孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ・カホフカ水力発電所ダムの決壊  原因については不明 確かなことは甚大な被害

2023-06-08 22:27:23 | 欧州情勢

(カホフカダムが決壊し、水浸しとなった住宅街=ウクライナ南部ヘルソン州で7日、AP【6月8日 毎日】)

【ダム決壊に諸説】
連日大きく報じられているウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所ダムの決壊については、その被害の大きさに加えて、ウクライナ側の反転攻勢が始まろうとしていた(あるいは、始まった)ちょうどそのタイミングで起きただけに、一体誰が?という犯人・原因について周知のようにいろんな憶測がなされています。

****ダム決壊に諸説も、ロシア関与の見方広がる…発電所のSNS「機関室が内部から爆破された」****
ロシアが侵略するウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所ダムの決壊原因を巡り、様々な可能性が指摘されている。

米政策研究機関「戦争研究所」が6日、断定は避けながらも、「ロシアが意図的にダムを損傷した」ことが決壊につながったと分析するなど、ロシアによる関与が原因との見方が広がっている。

ウクライナ軍南部方面部隊は、ダム決壊後の6日午前7時30分過ぎにSNSに「露軍がカホフカ水力発電所を爆破した」と投稿した。

これに続き、ウクライナ国営の水力発電所企業はSNSで「発電所の機関室が内部から爆破された結果、発電所は完全に破壊された」と発表し、ダムを占拠する露軍が意図的に爆破したとの見方を補強した。

ウクライナ大統領府は露軍が6日午前2時50分頃に、発電所を爆破したと発表しているが、直接的な証拠は示していない。

ダムの強度が損なわれた結果、決壊したとの指摘もある。米CNNは6日、衛星写真の比較に基づき、ドニプロ川をまたぐように並ぶ発電所やダム水門と陸地を結ぶ橋の一部が、今月1日から2日の間に消失していた可能性があると報じた。

一部の軍事専門家からは、露軍が1日に橋の一部を爆破したことが原因との分析が示されている。
露軍は昨年11月、ヘルソン州の州都ヘルソンを含むドニプロ川西岸地域から撤退した際に、橋の一部を爆破している。

こうした分析以外では、発電所を管理する露軍が意図的にダムの水量を増やした結果、貯水量がダムの許容範囲を超え、6日未明に決壊した説も浮上している。

米紙ニューヨーク・タイムズは5月中旬、ダム上流部の貯水池の水位が過去30年間で最も高くなり、洪水が発生する恐れがあると報じていた。米国メディアの科学記者らは6日、SNSで、貯水量の記録的な増加や、ダムの既存の損傷を根拠として、決壊はある程度の時間をかけて進んだとの見解を発表した。

一方、タス通信によると、露大統領報道官は6日、「ウクライナの破壊工作だ」と主張した。背景として、ロシアが一方的に併合した南部クリミアの水源にしているダム下流の運河を使用不能に追い込む狙いがあることなどを挙げた。

米NBCは6日、決壊の原因について、複数の米当局者の話として米情報機関が「ロシアが背後にいるとの見方に傾いている」と報じた。【6月7日 読売】
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ロシア、あるいはウクライナによる意図的な破壊、あるいは貯水量がダムの許容範囲を超えて決壊に至った・・・今の段階では何とも言い難い状況です。

ダム決壊がロシア・ウクライナどちらにどれだけのメリット・デメリットがあるかの議論もなされていますが、だからと言ってどちらの犯行とも決めかねます。

ロシア・ウクライナは当然のように相手の犯行と非難していますが、アメリカ・ホワイトハウスは6日、何が起きたのか現時点で決定的に言うことはできないとして、情報の精査を続ける考えを示しています。

【真相がわからないこの種の事件 「ノルドストリーム」爆破についても今になってウクライナ軍犯行の情報も】
この種の議論は慎重に行う必要があります。

昨年9月に起きたロシア産天然ガスを欧州に送る海底パイプライン「ノルドストリーム」の爆発について、当時はロシア側の犯行も強く疑われていましたが、欧米情報機関がウクライナ軍の爆破計画を3か月前には情報共有していたことが今になって報じられている・・・というように、水面下の真相は正直なところよくわからない面が多いからです。

