(第5回アフリカ開発会議(TICAD5)に向けた外務省作成パンフレット)
【「最後の巨大市場」への日本企業の直接投資額は中国の7分の1】
アフリカ支援をテーマに6月1日から横浜市で第5回アフリカ開発会議(TICAD5)が開催されます。
“世界で最も夢と希望にあふれた大陸”(岸田文雄外相:東京都内での在日アフリカ諸国大使らとの懇親会で)アフリカは今後急速な拡大が期待されている巨大市場ですが、歴史的に大きな権益・強い関係を有する旧宗主国のイギリス・フランス、近年飛躍的にアフリカとの経済関係を強め、支援規模も他国を圧倒している中国に比べ、日本はアフリカ市場への出遅れが指摘されています。
アフリカ開発会議を前に、出遅れを取り戻すべく日本政府もアフリカへの資金支援を拡大していくことを発表しています。
****アフリカ資源開発に2000億円=15カ国担当相と会合―政府*****
政府は18日、日本企業によるアフリカの資源開発に5年間で総額20億ドル(約2000億円)の資金を支援する方針を発表した。
東京都内で開いた日本とアフリカ15カ国の資源相会合で、茂木敏充経済産業相が「日アフリカ資源開発促進イニシアティブ」として表明した。日本は技術・資金支援体制を拡充し、アフリカ諸国と資源開発での連携を強化する。
資源開発促進イニシアティブでは、日本が石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じ、アフリカでの資源開発に対し5年間で20億ドルの投融資などを行う方針を明記。アフリカの資源産業の基盤を強化するため、資源探査や開発の専門家を5年間で1000人育成し、技術面の協力体制も整えるとした。
また、開発の前提となる電力、上下水道、港湾などのインフラを整備し、経済発展を後押しする方針も盛り込んだ。【5月18日 時事】
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第5回アフリカ開発会議にはアフリカから約50か国が参加する予定で、安倍首相は各国首脳と個別の「マラソン会談」を行うそうです。
“10~15分程度ずつ”のマラソン会談で、“きめ細かい対応のアピール”が可能かどうかは疑問ですが、会議をてこに水をあけられた中国との差をなんとか縮めたいとの思惑です。
出遅れは否めないものの、日本企業のアフリカ進出も加速しており、政府としてはこれを後押ししたいところです。
****アフリカ:日本企業の進出加速 中国先行に焦り****
6月1日から横浜市で第5回アフリカ開発会議(TICAD5)が開催される。アフリカは豊富な天然資源を背景に経済成長が見込まれており、資源獲得に加えインフラ事業受注などを目指し日本企業が進出を加速させている。
ただ、積極的に投資を行ってきた中国や欧州に比べ日本の出遅れ感は否めない。政府は安倍晋三首相がTICAD5で日本をアピールし、企業進出を後押しする構えだ。
アフリカは2000年代に入って石油や天然ガス、鉄鉱石、貴金属など豊富な資源を背景に急成長し、特にサハラ砂漠以南の実質経済成長率は5.8%まで拡大した。人口も現在の11億人が50年には20億人超になる見込みで、「最後の巨大市場」(経済産業省)との期待が高まっている。
日本企業は資源だけでなく、インフラ需要や今後増大する消費の取り込みも狙い事業展開を急いでいる。(中略)
ただ、日本企業の直接投資額は08年に15億1800万ドルを記録した後、リーマン・ショックの影響で撤退が相次ぎ09年にはマイナスに転じた。
11年に4億6400万ドルまで戻したが中国の7分の1に過ぎず、投資残高でも中国の2分の1。さらに旧宗主国が多い欧州も積極的に投資を続けており、「巻き返しは簡単ではない」(経産省)のが実情だ。
中国などに大きく水をあけられた状況に、政府も危機感を募らせ、18日のアフリカ15カ国との資源相会合で企業の資源開発に5年間で20億ドルを支援する考えを表明し、茂木敏充経産相は「ウィンウィンの関係を構築したい」とアピール。TICAD5でも安倍首相が各国首脳との会談でインフラ整備や医療、農業、環境面などで支援を表明し、信頼を得たい考えだ。【5月20日 毎日】
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【すでに、日本には中国と正面から競い合う体力はない】
