(英FTはフランスのマクロン大統領がNATOの東京事務所開設に反対したと伝えた(写真は5日)=ロイター【6月6日 日経】)
【アジア・中国への関与を強める方向の欧州】
北大西洋条約機構(NATO)が東京に連絡事務所を開設する方向で調整が進んでいるとの報道が。
****NATO、東京に連絡事務所設置で調整 連携体制の強化を図る****
冨田浩司駐米大使は9日、北大西洋条約機構(NATO)が東京に連絡事務所を開設する方向で調整していると明らかにした。ワシントンのナショナル・プレスクラブでの講演後、進行役の質問に答えた。日本も、現在は在ベルギー大使館が兼ねているNATO代表部を独立させる方針で、相互に連携体制の強化を図る。
冨田氏は、東京での事務所開設に関して「NATOとの連携強化の一環として協議している」と説明した。NATO側には、日本との協議を円滑に進めたり、アジアでの情報収集を強化したりする狙いがあるとみられる。
日本とNATOは、中国の軍事的な台頭を受けて、連携を強めている。岸田文雄首相は2022年6月に日本の首相として初めてNATO首脳会議に出席した。【5月10日 毎日】
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欧州としては“ウクライナ情勢においてロシアに対応しようとすると、中国も一緒に付いて来る”という世界情勢のなかで、アジア、特に中国への対応を考える必要が高まっているということでしょう。
安全保障面で中国を意識する日本としては、この地域への欧州の関与が強まることは「歓迎」でしょう。
中国としては、欧州の意向も考慮しないといけないということで「厄介」ということにも。
****NATO「東京連絡事務所」開設 中国の台湾統一への計算を複雑にさせる「意味」も****
学習院大学特別客員教授で元駐インドネシア大使の石井正文が5月11日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。開設される方向で動いているNATOの東京連絡事務所について解説した。
冨田駐米大使は5月9日、日本の東京に北大西洋条約機構(NATO)の連絡事務所を開設する方向で動いていると述べた。また、日経アジアも3日、NATOはアジア地域での連携を促進するため2024年中に東京に連絡事務所を開設すると報じている。
NATO東京連絡事務所 〜NATOと日米同盟が協力してアジア地域での紛争を防止するために抑止力を高めていく
(中略)
石井)報道もされていますが、この事務所は特にサイバーや偽情報、宇宙についてアジアの拠点として動く目的があります。それと同時に、NATOと日米同盟が協力し、この地域での紛争を防止するための抑止力を高めていく。それを具体化する動きも進める必要があると思います。その意味でも、このような事務所ができることは重要だと思います。
ウクライナ情勢によってロシアについた中国への問題意識が高まった
飯田)ヨーロッパの国々も含めて、東アジア・インド太平洋地域への関心が高まっているということですか?
石井)その通りです。ウクライナ紛争が起きた年の夏にNATO首脳会合が行われましたが、ロシア一色になると思ったら、NATO側は「中国が体制上の挑戦を突きつけている」と言及しました。インド太平洋とヨーロッパの状況は切り離せないということを、NATO側が明確に表明したのです。(中略)
背景としては、ウクライナ情勢においてロシアに対応しようとすると、中国も一緒に付いて来るということです。そういう意味で、逆に中国に対する問題意識が高まってしまったのだと思います。
アジアと連携していくNATO
石井)いまヨーロッパは、自由で開かれたインド太平洋のいろいろなコンセプトもたくさんつくっていますし、連携がますます強まっていると思います。
飯田)各国がインド太平洋戦略を出してきている。去年(2022年)のNATO首脳会議には、日本も含めてインド太平洋の国々がオブザーバーとして参加しました。
石井)日本、韓国、豪州、ニュージーランドです。今年もそうなると思いますが、そういう形でアジアと連携していくのだと思います。
ヨーロッパの国々と共同で軍事演習などを行えば、中国は「NATOも台湾有事に関与するのではないか」と考えざるを得ない 〜計算を難しくさせる
飯田)他方、フランスのマクロン大統領は先日の訪中後に、台湾情勢について、ヨーロッパは米中のどちらか一方に従属するべきではないというようなことをインタビューのなかで発言していました。そういう意識は未だに残っているのでしょうか?