****パイプライン爆破、3カ月前に察知か=ウクライナ軍が計画―米紙****
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は6日、ロシア産天然ガスを欧州に送る海底パイプライン「ノルドストリーム」で昨年9月に起きた爆発に関し、欧州の情報機関が事件の3カ月前にウクライナ軍による秘密攻撃計画を察知し、米中央情報局(CIA)と情報を共有していたと報じた。

同紙は、米空軍州兵(4月に逮捕・起訴)が通信アプリ「ディスコード」のグループ内で共有していた機密文書のコピーを入手。それによると、昨年6月にウクライナ特殊部隊のメンバー6人が潜水艇でバルト海に潜り、パイプラインを破壊する計画を立てていた。

ドイツ当局のこれまでの捜査によると、偽造パスポートを用いた6人が9月にヨットを借り、パイプラインを切断するために爆発物を仕掛けたとみられている。

パイプライン爆破を巡り、欧米メディアは「ロシア犯行説」などを伝えていたが、ロシア側は関与を否定している。ワシントン・ポスト紙の報道が事実であれば、欧米陣営は当初からウクライナ軍の工作を疑う根拠を持っていたことになる。【6月7日 時事】 
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“ウクライナ軍トップのザルジニー総司令官の下で計画は立案され、ゼレンスキー大統領は知らされていなかったということです。

パイプラインが実際に破壊されたのは去年9月ですが、計画と実際の状況には違いもあり、事前に情報が漏れたことで、ウクライナ軍が計画を見直した可能性があります。”【6月7日 テレ朝news】

ゼレンスキー大統領は自身及びウクライナの関与を否定しています。

****パイプライン爆破、関与を否定 ゼレンスキー氏****
天然ガスをロシアからドイツに輸送するパイプライン「ノルドストリーム」で昨年起きた爆発について、欧州の情報機関がウクライナ特殊部隊による爆破計画を事前に察知していたと報じられたのを受け、ウォロディミル・ゼレンスキー同国大統領は7日、そうした計画は関知していなかったと述べた。(中略)

ゼレンスキー氏は独紙ビルトのインタビューに通訳を介して応じ、大統領として命令権限があるが、「そうしたこと(命令)は一切していないし、絶対にしない」と語った。

さらに「わが国の軍も情報機関も実行していないと信じている」「われわれは100%、何も知らない」と訴えた。 【6月8日 AFP】
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まあ、この種の破壊工作は密かに行われますので、真相は部外者にはわかりません。
今回のダム決壊にしても、どちらに有利云々で軽々に判断すべきものではないでしょう。

再選を果たしたトルコ・エルドアン大統領がさっそく国際的な調査委員会を立ち上げることを提案していますが・・・・仮に調査委員会ができたとしても、あまり明確な結論は期待できません。

****トルコのエルドアン大統領 ウクライナ南部のダム破壊で国際調査委の創設提案****
トルコのエルドアン大統領がウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談し、ダムの破壊を巡り、国際的な調査委員会を立ち上げることを提案しました。

タス通信などによりますと、トルコのエルドアン大統領は7日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談し、ウクライナ南部ヘルソン州にある水力発電所のダムの破壊を受けて、国連とロシア、ウクライナ、トルコが参加する国際的な調査委員会の立ち上げを提案したということです。

ゼレンスキー氏の対応についてはまだ明らかになっていません。(後略)【6月7日 テレ朝news】
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【甚大な被害 飲料水確保への影響も】
誰の犯行か? あるいは意図しない事故だったのか・・・そこらはわかりませんが、甚大な被害をもたらしているのは事実です。

****ウクライナのダム決壊、4.2万人に洪水被害リスク 国連「生計失う」*****
ウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所に設置された巨大ダムの決壊について、同国の当局者らはドニエプル川沿いのロシアとウクライナの支配地域でおよそ4万2000人が洪水被害に遭う危険性があると予想した。国連の支援責任者は重大な影響が広範囲に及ぶと警告した。

