孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

“反グローバリズム”的な動きの中で前面に出てきた“国家の役割” 行先は国家社会主義の時代?

2017-01-06 22:41:48 | 国際情勢

(21世紀に蘇るヒトラー、はたまたスターリン・・・なんてことがないように)

グローバリズム 対 グローバル化に疲れた国民
****グローバリズム****
地球上を一つの共同体とみなし、世界の一体化(グローバリゼーション)を進める思想である。
現代では、多国籍企業が国境を越えて地球規模で経済活動を展開する行為や、自由貿易および市場主義経済を全地球上に拡大させる思想などを表す。訳して地球主義とも言われる。【ウィキペディア】
****************

一般には、上記のように多国籍企業の活動や自由貿易の観点から使用されますが、本来の趣旨からすれば、国境を越えて移動する難民・移民というヒトの流れを許容する考えも“グローバリズム”のひとつでしょう。

その意味において、昨年来の世界の動きは、「ヒトが、モノが、カネが、情報が、地球上において国境を越えて自由に動き回れるようにしよう」というグローバリズムの流れと、それによって自分たちの生活が脅かされていると感じる人々の間の対立が先鋭化し、多くの局面で“反グローバリズム”的な選択がなされているというようにとらえることができます。

三橋貴明氏の下記主張は、そうした流れを指摘したものです。
ただ、別にグロ―バリズムやTPPに賛同する者が、国家も法律もない弱肉強食の完全自由社会を主張している訳でもありませんので、もし“グロ―バリズム=完全自由社会”と決めつてしまうと“「頭が悪い人」の誹りを免れません”。

****三橋貴明】想像してごらん 国なんて無いんだと****
イギリスのブレグジット、アメリカ大統領選挙におけるトランプの当選、オーストリア大統領選挙における自由党の健闘、イタリアのレンツィ首相の国民投票における敗北など、現在の世界は「グローバリズム 対 グローバル化に疲れた国民」の対立によって動かされています。

右翼 対 左翼。保守 対 リベラル。といった、旧来の対立構造で世界を理解しようとすると、普通に間違えます。

そもそも、三橋に言わせれば、現在の日本は右翼も左翼も、保守もリベラルも「グローバリズム」です。
グローバリズムを左翼、リベラル風に言い換えると「地球市民」となります。

国家を否定し、国家の役割を否定し、国境を嫌悪し、「ヒトが、モノが、カネが、情報が、地球上において国境を越えて自由に動き回れるようにしよう」というグローバリズムの教義には、別に朝日新聞であっても反対しないでしょう。 実際、朝日新聞はTPPを礼賛し続けました。

ジョン・レノンの名曲「イマジン」に、「Imagine there’s no countries(想像してごらん 国なんて無いんだと)」
という歌詞があります。

うん。実際に国がなくなったら、人々はあらゆる法律、規制、ルールから「自由」になり、強者が弱者を虐げる、
北斗の拳の「ヒャッハーッ!」な社会が誕生することになるでしょう。何しろ、法律を制定する「国」がないのです。

誰にも縛られず、誰の束縛も受けず、やりたいことがやれる自由な社会。
つまりは、強者が敗者を踏みにじっても、誰からも批判されないどころか、それが「普通」の世界。
ルールなき世界において、誰もが「フェア」に競争し、勝ち組と負け組に分かれていく。負けた者は、もちろん自己責任。

その種の弱肉強食の時代が訪れたとして、それは果たして「人類の進化」なのでしょうか。 三橋は普通に「退化」だと思います。 人類は、獣の時代に戻るのです。

人間が健康で文化的、かつ豊かで安全な生活を送るためには、 健全な共同体としての「国家」が必要なのです。国家が法律を制定し、「獣の時代」の到来を防ぐ。我々国民は、 有権者として投票し、国家の法律制定に関与する。

少なくとも「方向」としては、国民が主権を行使し、 国家の法律制定に影響力を発揮することが、「進化である」と表現しても構わないのではないでしょうか。(そういう意味で、中華人民共和国は相対的に退化した国家です)

