
(【10月4日 中日】)
【「共同富裕」と「成長と分配の好循環」が重視する格差解消・分配】
中国では習近平国家主席が鄧小平が唱えた先富論の後半である「共同富裕」に力を入れ「先富者からの第三次分配」を推進する方向性を打ち出していますが、日本では岸田首相が「新自由主義からの転換」、「新しい資本主義」として、分配を重視した「成長と分配の好循環」を掲げています。
その類似性や特徴、相違はさておき、中国にしても日本にしても「分配」が重視されるというのは、格差の拡大が深刻化しており、この格差を放置しては、社会主義であろうが資本主義であろうが体制がもたない・・・という認識があってのことでしょう。
コロナ禍にあっても富裕層の資産は増え続け、格差は拡大し、しかも多くの富裕層は様々な節税対策などで税金もほとんど払っていない・・・という実態については、8月7日ブログ“格差社会への処方箋としてのベーシックインカム”でも取り上げました。
【「パナマ文書」に続く「パンドラ文書」が暴く現旧首脳の資金運用の実態】
今回の話題は、その(合法・違法の様々な回避手段で)「税金もまともに払っていない」というあたりの話。
5年前の2016年に「パナマ文書」というものが明らかにされ、世界中で話題になりました。
****パナマ文書****
パナマの法律事務所、モサック・フォンセカによって作成された、租税回避行為に関する一連の機密文書である。
この文書は、1970年代から作成されたもので、総数は1150万件に上る。
文書にはオフショア金融センターを利用する21万4000社の企業の、株主や取締役などの情報を含む詳細な情報が書かれている。これらの企業の関係者には、多くの著名な政治家や富裕層の人々がおり、公的組織も存在する。【ウィキペディア】
****************
世界にはカリブ海の英領バージン諸島、ケイマン諸島、富裕層への税優遇制度の手厚いオランダやアメリカのデラウェア州、サウスダコタ州など、税負担が軽減・免除され、かつ、他国の税務当局が求める納税情報の提供を企業・個人情報の保護などを理由に拒否して他国が干渉出来ないことから富裕層の資金が集まるタックスヘイブンが存在します。
モサック・フォンセカ法律事務所は富裕層クライアントのために、税務調査官が金融取引を追跡できない複雑な財務構造を作るサービスを提供していましたが、その情報が暴露されたのが「パナマ文書」でした。
そして今回は「パンドラ文書」
****「パンドラ文書」 世界の首脳らの租税回避が明らかに****
国際調査報道ジャーナリスト連合は3日、世界の現旧首脳35人が、巨額資産を隠すためタックスヘイブン(租税回避地)を利用していたと発表した。広範に及ぶ調査で明らかになったもので、ヨルダン、アゼルバイジャン、ケニア、チェコなどの首脳が名指しされている。
世界各地の金融サービス企業14社から入手された約1190万件の文書は、「パンドラ文書」と名付けられた。調査には、米紙ワシントン・ポスト、英国の公共放送BBCやガーディアン紙などの報道機関から、ジャーナリスト600人以上が協力している。
文書を分析したICIJによると、各国の現旧首脳35人が汚職やマネーロンダリング(資金洗浄)、租税回避などに関与してきたという。
ICIJは、多くの国では財産を外国に置くことや、外国のダミー企業を利用することは違法ではないと強調する。だが合法・違法にかかわらず、今回のような情報の暴露は、租税回避や腐敗の撲滅を公言してきた首脳らにとって不名誉なものとなる。
ICIJは、租税回避地にある企業約1000社が、各国の政府高官や上級公務員ら336人とつながっていることを突き止めた。うち10人以上が、現職の首脳や閣僚、大使らだったとしている。 【10月4日 AFP】
*****************
膨大な情報量の「パンドラ文書」では、各国の現旧首脳の資金運用の実態が明らかにされていますが、その中からいくつかあげると・・・
****パンドラ文書が明かしたオフショア蓄財、特に「不都合な」6件の手口****
国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が公表した「パンドラ文書」と呼ばれる膨大な財務資料は、世界の現旧首脳や政治家の多くがタックスヘイブン(租税回避地)を利用して資産を蓄えていたことを明らかにした。