ウクライナとロシアは互いにダム決壊の責任が相手側にあると非難。ウクライナはロシアが意図的に旧ソ連時代のダムを爆破するという戦争犯罪を犯したと批判し、ロシア側はウクライナがこのほど開始した反転攻勢のつまづきから注意をそらす狙いがあると主張した。

国連の人道支援責任者であるマーティン・グリフィス事務次長は安全保障理事会で、ウクライナ南部の何千人もの人々が住宅や食料、安全な水を失い、生計を立てられなくなるなどの重大な影響を受けると警告。「数日中にこの大惨事の重大さについて全容を知ることになるだろう」と述べた。

死者は報告されていないが、米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は多くの死者が出た公算が大きいと指摘した。

ダムから60キロメートル下流のヘルソン市では6日に水位が3.5メートル上昇し、住民は膝まで水につかりながら避難を余儀なくされた。

冠水する危険性がある約80の集落には住民を避難させるためにバスや列車、民間車両が動員された。ロイターの記者は6日夜に市内の住宅地域の近くで、住民が避難しようとする中で砲撃の音が4回鳴り響くのを聞いた。

ドニエプル川沿いのロシア占領地域にある動物園は水没し、300匹の動物が全て死んだという。関係者がフェイスブックの公式アカウントに投稿した。

米国はダム決壊の責任の所在は明らかではないとしているが、ロバート・ウッド国連代理大使は、ウクライナが自国の領土と国民に対してこのようなことをするのは理にかなわないと指摘した。

ジュネーブ条約では、民間人に危険が及ぶためダムは紛争時の標的にしてはならないと定められている。

ウクライナのゼレンスキー大統領は定例のビデオ演説で、同国の検察当局が既にダム破壊の捜査に国際司法を関与させるよう国際刑事裁判所(ICC)の検察官に打診していると明らかにした。

一方、国際原子力機関(IAEA)はダムの貯水池から原子炉の冷却水を取水していたザポロジエ原子力発電所について、貯水池の上にある池から「数カ月」は冷却水を取水できるとの見通しを示した。【6月7日 ロイター】
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洪水による直接の被害もさることながら、飲料水への影響も懸念されます。

****ウクライナ南部のダム破壊、数十万人が飲料水入手困難に=大統領****
ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、南部にあるカホフカダムの破壊により、数十万人が通常通りに飲料水を手に入れることができなくなったと述べた。

メッセージアプリ「テレグラム」に「ウクライナ最大の貯水池の一つが破壊されたのは絶対に意図的なものだ」と投稿し、ロシアを非難。一方、ロシア側は破壊の責任はウクライナにあるとしている。

ウクライナ当局によると、南部と南東部のドニプロペトロウシク、ザポロジエ、ミコライウ、ヘルソンの各州一部で水の供給に支障がでている。

クブラコフ副首相は「現在の最優先事項はロシアのテロ攻撃で影響を受けた地域に水を供給することだ」とツイートした。【3月7日 ロイター】
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結果として、ウクライナ側は反転攻勢だけでなく被害対策にも力点を置かざるをえず、その点では勢いをそがれる可能性もあります。

【クリミアは今後何年も水不足にあえぐことになるとの見方も】
一方、飲料水への影響で注目されるのは、プーチン大統領が誇る「成果」でもあるクリミアへの影響が甚大で、しかも数年の長期に及びそうだということ。

クリミアは、ウクライナ側としてはなんとか奪還する形で戦争を終えたいところですが、ロシア・プーチン大統領は、もしクリミアが危うくなればいよいよ核兵器の使用に手をかけるのでは・・・との不安も増す、そういう敏感な地域です。

****ダム決壊でクリミアが干上がる⁉️──悪魔のごとき「焦土作戦」****
<環境を汚染し、飲料水も農地も奪ったダム決壊をウクライナはダム破壊による「焦土作戦」と呼ぶ。それも「焼かれた」のは、昨日まで自国領だと言っていた土地だ>

ウクライナ政府はカホフカ・ダムの決壊で、南部の何万人もの住民が飲料水を利用できなくなると警告した。ウクライナ南部は今後何年も深刻な水不足に陥り、農業生産も大打撃を受けるとの懸念が広がっている。(中略)

