方針を発表した。職業訓練などのサポートも提供するという。

世界有数の経済大国となった韓国では、寿命が延び、生活水準も上昇している。
今回、引きこもりという少数派の弱者への支援を決めたのは、この社会問題が深刻化していること以上に、社会福祉制度の成熟を物語っていると専門家らは指摘する。

女性家族省は9~24歳を対象に、就学支援やカウンセリング、職業訓練の拡大も打ち出している。自傷行為をはじめ若者を取り巻く危険な状況は以前から指摘されてきたが、そうした懸念に引きこもり問題を結び付けた形だ。(中略)

「引きこもりの若者は、不規則な生活や栄養の偏りにより身体の成長が遅れやすい。また、社会的役割の喪失や適応の遅れなどの理由で、鬱病などの精神的困難に直面する可能性が高い」と、同省は指摘している。

韓国が直面する課題は引きこもりだけではない。2020年に5184万人でピークに達した人口は、22年には5163万人にまで減少。

22年の合計特殊出生率は0.78で、出生数は1970年の統計開始以降最も少ない24万9000人だった(国連は人口維持のためには出生率2.1が必要としている)。

尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領は今年3月、出生率の低下は「重要な国家的課題」と語った。韓国は過去20年間、対策に巨額を投じてきたが、隣国の日本と同じくこの問題は根強く残っている。

コロナ禍で孤立が深刻化
一方、65歳以上の高齢者が人口に占める割合は昨年、17.5%を記録。25年に20.6%、70年には46.4%に達すると予測される。15~64歳の生産年齢人口が減少するなか、社会保障の負担は膨らむ一方だ。

韓国政府によれば、引きこもりの若者は「一定期間以上、外部と切り離された狭い空間で生活している」。
彼らは学校でのいじめや学業のストレス、家庭内暴力、一般的なケアの不足などさまざまな要因によって「通常の生活を送ることが著しく困難」な状態にある。

ソウル市当局の1月の発表によれば、市内に住む19~39歳の4.5%に当たる12万9000人が、主に失業や社会的・心理的困難が原因で孤立した生活を送っている。
そのうち、引きこもりが5年以上続いている人が3分の1近く、10年以上引きこもっている人も11.5%いた。

同市が若者5513人を対象に行った調査では、半数以上が「引きこもりを解消したい」と答えており、同様の状況にある人は韓国全土で61万人に上ると推定される。

高齢者の社会的孤立については長年、研究がされてきたが、コロナ禍にステイホームや「社会的距離」が奨励された結果、孤立する人々は幅広い年代に拡大した。

韓国統計庁によれば、昨年に孤独を感じた人々は韓国全体の20%に上る。
「ここ30~40年の急速な産業化や家族の規模の変化、労働市場の見通しなども社会的孤立の理由かもしれない」と、米ブルッキングス研究所のシニアフェローで韓国部長を務めるアンドルー・ヨは指摘する。

「これまで政治家が働きかけをしてきたのは高齢者層だったが、総人口の上層部に人口が集中しているままでは経済政策が安定しない。現在の政府は、未来についてもっと考える必要があると理解している」と、ヨは言う。

「引きこもり」か「寝そべり」か
「韓国社会全体もそうだが、特に政府と保守政党が、若者にも支援が必要だと訴えていくことが一つの手だ。だが支援金は長期的な解決策にはならない。政府は若者を社会に取り込み、社会的にも気持ち的にも幸せに生きられる政策を整備すべきだ」

政策立案者たちは、統計上の数字をもっと掘り下げ、現状を見極めることが必要かもしれない。今の若者の状態は引きこもりなのか、それとも数年前から中国社会で広がる、無理に頑張らない生き方を指す「寝そべり主義」なのか。

今年3月、中国で16~24歳のうち無職者は20%近くに上り、同時期の韓国の若者の無職率7.2%を大きく上回った。
韓国の指導者たちは、社会の変革に伴う伝統的価値観の大きな変容、つまり集団主義よりも個人主義を、干渉より自由を選ぶ人がいる社会を受け入れる必要がある。

韓国政府の推定では21年には単身世帯の数が716万に上った。この数は全体の33.4%と、05年の20%より増加しており、50年には39.6%と40%近くになる見通しだ。米国勢調査局によれば昨年のアメリカにおける単身世帯は全体の29%だった。(中略)