無論、話はオールオアナッシングではないため、「ならば、国家が全てを規制すればいいというのか!?」などと、極論で反論するのは「頭が悪い人」の誹りを免れません。

完全自由社会と、完全統制国家との間には、 無限のバリエーションがあります。

現在の世界は、国民が置き去りにされ、「完全自由社会」の方向に天秤が傾いてしまっている。
だからこそ、民主主義による反乱が起きていると解釈するべきです。

2017年も各国で選挙が続き、グローバル化に疲れた人々の「票」がますます力を持ち始めることになるでしょう。やはりイギリスのブレグジットは、「例により」大転換の始まりであったことが確定するのではないかと予想しています。【2016年12月 三橋貴明氏 http://www.mitsuhashitakaaki.net/2016/12/12/
****************

個人的な好き嫌いを言えば、私は国家の役割が“過度に”強調され、個人の権利・生活が国家によって“過度に”制約される社会は好みません。

国境についても、たまたま飢餓や紛争の絶え間ない国に生まれた人々が、そこから国境を越えて逃れようとすると追い返されるという現実は、“悲しく理不尽な現実”だと思っています。(今すぐに国境を取り払えなんて言いませんが、少なくとも“悲しさ”“理不尽さ”を認識してしかるべきだとは考えています)

従って、“民主主義による反乱”が目指す方向には違和感を感じます。もちろん、“無限のバリエーション”のどこに立つか・・・という話ですが。

前面に出てきた『人を外から入れない』という国家の役割
個人的な嗜好は別にして、上記のような“反グローバリズム”的な動きの中で、国家の役割が改めて期待されている・・・という話があるようです。

昨年2月に話題となった「保育園落ちた日本死ね!!!」というブログを発端とする動きも、国家の否定と言うより、逆に、国家に何とかして欲しいという叫びと捉えることができるとか。

****我々はどこから来て、どこへ向かうのか:4)グローバル化の先は****
・・・・(批評家の)東氏は、日本でこの10~20年の間に人々の考え方が変わってきた、と語った。
 
グローバル化を背景にした収入減少で共働き家庭が増え、「妻は家で育児」のモデルは行き詰まった。教育費がかさむ時期に手厚い給与をくれた“年功賃金の会社”や労働組合もやせ細った。

そうした中で「せいぜい国家ぐらいしか頼るものがない」という認識が広がったと見る。だから怒りも国家へ向かうのだ、と。
    *
国境に囲まれた領域のなかで排他的に国民を統治し、外に向けて独立する存在。「主権国家」が定着し始めたのは、17世紀ごろの西欧だったとされる。
 
それから数百年。20世紀終盤にグローバル化が加速した。人や資本が国をまたいで行き来し、国境は溶けていく、との見方も出た。
 
国家の存在感は低下しているのだろうか。
国際政治学者の藤原帰一・東京大学教授は「いや、むしろ『人を外から入れない』という国家の役割が前面に出てきた」と話す。
 
ドナルド・トランプ氏は、移民や外国資本が職場を奪う、難民はテロリストかもしれないと訴え、国境に壁を築こうと語った。
 
人を入れない大国は国民を保護できるか。自分の首を絞める可能性が高い、と藤原氏は否定的だった。
「豊かな国が自己利益だけに走ると、世界で取り組まねばならない問題に誰も取り組まなくなる。世界は不安定になり、国家同士が衝突するリスクも高まる」
 
国家に期待や失望をするのは、国家が私の生活を支えてくれるはずだという意識があるからだろう。
 
福祉や社会保障を整え、広く国民生活を支える国家は、福祉国家と呼ばれる。一般には19世紀以降、解雇や病気で生活が不安定になる賃金労働者が増えたため広がったとされる。1970年代の石油危機で経済に陰りが見えると、福祉国家の退潮が語られ始めた。
    *
「総動員型の戦争」という観点からその歴史に別の光を当てるのは、憲法学者の長谷部恭男・早稲田大学教授だ。19世紀後半、福祉国家が現れる起点にドイツ帝国宰相・ビスマルクの強兵策があったと見る。
 
訓練された兵士を大量に動員することが当時、戦争に勝つカギだった。「戦争体制への動員を国民に納得させるため、ビスマルクは社会福祉制度を設けた」。日本でも、戦時体制のもとで社会福祉が拡大した。
 
そんな総動員戦争の時代は冷戦終結で終わった、と長谷部氏は見る。国家にとって福祉国家という役割を担うことは「必然」ではなくなり、すでに「選択肢の一つ」へ後退したという。
 
