(サイクロンで損壊した建物=5月16日日、ミャンマー西部ラカイン州【5月16日 共同】)
【スー・チー氏歳誕生日で「フラワー・デモ」 次男は「国軍支援の日本に失望」】
国軍による強権支配が続くミャンマーでは抗議活動も厳しく禁じられていますが、拘束されているアウン・サン・スー・チー氏の誕生日ということで「フラワー・デモ」も行われたようです。
****独房のスー・チー氏が78歳誕生日、解放求め各地で「フラワー・デモ」…花の売り子拘束****
ミャンマーの政党「国民民主連盟(NLD)」のトップで民主化の象徴であるアウン・サン・スー・チー氏が19日、78歳の誕生日を迎えた。軍による拘束からの解放を求め、各地でスー・チー氏が愛用する花の髪飾りをつける「フラワー・デモ」が行われた。
ミャンマーの独立系メディア「キット・ティット」などによると、最大都市ヤンゴンなどで市民が花を髪に飾ったり、手に持ったりして、スー・チー氏の「一刻も早い解放」を訴えた。治安当局は花を販売した複数の売り子を拘束し、花を押収した。
スー・チー氏は2021年2月1日のクーデター時に国軍に拘束され、汚職など複数の罪で有罪判決を言い渡された。刑期は計33年に上り、首都ネピドーの刑務所で独房に収監されている。担当弁護士も面会を許されておらず、健康状態が懸念されている。【6月19日 読売】
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イギリス在住の次男キム氏は、日本が「国軍を支援している」と失望を表明しています。
****スーチー氏次男、日本を批判 母の誕生日前にメッセージ****
クーデターで全権を掌握したミャンマー軍政によって収監されている民主派指導者アウンサンスーチー氏の次男、キム・エアリス氏が18日までに、ビデオメッセージを公表した。母親の解放を求めると同時に、日本が国軍を支援していると批判した。19日はスーチー氏の78歳の誕生日。
キム・エアリス氏は英国在住で、米政府系メディアのボイス・オブ・アメリカ(VOA)を通じて約6分のメッセージを公開。「世界でも最も民主的であるはずの日本やインドが、国軍を支援している」と指摘し「失望している」と語った。【6月18日 共同】
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なお、スー・チー氏と長男のと関係は、以前から不仲が噂されています。
スー・チー氏が大統領になれなかったのは、憲法改正で「国籍条項」が入れられたためですが、息子たちに「英国籍を離れてよ」とは言えない彼女の身上を見透かした措置とも言われていました。
スー・チー氏本人も「成人した息子たちを説得するつもりはない」と漏らしていました。
スー・チー氏の人生は、親子関係よりミャンマー国民を選択したような面もありますので・・・
次男とは2010年に10年ぶりに再開して喜びを示すなど、関係は良好なようです。
日本の(支持はしないものの)ミャンマー国軍との関係も一定に継続するという、欧米とは一線を画した独自の外交が、既存のODA継続などで、結果的に国軍に資金が流入するなど国軍を支える形にもなっていることは、これまでも取り上げてきたところです。
国軍と民主派武装勢力及び少数民族との戦闘が続くミャンマー情勢に関しては、大きな変化は報じられていませんが、これまでに市民6300人超が殺害されたとの報告も。
****ミャンマー、市民殺害6300人超=民間報告、反軍派も3割関与か****
ノルウェーの民間研究機関、オスロ国際平和研究所(PRIO)は13日、ミャンマーでクーデターが起きた2021年2月以降、6300人以上の市民が殺害されたとする報告書をまとめた。
3割超は国軍への抵抗勢力が関与したと指摘し、「全ての当事者は市民の保護に向けて対話を始めるべきだ」と訴えている。
報告書は、ミャンマー語メディアのニュースのほか、人権団体「政治犯支援協会(AAPP)」や国軍系政党の連邦団結発展党(USDP)が公表したデータなどを基に集計。21年2月から22年9月末までの間に政治的理由で殺害された市民は少なくとも6337人に上り、「国際機関の報告よりも大幅に多い」とした。【6月13日 時事】
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国軍幹部が拘束中のスー・チー氏に民主派勢力に武装抵抗をやめさせるよう協力を要請したが、スーチー氏は拒否したとの現地報道も。
****軍幹部、スーチー氏と面会か ミャンマー、協力要請****
ミャンマーの複数の地元メディアは14日までに、クーデターで全権を掌握した国軍の幹部らが、首都ネピドーの刑務所に収監されている国家顧問兼外相だったアウンサンスーチー氏と面会したと報じた。