中国は伝統的にアフリカ重視政策をとっており、アフリカ支援は「タンザニア鉄道」以来の歴史があります。
中国の対外支援で常に指摘されるのは、「基本的人権の尊重」とか「民主化の進展」などの条件を付けず、無条件に独裁政権を支援する“無節操さ”ですが、そこに日本が食い込んでいくのは非常に難しいことでもあります。
****「日本のアフリカ支援、他国とは違う」岸田外相****
■岸田文雄外相
特にアフリカにおいて中国の存在感が盛んに最近、指摘されている。しかし日本は、パートナーシップとオーナーシップ、アフリカの自主性、そして対等の立場という基本的な独自の理念を掲げて、アフリカ開発会議(TICAD)をしている。
間違いなく他の国とは違う、しっかりとウィンウィンの関係を築ける(ODA〈政府の途上国援助〉などによる)支援、投資だったと思っている。ぜひアピールしたい。(インターネット番組での山本一太沖縄・北方相との対談で)【5月27日 朝日】
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とは言うものの“アフリカで日本は中国の攻勢に苦戦している。支援を申し出て、断られるケースもある。中国がより良い条件を出すためだ。”【5月27日 朝日】というのが現実です。
****中国ケタ違い 支援、日本は苦戦 施設建設着々、経済特区売り込み****
・・・・アフリカでの日本と中国の立場の格差も開く一方だ。対アフリカの貿易輸出入額は中国の約1300億ドルに対し、日本は約250億ドルに過ぎない。対アフリカ投資額は約14億ドル対約5億ドル、在留自国民は約82万人対約8千人、大使館があるアフリカの国は49カ国対32カ国といった具合だ。すでに、日本には中国と正面から競い合う体力はない、と指摘する専門家もいる。(後略)【同上】
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【「民主化勢力」、その背後で支援する英仏との協調】
結局、現地独裁政権を相手にしていては中国と競争することはできない、“アフリカ諸国の「民主化勢力」や英仏、国際機関が取り組んでいる「民主化支援」との協調を模索する”なかで民主化支援における日本の優位性をアピールするのが賢明な方向だとの指摘もあります。
****日本が今からアフリカに進出する余地はあるか 旧宗主国・英仏の既得権益すら脅かす「中国の壁」****
中国とアフリカの長くて深い付き合い
中国とアフリカの関係は長くて深く、実は1960年代に始まっている。この時期、アフリカ諸国は次々と独立した。アフリカの指導者の多くは、欧米列強による植民地支配から脱するために、社会主義の統治システムを導入し、中国・旧ソ連との関係を強化したのだ。また、中国のアフリカへの援助もこの時期に始まった。タンザニアとザンビア間を結ぶタンザン鉄道建設への援助が、その代表例である。
90年代以降、「改革開放政策」が軌道に乗った中国は、急激な高度経済成長による国内のエネルギー消費量増加に対応するため、海外での石油とガスの権益確保を国家戦略とした。スーダンやナイジェリアなどアフリカ主要産油国に対して、原油、天然ガス、レアメタルなど希少資源獲得のための経済支援を始めたのである。
そして2000年代以降、中国とアフリカの関係は資源に留まらず、より深く幅広いものになった。中国からアフリカへの輸出高は、2002年の50億ドルから2008年の500億ドルと10倍に増加した。いまや中国は、アフリカ諸国全体との貿易量においては米国を抜いて世界最大である。また中国は、アフリカでのインフラ整備にも積極的に投資している。
アフリカ諸国に対する中国の政治的影響力の増大:選挙における「英仏VS中国」の対立構図
中国は、アフリカ諸国への政治的影響力の強化にも務めてきた。まず、アフリカ諸国への援助の増加である。援助の累積額としては、まだ米、英、仏、日本などに及ばない。しかし、近年の援助額は欧米や日本を抜いたと推定されている。また中国は、アフリカで行われているさまざまな国連PKO活動にも積極的に参加し、1500人の兵士と警察官を派遣している。
