孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ギリシャの対ロシア接近 ロシア・EUの天然ガス戦略 ウクライナがロシア産ガスを買い叩く「市場原理」

2015-04-12 22:57:39 | 欧州情勢

(非常に和やかにも見える、8日に行われたギリシャ・チプラス首相とロシア・プーチン大統領の会談 【4月11日 ロイター】)

ギリシャ:「ロシアカード」でEU牽制
ギリシャ・チプラス首相は3月15日付のドイツ・メルケル首相宛ての書簡で「EUからの金融支援を数週間以内に受けられない場合、4月末までに債務の返済が不可能になる」と窮状を訴えており、債務不履行(デフォルト)も懸念される状況にありますが、IMFに対する4月分返済はなんとかクリアしたようです。

****IMFに一部債務返済=ギリシャ****
ギリシャ政府が9日、国際通貨基金(IMF)に対する債務の一部に当たる4億5900万ユーロ(約590億円)を予定通りに返済したことが分かった。同国の財務当局者が、AFP通信に明らかにした。

ギリシャ政府は資金繰りが逼迫(ひっぱく)しており、IMF融資の返済が滞るとの観測が浮上。バルファキス財務相は今月初めにワシントンを訪れ、IMF側に期限内の返済を確約していた。【4月9日 時事】 
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「ない、ない」と言ってるけど、ちゃんと返せるじゃないか・・・というのは“カネ貸し”的な発想ですが、ギリシャの財務状況の詳細はよく知りません。

ただ、予定通り返済したことがニュースになるというのは、まともな状況ではありません。

そんな窮状にあるギリシャのチプラス首相は、ウクライナ問題でEUと対立を深めているロシアを訪問し、8日にはプーチン大統領と、9日にはメドベージェフ首相(この人の政権内における現在の状況もよくわかりませんが・・・)と会談しています。

その意図は、対ロシア接近によって、金融支援を渋るドイツなどをけん制することにあるとも言われています。

****<ギリシャ首相>ドイツをけん制 対露接近で****
ギリシャのチプラス首相は8日のプーチン露大統領との会談で、ウクライナ問題を巡って欧州連合(EU)が制裁を科しているロシアとの関係強化に本格的に乗り出す。

EUなどから金融支援の継続を取り付けるための交渉が難航する中、資金繰りに苦しむチプラス首相には、対露接近によってドイツなどをけん制する「ロシアカード」を確保したいという思惑がありそうだ。

ギリシャは昨夏以降、EUのユーロ圏諸国などから金融支援を受けていない。チプラス政権は財政破綻の回避を目指して交渉しているが、ギリシャが提示した財政改革案についてユーロ圏側は支援再開決定には「不十分」との立場だ。

4月中に融資の返済や利払い、公務員給与・年金の支払いを控えるチプラス政権にとって支援獲得は「時間との闘い」となっている。

ギリシャ財政が逼迫(ひっぱく)する中、キリスト教正教会という共通の宗教土壌を持つロシアは「頼みの綱」だ。

チプラス首相は訪露前、タス通信のインタビューでEUの対露制裁を「無意味」と批判し、ロシアの報復制裁によって「ギリシャの農産品が禁輸となり、経済に大打撃となった」と述べ、制裁の相互緩和を望む考えを表明した。

首相訪露に先立ち、ラファザニス・エネルギー相はモスクワを訪れ、ロシア国営天然ガス大手ガスプロムのアレクセイ・ミラー最高経営責任者(CEO)と「エネルギー分野での関係拡大」で合意した。

両国の報道によると(1)ギリシャ向けロシア産天然ガスの価格引き下げ(2)ロシア産ガスをトルコ経由でバルカン諸国に送るパイプライン計画へのギリシャの参加--などが検討されているという。

チプラス政権はロシアにすり寄る一方で、最大のギリシャ支援国であるドイツに対しては、第二次世界大戦中のナチス・ドイツによる占領の損害賠償を請求する構えを示すなど「親露・離独」の動きを強めている。【4月8日 毎日】
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ただ、「ロシアカード」をちらつかせたり、ナチス・ドイツによる占領の損害賠償を請求したりするのは、やりすぎるとドイツ国内の国民感情を逆撫でし、EUによる金融支援を更に難しくする危険もあります。
チプラス首相が、本気でユーロを離脱する覚悟があるなら別ですが。