石井)まったくないとは言えないでしょうね。距離的に遠いですし、普通に考えれば、彼らにとって最も大きな脅威はロシアですから。こちらは物理的に、危機に際してどれだけヨーロッパ諸国が協力してくれるのかどうか、期待値を調整する必要はあると思います。
ただ、平和なときに彼らがたまに来て、共同訓練などを行うと、中国にすれば「もしかすると場合によってはNATOも台湾有事に関与するのではないか」と思わざるを得なくなります。計算を複雑にするという意味でも、ヨーロッパの関与は非常に大きいと思います。
飯田)確約ということではなく、「どうなるかわからないぞ」とするのが大事ですか?
石井)そうです。計算を難しくするということがキーワードだと思います。そういう意味では、NATOとの関係は非常に重要です。
飯田)東京連絡事務所の報道が出た際、中国外務省が反応しているということは、本当に嫌がっているのですか?
石井)そうだと思います。去年もドイツやオランダが来て共同訓練を行いましたが、中国はそれがとても嫌なのです。我々からすれば、必ずしもドイツがいつも来るとは思わないのですが、中国からすればそれも可能性として考慮しなければならない……これはとても面倒なことだと思います。そういう意味でNATO・ヨーロッパの関与は重要です。
飯田)去年、バイエルンというドイツの船が来たり、その前はイギリスの空母が来ました。
石井)フランスは南太平洋にニューカレドニアなどの海外領土がありますし、イギリスも伝統的にアジアに近いですから、彼らは関与してくると思います。しかし、それ以上どこまで関与してもらえるかどうかは、NATO事務所などを通じて今後、具体化していくことになると思います。
アジアの国々とは「同志国」として実質的に協力することが大事
飯田)いろいろな関係を重ね合わせることが大事になりますか?
石井)そうです。よくアジアのスパゲティ・ボールと言われますが、それぞれ事情が違うので、さまざまなネットワークが広がっていますし、そうならざるを得ないのではないですかね。1つで「すべてNATO」というわけにはいかないと思います。アジアの事情はそれぞれ違いますから。
飯田)NATOのように集団的自衛権で守り合うため、スクラムを組むようなことは難しいですか?
石井)難しいです。個別の国の状況に配慮する必要があると思います。スパゲティ・ボールですから。
飯田)「同盟まではいかないけれど」というような、アンニュイな関係が必要なのですか?
石井)同志国はまさにそれがキーワードですね。同盟ではないのだけれど、同じ方向を向いていて、実質的に協力する。それが大事だと思います。【5月11日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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【中国刺激を懸念するマクロン仏大統領は反対】
この動きに「異論」を唱えているのが、上記記事で台湾情勢に関する発言が問題視されているフランス・マクロン大統領。
マクロン大統領は訪中して習近平国家主席の歓待を受けた4月、欧州は台湾を巡る危機を加速させることに関心はなく、米中の双方から独立した戦略を追求すべきだとの、実質的に中国の行動を容認することにもなるような考えを示し注目を集めました。
台湾問題で「アメリカに追従してアメリカに合わせたり、中国の過剰反応に付き合ったりするのは最悪だ」と強調したとも。
その後の中国にすり寄っているなどとの批判にも、「(アメリカの)同盟国であることは下僕になることではない。(中略)自分たち自身で考える権利がないということにはならない」と語り、自らの発言の妥当性を主張しています。【4月13日 BBCより】
そのマクロン大統領は、NATOの連絡事務所を東京に開設することにも反対の意向を示しています。
****マクロン大統領、NATO東京事務所開設に反対…中国との関係悪化懸念か****
英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は5日、フランスのマクロン大統領が、北大西洋条約機構(NATO)の連絡事務所を東京に開設することに反対の意向を示したと報じた。
NATOは東京に拠点を設け、インド太平洋地域の安全保障協力を広げる狙いがあったが、マクロン氏は中国との関係悪化を懸念したとみられる。
実現すれば、アジア初となる連絡事務所の開設は、NATO首脳会議の全会一致の賛同が必要となる。仏政府が反対すれば、開設に向けた調整は難航必至だ。
同紙によると、マクロン氏は先週行われた会合で、「NATOの活動範囲を拡大すれば、我々は大きな誤りを犯すことになる」と発言した。協議に詳しい関係者によると「フランスはNATOと中国の緊張を高めることに消極的だ」という。
マクロン氏は4月に中国を訪問した際、台湾情勢に関して「米国に追随するのは最悪だ」などと語り、波紋を呼んだ経緯がある。【6月6日 読売】