「とはいえ、生活が底辺に向かうのを放置すれば国民は国家に愛着を持たなくなる。多くの国が連携してグローバル化による賃金低下や税金逃れに歯止めをかけられるかどうか。ダメなら国民は根無し草になる」
 
昨年10月、ドイツの最高裁にあたる連邦通常裁判所が出した判決が、日本でも注目された。
保育所がなく仕事に復帰できなかった親が所得の賠償を求めた。ドイツは法律で、保育機会を子に与えるよう自治体に義務づける。判決は、財政難という理由では保育所設置の義務を免れないとした。
 
憲法学者の木村草太・首都大学東京教授はこう語る。「国家が市場経済の体制を採る以上、国民は働かねば生きていけない。国家の繁栄ではなく『個人の尊重』という観点から、誰もが労働できる環境を整備する義務が国家にはある、と考えることは可能だ」
 
近代社会を支える社会契約説によれば、人々が国家を作るのは自らの生命や財産を守るためだ。
東氏は言う。「今、人々の作り出す財産を2次、3次利用して巨大な富を得るグローバル資本が政府に保護される。他方で貧しい労働者は、自力で何とかせよと言われる。保護する対象が違う、との怒りには一理がある」
 
グローバル化の先にも支えとなる国家。私たちはデザインできるだろうか。【1月5日 朝日】
*******************

欧州極右・トランプがもたらす国家社会主義の時代 連携するロシア・プーチン大統領
国家と言うか、政府への公的支援の国民要求は、今も昔も山ほどあり、「保育園落ちた」現象が「せいぜい国家ぐらいしか頼るものがない」という国家への期待の高まりを表すもの・・・と言えるのかどうかには疑問があります。

ただ、「『人を外から入れない』という国家の役割が前面に出てきた」という藤原氏の考えには賛同します。
欧州における極右勢力の台頭、アメリカのトランプ現象などは、そうした「国家の役割」を求める動きでしょう。

ロシア・プーチン大統領は、そうした動きとの連携を強めています。

****崩壊から25年、「ソ連」が今よみがえる****
<資本主義が勝利した世界で続く格差対立。トランプがもたらす国家社会主義の時代>

ソ連という世界2位の超大国が崩壊して25年。筆者はソ連時代のロシアに5年住んだ。自由でいようとする者にとってソ連は過酷な社会だったが、大衆はぬくぬくと暮らしていた。

ソ連......あれは何だったのか? アメリカとの冷戦で、世界は核戦争寸前といつも言われていたが、実際には米ソ双方とも核戦争を避けるため自重し、世界はかえって安定していた。

ソ連......それは近代の産業革命、工業化が生み出した格差に対する抗議の声をまとめたものでもあった。それにはマルクス主義という名が付けられて、世界の世論を二分した。

91年にソ連が崩壊。米ソ対立に隠れていた別の対立軸が前面に躍り出て、世界を引き裂く。工業化に成功した先進国と、工業化のあおりを食うだけの途上国や旧社会主義諸国との間の格差がもたらす対立だ。イスラムテロもこの活断層から生まれた。

ソ連消滅後、アメリカは他国を独裁国と決め付けては民主化をあおり、政権を倒す動きを展開。旧社会主義諸国や途上国を収拾のつかない混乱に投げ込み始めた。自分たちは特別な使命を持つ国だというアメリカのおごり(「例外主義」)に歯止めが利かない。

マルクス主義は権威を失ったが、格差に対する抗議の声は現在、右翼・国粋主義、反移民運動として表れている。

面白いことにロシアのプーチン政権はかつてソ連が国際共産主義運動の旗を振ったのに似て、先進諸国の右翼勢力との提携を強めた。アメリカが展開する国際民主化運動にこうやって対抗するさまを、英エコノミスト誌は「プーチン主義運動」と揶揄する。

右翼・国粋主義、反移民運動は、政治家にあおられてポピュリズムの大波となった。イギリスのEU離脱やアメリカのトランプ大統領候補の当選の流れは、先進諸国の政治体制を覆しつつある。

国家が再び舞台の中央に
ソ連......それは日本にも爪痕を残した。ソ連は第二次大戦直後、日本の占領統治に参加させてもらえなかったが、「革新」勢力を支持して日本の権力を掌握しようとした。

イデオロギー対立からソ連と手を切った後も、ソ連が崩壊した後も、日本の革新勢力は投資より分配に過度に傾斜した経済政策や反米幻想を捨てない。革新勢力は戦前の国粋主義を奉ずる一部保守勢力と好一対で、今でも権力奪取の見果てぬ夢を追う。

ソ連と同様に化石的存在である日本での「保守・革新」対立を尻目に、世界はこれから弱肉強食の時代に突入しようとしている。

ソ連崩壊後のアメリカ一極化はイラク戦争で頂点に達した。だがその戦費の垂れ流しは国債の乱発をもたらし、財政・金融両面でアメリカをむしばむ。08年の世界金融危機を機に、アメリカは地位を後退させた。

オバマ政権は国外への派兵を避けたのはいいが、明確な見通しもなしに他国を「民主化」する動きをやめず、そのため、ウクライナやシリアでは先の見えない紛争を生み出した。

こうした「無極化世界」の混乱のなか、トランプはそれに背を向け、自国の利益だけに集中しようとしている。それによってこれから起こる「製造業の奪い合い」は、近世に行われた英蘭仏、重商主義諸国のゼロサム・ゲームの再現となるだろう。

グローバル化の中では、製造業に頼らずとも富と雇用を生むのは可能であるにもかかわらず、トランプが展開する製造業の奪い合いは、「国家」という時代遅れのマシンを再び舞台の中央に引き出す。
国家が企業に命令して、外国への工場流出を止めるようになるからだ。

国家が経済の主人面をし始めると、「ノマド」(遊牧民族、実力で世界を渡り歩く人間)など、ひと頃はやった強い個人はしばし休息となる。これからの数年は、「国家」の意味が増すだろう。国家が公平な分配を保証する「国家社会主義」......。

何のことはない。ソ連的なもの――ドイツではナチズムと呼ばれた――は、世界中でよみがえったのだ。【1月3日/10日号 河東哲夫氏 Newsweek日本語版】
********************

先述のような個人的な国家感からすると、どうも息苦しい時代がやってきそうです。

なお。欧州極右運動とプーチン大統領の連携を示すものが、フランスの「国民戦線」マリーヌ・ルペン党首へのロシアの資金援助ですが、ルペン氏としてもあまりロシア依存が強まると世論の批判を受けるということで、困った立場にもあるようです。

****ルペンは禁断のロシアマネーに手を出すか****
移民排斥を掲げて支持を伸ばすフランスの極右政党・国民戦線のルペン党首。17年の大統領選レースで支持率2位につけているが、本格的な選挙戦を前に「金欠病」に悩まされていることが明らかになった。
 
国民戦線は大統領選と議会選に向けて2000万ユーロの資金調達を目指している。14年にはモスクワに本拠を置くファースト・チェコ・ロシア銀行から900万ユーロ以上の融資を受けたが、同行は16年7月にロシア当局に免許を停止された。

その後、国民戦線はフランスの銀行に資金提供を拒まれ、ある米銀との交渉も頓挫。今も新たな資金源を見つけられていないという。
 
ロシア系の別の金融機関から融資を引き出すこと自体はさほど難しくないだろうが、ルペンは慎重にならざるを得ない。

米大統領選にロシアが不正介入した疑惑が強まるなか、仏メディアはルペンとロシアの関係に目を光らせている。
 
目先のカネと長期的なイメージのどちらを優先するべきなのか、ルペンは難しい判断を迫られそうだ。【1月3日/10日号 Newsweek日本語版】
********************

ロシア・プーチン大統領の“サイバー攻撃”によるトランプ支援については、今後アメリカで関連した動きもあると思われますので、またその時に。

“ウソと謀略に満ちたヒトラーとナチ党の手口は、いまや世界各国で政治の常套手段になり、極右や強権的なリーダ−たちが大手を振るっている。格差とテロ、宗教対立、金融資本の跋扈(ばっこ)、経済危機、大量難民、極右台頭。世界に波乱をもたらす様々な不安がその「復権」を後押ししている。”【2016年12月19日 Record China】

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« イスラエル オバマ政権に“マ... | トップ | トルコ  政府批判を許さな... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

国際情勢」カテゴリの最新記事