この資料は法務・金融サービスを手掛ける14社からICIJが入手したもので、合計1190万点、ファイルサイズは2.94テラバイトに上り、規模は2016年のパナマ文書を上回る。
「民主主義大国を含む世界の隅々でオフショアのマネーマシンが稼働し」、知名度の高い世界有数の銀行や法律事務所が複数関与していることが明らかになったと、ICIJは指摘した。パンドラ文書で明るみに出た取引のうち、特に目を引く内容は以下の通りだ。
ヨルダン国王の不動産帝国
ヨルダンのアブドラ国王はスイスの会計士と英領バージン諸島の弁護士を使って、総額1億600万ドル(約120億円)相当に上る高級住宅14件を秘密裏に購入したと、ICIJは伝えた。海岸を見下ろすカリフォルニア州の物件、2300万ドル相当も含まれるという。
ヨルダンは国民や数百万人規模の難民の生活支援で外国からの援助に頼っている。
同国王の弁護士らはICIJに対し、ヨルダン法で国王は税金の支払いを義務付けられておらず、公金を流用したことは一度もないとし、「オフショア企業を通じて不動産を保有しているのは安全とプライバシーの理由からだ」と説明した。
チェコ首相の南仏邸宅
チェコで首相再選を目指し選挙運動中のバビシュ氏は、「2009年に南フランスの高級不動産を秘密裏に購入するため、オフショア企業を通じて2200万ドルの資金を動かした」とICIJは指摘。
この不動産は「シャトー・ビゴー」と呼ばれる邸宅で、バビシュ氏が保有するチェコ企業の子会社が所有し、画家のピカソが晩年を過ごした村にあるという。
女王とアゼルバイジャン
ICIJに参加する英紙ガーディアンによると、アゼルバイジャンのアリエフ大統領の家族はここ数年で約5億4000万ドル相当の英不動産を取引した。このうち約9100万ドル相当の物件をエリザベス女王の不動産を管理するクラウンエステートが購入していた。
この購入についてクラウンエステートは内部調査を現在進めていると、広報担当者が同紙に語ったという。アリエフ一族はコメントを拒否した。
サウスダコタ、ネバダのヘイブン
米国にとって特に「不都合な真実」は、「オフショア地域」に匹敵する金融の秘密性を法律で保証するサウスダコタやネバダなどの州の役割で、オフショア経済における米国の複雑さが増していることを示していると、ICIJに参加する米紙ワシントン・ポストが報じた。
同紙によると、ドミニカ共和国の元副大統領はサウスダコタ州に複数の信託口座を設け、個人資産とドミニカ製糖大手の株式を保管している。
パキスタンの政治エリート
パキスタンでは現旧閣僚を含むカーン首相側近や身内が「数百万ドルの財産を多数の企業や信託に隠している」とICIJは伝えた。
反汚職を旗印に首相に就任したカーン氏にとって、政治的な頭痛の種になりそうだ。パンドラ文書の公表前に首相報道官は記者会見で、首相はオフショア会社を保有していないが、閣僚や顧問の行動は各自の責任になると述べていた。
ブレア元英首相の不動産購入
ブレア元英首相と夫人はロンドン中心地に立地する約900万ドル相当のオフィス購入にオフショア会社を活用し、およそ42万2000ドルを節税したと、ガーディアンが報じた。この物件の一部はバーレーンの閣僚の一族が保有していた。
取引に違法性はないが、「英国の一般市民には当然の税負担を、不動産を保有する富裕層には回避の抜け道があることを示している」と同紙は指摘した。【10月6日 Bloomberg】
********************
【他国のタックスヘイブンを非難してきたアメリカ自身が租税回避地に】
名前があがっているパキスタン・カーン氏は、首相就任前の2016年、「パナマ文書」で表面化したエリート層の資産移動について調査を求める運動の先頭に立っていました。
同じような話は、他国のタックスヘイブンを非難してきたアメリカについても言えます。
****富豪資金流入、米が租税回避地に サウスダコタ州に信託資産40兆円****
国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が入手した「パンドラ文書」から、米国がタックスヘイブン(租税回避地)化している実態の一端が判明した。他国のタックスヘイブンを非難してきた米国だが、中西部サウスダコタ州などが世界の富豪や政治家らの資金の有力な流入先になっている。(中略)