米シンクタンク・ジェームズタウン財団のアナリスト、アラ・フルスカによると、カホフカ貯水池の水位は1時間に15センチのペースで低下し続けており、深刻な水不足が予想されるという。
「今後数日様子を見ないと水の動きは読めないが、非常に深刻な影響が出ることは間違いない」

ロシア軍は北クリミア運河の利用を断念
「ヘルソン州の南部とクリミア、特にクリミア半島北部では飲料水が入手できなくなる恐れがある」と、フルスカは述べている。

カホフカ貯水池はウクライナのドニプロペトロウシク州の都市クリビー・リフで使用される水の70%前後を供給しており、市当局は市民に飲料水を貯めておくよう呼びかけた。ミコライウ州とザポリッジャ州、さらに南の地域の水供給にも影響が及ぶ恐れがある。

フルスカによれば、クリミアに駐留するロシア軍も、カホフカ貯水池から取水した水をクリミア半島に供給している「北クリミア運河」がもはや頼りにならないことを認めたという。

2014年のロシアによるクリミア併合で、ウクライナはこの運河経由のクリミアへの給水を制限したが、ロシアは昨年2月のウクライナ侵攻後、カホフカ・ダム周辺地域を支配下に置き、運河を経由してクリミア半島に淡水が豊富に供給されるようにした。

しかし「カホフカ海」と呼ばれるほど広大な貯水池が決壊した今、「クリミアは今後何年も水不足にあえぐことになると、多くの専門家がみている」と、フルスカは言う。

ウクライナ環境連盟の代表で、環境問題でウクライナ政府の顧問を務めるテチャナ・ティモツコはウクライナの国営通信社ウクルインフォルムにダム決壊は「この地域全体の農業に甚大な打撃を及ぼすだろう」と語った。

「クリミア半島は今後10年か15年、ことによると永久に淡水を確保できなくなる恐れがある」と、ティモツは述べた。

浸水地域の水が引けば、被害状況が明らかになるだろうが、ダム破壊が環境に与える影響について、本誌がウクライナのアントン・ヘラシチェンコ内相顧問にコメントを求めると、自身のツイッターの7日付けの投稿を見てほしいと言われた。

ヘラシチェンコはこの投稿で「カホフカ水力発電所の破壊は環境に壊滅的な被害を与える」と警告し、後2〜4日でカホフカ貯水池の膨大な水は全て流出すると予測。一帯の国立公園や広大な土地の破壊など、環境に与える打撃を列挙している。

ヘラシチェンコはまた、ヘルソン州とミコライウ州の一部地域では何百種もの動植物が姿を消し、灌漑用水が使えなくなるためヘルソン州とザポリッジャ州のざっと150万ヘクタールの土地が穀物栽培など農業生産に利用できなくなると予測している。

ウクライナ内務省の顧問であるアントン・ゲラシュチェンコはツイートで、ドニプロ川から溢れた水は、有害物質やゴミを呑み込んで有毒かもしれないだけでなく、土壌から流出した地雷も紛れて近づくのは危険だと書いている。

ウクライナのセルギー・キスリツァ国連大使は、この「攻撃」は、退却する軍隊が敵に利用されそうなものはすべて焼き尽くしていく軍事戦略「焦土作戦」そのものだと言った。

この場合恐ろしいのは、クリミア北部も含め被害に遭った土地の大半が、ロシアが「自分のもの」だとして統治してきた土地だということだ。「大地を焼き尽くす代わりに水浸しにすることで、この土地はもはやロシアのものではないと認めたようなものだ」【6月8日 Newsweek】
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クリミアの飲料水が確保できなくなれば、この地域の統治もできなくなります。

上記記事はロシアの犯行を前提にしているようにも見えますが、逆に、ロシアが「自分のもの」とするクリミアに甚大な影響を与えるようなことをロシアが行うはずがないという主張も成り立ちます。

何べんも言うように、現段階ではダム決壊の理由はわかりません。おそらくしばらくは“わからない”状況が続くのではないでしょうか。被害状況の方は今後明らかになってくると思いますが。
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