ミャンマーの複数の地元メディアは14日までに、クーデターで全権を掌握した国軍の幹部らが、首都ネピドーの刑務所に収監されている国家顧問兼外相だったアウンサンスーチー氏と面会したと報じた。
国軍と民主派の衝突が続いている現状を説明し、民主派勢力に武装抵抗をやめさせるよう協力を要請したが、スーチー氏は拒否したとしている。
独立系のインターネットメディア「イラワジ」や独立系放送局「ミッジマ」などが関係者の話として伝えた。【6月14日 共同】
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【サイクロン被害救済を阻害する国軍 かつて2008年にも】
戦闘状況以外で気になるニュースが。
ミャンマーは5月にサイクロンが上陸して大きな被害が出ていますが、その救援活動を国軍が阻害しているとのこと。救援物資を渡す際に被災者から高額の輸送費を徴収しているとも。
かつて、民政復帰以前の国軍支配時の2008年にも、サイクロン「ナルギス」による大被害に対し、当時の軍事政権は、海外からの人的支援を拒否し、国際批判を浴びたことが思い出されます。
****ミャンマー サイクロン上陸から1カ月 国軍が救援ボランティアを禁止、物資輸送費徴収に非難殺到****
6月8日、ミャンマーの国軍は、サイクロンで被災した人々への救援を担うNGOやボランティアの活動をすべて禁止するとの通達を出した。
大型サイクロン「モカ」がミャンマー南西部のラカイン州を襲ったのは5月14日。雨に加え、風速50メートルを超える風に晒され、多くの家が屋根を飛ばされ、倒壊。ライフラインもストップした。被災した人々は約540万人にのぼり、そこには約300万人の貧困層が含まれているといわれる。
それから約1ヵ月。食糧や水の救援は遅れ、ライフラインの復旧も進まない。背景にあるのは、救援を担うはずの国軍の問題だった。
サイクロンが襲った直後から、国連や世界各国は緊急救援の声をあげた。物資はヤンゴンに届きはじめたが、それを被災した人々に渡すスタッフにラカイン州までの移動許可を与えるのを、国軍は渋っているからだ。
過去に似たような例も…
(中略)被災したラカイン州は、国軍と敵対する少数民族のラカイン族の軍隊、アラカン軍が広いエリアを支配している。国軍は主要な街を抑えているにすぎない。
国軍はその現状が知られることを怖れ、国際援助組織が活動することで、抵抗勢力が活気づくことを警戒しているといわれる。
国軍がクーデターを起こす前までの10年間、ミャンマーは民政化の時代だった。それ以前も軍事政権だったが、今回のサイクロンと同じようなことが起きている。2008年、ミャンマーをサイクロン「ナルギス」が襲った。この時、当時の軍事政権は、海外からの人的支援を拒否している。
既得権を守るために孤立の道を進むのはミャンマーの軍事政権の特徴といえる。民主派を武力で弾圧する構造のなかで多くの国民が命を落とす。そして経済は低迷し、人々は仕事を失い、世界の最貧国に沈んでいく。今回のクーデターを起こした国軍トップのミンアウンラインは、「我々は少ない友好国とやっていくことに慣れている」とまでいっている。
被災民に「輸送費」を徴収…
軍事政権のこうした振る舞いは災害時の援助すら拒ませ、国民は歯を食いしばって生き延びなくてはならない。今回もその状況が繰り返されている。
「いや、以前よりひどい」というのは、ラカイン州の州都、シットウェ近郊に住むRさん(64)だ。救援を担う国軍は、物資を被災民に渡すとき、ヤンゴンからの輸送費を徴収しているのだという。
「物資といっても、米と、家の修繕用のトタンだけ。米は麻袋ひとつ、約5キロほどで輸送費500チャット(約335円)、トタンは1枚5,000チャット(約3,350円)を払わなくてはならないんです。以前はここまでひどくはなかった。被災した人は家もなくテント暮らし。5,000チャットなんて金があるわけがない」
5,000チャットは、ラカイン州では1日の給料に相当する額。しかしライフラインが断たれたいま、仕事はない。救援物資だけが頼りなのだが……。
国軍に対抗するアラカン軍が支配するエリアでは、救援物資の配給はアラカン軍やNGO、ボランティアが担っているが、もちろん輸送費など徴収していない。迫害されているイスラム教徒のロヒンギャの村にも配られている。
今回の国軍が発したNGOやボランティアの活動禁止通達は、この援助を断ち切ることが目的といわれる。
“蚊が困っている人の陰部を刺す”
6月1日から3日の予定で、中国の仲介によって、国軍とアラカン軍、ミャンマー民族民主同盟軍、クアン民族解放軍の間での会議の場が設けられた。しかし翌日の2日に早々に決裂。その直後から、ミャンマー北部では国軍と少数民族の軍隊との戦闘が再燃し、いままで以上の激しさだという。
今回のラカイン州での国軍の通達はこの動きと無縁ではないと現地の人たちはいう。
国軍に対し、アラカン軍は、「蚊が困っている人の陰部を刺す」というラカイン州の諺を引用して抗議している。
6月1日からミャンマーでは新学期がはじまった。国軍は子供たちに学校へ行くように指示を出したが、被災地では学校の屋根が飛んだり倒壊したりといった状態だ。それでも国軍は登校を強要する。
被災民は皆で食糧をもち寄り、水害をまぬかれた米を分け合ってしのいでいる。サイクロンがもたらした天災はいま、人災にすり替わりつつある。【6月19日 下川裕治氏 デイリー新潮】
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【タイ 実質国軍支援の外相級会議開催 ミャンマー対応でASEAN内部に足並みの乱れ】
ASEANはこれまでミャンマー国軍の弾圧を改善させようと取り組んできましたが、ASEAN内部に国軍に対する温度差もあって、これまで効果的な対応が取れていません。・・・と言うか、国軍側のASEANとの合意を無視した対応に打つ手がなく傍観している状態。
そのASEANは人道支援を入り口に国軍との関与を深めようともしており、サイクロン「モカ」上陸の翌日、5月15日に「支援の用意がある」との声明を発表、その後2375万円相当の物資を空輸しています。
ただ、国軍の上記のような支援そのものに後ろ向きな姿勢からすると、「人道支援を入り口に・・・」というのも難しそうな印象です。
ASEANはミャンマー問題に関して、暴力の即時停止などを求めた「5項目合意」をミャンマーが履行していないため、首脳会議や閣僚会議にミャンマーのミンアウンフライン国軍最高司令官や国軍が指名した閣僚など「政治代表」の出席を認めていません。
そうした状況で、タイがミャンマー問題に関する非公式外相級会議を開催、ミャンマーからも国軍が任命したタンスエ外相が出席しています。ASEAN加盟国ではラオス、カンボジア、ブルネイ、ベトナムが参加。インド・中国も参加しています。
しかし、国軍に批判的なインドネシア・マレーシア・シンガポールなどは参加せず、ASEAN内部の足並みの乱れも表面化しています。
****ミャンマー情勢めぐりタイ主導でASEAN諸国など非公式会合 一部の国は参加見送り****
2年前の軍事クーデター以降、市民への弾圧や虐殺が続くミャンマー情勢をめぐり、隣国・タイの外務省は19日、ミャンマー軍幹部を招いた東南アジア諸国などによる非公式の外相級会合を開催しています。
タイ外務省関係者によりますと、ミャンマー軍事政権とASEAN=東南アジア諸国連合の加盟国などによる非公式の会合は、19日に観光都市・パタヤで始まりました。
タイ外務省関係者によりますと、ミャンマー軍事政権とASEAN=東南アジア諸国連合の加盟国などによる非公式の会合は、19日に観光都市・パタヤで始まりました。
カンボジアやラオスに加え、インド・中国など合わせて8か国が参加し、ミャンマー軍事政権からは新たに外相に任命されたタンスエ氏らが出席しているとみられます。
タイ外務省は18日に発表した声明で、「対話は平和的な解決策を模索する外交の基本的な要件」としたうえで、会合の目的は「ミャンマー情勢の解決に向けたASEANの取り組みを支援することだ」としています。
ただ、今年のASEAN議長国を務めるインドネシアをはじめ、一部の国は参加を見送っていて、ミャンマー軍事政権に融和的な姿勢を保つタイなどが主導する会合の意義について懐疑的な見方が広がっているとみられます。【6月19日 TBS NEWS DIG】
タイ外務省は18日に発表した声明で、「対話は平和的な解決策を模索する外交の基本的な要件」としたうえで、会合の目的は「ミャンマー情勢の解決に向けたASEANの取り組みを支援することだ」としています。
ただ、今年のASEAN議長国を務めるインドネシアをはじめ、一部の国は参加を見送っていて、ミャンマー軍事政権に融和的な姿勢を保つタイなどが主導する会合の意義について懐疑的な見方が広がっているとみられます。【6月19日 TBS NEWS DIG】
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外相が参加したのは、タイとミャンマー、ラオスとのこと。
参加国を見ると、かねてより国軍に宥和的なタイや中国の影響力が強いカンボジア・ラオス・・・ということで、実質的に国軍支援会議のような色彩も感じます。
タイは自国政権が軍事クーデターによって成立した経緯、軍部の影響力が極めて強い性格から、以前からミャンマー国軍には宥和的な姿勢を見せています。
タイのドーン外相はメディアに「タイは(ASEANの)他の国とは違い、ミャンマーと2400キロの国境を接している。危機が一刻も早く終わることを望む」と会合を呼びかけた理由を語っています。
中国は例によって利権拡大を目論み、ミャンマー国軍との関係を深めています。
しかし、そうした中国にミャンマー国民からは厳しい視線も。
****軍政に甘い中国にミャンマー国民が激怒...全土で抗議デモが勃発****
<民主派が政権を奪還した場合には中国は苦しい立場に追い込まれそうだ>
ミャンマー軍事政権と中国の接近に、ミャンマー国民の不満が渦巻いている。
タイを拠点にするミャンマー情報メディア・イラワジによれば、5月初めに中国の秦剛(チン・カン)外相がミャンマーを訪問した際に全土で抗議デモが勃発。「ファシスト犯罪者への支援をやめろ」といった横断幕が掲げられ、各地で中国国旗が燃やされた。
デモを主導した反政府勢力は、中国政府が軍事政権への支援を続けるのなら、国外でも反中国デモを展開すると語っている。
軍事クーデターが勃発した2021年2月からしばらくの間、中国は政権と一定の距離を保っていた。だが、やがてミャンマー経由でインド洋に至る鉄道網などの実利を優先して態度を変え、軍事政権への関与を深めてきた。
軍事政権が崩壊する兆しがない以上、中国の判断は合理的かもしれない。だがミャンマー国民の反中感情の高まりを考えると、民主派が政権を奪還した場合には中国は苦しい立場に追い込まれそうだ。【6月5日 Newsweek】
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一方、国軍に批判的なシンガポールの外相はワシントンでブリンケン米国務長官と会談し、民主派勢力への関与を確認しています。ただ、「改善の兆候が見られない」との見解も。
****米シンガポール外相会談、悲観的なミャンマー情勢認識を共有****
シンガポールのバラクリシュナン外相は、ミャンマーの政治情勢は2021年の軍事クーデター以来改善の兆候が見られないとの見解を示した。ワシントンでブリンケン米国務長官と会談した後に述べた。
シンガポールが加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)はクーデター以降、ミャンマー軍政がハイレベル会合に出席するのを禁止している。
バラクリシュナン氏は記者会見で、情勢に進展がないことはミャンマー軍政高官とかかわる時期ではないことを意味するが、現在ASEAN議長国のインドネシアはミャンマーの「広範囲なステークホルダー」と接触していると述べ、クーデター反対派との協議に言及した。
その上で「最終的には全勢力が交渉の座に着く必要がある。どのくらい時間がかかるかは分からない。前回ミャンマーで一定の民主主義が実現するまで25年かかっている。そこまで長引かないよう望む」と述べたが、依然「悲観的」だと付け加えた。
一方、ブリンケン氏も同調し、米国はASEANによるミャンマー問題への取り組みを支援すると言明。「われわれ全員が軍政への適正な圧力をかけ続けるとともに、反対派の関与方法を模索していくことが重要」と述べた。【6月19日 ロイター】
シンガポールが加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)はクーデター以降、ミャンマー軍政がハイレベル会合に出席するのを禁止している。
バラクリシュナン氏は記者会見で、情勢に進展がないことはミャンマー軍政高官とかかわる時期ではないことを意味するが、現在ASEAN議長国のインドネシアはミャンマーの「広範囲なステークホルダー」と接触していると述べ、クーデター反対派との協議に言及した。
その上で「最終的には全勢力が交渉の座に着く必要がある。どのくらい時間がかかるかは分からない。前回ミャンマーで一定の民主主義が実現するまで25年かかっている。そこまで長引かないよう望む」と述べたが、依然「悲観的」だと付け加えた。
一方、ブリンケン氏も同調し、米国はASEANによるミャンマー問題への取り組みを支援すると言明。「われわれ全員が軍政への適正な圧力をかけ続けるとともに、反対派の関与方法を模索していくことが重要」と述べた。【6月19日 ロイター】
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“米国はASEANによるミャンマー問題への取り組みを支援する”とは言うものの、すでにタイが別方向に走りだしており、ASEANがミャンマー国軍に対し、統一的・強力な対応をとることは無理なようです。