非営利団体アジア・ソサエティー・コリアセンターのミシェル・シヒュン・ジューは、尹の路線は若者支援という公約を守り、大統領としての評価を高めることになるかもしれないと語る。

「韓国の若者には、未来を形作ることに参加できなかったために未来に悲観的になっている人もいる」と彼女は言う。

「一般社会も以前に比べて、これは誰かが介入すべき問題だと認識していると思う。昔だったら、『彼らは若い。彼らは立ち直れる』と言われていたところだが」

ジューは、一つの解決策として、政府と次世代が高校や大学で交わる機会を増やすことを挙げる。
「自分たちが孤独を感じていると気付いてすらいない状況だと、若い学生が声を上げることがとても難しい。たとえ彼らが統計上はそうカウントされていたとしても」【6月2日 Newsweek】
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「すべての国民に、政府が生活に足る一定額を無条件で支給する」というベーシックインカムのひとつの変形のようにも。

問題点もベーシックインカムの議論と同じで、労働意欲を阻害することにならないか、財源をどうするのか・・・というあたりでしょう。

いずれにしても、結果が注目される「壮大な社会実験」です。

【根底に格差・競争社会】
ただ、おそらく「引きこもり」の根源は韓国の格差社会・競争社会にあるようにも思えますので、そこが変わらないと・・・という感も。

前政権時代のかなり古い記事ですが、たまたま目についたので。事情は今も同じでしょう。

****なぜ韓国の若者は失業に苦しみ続けるのか****
自殺するために勉強したんじゃない――。2016年12月、韓国の首都ソウルで朴槿恵(パク・クネ)前政権を糾弾する反政府デモを取材したとき、ある若者が叫んだ言葉だ。

韓国の自殺率はOECD加盟国のなかで最も高いが、2011年以降は政府の対策などもあってか全体としては減少傾向にある。ただ20代は例外で、今年の自殺予防白書でも前年と比べて唯一減少しなかった世代と指摘されている。

彼らが自殺に追い込まれる背景の1つには、激しい入試競争を経て大学を卒業しても職にありつけず、将来への経済的不安があるためとされている。実際、韓国の20代の失業率は全体の10%近くもあり、全体の2.5倍以上という水準が長らく続いている。

なぜ韓国の若者は失業に苦しみ続けるのか。(中略)

公約として掲げられた数々の雇用対策は、文政権発足2年半を経て、どのような成果があったのか。韓国の雇用・労働問題に詳しい駿河台大学の朴昌明(パク・チャンミョン)教授に、本誌・前川祐補が聞いた。

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――韓国の若者の失業率はかなり高い。
韓国統計庁によると、2018年の失業率は3.8%であるのに対し、青年失業率(15~29歳)は9.5%と顕著に高い。
定職を持たないフリーター、就職浪人、ニートなど実質的な失業者を含めて算出すると失業率はさらに高くなる。

「青年拡張失業率」、つまり広い意味での失業率を見ると、15~29歳はコンスタントに20%を超えており、これは深刻な数値と言わざるを得ない。若者の5人に1人が実質的な失業者ということになる。

――若者の失業率が高止まっている理由は?
本質的な原因は、経済あるいは労働市場が二極化していることだ。日本には中堅企業など知名度は低くても業績や雇用の安定度が高いケースも多い。一方、韓国ではそうした企業が限定的であり、中小企業の労働条件は厳しい。

そのため、公務員や大企業への就職は極めて競争が厳しいにもかかわらず、多くの学生がこうした職場を目指すことに固執しようとする。

韓国では学歴に加えて就職先が大きなステータスになることから、労働条件が劣悪で賃金も低く、離職率が高い中小企業への就職を敬遠しがちだ。

実際、韓国政府が公表している賃金格差の資料をみるとその差は歴然としている。大企業の正社員の賃金を100とした場合、中小企業の正規労働者の賃金はその約半分程度でしかない。これは大企業の非正規労働者の賃金よりも低い水準である。