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日本では、こうしたマクロン大統領の中国重視の言動への苛立ちの声も噴出しています。
****マクロン仏大統領のNATO東京事務所開設反対で、日米と欧州の間で分断が進む懸念も****
ジャーナリストの佐々木俊尚が6月7日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。フランスのマクロン大統領が反対しているNATO東京事務所の開設計画について解説した。
マクロン仏大統領がNATO東京事務所の開設に反対 〜開設には全会一致が必要
イギリスのフィナンシャル・タイムズは6月5日、フランスのマクロン大統領が北大西洋条約機構(NATO)の東京事務所を開設することに反対の意向を示したと報じた。NATOは東京に拠点を設け、インド太平洋地域の安全保障協力を広げる狙いがあったが、マクロン氏は中国との関係悪化を懸念したとみられる。
(中略)
佐々木)4月は中国へ行って習近平氏と会談し、台湾情勢に関して「ヨーロッパは米中に追随しない方がいい」というような発言をしました。西側諸国は「何を言っているのだ」とみんなイライラしていましたが、またかという感じです。
飯田)その間にG7広島サミットがありましたが。
佐々木)そのときは何も言わなかったくせに。
飯田)「言うのなら、そこで言え」と思いますよね。直前にNATOの事務総長などが「東京事務所をつくる」という話をしていました。
佐々木)ドイツやヨーロッパの西側諸国はこぞってウクライナ支援に賛同していて、台湾情勢に関しても、アメリカ・日本と同調して向き合っていこうという方向です。でもフランス人はへそ曲がりなので、「お前らは勝手にやれよ。俺は中国と仲よくするから」という感じですよね。
飯田)飛行機も売りましたし。
佐々木)気持ちはわからないでもないけれど、もう少しグローバルな国際情勢を考えて欲しいですね。
FOIPとNATOをつなげて世界的に広がる西側諸国の連帯するネットワークをつくる
佐々木)NATOと日本の関係に何の意味があるかと言うと、日本は第2次安倍政権のころから、「自由で開かれたインド太平洋」戦略をスタートさせた。日本から東南アジアを経てインドに至るまでの広いエリアを、1つの西側諸国のつながりとして捉えようという考え方を提案しています。
飯田)FOIPですね。
佐々木)そうは言っても、ロシアによるウクライナ侵攻が起き、インド太平洋だけでは西側の自由な国々を守れないので、日本はウクライナ問題に積極的にコミットしていくことになった。
飯田)日本も。
佐々木)一方では、ヨーロッパの国にも台湾情勢をきちんと見て欲しい。実際、イギリスはこちらに艦船を派遣しました。
飯田)空母打撃群を。
佐々木)ヨーロッパの北大西洋と、自由で開かれたインド太平洋を一列につなげて、世界的に広がる西側諸国の連帯するネットワークをつくろうというのが今回の狙いです。(後略)【6月7日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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【フランス外交の基本姿勢ではあるものの・・・】
上記記事での“へそまがり”云々はいささか感情的に過ぎます。
“欧州はどこかの国に従うのではなく、自分たちの意思決定に基づく外交を行う”というのはフランス外交の基本ですし、マクロン大統領の基本姿勢です。
ロシアや中国に対しても、間違っていることについては批判はするけど、いたずらに排除したり、追い詰めたりするのでなく対話で解決の糸口を見つけていくべきだという考えです。
ただ、現在のウクライナや台湾をめぐる国際情勢の中でのマクロン発言は、結果的にロシア・中国容認的な意味合いを帯てしまうところもあって、欧米諸国の協調で対応していこうとする流れに棹さすことにもなっています。
中国はNATOに対し「頭を冷静に保つべきだ」とクギを刺しています。
****中国、NATOに対し「頭を冷静に」 日本事務所計画で****
中国外務省の汪文斌(おうぶんひん)報道官は6日の記者会見で、フランスのマクロン大統領が北大西洋条約機構(NATO)が検討している日本連絡事務所の開設計画に反対していると報じられたことに関し、「アジアは北大西洋の地理の範疇(はんちゅう)になく、アジア版のNATOの創設も必要ない」と表明した。
汪氏は、NATOに対し「この問題において頭を冷静に保つべきだ」と発言。日本側に対しても「地域の安定と発展の利益に合致する正しい判断を行うべきだ」とクギを刺した。
中国は、米国が主導する対中包囲網が自国周辺で影響力を増すことを強く警戒している。汪氏は「大部分の地域国は、同地域で各種の軍事集団が寄せ集められることに反対している」と述べ、NATOに対する警戒姿勢をあらわにした。(後略)。【6月6日 産経】
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現実問題としては、マクロン大統領が翻意しない限り、話は先に進みません。