ICIJの調査によると、サウスダコタ州の信託会社に預けられている顧客資産は総額3600億ドル(約40兆円)で、この10年間で4倍以上に膨れあがった。州内最大の信託会社の一つ「サウスダコタ・トラスト・カンパニー」は54カ国からの顧客を抱えていた。
サウスダコタ州の人口は全米50州のうち46番目の約89万人。同様の規制緩和は、人口が少ないアラスカ州やデラウェア州などにも広まった。信託を新たな産業として育て、経済活性化の起爆剤にしたいという思惑があった。
タックスヘイブンは秘匿性の高さから、不正資金の洗浄や資産隠しに利用される場合がある。そのため国際社会は、カリブ海の島国など主要なタックスヘイブンに顧客情報などの透明性を確保する法令の導入を求めてきた。(ドミニカ共和国元副首相)モラレス氏の一族がサウスダコタ州に資産を移したのは、バハマで規制が強化された翌年だった。
ICIJは、「成長する米国の信託産業は、国外のタックスヘイブンをしのぐレベルの財産保護と秘密保持を約束することで、国際的な富豪らの資産をかくまっている」と指摘する。
米政府は今年1月、企業に実質的所有者の開示を求める「企業透明化法」を制定したが、信託の受益者などについての言及はない。【10月5日 朝日】
********************
【国家の富を私物化する「泥棒政治家」のマネーロンダリングを助ける「民主主義国」の巨大なネットワーク】
単に租税回避地になっているというだけでなく、「民主主義」を掲げるアメリカなどの国々が、独裁者や強権支配者の資産のマネーロンダリングを助ける巨大なネットワークを形成しているという「不都合な真実」が明らかになっています。
****パンドラ文書が暴き出した民主主義の錬金術****
人々を抑圧し国家の富を貪る「泥棒政治家」の蓄財を助けるシステムが明らかに
自由と民主王義の旗を高々と掲げるわが陣営は世界中の専制主義国家と互いの存続を懸けて戦っている・・・・欧米諸国の指導者はそう豪語する。まさにその戦いのために、ジョー・バイテン米大統領は今年12月に「民主主義サミット」を開催すると宣言した。
バイテンやその呼び掛けに応じた首脳たちの現状認識は間違っていない。確かに今中国からロシアまで専制政治や強権支配がまかり通り、民主化の動きを圧殺し、リベラルな国際秩序を脅かしてい。
だがそれを阻止しようとするバイテンらの試みには重大な「見落とし」がある。それは欧米の民主国家とその指導者らが独裁者の不正蓄財を助けている、という事実だ。
欧米には世界中の独裁者が不正に蓄えた資金を動かし、隠匿し、洗浄できる仕組みがあり、当局もそれを黙認しているのだ。
不正資金の最初の引き受け手はペーパーカンパニーだ。そこに資金を移せば、個人を特定できる情報は全て剥ぎ取られ、いわば「匿名の資金」となる。その金が不動産や高級品、美術品などの資産に化ける。この手の取引では、仲介業者や売り手は出所不明の金を喜んで受け入れ、法外な手数料や暴利を貪る。
法の網の目を巧みにかいくぐるこうした資金の流れは、世界中の独裁者にとって願ってもない仕組みだ。それがあるおかげで彼らはこっそり欧米に資金を移し、欧米の金融機関の個人情報保護ポリシーを悪用して匿名の資産を保有できる。
この巧妙なカラクリを白日の下にさらしたのが、10月3日に公開された「パンドラ文書」だ。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が法律事務所や金融サービス会社から入手した膨大な財務資料などを分析してまとめた。
パンドラ文書はアメリカ、イギリス、カナダ、フランス、ドイツなどの当局が不正資金の取引を黙認し、独裁者の蓄財を助けてきた実態を暴き出した。資料から国家の富を私物化する「泥棒政治家」のマネーロンダリング(資金洗浄)を助ける巨大なネットワークの全貌を詳細にたどれる。
このネットワークを通じて、世界中から欧米に何十億ドル(場合によってはそれ以上)もの単位でどんどん資金が流入しているのだ。それが国庫からくすねた金だろうと、少数民族から搾取した金だろうと、それで儲けた業者の法的責任が問われることはない。