こうなると、学生は就職浪人をしてでも大企業や公務員を目指そうとするし、親もそれを支援する。一方で、日本で言うところの3Kの職場は激しい人手不足が起きている。

韓国の大学も、就職率の高さが学生へのアピール材料になるため中小企業であっても学生を就職させたいと考えるが、現実との乖離がある。

韓国ではこうした雇用のミスマッチが根強く存在しているため、若者の就職状況はなかなか改善されない。【2019年10月7日 前川祐補氏 Newsweek】
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【中年の引きこもりの問題も】
これも日本でもそうであるように、「引きこもり」の問題は若者に限ったことではなく、中年層にも存在します。また、かつてのひこもり若者が次第に年齢を重ねて中年になるということも。

****韓国でも中年の引きこもりが問題に、日本のように犯罪につながるケースもー韓国メディア****
2023年2月6日、韓国・ヘラルド経済は「韓国には中年の引きこもりが約14万人いるとみられ、経済損失の推計は年間4兆ウォン(約4210億円)に上る」と報じた。

昨年の韓国・統計庁の資料によると、韓国人は27歳で初めて労働で得た所得が消費を上回り、43歳がピークとなる。記事は「43歳が最も所得の多い時期だという意味だが、短期間で職を転々としていたり、職に就いていない引きこもりにとっては別世界の話だ」と伝えている。

40~50代の引きこもりについて、記事は「青少年期に傷ついたり失敗したりしたことで挫折し再起できないまま引きこもり生活が長くなるケース」と「中年期に事業の失敗など危機を経験し引きこもりになるケース」に分けられるとしている。

後者は引きこもりの契機が経済的問題だとはっきりしているため相対的に克服が難しくないが、前者は社会生活そのものに不慣れな引きこもり中年が多く、困難を要するという。そうした「活動が難しい引きこもり中年」が増えれば、社会は動力を失っていくしかないとも指摘している。

ある支援団体によると、現在の韓国内の引きこもりは青年が約50万人、中年は約14万人と推定される。彼らの1人当たり国内総生産(GDP)は事実上ゼロで、暫定推計の損失だけで年間4兆ウォンに達するとしている。

いざ就職しようにも、履歴書の空白期間や精神科通院歴などが足かせとなるケースが多く、記事は「働きたくても容易に職に就けないことが問題」だと指摘している。

引きこもり期間が10年以上になるという47歳の男性は、大学院卒ながら一度もまともに就職したことがなく、空白期間や年齢などを理由に就職試験で落とされると話している。

その他、17歳から引きこもりで、就職しても精神科通院歴のために解雇され、病気で余命宣告を受けた母親と高齢の父親と同居し小遣いをもらって生活している男性の事例なども記事は紹介している。

また記事は、35年間自宅に引きこもっていた60代の息子が「アニメ視聴を邪魔されたことに腹を立て」両親を殺害し遺体を遺棄したという日本の事件について伝え、「日本では既に引きこもりが社会問題になっている」と指摘。こうした事件が韓国内で話題になることで、引きこもり中年に対する目が厳しくなるのではと懸念する専門家の声も紹介している。

韓国でも少ないとはいえ引きこもりによる犯罪の事例があるという。水原(スウォン)地裁は昨年、「両親のせいで眠れなかった」などの理由で5回にわたって両親を暴行した罪に問われた被告に懲役6月を言い渡したが、「引きこもりであり、正常な思考が困難だ」との理由で2年の執行猶予をつけた。

この記事に、韓国のネットユーザーからは
「せめてアルバイトでもしたほうがいい。そこからいつか道が開けてくるかもしれない」
「家にこもった状態でもお金を稼げるように社会や企業が考慮すれば在宅勤務が可能になる。お金さえ稼いでいれば、引きこもっていても自尊心が維持できて、いずれ社会復帰する可能性が高くなる」
「かわいそうだからと引きこもりを養うべきではない。心を鬼にして自立させないと」
「韓国では精神科カウンセリングが確立されているのに、『精神科に行った』と言うと頭がおかしい人間扱いされてしまう」
「20代までは社会活動に積極的に参加しても、大学を出て就職が決まらず、就職できても低賃金だったり事業に失敗したり経済的な苦労を経験すると、自然に人付き合いが減り、連絡も途絶えていくのが現実だ。できるだけ自宅にいてお金を使わずに生活するようになる。それを引きこもりとは言えない」
「引きこもりが生まれるのは就職が困難なせいだ。そして、それは年齢・性別差別が根底にある」
「みんな、元気出して頑張ろう…」など、さまざまなコメントが寄せられている。【2月8日 Record Korea】
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