(キューバの首都ハバナ【6月8日 WSJ】)
【多くの“火種”の中でも、中国との対話を模索するバイデン政権】
米中間では最近だけでも気球問題、tiktok禁止法案に関する議論、先端半導体製造装置の対中輸出規制強化、中国警察の「海外派出所」、南シナ海や台湾海峡での米中両軍のニアミス・・・等々、“火種”には事欠きません。
こうした状況でアメリカ世論にあっては中国への厳しい見方が増加しています。
****中国に好意的な米国民15% 世論調査、79年以来最低****
米調査会社ギャラップは7日、中国を好意的に受け止めている米国民は15%で、1979年からの同社世論調査で最低になったと発表した。
民主党や共和党の支持者、無党派層を問わず厳しい意見が多いとし、米国民の6割以上が中国の軍事力と経済力が「重大な脅威」だと感じているとした。
調査は今年2月1〜23日、約千人に実施。中国偵察気球が米上空を飛んだことが問題化し、ブリンケン国務長官が訪中を取りやめて米中の緊張が高まった時期と重なる。
66%が中国の軍事力を「重大な脅威」とし、経済力には64%が同様の危機感を示した。台湾を好意的に見るのは77%だった。【3月8日 共同】
*******************
ただ、バイデン政権としては中国との関係が過度に悪化する事態を懸念しており、そのことで厳しい対中国政策が抑制・先送りされているとも。
****対中強硬になり切れない米国務省、「偵察気球事件」で露呈****
今年2月に米本土に侵入した中国の偵察用とみられる気球を米軍が撃墜した際、米政府内の一部にはこれで今まで準備していた一連の対中強硬策の実行に弾みがつくのは間違いないだろう、との見方が浮上した。
ところが、その後に国務省が米中関係へのダメージを限定的にしようとして、人権問題に絡む制裁や輸出管理といった「際どい」対中政策に待ったをかける役回りを演じていたことが、4人の関係者への取材や、ロイターが同省職員間でやり取りされた電子メールを確認して明らかになった。
バイデン政権が「最も重大な競争相手」とみなす中国に対し、順次投入するために用意した具体的措置を断固打ち出せないという事実は、政権内で対中強硬派と慎重派が対立する構図を浮き彫りにしている。
国務省は中国の気球侵入を受け、ブリンケン長官の訪中延期を決めて米国側の不快感を表明したのは確かだ。ただ、内部メモによると、複数の高官が予定していた中国向けの強硬策実行の先送りに動いたことが分かる。
今回初めて明らかになったのは、同省の対中国・台湾政策調整を担う「チャイナハウス」のトップを務めるウォーターズ次官補代理が2月6日付で職員に宛てた電子メールの内容だ。
そこには、とりあえず気球問題以外の事務を正しく処理しろ、というのが長官の指示で、この事件に関連する行動は数週間以内に改めて手を付ければ良い、といった趣旨が記されていた。
だが、関係者によると、対中強硬策の多くは今もなお実施手続きが復活していない。中国通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)に適用する輸出規制や、ウイグル族への人権弾圧に関与している中国当局者を対象とした制裁の延期で、チャイナハウスの職員の士気が低下しているという。
バイデン政権は一面では、1979年の国交開始以来、最も冷え込んでいるとの見方が多い中国との関係をこれ以上悪化させないような努力をしているのは間違いない。
元外交官や与野党政治家の言い分に基づけば、双方の意図を誤解して危機を招かないようにするために、米国は中国側との対話チャンネルを維持しておく必要もある。
それでも現在の政策は、ハイレベルの対話を通じて中国からの譲歩を引き出す、という以前の外交方針に似すぎている、というのが関係者の見方だ。この方針は結局、ほとんど実を結ばなかった。
また、関係者はロイターに、ブリンケン長官は対中政策をシャーマン国務副長官に「ほぼ丸投げ」していることも明らかにした。
国務省のある高官はロイターの取材に対して、バイデン政権の下で同省は他の省庁と協力して過去にないほど中国に対抗するための多くの制裁や輸出管理などを策定してきたと強調。「個別の措置には触れないが、この仕事は繊細で複雑だ。そして、効果を最大限にするとともに、われわれのメッセージをはっきりと正確な形に定めるためには、政策の順位付けが不可欠になる」と述べた。
シャーマン氏はコメント要請に応じていない。ただ、2月9日の上院外交委員会では、国務省は中国の軍事、外交、経済面での攻撃的姿勢をはね返す取り組みを続けていると説明した。(後略)【5月12日 ロイター】
今年2月に米本土に侵入した中国の偵察用とみられる気球を米軍が撃墜した際、米政府内の一部にはこれで今まで準備していた一連の対中強硬策の実行に弾みがつくのは間違いないだろう、との見方が浮上した。
ところが、その後に国務省が米中関係へのダメージを限定的にしようとして、人権問題に絡む制裁や輸出管理といった「際どい」対中政策に待ったをかける役回りを演じていたことが、4人の関係者への取材や、ロイターが同省職員間でやり取りされた電子メールを確認して明らかになった。
バイデン政権が「最も重大な競争相手」とみなす中国に対し、順次投入するために用意した具体的措置を断固打ち出せないという事実は、政権内で対中強硬派と慎重派が対立する構図を浮き彫りにしている。
国務省は中国の気球侵入を受け、ブリンケン長官の訪中延期を決めて米国側の不快感を表明したのは確かだ。ただ、内部メモによると、複数の高官が予定していた中国向けの強硬策実行の先送りに動いたことが分かる。
今回初めて明らかになったのは、同省の対中国・台湾政策調整を担う「チャイナハウス」のトップを務めるウォーターズ次官補代理が2月6日付で職員に宛てた電子メールの内容だ。
そこには、とりあえず気球問題以外の事務を正しく処理しろ、というのが長官の指示で、この事件に関連する行動は数週間以内に改めて手を付ければ良い、といった趣旨が記されていた。
だが、関係者によると、対中強硬策の多くは今もなお実施手続きが復活していない。中国通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)に適用する輸出規制や、ウイグル族への人権弾圧に関与している中国当局者を対象とした制裁の延期で、チャイナハウスの職員の士気が低下しているという。
バイデン政権は一面では、1979年の国交開始以来、最も冷え込んでいるとの見方が多い中国との関係をこれ以上悪化させないような努力をしているのは間違いない。
元外交官や与野党政治家の言い分に基づけば、双方の意図を誤解して危機を招かないようにするために、米国は中国側との対話チャンネルを維持しておく必要もある。
それでも現在の政策は、ハイレベルの対話を通じて中国からの譲歩を引き出す、という以前の外交方針に似すぎている、というのが関係者の見方だ。この方針は結局、ほとんど実を結ばなかった。
また、関係者はロイターに、ブリンケン長官は対中政策をシャーマン国務副長官に「ほぼ丸投げ」していることも明らかにした。
国務省のある高官はロイターの取材に対して、バイデン政権の下で同省は他の省庁と協力して過去にないほど中国に対抗するための多くの制裁や輸出管理などを策定してきたと強調。「個別の措置には触れないが、この仕事は繊細で複雑だ。そして、効果を最大限にするとともに、われわれのメッセージをはっきりと正確な形に定めるためには、政策の順位付けが不可欠になる」と述べた。
シャーマン氏はコメント要請に応じていない。ただ、2月9日の上院外交委員会では、国務省は中国の軍事、外交、経済面での攻撃的姿勢をはね返す取り組みを続けていると説明した。(後略)【5月12日 ロイター】
******************
対中国強硬策を求める立場からは、こうしたバイデン政権・国務省の対応は弱腰・優柔不断と映るでしょうが、両国関係のダメージを限定的なものにし、対話のチャンネルを求めること自体は、責任ある政府としてはまっとうな対応でしょう。
アメリカだけでなく、日本を含めた欧米主要国の対中国戦略の基本は、中国を排除する「デカップリングdecoupling」(関係切り離し)から、中国との間のリスクを最小化する「ディリスキングde-risking」(リスク回避)へと転換しているとも言われ、先のG7広島サミットでも「ディリスキング」戦略が確認されています。
****デカップリングからディリスキング対中戦略転換の真意****
日米欧主要国が対中国戦略の経済面で、「デカップリングdecoupling」(関係切り離し)から「ディリスキングde-risking」(リスク回避)への転換に乗り出し始めた。中国との関係悪化を避けると同時に、西側世界の結束を図る狙いがある。(後略)【6月8日 WEDGE】
*********************
ただ、もとより現在のグローバル経済において完全な中国排除が不可能なこと(そんなことをすれば、自国経済が潰れてしまうこと)は誰の目にも明白であり、中国側が批判するように「『ディリスキング』はたんなる『デカップリング』の言い換えに過ぎず、行動面では同一であり、対中国包囲を意図したもの」(中国新華社通論評)といった感もあります。
まあ、それでも「関係切り離し・排除」という言葉を使わずに「リスク回避」という言葉を使うということには、それなりの「姿勢・方針」が反映しているとも言えるでしょう。
米中両国のハイレベルの対話は、気球問題によるブリンケン長官の訪中延期以来途絶えています。
今月2日のアジア安全保障会議でも両国国防相は“笑顔で握手”にとどまりました。
***“笑顔で握手”米国防長官と中国国防相が短時間接触…直接会談は中国側の拒否で見送り***
台湾問題などで対立する米中の国防トップは、2日に開幕したアジア安全保障会議での直接会談を見送っていましたが、さきほど握手を交わすなど短時間、接触しました。
アメリカのオースティン国防長官と中国の李尚福国防相は2日、シンガポールで始まったアジア安全保障会議の開幕イベントの会場で、笑顔で短く握手を交わしました。
関係者によりますと、オースティン氏が李氏のもとに歩いていったということですが、2人の会話はほぼなかったとみられます。
台湾や南シナ海問題などで両国の対立が激化するなか、今回、アメリカ側が打診した直接会談を中国側が拒否したことから両国の溝が改めて鮮明になっていました。(後略)【6月2日 TBS NEWS DIG】
台湾問題などで対立する米中の国防トップは、2日に開幕したアジア安全保障会議での直接会談を見送っていましたが、さきほど握手を交わすなど短時間、接触しました。
アメリカのオースティン国防長官と中国の李尚福国防相は2日、シンガポールで始まったアジア安全保障会議の開幕イベントの会場で、笑顔で短く握手を交わしました。
関係者によりますと、オースティン氏が李氏のもとに歩いていったということですが、2人の会話はほぼなかったとみられます。
台湾や南シナ海問題などで両国の対立が激化するなか、今回、アメリカ側が打診した直接会談を中国側が拒否したことから両国の溝が改めて鮮明になっていました。(後略)【6月2日 TBS NEWS DIG】
********************
もっとも、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官が5月に極秘に訪中していたと報じられており、水面下ではそれなりの動きがあったようです。
こうした状況で、ブリンケン国務長官が早ければ来週にも中国を訪問すると報じられています。
****米国務長官、来週にも訪中か=習主席との会談焦点―報道****
米政治専門紙ポリティコ(電子版)は8日、ブリンケン国務長官が早ければ来週にも中国を訪問すると報じた。複数の関係者の話として伝えた。
実現すれば、2021年1月にバイデン米政権が発足後、国務長官の訪中は初めて。中国の習近平国家主席と会談するかが焦点となる。【6月9日 時事】
******************
【中国がキューバにスパイ施設を設置する計画で大筋合意との報道 再びブリンケン米国務長官訪中は不透明に】
しかし、また“新たな火種”も。
アメリカの喉元に位置するキューバにスパイ施設を設置する計画で中国・キューバが大筋合意したとの報道。
****中国、対米スパイ拠点をキューバに設置へ****
米軍基地の多い米南東部の通信傍受も可能に
米軍基地の多い米南東部の通信傍受も可能に
中国はキューバに諜報(ちょうほう)活動の拠点を構えることで、同国と水面下で合意した。機密情報に詳しい米当局者が明らかにした。
米南部フロリダ州から約160キロメートルに位置する社会主義国キューバに拠点を設置すれば、中国は多くの米軍基地のある米南東部全域の通信を傍受し、船舶の航行状況を把握できるようになる。
複数の米当局者によると、中国がキューバに盗聴の拠点を設置し、見返りとして財政難にあえぐキューバに数十億ドルを支払うことで両国は基本合意に達した。
バイデン政権は、自国の「裏庭」といえるほど近距離にあるキューバに中国が高度な軍事・情報収集能力を備える拠点を設立すれば、新たな脅威になるとみて警戒感を募らせている。
米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は、今回の報道について論じることはできないとしつつ、中国は世界各地で軍事目的の可能性があるインフラへの投資に努めているとし、バイデン政権はその動きを監視し、対策を講じると述べた。
複数の米当局者は、キューバへの拠点設立計画についての情報には信ぴょう性があるとの見方を示した。また、中国はキューバに拠点を構えることで電子メール、電話、衛星通信などを対象に、電波信号の傍受による情報収集活動(シギント)を実施できるようになると話した。(後略)【6月8日 WSJ】
******************
アメリカ政府は「報道を確認したが、正確ではない」と。
****中国、キューバにスパイ施設設立で数千億円を拠出か バイデン政権「正確ではない」****
中国が米国の「裏庭」とされるキューバにスパイ施設を設置する計画で大筋合意したと、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が8日、米当局者の情報として報じた。
キューバに近い米南東部には米軍基地が多くあり、中国は米軍の電子通信傍受が可能になるほか、船舶の動きなどを監視できるようになるため、バイデン政権にとって新たな脅威となる可能性がある。
報道によると、中国はスパイ施設建設に向けキューバに数十億ドル(日本円で数千億円)を支払うとみられる。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官はロイターに対し「報道を確認したが、正確ではない」と指摘。ただ不正確とする箇所については明言しなかった。
また、米国は中国とキューバの関係について懸念しており、注意深く監視していると述べた。
米国防総省のパトリック・ライダー報道官は「中国とキューバが新型のスパイ施設を開発していることについて認識していない」と述べた。(中略)
米上院外交委員会のボブ・メネンデス委員長は、WSJ報道が真実であれば「米国への直接的な攻撃」になるとした。【6月9日 Newsweek】
*******************
キューバは否定しています。
****キューバ、「事実無根」と反発=中国の米情報傍受計画報道****
キューバのコシオ外務次官は8日、同国に通信傍受施設を設置することで中国と合意したという米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの報道に関して「全くの誤りであり、事実無根だ」と反発した。
キューバのコシオ外務次官は8日、同国に通信傍受施設を設置することで中国と合意したという米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの報道に関して「全くの誤りであり、事実無根だ」と反発した。
コシオ氏はツイッター上で、報道を「米国や世界の世論を欺くものだ」と指摘。同時に、米国による対キューバ制裁などへの批判も展開した。【6月9日 時事】
********************
中国も不快感を表明しており、ブリンケン米国務長官の訪中に再び黄色信号点滅の状況です。
****中国、キューバ巡るWSJ報道に不快感 「米国はハッカー帝国」****
中国外務省の汪文斌報道官は9日、同国がキューバにスパイ施設を設置する計画で大筋合意したとの米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)報道について、「うわさや中傷を広める」ことは「ハッカー帝国」米国の一般的な戦術であるとコメントした。
同報道官は「周知のように、うわさや中傷を広めることは、米国の一般的な戦術である」とし「米国は世界で最も強力なハッカー帝国であり、また、本当の監視大国でもある」と述べた。
米政府当局者によると、ブリンケン米国務長官は近く中国を訪問する計画だが、今回の報道で訪中に疑問が生じる可能性がある。(後略)【6月9日 ロイター】
同報道官は「周知のように、うわさや中傷を広めることは、米国の一般的な戦術である」とし「米国は世界で最も強力なハッカー帝国であり、また、本当の監視大国でもある」と述べた。
米政府当局者によると、ブリンケン米国務長官は近く中国を訪問する計画だが、今回の報道で訪中に疑問が生じる可能性がある。(後略)【6月9日 ロイター】
************************