また、ただでさえEUによる経済制裁と原油価格下落で経済的に苦しい状況にあるロシアに、“カネ食い虫”ギリシャを支えていくだけの余力があるかは甚だ疑問です。

ロシア側も及び腰のところもあります。
“プーチン氏は「ギリシャ側からはどんな支援要請もなかった」と述べ、財政支援は議題の枠外だと強調。両国の過度な接近を警戒するEU首脳部を意識した発言とみられる。”【4月9日 毎日】

ロシア:EU分断を狙う
ロシアにとってギリシャ接近の意図は、EUの結束を揺さぶることにあると言われています。

****ロシア、EU分断図る 財政難ギリシャに接近 エネルギー同盟に影****
ロシアを訪問中のギリシャのチプラス首相は9日、前日のプーチン大統領に続き、メドベージェフ首相と会談した。

経済危機の渦中にあるギリシャに手をさしのべることで、ロシアは欧州連合(EU)の結束を揺さぶる。
ロシアへのエネルギー依存から脱却を図るEUの「エネルギー同盟」構想にも影を落としそうだ。

ロシア側はチプラス首相との一連の会談で、ロシアからトルコを経由して欧州南部に天然ガスを輸出する新しいパイプライン構想「トルコ・ストリーム」を説明し、協力を促した。

ロシアは昨年まで、黒海海底を経由して中東欧にガスを流すパイプライン計画「サウス・ストリーム」を進めようとしていた。これがEUの反対で頓挫した後、昨年12月に急浮上した新パイプライン計画だ。

プーチン大統領は会談後の記者会見で、新パイプライン計画について「ギリシャの地政学的重要性を増すことになる。南欧全域だけでなく、中欧への天然ガスの経由地になり得る。ガスの通過料金だけで、年間数億ユーロの収入が見込まれる」と述べた。

ロシアでは、ギリシャに対して天然ガス輸出価格の大幅な値引きを検討しているという報道もある。格安な天然ガス供給をちらつかせて、ギリシャのEU離れを促す考えとみられる。

ギリシャだけでなく、新パイプラインが南欧や中欧まで届けば、それらの国々が反ロシア的な姿勢をとりにくくなるとの狙いもある。

一方のチプラス政権は、発足当初から親ロシアの態度を鮮明にしてきた。EUが求める緊縮策に反発する中、「米国、ロシア、中国などに支援を求めるプランBがある」(カメノス国防相)と牽制(けんせい)するためだ。

アテネ通信によると、ギリシャは、9日が期限だった国際通貨基金(IMF)に対する債務の返済はなんとか乗り切ったが、資金は底をつく寸前だとされる。

 ■歩み寄りに警戒感
ウクライナ情勢で対立するロシアに歩み寄るギリシャの動きに、EUは警戒感を強めている。

EUでは現在、天然ガスの消費量の3割以上をロシアから輸入。ブルガリアやバルト3国など6カ国は100%ロシアに依存する。

エネルギーの種類や供給元の多様化を進め、エネルギー安全保障の強化を目指そうと構想されているのが「エネルギー同盟」だ。

戦略案では、域外との協力を強化し、北アフリカや地中海からのパイプラインの開発も進める。中央アジアのトルクメニスタンやアゼルバイジャン、北アフリカのアルジェリアなど産出国や通過国とパートナーシップを構築する。

中でも、EUが重視しているのが、中央アジアの国々からトルコ経由で運ぶ天然ガスの「南回廊」パイプラインの整備だ。

だがトルコのエルドアン政権は、原発輸出などでロシアと急速に関係を深めている。EUも先月、トルコとエネルギーに関する協議を始めたが、ロシアが進める「トルコ・ストリーム」が優先されれば、構想がつまずきかねない。

また「エネルギー同盟」では、加盟国がロシアなどと天然ガスの購入契約を結ぶ際には、加盟国にEUと事前協議を求めることも将来的には検討している。加盟国ごとに価格や条件に差をつけられ、分断されることを防ぐためだ。

ロシアがギリシャだけにガス価格の値下げを認めれば、「エネルギー同盟」の狙いを根本から揺るがしかねない。EU報道官は「ギリシャはEUファミリーの一員であり、統合を維持するよう我々は期待している」と述べた。【4月10日 朝日】
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天然ガスパイプライン 「トルコ・ストリーム」と「南エネルギー回廊」】
黒海海底を経由して中東欧にガスを流すパイプライン計画「サウス・ストリーム」は、何かとトラブルを起こすウクライナを迂回してロシアから欧州に天然ガスを供給しようというものでした。
EUはロシアによるエネルギー支配を強化するものとして、これに反対していました。

ロシア・プーチン大統領が昨年12月1日に「サウス・ストリーム」建設計画撤回を突然発表したは、EUの反対により計画がなかなか進まないこともありますが、原油価格下落で財政的に苦しくなったロシア側にとって高コストの同計画が負担になったことがあるとも指摘されています。

株式の大半を政府が所有するロシアの巨大エネルギー企業ガスプロムは最初から、高くつくプロジェクトで、経済的というより政治的に決められた「サウスストリーム」計画を気に入っていなかったとも。【英エコノミスト誌 2014年12月6日号より】

ただ、EUとしての反対姿勢にもかかわらず、パイプラインが通ることで通過料が期待できた国、ロシアからのガスに依存せざるを得ない中東欧諸国には計画撤回に怒り・落胆(ロシア・EU双方への)もあったようです。

この「サウスストリーム」に代えてロシアが持ち出しているのが、ロシアからトルコを経由して欧州南部に天然ガスを輸出する新しいパイプライン構想「トルコ・ストリーム」です。

ギリシャはこの計画への参加(ギリシャまで延長し、更に南欧へ送る)に前向きです。
“ギリシャのラファザニス・エネルギー相は10日、ロシアからトルコにロシア産天然ガスを運ぶガスパイプラインをギリシャまで延長する計画について、ギリシャは参加することで近く最終合意するとの見通しを示した。”【4月11日 ロイター】

一方、EU側はロシアの「トルコ・ストリーム」に対抗して、ロシアに頼らず、カスピ海周辺のガスを欧州にもってこようという「南エネルギー回廊」を計画しています。

とりあえずはガス供給国はアゼルバイジャンが予定されています。
アゼルバイジャンからトルコを陸路で経由して、ギリシャを横断して、アドリア海を渡りイタリアにつなぐパイプライン計画です。

ただ、供給量が少ない割にコストが高すぎるアゼルバイジャンのガスだけでは計画は成立しない、カスピ海東岸のトルクメニスタンからのガスも使えればなんとかうまくいくかも・・・との指摘もあるようです。

ただ、トルクメニスタンのガスは中国も狙っており・・・と、EU・ロシア・中国の三つ巴の資源争奪戦的な話がいろいろあるようです。【3月12日 JBPress 杉浦 敏広氏「激化するカスピ海周辺天然ガス争奪戦」より】

ロシアの「トルコ・ストリーム」にせよ、EUの「南エネルギー回廊」にせよ、重要な地位を占めるのがトルコです。

「南エネルギー回廊」のトルコ横断部分であるアナトリア横断パイプライン(TANAP)はすでに着工されています。

****TANAPのトルコ部分着工 ****
イェニサファク– アゼルバイジャンのシャーデニスガス田からトルコ、ヨーロッパへ天然ガスを輸送するよう設計されたアナトリア横断パイプライン(TANAP)の最初のパイプがトルコの地に敷設され、レジェップ・タイイップ・エルドアントルコ首相とイルハム・アリエフアゼルバイジャン首相、ギオルギ・マルグベラシビリグルジア首相が出席して式典が行われた。

120億米ドルのパイプラインプロジェクトでは2018年までにガス輸送が開始され、2026年には310億立方メートルを輸送する見込みである。


東アナトリア地方のカルスで開催された式典で、エルドアントルコ首相は「同プロジェクトは地域平和と安定性に貢献し、トルコのエネルギー供給拠点としての地位を強化するものである。私たちには他国と他のエネルギーパイプラインプロジェクトがある。しかし、TANAPは他に代替がないことから戦略的に重要だ。私たちは南ガス回廊を介してカスピ海地方とヨーロッパを結ぶ」とエルドアン首相は言及した。

TANAPの主要提携国がアゼルバイジャンとトルコであることに触れ、イルハム・アリエフアゼルバイジャン首相は「シャーデニスガス田はヨーロッパの消費者へガスを供給する新たな主要ガス田になる。私たちはユーラシア大陸で新たな提携関係を構築した」と述べた。

シャーデニスガス田からの天然ガスは、グルジア、トルコ、ギリシャを通り3500キロメートルのパイプラインを介してイタリアに達し、ロシアの天然ガスの代替となる予定である。

TANAPは2020年までに建設が終了すれば、アドリア海横断パイプライン(TAP)と繋がる。トルコはTANAPの株式30%を保有し、アゼルバイジャンが58%、残りの12%をBPが保有する。

国内エネルギー市場の成長に加え、石油産出国に隣接するトルコは石油及びガスを世界市場に輸送する拠点としての地位を与えられている。【3月19日 INVEST IN TURKEY】
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戦略的に重要な地位を占めるトルコのエルドアン大統領が、近年とみにイスラム色を強め、強権的な姿勢を見せていることはEUにとって好ましくない事態ですが、更にギリシャがロシア寄り姿勢を強めて「トルコ・ストリーム」参加という形になると、ますます「南エネルギー回廊」実現が難しくなります。

大枠としては市場動向に制約される資源国 ウクライナがロシアのガスを買い叩く
また、EUは3月19日に開いた首脳会議で、ロシアの脅威を念頭に置いた「エネルギー同盟」の具体策で合意しています。そのなかでは、これまで加盟国が個別にガス購入契約を結んでいたのを見直し、希望する国が共同で購入し購買力を高める共同購入も検討されています。

ロシアは、ギリシャに対して天然ガス輸出価格の大幅な値引きをするといった国別に異なる条件を提示することでEUとしての統一的な行動を切り崩し、EUの考えている共同購入とか、加盟国とEUとの事前協議といったものを無効にしていこうとする狙いのようです。

なんだかんだで、相変わらずの天然ガスを使ったロシアの攻撃的な戦略のようにも思えますが、そうした感覚からすると意外な感もある事態が、ガス問題の震源地でもあるウクライナで起きています。

****露産ガス急落 「輸入停止も」とウクライナが逆ゆさぶり**** 
ロシアのウクライナへの天然ガス輸出価格が、世界的なエネルギー資源の価格低下を背景に急落している。ガスをウクライナへの政治的圧力として利用していると批判されてきたロシアだが、国際市場の動向を盾にウクライナに逆に揺さぶられる事態になっている。

露紙ベドモスチによると、両国がこのほど合意した4~6月期のロシア産天然ガスの販売価格は1千立方メートル当たり247ドル(約3万円)で、昨年7~9月期の同485ドルの約半分だった。ガス価格が連動する原油価格が昨年比で大幅に下落しており、ウクライナはガスの割引を求めていた。

またウクライナは現在、ロシアなどから欧州に輸出されたガスをスロバキアからパイプライン経由で逆流させて輸入している。

ロイター通信によるとウクライナのデムチシン・エネルギー・石炭産業相は3月末、消費するガスの約4割が欧州からの輸入で、ロシアからの輸入は1割未満だと明らかにした。デムチシン氏は4月からロシア産ガスの輸入を停止するとも述べ、ロシアを揺さぶっていた。

このような状況にあった3月31日、プーチン露大統領はウクライナへのガス価格の「割引」に同意した。プーチン氏は6月までの措置だと強調するが、ガス輸出を担う露国営天然ガス企業ガスプロムは、ウクライナの輸入減で業績が急激に悪化している。

割引の同意は市場シェアの維持を優先させ、同社を支える狙いがあるとみられている。【4月11日 産経】
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「大国」ロシアのエネルギー戦略に翻弄される「小国」ウクライナ・・・・というイメージもありますが、ロシアとても大枠としては市場動向に従わざるを得ないということでしょう。

石油でも産油国の思惑・戦略がとかく強調されますが、そうした産油国も市場動向には逆らえないという点も重要です。
対日戦略としてレアアース輸出を制限した中国も、需要国がレアアースの消費の効率性を高めるとともに、代替的な調達先を見つけたことで、価格支配力は低下し、需要国の中国依存からの脱却が進展しています。

今回ロシアがギリシャに対して天然ガス輸出価格の大幅な値引きを提示したのも、EUの「エネルギー同盟」切り崩しという戦略的側面だけでなく、市場動向からして値引きを提示せざるを得なかったということもあるのではないでしょうか。

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