中国がアフリカ諸国に対する政治的影響力の強化を目指す理由は、基本的には(1)国連やWTOなど、国際会議の場において、アフリカの友人たちからの政治的支持を確保すること、(2)アフリカの台湾承認国を中国承認へと転換させること、であるとされてきた。
中国は日本の国連安保理常任理事国入りの阻止に成功している。また、54ヵ国のアフリカ諸国のうち、中国承認国が50ヵ国であるのに対し、台湾承認国はわずか4ヵ国となった。実際に中国は、アフリカ諸国の政治的支持獲得に成功してきたといえる。
だが近年、中国は国際舞台での支持獲得だけでなく、アフリカ諸国の国内政治にも積極的に関与する動きを見せている。そして、これまで遠慮気味であった旧宗主国である英仏の利権にも手を突っ込み始めているようだ。
具体的には、アフリカ諸国で行われる選挙に対する中国の関与が強まっていることが挙げられる。前述の通り、アフリカでは60年代前後に各国が独立した。そして、軍事独裁政権を経て、90年代以降多くの国が一党独裁から複数政党制へと転換した。現在、アフリカの54ヵ国中、40ヵ国以上で民主的な大統領選挙や総選挙が行われるようになっている。だが近年、多くの国の選挙で中国が独裁政権を支援し、英仏など旧宗主国が支援する民主化候補との対立構図となり、最終的に中国が支持する候補が勝利する事例が増えているという。
英仏など旧宗主国は、アフリカ諸国に援助する際、「基本的人権の尊重」や「民主化の進展」という条件を付ける。独裁政権はほとんど条件を満たしていないので、英仏と対立することになる。
一方、中国は援助に際して、これらの条件をまったく重視しない。
だから、独裁政権と良好な関係を築くことができる。そして、この良好な関係を生かして、英仏がアフリカ諸国内に持つ「既得権」を徐々に奪っていこうとする。この英仏と中国の「既得権」を巡る暗闘が、選挙という舞台であからさまに表面化するようになっているのである。
日本がアフリカに進出するためには英仏との関係強化により、民主化に協力すべき
要するに、中国はアフリカに政治的・経済的に長く深い関係を築き、その勢いは、旧宗主国である英仏の権益をも脅かすものになっているということだ。今から日本が、アフリカに進出する余地があるのだろうか。
以前論じたように、日本からの援助・投資が増えれば、アフリカ諸国に遠慮なく受け取ってもらえる。「感謝」はしてくれるだろう。しかし、例えば国連という舞台で「日本への支持」に応じるかといったら、「もっと援助してくれたらねえ」「中国さんとのお付き合いもあるので」と、ノラリクラリとかわしてくるのは間違いない。「アフリカ人」とは、実にしたたかな人たちなのである。
日本の援助策の特有の「長期的アプローチ」は、アフリカ諸国にとって魅力があるはずだという意見があるのはわかる。世界的に見て、技術支援や長期的投資に意欲的であり、なにより誠実であるという日本の評判は確かに高い。アジアの開発支援に深く関与してきた経験もある。しかし、それは権力固守だけが目的の独裁政権にとっては、どうでもいいことだろう。
つまり、日本がアフリカ諸国に対して、愚直に長期的な観点から資金援助、人的支援、技術支援を行っても評価されそうにない。独裁政権は「ありがとう」と言ってはくれるだろうが、それ以上なんの展開も期待できないのだ。
むしろ、日本を高く評価してくれるとしたら、それは国家の長期的な発展を考える「民主化勢力」であり、その背後で支援する英仏ではないだろうか。従って、日本がアフリカに対する政治的・経済的影響力を強化したいなら、まず英仏と協力関係を築くべきである。日本がゼロからアフリカに進出しようとしても、とても中国にはかなわない。むしろ旧宗主国の人脈・政治力を生かして進出した方が効果的である。
具体的には、日本がアフリカに対する政治的・経済的影響力を強化したいなら、アフリカ諸国の「民主化勢力」や英仏、国際機関が取り組んでいる「民主化支援」との協調を模索することだろう。そして民主化支援における日本の優位性をアピールするのだ。そこで初めて、日本の長期的アプローチやこれまでの支援の経験が生きてくるのである。(後略)【5月24日 DIAMOND online】
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ただ、民主化支援自体は結構なことですが、英仏もしたたかですので、英仏と組んだ民主化支援で日本がどれだけのものを得られるかはやや疑問でもあります。あまり成果を期待すると当てが外れることもありそうです。
【「中国への愛から目を覚ませ」】
なお、中国のアフリカ支援についても、近年批判もあるのも事実です。
中国がこれまでのようなアフリカ支援を続けられるかは不透明です。
****習政権が直面する 中国・アフリカ間の問題****
・・・・習政権が直面する中国とアフリカ諸国との間の問題点は何か。
1)中国とアフリカの貿易拡大につれ、両者の摩擦が増大している。例えば、タンザニアでは、2009年、外国人が首都において商店を所有することを禁じたが、これは、中国人を狙ったものである。中国の貿易商たちは中国商品を安価に売るため、現地製品は太刀打ちが出来ない。
2)アフリカ諸国の側から見れば、特に、資源・エネルギーに乏しい国々にとっては、中国との貿易は赤字の極端な不均衡を生み出している。
3)資源・エネルギーの豊富な国々との関係では、中国人労働者の移入とともに、環境問題、企業の社会的責任、労働者の安全、地域の労働規則の順守などの面で、中国内部に存在する弱点がそのままアフリカに持ち込まれている。
4)中国人が直面する危険は、アフリカでは増大しつつある。ナイジェリアでは数十人の中国人が誘拐され、スーダンでは十数人の建設労働者が殺害され、エチオピアでもエネルギー関係者9人が殺害された。
アフリカで、これまで西側諸国が経験したようなことを、中国も体験しつつある。習近平政権下の対アフリカ政策は、今後は、ますます難問に直面するに違いない、と論じています。
(中略)
習近平のアフリカ訪問の時期に合わせて、3月12日付英フィナンシャル・タイムズ紙は、ナイジェリアのサヌシ中央銀行総裁の寄稿文「中国への愛から目を覚ませ」を一面に掲載しました。その中で、サヌシ総裁は、「中国はアフリカから一次産品を奪い、工業製品を我々に売りつけている。これはまさに植民地主義の本質の一つである」、「中国はパートナーであるとともにライバルで、植民地主義の宗主国と同様の搾取を行う能力をもつ国とみるべきである」、「中国はもはや同じ“途上国”ではない」など痛烈な批判を行っています。
アフリカの指導層の中から、中国に対して、このような率直な見解が表明されたのは、おそらく初めてではないでしょうか。
中国としては、世界の「大国」であると同時に、「途上国」であるとの両面を使い分け、アフリカとの連帯意識を強調したいところです。しかし、透明性、説明責任、法治主義を欠いた硬直化した国内体制の反映でもある対外活動を、目に見える形で改善して行くことは、アフリカにおいても容易ではないでしょう。最近のアフリカ諸国の中国を見る目は、一段と厳しくなっています。【4月30日 WEDGE】
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【新興国によるアフリカ進出も】
なお、アフリカには中国・英仏だけでなく、多くの新興国が進出を目指しています。
****インド、トルコ…新興国も続々****
日本が懸念を深めるのは中国だけではない。インドや韓国、トルコなど新興国によるアフリカ進出も目立って増えている。それぞれがアフリカ支援のための枠組みを構築。「3年間で50億ドルの借款」(インド)、「08年から12年までに対アフリカODA(政府の途上国援助)を倍増」(韓国)、「サハラ砂漠以南の地域に15の大使館を新設」(トルコ)など、競い合っている。
対アフリカ貿易輸出入総額でみると、韓国約140億ドル、トルコ約200億ドル、インド約340億ドルと、日本と競う水準にまで達している。それでも、日本政府関係者は「民間企業は今後10年で、アフリカが魅力的な市場になるとみている。将来、民間企業がアフリカに進出しやすい環境を作りたい」と力説する。【5月27日 朝日】
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対アフリカ支援に限らず、日本は中国や新興国との規模だけを争う“体力勝負”ではなく、日本の独自性をアピールする施策への転換を図る時期に来ているのではないでしょうか。
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