孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシアの軍事演習は「ベラルーシ併合」? プーチン大統領の思惑に神経をとがらせる欧州・NATO

2017-09-12 22:55:40 | ロシア

(リトアニアとポーランドに挟まれたロシア領は、ロシアの飛び地カリーニングラード州)

ロシアの脅威への警戒と、ロシアへのエネルギー依存が併存する欧州
かつての冷戦時代は、日本・自衛隊はソ連の北海道侵攻を想定した戦力配備を行っていましたが、ソ連崩壊後のロシアは北方領土問題の厄介な交渉相手であるにしても、北海道侵攻といった直接の脅威は薄れているように思われます。特に近年は、プーチン・安倍両首脳の比較的良好な関係もありますので。

ロシアの脅威が薄れた代わりに、尖閣や国際戦略をめぐる中国との対立、そして最近では核・ミサイル開発にまい進する北朝鮮の脅威が大きくなっています。

一方、ロシアとの様々な戦争・紛争の歴史もある欧州にあっては、冷戦終了後もロシアと欧州諸国・NATOとの対峙・緊張関係は継続しており、近年でも2008年のジョージア(当時はグルジア)侵攻、2014年のクリミア併合といった衝突もあって、ロシアの“脅威”は強く意識されています。

もっとも、欧州は天然ガスでロシアに依存しているように、対立だけでなく、ロシアとは不可分の関係にあり、そうした関係を重視するドイツなどと、地理的・歴史的要因からロシアの脅威に直面しているバルト三国・ポーランドなどでは、ロシアの脅威に対する温度差もあります。

ロシアとの関係改善を重視するトランプ米大統領が、自身のロシア疑惑の足かせもあって、議会の意向に押し切られる形で渋々署名したロシア制裁強化法についても、ドイツなどは天然ガスをめぐるロシアとの関係に影響することをむしろ懸念しています。

****<米・対露制裁法>EUが懸念も 天然ガス依存への影響で****
米国で成立したロシア制裁強化法に欧州連合(EU)が神経をとがらせている。天然ガスをロシアに依存する欧州の関連企業への影響が懸念されるためだ。EUは米国への対抗措置もちらつかせ、対露制裁を巡る米欧の結束に暗雲も漂う。
 
「我々の経済的利益を守らなければならない」。ユンケル欧州委員長は2日、独ラジオ局のインタビューに語った。新法では、ロシア産天然ガスの輸出手段であるパイプライン事業が新たに制裁分野に加わり、EU側は、パイプラインの維持管理や建設にかかわる欧州の企業も罰金など制裁の対象になり得ると不安視している。
 
特にドイツは独露間で建設中の海底パイプライン「ノルド・ストリーム2」(NS2)への影響を懸念。NS2は、露国営ガスプロムと独仏などEU域内のエネルギー関連企業5社が出資し、バルト海を経由して独露間を結ぶ既存のパイプラインを拡張する計画だ。2019年中の完工を目指し、稼働すれば年間輸送量は倍増する。
 
米国は欧州にシェールガスの売り込みをかけており、NS2のブレーキとなりかねない新法は、ドイツには「米産業の利益にかなう道具」(独外務省報道官)と映っている。
 
欧州委は2日の声明で「欧州企業に不利益が生じた場合は数日以内に行動をとる」とけん制。具体的内容は明らかにしていないが、欧州メディアは、EU法で欧州企業に対する米国の制裁を阻止する可能性のほか、米企業への報復措置も視野に入れていると伝える。
 
ただ、EU内で加盟国の足並みはそろっていない。EUはウクライナ危機などを経て、エネルギー安全保障の観点から調達先の多様化を迫られている。EU全域では天然ガスの輸入先の34%をロシアが占めており、ポーランドやバルト3国などはNS2は対露依存を一層強めるとして以前から計画に反発。仮に欧州委やドイツなどが米国への報復措置を提案しても、加盟国全体の支持をとりつけるのは難しい状況だ。【8月3日 毎日】
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軍事演習後もロシアの兵力がベラルーシに残存?】
このように欧州とロシアは“対立”の関係ばかりではないものの、やはりロシア・プーチン大統領の影響力・領土拡張の企てには強い警戒感を持っているのも事実です。(いつも言うように、ロシア・プーチン大統領にすれば、ロシアを欺いて東方拡張しているのはNATOの方で、ロシアは自衛のために対抗しているにすぎない・・・という話になりますが)

9月14日から、欧州で冷戦以降最大とされるロシアの軍事演習が実施されますが、これまでの“前科”もあって、欧州側はロシアの意図に神経をとがらせています。

****西側との対決姿勢を示すロシアの軍事演習****
エコノミスト誌8月10日号は、9月14日より実施される、欧州で冷戦以降最大とされるロシアの軍事演習(Zapad)について、NATO諸国が神経を尖らしており、ロシアはこれを悪事の隠れ蓑にするとの懸念も一部にある、と報じています。要旨は次の通りです。
 
ロシアはソ連時代から新兵器・戦術を試すために4年毎に西方軍事演習、Zapad(注:西方を意味する)を行ってきた。今年は少なくとも10万人規模のZapadを西部軍管区とベラルーシ(NATOの3か国と国境を接する)で行う予定だ。
 
これまでもZapadはその規模と作戦内容でNATOの不安を煽ってきたが、今回はロシアのウクライナ侵攻以降初めてのZapadであり、西側との関係がこの30年で最悪の中で行われることになる。
 
NATOも今年前半、ロシアのクリミア併合と東部ウクライナ侵略への対応の一環として、ポーランドとバルト三国で4個師団規模の戦闘群を展開したり、7月には20ヵ国以上、2万5千人による米主導の演習をハンガリー、ルーマニア、ブルガリアで行うなどしている。
 
しかし、同じ演習でもNATOとロシアのやり方は大きく違う。プーチンは2013年以降、Zapadとは別に、通告なしの突然の演習(規模は5万人以下)を実施してきた。プーチンの狙いが効率性の向上だけでなく、近隣の小国を脅し、いずれロシアの影響圏に引き込むことにあるのは間違いない。
 
2013年に突然の演習が4回実施された後、翌年2月末に始まった5回目の演習は、多数の空挺部隊、装甲車、戦闘ヘリを動員、クリミア占領の踏台になった。

2008年にも、プーチンは演習を利用してグルジア侵略を始めている。
 
ホッジス・アメリカ欧州軍司令官は、Zapad 2017のためにベラルーシに運ばれた兵士と軍装備品はそのまま現地に留まり「トロイの木馬」になることを懸念している。

NATOが特に懸念するのは、演習の名目で長距離ミサイル、偵察ドローン、特殊部隊による西側攻撃の態勢が整えられてしまうことだ。
 
さらに、ベラルーシに対するロシアの影響力を維持できるよう、Zapad 2017が兵力温存に利用されるのでないかとも懸念されている。
 
疑念を持たれるのも当然で、ロシアは演習時の誤解発生を回避するための合意、ウィーン文書を無視してきた。同合意は兵士9千人以上の演習については少なくとも42日前の事前通告、1万3千人以上の演習については更に関係56ヵ国へのオブザーバー2名の派遣要請を要件としているが、ロシアは実施時期を少しずつずらし、複数の演習だったと主張して、同合意を守ろうとしない。

7月のNATO・ロシア理事会では、ストルテンベルグNATO事務局長は、報告された今般のZapadの兵員数に疑義を示し、ウィーン文書の遵守をロシアに促した。
 
特にNATOを苛つかせるのは、ロシアがウィーン文書を盾にNATOの大規模演習の際は必ずオブザーバーを確保することだ。NATOとしては、警戒を緩めず、Zapad終了後はプーチンが全兵士を兵舎に戻すことを願うしかない。(後略)【9月11日 WEDGE】
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ロシアの軍事演習が行われる地域がポーランドやバルト三国にとって、非常に“敏感”な地域であることも、欧州側の警戒を強める背景にあります。

“軍事演習は14〜20日にポーランドとリトアニアの間にあるロシアの飛び地カリーニングラード州やベラルーシ西部などで予定されている。
演習地域をつなぐリトアニア・ポーランド間の国境線は、制圧されるとバルト3国の孤立を招くNATO東縁の「弱点」だ。
エストニアのラタス首相は6日、演習を巡るロシア側の姿勢は「透明性を欠く」と批判し、「あらゆる状況に備える」と懸念を示した。”【9月9日 毎日】

当然ながら、ロシア軍制服組トップのゲラシモフ参謀総長は7日にNATO側に演習の詳細を説明し、「第三国に向けた演習ではない」と伝えています。

現在の国際情勢で、直ちにロシアがポーランドなりバルト三国なりに侵攻するといったことは考えにくいですが、演習後もロシア軍がベラルーシにそのまま残り、これまでロシアの影響下にありながらも“緩衝国”としても機能していたベラルーシをロシアが事実上“占領”するような事態になるのでは・・・という疑念があります。

ただ、これまで欧州とロシアを天秤にかけながら独自の利益を追求してきたとも言えるベラルーシ・ルカシェンコ大統領が、そうしたロシアの“進駐”を唯々諾々と受け入れるのか・・・疑問も感じます。

****片道切符」のロシア軍****
・・・・プーチン大統領の今回の狙いについては、西欧軍事関係者の間で「ベラルーシ占領を視野に入れている」との見方がある。

同国のアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、「欧州最後の独裁者」との評が定着した人物で、欧州連合(EU)やNATOの加盟候補国にさえならない。
 
一方でルカシェンコ大統領は時折、ロシア牽制のためか、EUに接近したり、ロシアと通商戦争を起こしたりと、プーチン政権が手を焼くこともしばしば。

気まぐれな独裁者をより従順にするため、演習で出動した部隊を、いつでも首都ミンスクの占領に動けるようにベラルーシ領内に残しておく可能性は少なくない。

エストニアのマルガス・ツァフクナ前国防相は「ロシアに限って片道切符以外はない」と公言し、部隊がベラルーシ国内に居座る可能性が高いとする。(後略)【選択 9月号】
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ルカシェンコ大統領がどう考えているかは知りませんが、ベラルーシ国内でもロシア進駐への不安は広がっているようです。

****ネットで大ウケのベラルーシ仮想敵国****
9月中旬にロシアとの大規模合同軍事演習を控えるベラルーシに、新たな敵国が生まれた。ベイシュノリアだ。
 
国名に聞き覚えがないのは、ベラルーシがつくり上げた仮想国だから。演習を前にベラルーシ軍は、同国への侵攻を企てる3つの敵国を想定。

1つは「ベスバリア」でリトアニアの位置にあり、2つ目はポーランドとおぼしき「ルベニア」、3つ目のベイシュノリアはなぜかベラルーシ国内北西地域にある。
 
これが発表されるや、ネット上ではたちまち「国家ベイシュノリア」が独り歩きを始めた。

ネットユーザーが国旗や地図を考案し、何百人もが市民権を希望し、同国の外務省を名乗るツイッターも誕生。ベラルーシ兵に投降を呼び掛けたりしている。

ジョークが活発化したのは、ロシアが合同軍事演習でNATOとの緊張を高めようとしていることが背景にある。NATOを牽制するだけでなく、欧米との緩衝地帯であるベラルーシに演習後も部隊を常駐させ、支配下に置くのではないかと、国内では懸念が広がっている。ジョークは不安の裏返しらしい。【9月12日号 Nwesweek日本語版】
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心理戦が得意なプーチン大統領
プーチン大統領の思惑はわかりませんが、お得意の心理戦がすでに展開されており、欧州側はそれにはまっているとの指摘も。

****ロシアが次なる「領土拡張」へ 「ベラルーシ占領」に怯える西欧****
米国のマイク・ペンス副大統領は、「代理」業務で大忙しだ。
 
今年の夏は、バルト三国の北端にあるエストニアに飛び、集まった三国の首脳に対して、「北大西洋条約機構(NATO)の集団安全保障の義務は必ず守られる」ことを保証しなければならなかった。
 
副大統領が盛夏の七月末にこの地まで足を運んだのは、九月十四日から二十日まで、露軍の四年に一度の大規模軍事演習「ザーパド(西方)二〇一七」が行われるためだ。

北欧、東欧諸国の間では、「ロシアが演習にかこつけて、軍を自在に動かし、ウクライナ型の紛争を起こすのでは」という懸念が強まっている。
 
ロシアの最近の軍事行動としては、二〇〇八年のグルジア戦争と一四年のクリミア併合が際立つが、グルジア戦争前には「カフカス二〇〇八」、クリミア騒乱前には前回の「ザーパド二〇一三」が行われていた。どちらも実際の戦闘の前に、大部隊を動かす名目として使われ、一部が戦闘開始時まで周辺に残っていた。

「ハイブリッド戦争」の脅威
ポーランド政府のある当局者は言う。「露軍には『マスキロフカ(偽装工作)』の長い伝統があり、演習名目で出動した大部隊が帰任したと見せかけて、実際には係争地周辺に潜伏するのはお家芸だ」。(中略)
 
ロシアと米欧の関係が緊張する中で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、不安や疑心暗鬼に駆られる相手に対して、ネコがネズミをいたぶるような、心理戦を仕掛けるのが得意である。今回の軍事演習前にも様々なトリックを繰り出して、周辺諸国を揺さぶっている。
 
まず、演習の主力部隊に「第一親衛戦車軍」の名前をつけた。旧共産圏で暮らした人には、忘れようのない伝説の軍隊だ。独ソ戦争の英雄部隊としてベルリン攻略戦の主力を担い、共産圏諸国で繰り返し放映されたソ連の愛国戦争映画に頻繁に登場した。
 
さらに、戦後史では、一九六八年のチェコスロバキアの民主化運動「プラハの春」に際して、ワルシャワ条約機構軍の主力として首都プラハに入った。ソ連抑圧の象徴でもあった。「こんな名前を使うところに、東欧諸国の人々を揺さぶろうという、プーチンの底意地の悪さが出ている」と、前出のポーランド当局者は言う。
 
次いで、参加人員について当初は「一万三千」としていた。
欧州安全保障協力機構(OSCE)の「ウィーン文書」では、この数以上の軍事演習になると、NATO加盟国すべての国の監視団を受け入れなければならないという上限ギリギリだった。
 
ところが今夏、戦車や兵隊を乗せた鉄道車両が三千両もの規模で次々とロシアからベラルーシ領に入っていくのが確認され、「とてもそんな数字ではないだろう。監視団を受け入れるべきだ」との要求が米欧各国から相次いだ。
 
それでも平然と数字を訂正しないのがプーチン流だ。ロシア側はしばらく米欧の要求を突っぱねた挙句に、先にベラルーシが独自に「我が国は監視団を受け入れます」と表明し、その後でロシアも受け入れに応じた。
 
あるドイツ人の軍事専門記者は、「監視団に加わったところで、決められた場所にいて漫然と見るだけ。軍事秘密を知るわけでもないのに、西側をいらだたせる目的でじらしていた」と言う。

NATO側では、実際の演習参加者は六万~十万人になり、ロシアの行う軍事演習としては過去最大規模になる可能性が高いと見ている。
 
さらに今回の演習では、バルト三国が特に恐れる「ハイブリッド戦争」の訓練が行われる模様だ。軍事介入に先立って、潜入工作員や地元住民が騒乱を起こし、その間隙をぬって軍事侵攻したり、サイバー攻撃で国内通信網を遮断した上で攻撃したりといった、複合的で巧妙な軍事作戦である。
 
ペンス副大統領が訪れたエストニアでは二〇〇七年に、全土のインターネットが障害を起こす、大規模サイバー攻撃が起こった。エストニアとラトビアはロシア系が全人口の四分の一以上を占める。

カリーニングラードと隣接するリトアニア、ポーランドも含め、バルト海沿岸各国にとって、「ハイブリッド戦争」はいつ起きても不思議ではない、極めて現実的な脅威である。

「片道切符」のロシア軍
NATOはバルト三国とポーランド防衛の意思を示すため、今年から独、英軍などが駐在を始めた。

独軍部隊のラトビア配備に同行したドイツ人の放送記者は、「こちらが持っていった戦車は六両で、国境のすぐ向こうには六千両の露軍戦車が待ち受ける。『象徴的派兵』というのもおこがましいくらい、彼我の戦力差は大きい」と言う。

しかも三国からベラルーシ、ロシアにかけての一帯は森林に覆われた人口希薄地帯。「ここが西欧と同じシェンゲン協定域内とは到底思えない、うら寂しい地の果てのような場所」と前出ドイツ人記者は形容した。

プーチン大統領の今回の狙いについては、西欧軍事関係者の間で「ベラルーシ占領を視野に入れている」との見方がある。(中略)

ルカシェンコ政権に対しては、NATOもEUも国際法上の防衛義務はないが、緩衝国だったベラルーシまで露軍が出てくれば、ポーランドとリトアニアはカリーニングラードとベラルーシの露軍に挟撃されることになり、ウクライナ紛争に続く大激震になる。
 
軍事演習の目的の一つは、潜在敵国を威嚇することだ。プーチン政権は今回、演習開始の遥か前から、その目的をやすやすと達成してしまった。【「選択」 9月号】
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繰り返しになりますが、プーチン大統領が本当に「ベラルーシ占領を視野に入れている」というのであれば、それを受け入れるルカシェンコ大統領が何を考えているのか・・・というところがわかりません。

ロシアとベラルーシは1999年に連邦国家創設条約を結んでいますので単なる同盟国以上という関係にあるにしても、プーチン大統領のベラルーシ併合を示唆するような発言にルカシェンコ大統領は反発して、両国関係は微妙にもなっていたはずですが・・・。

単に、欧州側がプーチン大統領の心理戦に踊らされているだけなのでしょうか?
あるいは意図的にロシアの脅威を煽っているのでしょうか?

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