例えばアゼルバイジャンの独裁的なイルハムーアリェフ大統領の一族は何億ドルもの資金をロンドンの金融会社に託していた。EU離脱後のロンドンはますます資金洗浄の中心地になり、この手の不正資金の流人は珍しくない。
ブレア元首相の隠し資産
(中略)
民主国家の指導者は、欧米の最大の利益、つまりは民主主義の最大の利益のために働くというそぶりさえ見せなく
なった。それどころか、欧米の元指導者は泥棒政治家を利用し、泥棒政治家は欧米の業界をいくっも利用して、それぞれ私腹を肥やしている。
一方で、不動産やプライベート・エクイティ(未公開株)の取引、オークションなどで泥棒政治家の富のおこぼ
れにあずかろうとしている欧米の金融プロフェッショナルにとって、重要なのは富の蛇口が開けっ放しであることと、おいしい手数料を得ることだけのようだ。コンサルタントやロビイスト、弁護士たちは、国境を越えた資金の流れが規制によって脅かされないように奔走している。
匿名のペーパーカンパニー、匿名の信託、規制や監督のない匿名の金融取引を基盤とする業界・・・。欧米の秘密主義の金融ツールは、限られた少数の支配者や反民主王義の有力者が自国の人々から好きなだけ富を奪い、市民を困窮させ、地域全体を不安定にし、自分の意のままに非自由主義的な活動に資金をつぎ込むことを可能にしている。
カギは金融取引の透明性
もっとも欧米諸国が、例えば独裁者たちの金融ネットワークを遮断して破壊するために制裁を発動しても、彼らは秘密保持を可能にする金融ツールに守られて制裁を逃れることができる。失脚した後でさえ、残虐行為で得た果実を享受しているのだから。
これは泥棒政治というコインの裏表のようなものだ。中国の太子党(共産党幹部の子弟)、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)、ベネズエラの政権を支持する実業家、イランの役人、ハンガリーの極右ネットワーク、アゼルバイジャ
ンのギャング兼政治家など、彼らは皆、欧米の同じサービス、同じネットワーク、同じオフショア企業、同じ金融ツールを利用している。
彼らは国内に向けて反欧米や反民主主義のたわ言を吐きながら、その欧米の民主国家に頼って自分たちの富を守り、
資金洗浄をして、隠した資産を必要なときにどんなことにでも使う。
今、私たちがやるべきことは分かっている。政治的立場を超えたグループが、既に賢明な政策提案を行っている。
カギとなるのは透明性だ。ペーパーカンパニーや信託、財団に関する透明性であり、不動産、美術品、高級品に関する透明性だ。これらの金融ツールに関わる弁護士ら欧米のプロフェッショナルに対する規制と合わせることによって、秘密を担保する金融ネットワークを表舞台に引きずり出すことができるだろう。
最近では、英政府が海外領土に企業の受益所有権の公的登録制度を整備させ、アメリカやカナダがペーパーカンパニー部門の浄化に乗り出すなど、進展も見られる。EUは弁護士や信託業者などに対する規制の強化を進めている。
ただし、このまま終わることは決してない。こうした解決策を実行するためには、重大な政治的意思が必要だ。アメリカ、イギリス、カナダ、フランス、ドイツ、バルト諸国などは、自らオフショア経済を支える柱になってきた。そして、その全てが世界各地の泥棒政治に利用され、悪用されてきたのだ。
パンドラ文書の流出を機にこうした仕組みが終焉を迎えるだろう、などと考える理由は見当たらない。【10月19日号 Newsweek日本語版】
**********************
とりあげられている取引の多くは「合法」なのでしょう。
ただ、そのことが格差社会の下層で喘ぎながら租税回避などの手段を持たない多くの人々の不満・怒りを更に増長させるところでしょう。
なお、違法性が疑われる案件に関しては
“チリ検察、大統領を捜査 パンドラ文書で疑惑”【10月9日 共同】
“「パンドラ文書」で大統領を調査=租税回避地利用か―エクアドル議会”【10月12日 時事】
といった、国内での疑惑追及も始まっています。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます